『聖剣伝説 VISIONS of MANA』小山田Pインタビュー。なぜ新作を作ることができたのか、そこには“聖剣らしさ”を追い求める強火系プロデューサーの姿があった

 

『聖剣伝説』は、1991年『聖剣伝説 〜ファイナルファンタジー外伝〜』を第1作目として誕生したシリーズ。やわらかで美麗なグラフィックに壮大かつ切ないストーリー、軽快なアクションと作品を彩る神秘的な楽曲でプレイヤーの心を強く打ち、多くのファンを獲得した。しかし2000年代後半以降はタイトル展開が少なくなり、あくまで伝説的なシリーズとして語られることも少なくなかった。

だからこそ2020年にリリースされた『聖剣伝説3 TRIALS of MANA(以下、聖剣伝説3 ToM)』の完成度の高さや、2023年12月に発表された『聖剣伝説』約17年ぶりとなる完全新作『聖剣伝説 VISIONS of MANA(以下、聖剣伝説 VoM)』は驚きを持って迎えられた。今回は2024年夏発売予定の『聖剣伝説 VoM』に先駆けて、スクウェア・エニックス『聖剣伝説』シリーズプロデューサー小山田将氏にお話をうかがうことができた。本記事では新作の情報を盛り込みつつ、なぜ『聖剣伝説』は復活できたのかについてお訊きしている。『聖剣伝説』らしさを希求する、一人の熱いプロデューサーの思いをぜひ最後まで読んでほしい。


『聖剣伝説』らしさの説得力について

――『聖剣伝説 VoM』は、コンソール作品としては『聖剣伝説 HEROES of MANA』以来、シリーズ17年ぶりの完全新作となります。発表後の反応はいかがだったでしょうか。

小山田将(以下、小山田)氏:
まさか『聖剣伝説』新作がこのタイミングで発表されるとは思わなかったという驚きと、同時に公開されたビジュアルを見て喜んでいただいている印象があります。一方で情報をすべて公開できているわけではないので、続報を待っているんだろうなという期待を受け止めています。私たちは内容を知っているので、早く発表したいなとやきもきしながら過ごしています。

――開発スタジオについてお聞きしてもよろしいでしょうか。

小山田氏:
NetEase Gamesの桜花スタジオさんに、開発を担当していただいております。

――まず、本作の制作経緯をお聞かせ願えればと思います。いつ頃から開発がスタートされたような形なのでしょうか。

小山田氏:
企画自体は『聖剣伝説3 ToM』制作時、アルファ版が完成して方向性が具体的に見えてきたときに、「次回作をどう作るか」というアイデアを、本作をベースにして練り始めたのがスタートです。具体的に開発がはじまったのは、ご協力いただいた方々や社内メンバーの業務が落ち着いてきた、『聖剣伝説3 ToM』マスターアップのタイミングでした。30周年記念の生放送ごろにビジュアルがあがってきたので、石井(浩一)さんにお見せして監修をお願いしました。

――それでは、石井さんは「シリーズモンスターデザイン監修」とのことでしたが、本作のコンセプトレベルから関わっておられるのでしょうか。

小山田氏:
はい。自らが『聖剣伝説』を作っていたときに注意していた点や、『聖剣伝説』である以上はこういうことを意識してほしいなどインプットをいただきながら、開発一同肝に銘じて開発していました。

――本作において石井さんは、『聖剣伝説』シリーズの相談役という関わり方だったのですね。

小山田氏:
本作では『聖剣伝説』の精霊や生物たちが息づいている世界を作りたかったので、フィールドが広大だということは開発初期から決めていました。ファストトラベルも当然あるんですが、ワープを使わずに自分の足や乗り物で移動するのもある種の楽しさでもあると思います。乗り物にしても『聖剣伝説』らしさのあるものにしたかったので、石井さんにデザインを依頼しました。そうしたらある日突然ピックルのラフをポロっといただいて(笑)


――今まで小山田さんは主に『聖剣伝説』リメイク作に関わってこられましたが、今回コンソール向けの完全新作として制作を進められる上で、リメイクとは異なる難しさを感じられた部分はありましたか。

小山田氏:
『聖剣伝説』として外したくない部分がありつつ、もう少し踏み込んでチャレンジしてもいいのではないかという線引きが難しかったです。

――なるほど。「『聖剣伝説』として」というお話も出ましたが、『聖剣伝説 VoM』は原点回帰を謳われています。小山田さんが思う『聖剣伝説』の原点や、『聖剣伝説』らしさはどういった点ですか。

