デベロッパーのChimera Entertainmentは6月4日、『ソングス・オブ・サイレンス』の早期アクセス配信を開始した。対応プラットフォームはPC(Steam/GOG.com)で、Steamでの価格は税込4500円で、リリース記念セールとして6月19日まで10%オフの4050円で販売されている。ゲーム内は日本語表示に対応している。
『ソングス・オブ・サイレンス』はターン制のストラテジーゲームだ。物語主導のシングルプレイ用キャンペーンモードと、ランダム生成マップにて最大6人で争うマルチプレイモードが収録される。ゲームプレイでは、マップの探索、軍団や領土の強化を行うターン制のシミュレーションパートと、オートで進行するテンポの早い戦闘パートの2つが楽しめる。また、『ファイナルファンタジータクティクス』や『戦場のヴァルキュリア』など数々の作品の楽曲に携わってきた、崎元仁氏が本作のサウンドトラックを担当している。
本作を手がけるChimera Entertainmentは、長年モバイル向けに多くの作品をリリース。『XCOM』シリーズ、『アングリーバード』などの既存IPのモバイル向け作品なども手がけている。そんな同社がなぜ、今回完全オリジナルIPのPC向け作品を作ることになったのだろうか。このたび弊誌はChimera EntertainmentのクリエイティブディレクターであるAlexander Kehr氏にメールインタビューを実施。オリジナルIP開発の苦労や、本作がリリースに至るまでの開発エピソード、本作のアイデアの源泉など気になることを訊いた。
──自己紹介をお願いします。
Alexander Kehr氏(以下、Alex氏):
こんにちは!Chimera Entertainmentのクリエイティブディレクター、Alexです。Chimera Entertainmentはドイツ南部の美しい街、ミュンヘンを拠点とする、中規模のインディーゲームスタジオです。我々は主にRPGとストラテジーゲームをさまざまなプラットフォーム向けに手がけており、これまでリリースしたゲームは25作以上となっています。
──スタジオの開発環境やチーム体制について教えてください。
Alex氏:
我々は40人ほどのメンバーで構成されている多国籍のチームです。ゲームデザインやアート、コーディングやQAなど、さまざまな分野のスペシャリストが集まっています。また音楽やサウンドエフェクトの制作など、必要に応じて社外の人の力を借りることもあります。『ソングス・オブ・サイレンス』はチームが情熱を注いできたプロジェクトなので開発はとても楽しく、これからのアップデートへの取り組みも楽しみにしています!
──本作はターン制のパートとリアルタイムで進行する戦闘がミックスされたゲームプレイが特徴的ですが、こちらはどのような作品からアイデアを得たのでしょうか?
Alex氏:
もともと私は、リアルタイムで戦闘がおこなわれるテンポの速いストラテジーゲームが好きなのです。古典的名作である『伝説のオウガバトル』や『Total War』シリーズ、『Totally Accurate Battle Simulator』などがお気に入りですね。盤面の上で静止したユニットたちよりも、せわしない戦場のカオスの方が私の感性に強く訴えかけます。
またストラテジーゲームはプレイに時間がかかりがちですが、我々は1マップが数時間ほどで終わるような作品を作りたいと思っていました。そのためには一度の戦闘に15分もかけてはいられなかったので、1分ほどで終わる楽しい戦闘システムを制作するのは重要なことでした。
──オリジナリティのあるゲームシステムは、新鮮でありつつも、複雑に感じる部分もありました。ゲームプレイの楽しみ方や、コツなどを教えていただきたいです。
Alex氏:
本作の基本的なゲームループは比較的シンプルです。兵士を雇って強い部隊を作り、マップを探検します。拠点を征服して資源を得たら、それらを費やして自分の王国をアップグレードし、さらに部隊を強化していきます。戦闘すればヒーローには経験値が入り、レベルアップすればスペシャルアビリティを習得したり、より大きな部隊を率いることができたりするようになります。まずはこの基本的なゲームループに集中し、自分のペースでプレイしてみてください。すべての戦闘に勝利する必要はありません。傷ついたユニットは自分の街でいつでも回復させることができます。
