『スト6』難病格闘ゲーマーが「EVOに出るため」クラファン開始。自作コントローラーで戦い続け、人生最大の夢に挑む理由を訊いた

筋ジストロフィーと戦いながらも格闘ゲーマーとして活動する畠山駿也氏は本日、「EVO 2024」出場のための資金を募るクラウドファンディングキャンペーンを開始した。

格闘ゲーマーの畠山駿也氏は本日、「EVO 2024」出場のための資金を募るクラウドファンディングキャンペーンを開始した。EVOは、世界最大級の対戦格闘ゲームのeスポーツイベントだ。今年は米国ラスベガスで現地時間7月19日から7月21日にかけて開催予定。


畠山氏は、ハンドルネームJeniとして活動する格闘ゲーマーだ。難病指定されているデュシェンヌ型筋ジストロフィーを先天的に患っており、現在は病気の進行により四肢を動かすための筋力がほとんどない状態だという。残存する力は指先と首から上のみだそうだ。そうした中でも同氏はチン(顎)コントローラーを自作し、格闘ゲームを続けてきた(関連記事)。昨年2023年4月には、EVO Japanへの出場も果たしている。

そんな畠山氏は今回、“本家EVO”といえるEVO 2024にて『ストリートファイター6』での出場を目指す。同作では従来よりも簡易的な入力で必殺技を使用できる入力方式「モダンタイプ」などアクセシビリティが強化。同氏はモダンタイプ操作のエドモンド本田にて、マスターランク1700に到達しているという。

本家EVOが開催されるのは米国ラスベガスだ。海外遠征に際して、畠山氏はEVO 2024出場の「滞在費用」を募るため、目標金額50万円のクラウドファンディングキャンペーンを開始した。実施期間は4月30日23時59分まで。同氏は生活や移動、呼吸器の管理などに介助者を必要としており、EVO 2024出場にあたっては海外遠征に際して3名の介助者が同行することになる。畠山氏自身と同行する介助者の渡航費、またエントリーなどもあわせたラスベガスでの6日間の宿泊費などを合わせると、総額で約400万円かかる見込みだそうだ。


渡航にかかる費用のすべてを自費で叶えることは難しく、今回Campfireでクラウドファンディングキャンペーンが実施されるかたちになったという。支援者には金額に応じたリターンも用意。それぞれの金額の支援者に向けてゲーマー向けアパレルブランド「無敵時間」とのコラボTシャツなどが提供予定のほか、帰国後のZoomでの報告会への招待もおこなわれる。

難病を患いながらもコントローラーを自作して格闘ゲームを続け、海外大会EVOへの出場を夢見る畠山氏。なぜクラウドファンディングキャンペーンを実施してまで、リスクも想定されるEVOへの出場を目指すのか。同氏にとってEVO出場はどのような意味をもつのか。気になることを畠山氏に訊いた。

── 自己紹介をお願いします。

畠山駿也氏(以下、畠山氏):
株式会社ePARAの畠山駿也と申します。バリアフリーのeスポーツイベントのプロデューサーとして、僕みたいに障害をもつ方がeスポーツを通して活躍できるようなイベントの制作や、プレイを通してアクセシビリティの工夫を体験できるようなゲームアクセシビリティ推進活動をしています。

畠山駿也氏

── 具体的にはどのような活動をされていますか?

畠山氏:
直近では、ePARAでは今年の1月からゲームアクセシビリティの体験会をほぼ毎月開催してきました。来月4月27日にはEVO Japanのサイドイベントとして体験会を開催予定です。そちらでは『ストリートファイター6』を使って、コントローラーのアクセシビリティや、音声だけでゲームをプレイできるシステムを体験していただくブースを設ける予定です。ゲームのアクセシビリティ機能には実際にプレイしてみないとわからない情報もあって、コントローラーなどのデバイスになるとなおさら触れられる機会が少なくなってしまうと考えています。それを障害をもつ方や支援者も含めて、実際に触って体験していただくことで、ゲームアクセシビリティについてよりいろんな方に知っていただける機会になると思っています。

またEVO Japanでやることにも狙いがあります。同じ格闘ゲームが好きなコミュニティが集まっているところでアクセシビリティ体験会を開くことで、通常のプレイとは違う遊び方・ゲームの楽しみ方をゲーマーの方にも知ってもらえることにも価値があると思っています。

── それではEVO 2024の出場について訊かせてください。さまざまな活動をしてきた畠山さんにとって、EVO 2024への出場はどのような意味をもつのでしょう。

畠山氏:
今回のEVOへの『ストリートファイター6』選手としての出場については、そうした活動というよりは、僕自身の人生最大の目標です。『ストリートファイター』シリーズにハマったのは18~19歳ぐらいの時で、EVO出場はそのころから抱いていた夢でした。そこまでにもいろんなゲームが好きで遊んでいたんですけど、『ストリートファイター』を遊んだ時には明確にほかのゲームと違いがありました。強くなるために自分で課題を設定して取り組んだり、誰かと対戦したい・勝ちたいという気持ちが芽生えたりと、それまで遊んでいたゲームでは味わえませんでしたね。

ただ、当時国内では『ストリートファイター』の大会はほぼゲームセンターでしか行われておらず、私はいわゆるゲームパッドでしかゲームができませんでした。当時はゲームパッドで遊べる筐体もありませんでしたから、ゲームセンターに行っても大会には出られなかったんです。なので、誰かとオフラインで対戦したり大会に出たりすることには人一倍強い憧れがありました。海外では当時からコンソール機を用いた大会も開催されていたのでそのころから海外の大会に出たいという想いがあって、いつか「EVOに出たい」という夢を抱いていました。

でもそうした中で、病気の進行で今まで通りゲームができなくなりました。このときにいちど、格闘ゲームをプレイすることそのものを諦めてしまったんです。

高校時代の畠山氏


── 当時『ストリートファイター』に没頭された時には、病気の進行を顧みずにのめり込まれていたそうですね(畠山氏のnote)。なぜそこまで夢中になっていたのですか?