小山田氏:
私自身、小学生の頃に『聖剣伝説 〜ファイナルファンタジー外伝〜』に触れたことをきっかけに、ユーザーとしてシリーズ作を遊び続けた『聖剣伝説』に魅了されたファンの1人です。いまでは開発に携わる立場になりましたが、多分一番わかりやすい『聖剣伝説』らしさは、石井さんが作品に関わっていることだと思うんです。それらを要素分解しようとしたら、まずラビをはじめとした今までのシリーズモンスターたちを出演させて、それを石井さんに監修していただくのが「らしさ」の説得力としては強いだろうと考えました。

キャラクターデザインに関しては『聖剣伝説』のリメイク作品にずっと関わってくださっているHACCANさんに今回もお願いしていますが、『聖剣伝説 VoM』では『聖剣伝説』シリーズのビジュアルイメージを巧みに統合してくださいました。それでキャラクターは大丈夫という確信がありましたが、次にフィールドにおける『聖剣伝説』らしいビジュアルを考えると、 やはり磯野宏夫さんの「マナの樹」だろうと自分のなかで定義付けて、HACCANさんのキャラクターデザイン、磯野さんの「マナの樹」の背景ビジュアル、石井さんのモンスターの3つを本作の『聖剣伝説』らしさの軸に据えて開発を進めています。


――『聖剣伝説』のナンバリングは現在4までリリースされていますが、『聖剣伝説 VoM』のタイトル先頭にVがついているのは、久しぶりの据え置き機における完全新作ということもあり、『聖剣伝説5』というナンバリングを意識された部分もあるのでしょうか。

小山田氏:
やはり皆さんそう思ってしまいますよね(笑)ただ海外における『聖剣伝説』はナンバリングがついておらず、本作もワールドワイドで発売するため、「〇〇〇 of MANA」でタイトルを考えていたんです。ストーリーとキャラクターデザインがある程度完成したときに、ローカライズ担当者たちと、過去作のアルファベットと被らずに表現できる単語がないかと探したのですが、「VISION」というワードが本作の物語にも通じる複数の意味があり、ハマりそうだなと思って決定しました。当然「メインストリームとしての『聖剣伝説』になってほしい」という気持ちで制作しています。

――『聖剣伝説』はシリーズ同士で時系列や舞台が繋がっているタイトルもありますが、本作は独立した世界観なのでしょうか。それとも特定のタイトルと関係があるのでしょうか。

小山田氏:
物語は完全に独立した世界観になっていますが、シリーズを知っている人が、 過去作との関係性を感じてニヤリとできる要素が散りばめてあります。

『聖剣伝説』は手に取って体験しやすいが満足できるもの


――次はゲーム内容について掘り下げていきたいと思います。現在アクションゲームは多種多様に存在し、たとえばソウルライクや、無双系など類型化されることが多いです。そうした中で、『聖剣伝説 VoM』におけるアクションゲームとしてのデザインの方向性をお聞きしたいです。

小山田氏:
コマンドRPGをシームレスに遊べるアクションRPGというデザインが、『聖剣伝説』のスタートラインだったと思うので、本作もRPGであることを踏まえたアクションとして構築しました。なにかのタイトルから直接影響を受けたというより、長い歴史に磨かれた現代的な操作感に追いつくように作りつつ、シビアだったりスタイリッシュだったりするアクションは『聖剣伝説』らしくないと思うんです。『聖剣伝説』は誰でも手に取りやすくて、入門作として体験しやすいけど満足できるものだと考えています。

――ほかのタイトルのように尖らせることでユーザーが離れる可能性もあると踏まえて、間口を広くするのが本作のテーマの1つですか。ゲームデザイン全体をやさしくまとめていくのは、アクションゲームにおける個性という面で葛藤しませんでしたか。

小山田氏:
なくはないですが、ほかのタイトルがチャレンジングな試みをしているなかで、ゲームデザインを幅広い人向けに遊びやすくまとめるタイトルは現代では少なくなっている印象があり、あえて真っすぐ作りました。「スタイリッシュにしないの?」、「ものすごい派手な大技はないの?」と言う人もいましたが、それが『聖剣伝説』なのかと言われると、個人的にはそうではない気がします。