より込み入った要素について知りたくなったら、ゲーム内マニュアルをチェックしてみてください。マニュアルはメインメニューやポーズ画面からアクセスすることができます。新しいストラテジーゲームをプレイすると当初圧倒されてしまうのはよくあることですが、急がずに自分のペースでプレイしていけば、すぐに“腑に落ちる”瞬間が訪れるはずです。
──本作の舞台となる世界は非常にユニークなものだと感じています。本作の世界設定について教えていただけますでしょうか。
Alex氏:
本作の世界はもともとひとつでしたが、「the War of Origin」と呼ばれる神々の戦争により、二つに引き裂かれました。二つの世界には、それぞれ違う種族が住んでいます。光の世界に住むスターボーンは我々と同じような人間です。もう一方の闇の世界に住むファーストボーンは、暗闇で暮らしているため目をもたない古代種族です。また本作のゲームが始まる少し前、世界に「煉獄」と呼ばれる脅威が突如誕生しました。煉獄は巨大なブラックホールです。聖なる力を好んで喰らい、過ぎ去った後には「沈黙」と呼ばれる致命的な汚染を残します。人間たちは煉獄と沈黙を恐れ、沈黙にまだ汚染されていない土地を求めて、かつての友人同士で激しく争いあっています。
我々の目標は、なじみのある要素を取り入れながらも、本当に興味をもてるファンタジー世界を創り上げることでした。世界観の制作にあたってはさまざまなものから影響を受けています。古典的な文学や神話、現代のゲームなどのほか、ドイツの民間伝承も少し取り入れています。またローレライやアイゼンベルクなど、本作の固有名詞の多くはドイツ語に由来しています。
──発売に先駆け、デモ版が配信されていましたが、プレイしたユーザーの反応はいかがだったでしょうか?
Alex氏:
これまでのところ、プレイヤーは我々の作品を本当に気に入ってくれています!デモ版にはキャンペーンモードの最初のマップが収録されており、ゲームプレイのベース部分をプレイすることができました。またランダム生成マップでプレイするスカーミッシュモードも一部機能が制限された状態でプレイすることができ、プレイヤーからは好評を得ました。
また我々はクローズドベータも実施し、フィードバックを集めました。プレイヤーの反応は素晴らしいものでしたし、得られたフィードバックは本作を改善するうえで重要なものとなりました。本作をプレイする前の多くのプレイヤーは、本作を『Heroes of Might & Magic』に似た作品だろうと予期していたようです。しかし同作と『ソングス・オブ・サイレンス』は大きく異なるゲームです。実際に本作をプレイして試してくれた人のほとんどは、本作のユニークなゲームプレイと世界観について、とてもポジティブな感想をもってくれています!
──これまでChimera Entertainmentで制作されたゲームはモバイル向けタイトルがメインでした。なぜPCゲームの開発をスタートしたのでしょうか?
Alex氏:
実は我々Chimera Entertainmentが最初に制作したゲームは、PC向けのストラテジーRPG『WINDCHASER』(2008)でした。その後はモバイルも含めさまざまなプラットフォーム向けに、いろいろなジャンルのゲームを制作してきました。一方で、開発チームには、PCゲームやコンソールゲームに多大な情熱を燃やす、年季の入ったゲーマーも複数在籍しています。そんな我々にとって『ソングス・オブ・サイレンス』は開発を夢見ていたゲームで、しかもPC・コンソール向けに適したタイトルであったため、PC向けへの開発を決断したわけです。
──これまでChimera Entertainmentでは既存IP作品を多く手がけていましたが、今回は完全オリジナルIPということで、制作にどのような変化があったのでしょうか?