畠山氏:
現実では普段自分でできることが本当に限られています。できないことが多くていろいろ諦めていましたが、ゲームの中くらいは強くなりたいという想いがありました。ゲームの中では頑張って練習すれば上達できますし、自分の力だけでどうにか強くなるというサイクルを続けられていました。また現実だと自己肯定感がすごく低くなりがちで、ゲームの中くらいは強くなって認められたいという気持ちもありましたね。

── いちどは諦めた格闘ゲームを再び始められたきっかけは何でしたか?

畠山氏:
僕は格闘ゲームができなくなってからも、対戦ゲーム含めいろいろなゲームを続けていました。でも本当は格闘ゲームが好きという自分の気持ちに蓋をしていて、人にも格闘ゲームが好きだとは言えずに過ごしていました。

このころ社会人としてはリモートでWebデザインの仕事に就いていました。そんななかで、特別支援学校の進路指導の授業として講演をしたんです。子どもたちが好きなことややりたいことがなかなか見つけられない状況があったそうで、仕事を見つけたり続けたりすることに繋がるような話を頼まれました。この話を受けた時に、自分にとって今好きなことができているのかなと振り返ったんです。すると、僕はやっぱり格闘ゲームが好きだと気づきましたし、もういちど挑戦したいという気持ちが沸き起こってきました。ただ好きなことから「叶えたい夢」に変わった瞬間だったと思います。

そこから自作コントローラーを仲間たちと作り上げることになりました。最初はゲームパッドをスマホスタンドに固定してスティックを顎で操作するようなかたちでしたが、顎がすり切れていつも絆創膏を貼っていました。最初は遊ぶだけで痛かったりといろいろ大変でしたけど、それ以上にやっぱり遊びたい気持ちをずっと押し殺してた反動で、格闘ゲームをまた遊べるだけでもめちゃめちゃ楽しかったです。楽しかったからこそ地道に改良を続けられたのはありますね。ゲームセンターのアーケードコントローラーにも昔から強い憧れがあっていろいろ調べていましたし、そうした知識も改良に役立ちました。


── 再び格闘ゲームをプレイするという夢を叶える際には、さまざまな苦労もあったのですね。それでも昨年のEVO Japan出場や今回のEVO出場のように、さらなる夢を目指す原動力は何ですか?

畠山氏:
やっぱり格闘ゲームがプレイできて、かつ操作に不自由を感じることがないのであれば、もっと上手くなっていろんな人と対戦したいという想いが強くなってきました。そこで昔抱いていたオフライン対戦という夢を叶えて、次に大会出場という目標を達成するというかたちで、少しずつできるかもしれない範囲を広げていくように考えてきました。

たとえば『ストリートファイター』だったら波動拳を出すところから始めて、次第に対空技の使いどころとか、どんどん小さないろんなことを積み重ねて上達していきます。これは現実にも繋がると思っていて、次にできることを探して工夫しながら目指していく考え方は、格闘ゲームに身に着けさせてもらった気がします。それを今実践できてるのかなと思います。

── 昨年EVO Japanに出場されたうえで、なぜ今年は“本家”EVOへの出場を目指すのでしょうか?

畠山氏:
昨年EVO Japanに参加した際には「大会に出場すること」そのものが目標でした。当時はコントローラーのレギュレーションもありいつものプレイ環境では出られなかったので、あくまで大会に出たいという目標を達成するための出場になりました。やはり普段と違う環境では思い通りのプレイはできず、目標は達成できましたが、選手として勝ちたいという新しい大きな目標も出てきたかたちです。

近年では大会のレギュレーションの変化で障害をもつ人がコントローラーに工夫をすることも基本的には認めてもらえるようになってきましたし、今回EVOでの出場を目指す『ストリートファイター6』ではモダンタイプ操作も導入されています。ただ出て楽しむだけじゃなくて、勝ちたいというひとつ上の目標も現実的になりました。EVO出場という過去の大きな夢を達成する絶好のチャンスですし、格闘ゲームを諦めた過去の自分を見返してやりたい気持ちがあります。


── EVOへの出場を通して誰かに伝えたいことはありますか?

畠山氏:
僕みたいにeスポーツが好きで、障害があるけどゲームをプレイされてる方は世界中にいるはずです。そういった方が実際に一般の大会に参加できる事例は、国内外でやっぱりまだまだ少ないと思います。まず自分自身がそういう事例になって、大会に出られることやその方法を示せればいいなと考えています。

また自分自身の経験として、好きなことを障害や何かしらの困難を理由に諦めてしまうのはめちゃくちゃつらいことですし、ひとりでもそんな経験をしない社会になればいいなと考えています。これまでには諦めずに工夫をすることで、いろんなことに挑戦できると実感してきました。今回のEVO出場についてはクラウドファンディングキャンペーンで支援いただけるかどうかにかかっていますが、またひとつ夢の実現を伝えられることを願っています。

── ありがとうございました。

畠山氏のクラウドファンディングキャンペーンはCampfireにて4月30日23時59分まで実施中だ。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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