――なるほど。『聖剣伝説』らしさが本作の軸になったのは、ゲームデザインにおいても良い指針だったということですね。

小山田氏:
そうですね。やはり『聖剣伝説』ファンとしての自分の視点が1つの線引きになりました。久しぶりの完全新作なので、『聖剣伝説』としてきちんとした作品を作りたいと考えています。

――今までのメディアインタビューなどで小山田さんの『聖剣伝説』の“強火ファン”な一面を感じることがありましたが、それを思わせるエピソードの1つですね。


小山田氏:
(笑)

――本作のフィールドは「セミオープンフィールド」という風に銘打たれていますが、 全体としてどれほどの大きさがあるのでしょうか。試遊で体験したエリアは非常に広大さを感じましたが。

小山田氏:
今回のメディア向け試遊では「ファルロー大草原」と「フーラ山」の2箇所を体験していただきましたが、「ファルロー大草原」がフィールドとして大きいエリアのベースサイズになります。そして小規模なダンジョンサイズとして「フーラ山」のようなロケーションも存在し、世界を巡っていくなかで、それらが組み合わさっているのをイメージしていただければ。

――また「セミオープンフィールド」という表現に苦心やメッセージ性を感じますが、そのあたりの意図をくわしくご説明いただけますか。

小山田氏:
(笑)感じていただけましたか。まず本作は「オープンワールド」ではありませんので、その点をご留意いただきたいです。ただオープンワールドのような感覚でプレイできる「ファルロー大草原」のような広大なエリアも存在するので、独特の言い回しではありますが「セミオープンフィールド」という表現にしています。

――『聖剣伝説』と言えば音楽も重要なファクターですが、今回バトルとフィールドがシームレスに切り替わるインタラクティブミュージックを導入して、苦労された点などありますでしょうか。

小山田氏:
今まではフィールドの移動曲=バトル曲だったので、本作のような広いフィールドだとテンションの抑揚が感じにくいと考えたのが、インタラクティブミュージックを導入したきっかけです。フィールドと同じ楽曲でも、バトルに切り替わったらアレンジとして流れる。ゲームを長時間遊んでいただくためにメリハリをつけた点が、本作のサウンド面における試行錯誤のポイントです。

なぜ『聖剣伝説』は復活できたのか


――少し話は変わりますが、現在の『聖剣伝説』シリーズはスマートフォン中心に展開されていて、リメイクやリマスターはありつつも、コンソールでの完全新作は厳しいのかなというムードがあったように感じていました。今回新たな発表ができた大きな理由について教えていただけますか。

小山田氏:
『聖剣伝説コレクション』、『聖剣伝説2 SECRET of MANA』、『聖剣伝説3 ToM』、HDリマスター版『聖剣伝説 Legend of Mana』と実績を積み上げてきたなかで、数字として『聖剣伝説』に予算をかけても大丈夫だろうと判断が下りました。それは会社としての経営面の安心感という側面もありつつ、石井さんや田中(弘道)さんをはじめ、オリジナル版のコアメンバーがスクウェア・エニックスを退職されても、『聖剣伝説』ファンの方々に『聖剣伝説』らしいものが作れていると評価いただいた部分が大きかったではと思います。

私がシリーズを引き継いだタイミングは、『聖剣伝説』が遊べるプラットフォームがなくなりつつあったので、名作と呼ばれるタイトルを遊べるように整備していきました。ですがシリーズの間が空いたことにより、当時で言えばPS4でハイエンドなゲームが開発される一方で、携帯ゲーム機向けに手軽なゲームも作られていました。そのため先述のリメイク・リマスター作品は、その状況下で『聖剣伝説』新作の進路を見定めるという意味合いもあったのです。その後『聖剣伝説3 ToM』発売の結果としてユーザーの反応も良く、望まれている方向性が具体的になったことが『聖剣伝説 VoM』開発に繋がった一番大きなものだったと思います。

――会社の予算を動かすのは、相手を説得し企画を通す力など、大きなエネルギーが必要だったと思いますが、小さなことの積み重ねというお話はありつつ、頑張れた理由を教えていただけると幸いです。

小山田氏:
単純にサラリーマンをしながら、頑固に企画を提案し続けたおかげかなと思います(笑)

――小山田さんを含めた開発チームが折れずに、何度もチャレンジされたのですね。

小山田氏:
当然、判断を下す上層部は市場の難しさを理解していますし、実体験に基づく指摘もありました。ただ、企画を実現させるのは当然プロデューサーの仕事ですので、一つ一つ懸念点をクリアしながら、企画を提出し続けたのが本作に繋がったと考えています。