Alex氏:
我々が過去に開発したタイトルのほとんどは、パブリッシャーや既存IPの権利元と協同して手がけたものです。しかし、『ソングス・オブ・サイレンス』の開発にあたっては、我々は自分たちのビジョンに基づいて創作をしたいと思いました。作品の権利を握り、我々自身で決断を下したかったのです。
ゲームの開発にあたっては、我々はいつも独立した体制でおこなってきましたので、本作でも特に新しいことはありませんでした。一方で大きな挑戦となったのはパブリッシングの方です。我々はマーケティングやコミュニティとの関わり、プレイテストといった一連の業務に対して、経験を欠いていました。チームメンバーの何人かは新たな役割に適応する必要があり、さらに数名の専門家を雇うことで、なんとか乗り越えることができました。
──ほかに開発で苦労したことなどあれば教えていただきたいです。
Alex氏:
苦労したことはいろいろありますね。『ソングス・オブ・サイレンス』は革新的な要素をいろいろ盛り込んだ、複雑なゲームです。戦闘のシミュレーションや移動システム、地形の生成やマルチプレイなど、さまざまな点で多くのテストをおこなう必要がありました。
ゲームの複雑さと、我々のメカニクスへの関わり方のせいで、「ヴァーティカルスライス」(ゲームの要素を端的に見せる広報用のビルド)の制作は非常にトリッキーなものとなりました。そのため開発の初期段階においては、ゲームの全体像やポテンシャルをパブリッシャーやプレイヤーに伝えるのに苦労しました。
開発の方向性を見失わないためには相当な意志の強さが必要で、我々は自分たちのビジョンを信じる必要がありました。2年半ほど本作の開発を続けたのち、作品はようやく一つにまとまり始め、明るい兆しが見えてきました。ほぼ4年に及んだハードワークの末に本作はようやく早期アクセス配信にこぎつけ、プロジェクトを現実のものにすることができました。
──サウンドトラックは崎元仁氏が担当していますが、お願いしたきっかけはなんでしょうか?
Alex氏:
我々は崎元さんの大ファンなんです!私も個人的に、『伝説のオウガバトル』や『ファイナルファンタジータクティクス』『ベイグラントストーリー』といった名作の数々で、たくさんの楽しい思い出を作ってきました。そしてその思い出の大部分は、崎元さんの音楽などで創り出された、美しく、ときに恐ろしかった作品の空気によって彩られています。
日本のゲーム音楽は、私の心の中で特別なものになっています。それは西洋のゲームの音楽とは大きく異なるもので、私はあの魔法をほんの一部でも、自分たちの作品で再現したかったのです。崎元さんが我々のゲームをサポートしてくれたことに本当に興奮していますし、心から感謝しています。彼と一緒に仕事ができたのは大きな喜びでした。そして彼が本作『ソングス・オブ・サイレンス』のために制作してくれたサウンドトラックは、本当にファンタスティックです!
──本作の特徴的なグラフィックはどういったものからインスパイアを受けましたか?
Alex氏:
本作のアートのディレクションについては、多大な力を注ぎました。もっとも影響を受けたアーティストはチェコ出身の画家、アルフォンス・ミュシャです。アール・ヌーヴォーを代表する芸術家のひとりであり、本作のアートの主なインスピレーションの源となっています。彼は実は、我々のスタジオがあるミュンヘンで絵の勉強をしたんですよ。
アール・ヌーヴォーは日本の芸術から多大な影響を受け、19世紀後半に形成された様式です。今日でも、アルフォンス・ミュシャの作品は私の心に深く響いているのです。アール・ヌーヴォーのデザインは非常に現代的であると感じますし、日本のマンガにも部分的に影響を与えて今でも生き続けているのではないかと感じています。
──本作を皮切りにPCゲームの開発をさらに進めていく予定はありますか?
Alex氏:
もちろんです。本作の評判がよければ長い間本作のサポートを続けたいと思っています。シリーズ化して続編を制作したり、スピンオフとしてローグライト形式の作品やストーリー重視のRPGを開発したりすることもあるかもしれません。
また現在、本作とは別のPC・コンソール向けタイトルのプロトタイプ版についても取り組んでいます。一方で我々のチームは面白く斬新なゲームを制作できれば、特定のプラットフォームやゲームジャンルにこだわるつもりはありません
──読者に向けてメッセージをお願いします。
Alex氏:
『ソングス・オブ・サイレンス』は我々が夢にしていたプロジェクトです。西洋とアジア(特に日本)からの影響を融合させ、本当にユニークな世界とゲームを作ることができたと感じています。もしあなたが他国を征服して自分の国を築くことや、大きな戦いや魅力的なストーリーに興味があるなら、本作はあなたのためのゲームかもしれません。我々の作品に興味をもってくれたことに、心から感謝します! “Toodle-Pip!”(意味:ありがとうそしてさようなら!)
―― ありがとうございました。
『ソングス・オブ・サイレンス(Songs of Silence)』はPC(Steam/GOG.com)向けに早期アクセス配信中だ。Steamでの価格は税込4500円で、リリース記念セールとして6月19日まで10%オフの4050円で販売されている。ゲーム内は日本語表示に対応している。また本作は後日PS5/Xbox Series X|S向けにも発売される見込み。