――ありがとうございます。『聖剣伝説3 ToM』については、正直数字面についてはいかがでしたか。100万本突破の発表などもあり、好調さはうかがえましたが。

小山田氏:
評価としては以前『聖剣伝説3』を遊ばれた方に、当時のままのフィーリングを感じていただけた点と、現代的にしてしまったが故に不安だった部分が受け入れられて安心したという点ですね。また『聖剣伝説3 ToM』をきっかけに、はじめて『聖剣伝説』に触れられる方の「システムに若干古さを感じる部分もあるけど面白いタイトルだった」という反応もあり、リメイクでありつつ新しさも両立できていたのではないかと思います。

数字としては、日本が多いのは間違いありませんが、北米・欧州・アジアなどさまざまな国の方に遊んでいただけました。『聖剣伝説3』が当時SNES(海外版スーパーファミコンの略称)でローカライズされなかったからか、伝説のゲームのようなイメージになっており、そのリメイクがリリースされたということで、 喜んでいただけたのではないでしょうか。

――『聖剣伝説3 ToM』がグローバル市場への可能性を広げた側面もあるのでしょうか。

小山田氏:
『聖剣伝説3』が海外で発売していないタイトルであったにも関わらず、シリーズとして理解されて購買に繋がったっていう点は、本当にありがたいです。

『聖剣伝説』としてのアイデンティティを大切にしたい


――海外ユーザーのお話が出ましたが『聖剣伝説 VoM』発表にあたり、日本との反応の違いを感じられたことはありましたか。

小山田氏:
日本では古くからシリーズをプレイしている人や、IPとしての歴史を知っている方が多いので、期待半分不安半分な受け止め方が強かったかなと感じています。一方海外では、単純に自分が遊んでいるプラットフォームにリリースされるのかどうかという、フラットな感想が中心で面白い反応の差ですね。

――よくわからないけど面白そうなアクションゲームが、スクウェア・エニックスから発売される、みたいな。

小山田氏:
そうですね!あとは発表の場となったイベント(The Game Awards 2023)では、海外スタジオ産のタイトルが立て続けに発表されるなかで、いきなり雰囲気が違う日本のゲームが発表されたという風に捉えられたのかなと思います。

――なるほど。今後欧米圏向けに、『聖剣伝説』シリーズをどうリーチさせていきたいかという構想はありますか。

小山田氏:
『Secret of Mana(聖剣伝説2の海外名称)』を発売当時に手に取られた方は、私同様に当時子供だった人が多いのではないかと感じていて、当時の体験を通して最新作を遊ばれるという反応をいただくことも多いです。自分としてはそうした方々が年齢を重ねて親になったとき、子供に『聖剣伝説』は面白いと勧めてほしいです。

あとは独特の空気やデザインがあって、少し子供っぽいと思われる部分もあるかもしれませんが、それが『聖剣伝説』の長所であり、その点を欧米ナイズして届けるより日本で昔から親しまれているゲームを、そのままの形で海外の方に好きになってほしいですね。

――グローバル化を視野に入れつつ、アイデンティティを欧米向けに寄せることはしないと。

小山田氏:
ビジュアルは作品の特徴だと思うので、開発者たちが良いと思うものを届けるべきだと考えています。特にこの『聖剣伝説』はさまざまな種族がいて、奇抜なキャラクターも多く、そうした不思議な世界に出会えるのがゲームの楽しみだと思うので、欧米向けは強く意識していません。ですが海外の方に『聖剣伝説』として好まれていること自体は汲みながら、制作を進めています。

――最後に『聖剣伝説 VoM』発売を控えたタイミングで恐縮ですが、いちファンとしてこれからも『聖剣伝説』シリーズが続いてほしいと思います。これからも『聖剣伝説』を作りつづけたいですか。

小山田氏:
ユーザーの皆さんと、会社から「小山田いらない」と言われないかぎりは、頑張って『聖剣伝説』を作り続けたいと思います(笑)

――楽しみにしています。ありがとうございました。

『聖剣伝説 VISIONS of MANA』は、PS5/PS4/Xbox Series X|S/PC(Windows/Steam)向けに2024年夏発売予定だ。

[聞き手・執筆・編集:Yuuki Inoue]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

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