伝説的荒廃鬱RPG『LISA』、なぜ今蘇る?追加要素の中身は?開発者に訊いた

パブリッシャーのBeep Japanは『LISA:Definitive Edition』の公式日本語版を2024 年3月21日にリリースする。なぜ蘇ることになったのか。どのような追加要素があるのか。開発者に訊いた。

パブリッシャーのBeep Japanは『LISA:Definitive Edition』の公式日本語版を2024 年3月21日にリリースする。対応プラットフォームはPS4/PS5/Nintendo Switch。パッケージ版も用意されており、限定版にはシリーズの原点となる『LISA: The First』のダウンロードカードと日本語ガイドが付録する。なおグローバルパブリッシャーであるSerenity Forge からはPC/Xbox向けにも展開されているだ。

『LISA:Definitive Edition』はオリジナル版の『LISA: The Painful』『LISA: The Joyful』の二作にさまざまな追加要素を加えた決定版である。自己犠牲、それがもたらす痛みに鋭く切り込んだストーリー展開と個性豊かなキャラクター達の持つ人間性にスポットを当てた、時に涙し、時に暗い気持ちになる、ダークなユーモアに満ちた語り口が持ち味のRPGだ。

Steamで販売されている『LISA: The Painful』は、1200件以上のレビューが寄せられ、「圧倒的に好評」ステータスを獲得。そのユニークな作風もあり、伝説的な作品となっている。そんな『LISA』シリーズが、装い新たに、そして日本語を引っ提げてついに蘇るわけだ。


ではなぜ蘇ることになったのか。どのような追加要素があるのか。今回、本作のゲームデザインを手がけた中心人物であるAustin Jorgensen氏にメールインタビューを実施。10年越しの完全版の発売に至った背景や、開発者の考える本作の魅力、そしてプレイヤーに伝えたいメッセージについて訊いた。

『LISA:Definitive Edition』発売までの経緯

――オリジナル版からおよそ10年越しの完全版リリースとなりますが、そこに至った経緯をお聞かせいただけますか?

Austin Jorgensen(以下、Jorgensen)氏:
10年近く経って『LISA』にカムバックすることは、非常に新鮮な体験でした。8年前にLISAを完成させた後、私はオレイサに関する物語を完結させ、次のステップに進んでいました。
しかし、今回グローバルのパブリッシャーパートナーとなったSerenity Forgeとのコラボレーションは、私のかつての『LISA』への情熱を再燃させ、今の視点で以前の仕事を振り返ると、語られていない物語がまだまだあることに気づきました。

『LISA』は、多くの人々にとって重要なゲームになっていました。それも、実に驚くほど多くの人々にとってです。リマスター版では、コアとなるゲームは同じですが、新たな要素を追加しています。このゲームに新しいコンテンツを追加し始めたとき、私たちはオリジナルのアイデアに忠実でありながら、このゲームのテーマについてより明確なメッセージをこめたいと考えました。

追加要素は、より豊かで没入感のある体験をプレイヤーに提供するチャンスであり、できればポジティブで有意義な方法でこれらの複雑なアイデアを振り返る要素です。プレイヤーの皆さんが再び、あるいは初めてこの旅に出ることを楽しみにしています。


――Jorgensenさんは、今回の『LISA: Definitive Edition』にはどのような形で携わっているのでしょうか?

Jorgensen氏:
『LISA: Definitive Edition』では、積極的に携わらせていただきましたよ。追加要素の作成から、新曲やビジュアルの作成まで、すべて自分で行いました。グローバルパブリッシャーである Serenity Forgeは素晴らしい追加アイデアをたくさんもっており、その結果、キャラクターの特定のものに対する感情や状況などの再考を迫られました。

しかし、一度エンジンがかかるとスイッチが切り替わったように、キャラクターに再び深くに入り込み、熟考した上でより良く表現することを目指し、ワクワクしてきました。

ダークなユーモアにあふれるRPG

――本作は、陰鬱なストーリー展開のなかにポップなユーモアが織り交ざった作りになっています。どのような背景があってこういう形に至ったのでしょうか。

Jorgensen氏:
『LISA』は、ホラーとコメディの要素を取り入れた、ジャンルのマッシュアップのような作品にしました。

このゲームは暗く悲惨なテーマを掘り下げる一方で、明るさを見せる瞬間もあります。不穏な雰囲気の中でも、登場人物の中にある人間性を照らし出すような、異なる視点を提供しようと努めています。ここには深いメッセージがあります。「人生のもっとも暗い瞬間であっても、人間性の輝きは存在する」んです。なので、新鮮な視点を提供し、思いがけない方法で人間の経験に光を当てるものにしたかったので、今のスタイルになりました。

――本作は日本語版では「毒のあるユーモアの RPG」というジャンルでリリース予定です。本作を表すジャンルとして、この語句にはどのような印象をお持ちでしょうか?

Jorgensen氏:
このゲームが “毒のあるユーモアのRPG “と分類されているのは興味深いですね。正直なところ、ユーモアとダークなテーマをどう融合させるか、明確な計画を持って始めたわけではないんです。ゲームを開発するうちに、自然とそうなっていったという感じです。最初から計画されていたとは言い難く、いわば私の頭の中からできあがったようなものです。だから、当初は「毒のあるユーモアのRPG」というような特定のジャンルを作ろうと思っていたわけではないのですが、ユーモアとダークな雰囲気のユニークな融合を捉えたこのゲームのトーンにはとても合っていると思います。


『LISA』のインスピレーションの源とは

――本作の舞台となるオレイサについて、世界規模の災厄「Flash」によって女性という存在が消失し、男性だけの荒廃した世界としているのが印象的です。なぜこのようなポストアポカリプス的な世界を設定したのですか?

Jorgensen氏:
すべてはシンプルなアイデアから始まっています。もともとは、『River City Ransom』(ダウンタウン熱血物語)のような古典にインスパイアされた横スクロールのベルトスクロールアクションゲームをイメージして作っていました。同時に『北斗の拳』に出てくるような、タフなキャラクターで埋め尽くされた厳しい黙示録的な世界を作ろうと考えていました。

しかし、コンセプトを掘り下げていくうちに、「女性のいない世界」は果たしてどのようなものだろうかと疑問を持ち始めました。刑務所や男性優位の職場環境など、現実世界のシナリオとその機能について考えるようになり、オレイサの構想が具体化し始めました。


――本作でインスピレーションを受けたジャンルや作品等はありますか?

Jorgensen氏:
直接的な影響を受けた作品を挙げるとすればいくつかあります。が、実際にプレイしてみると、さまざまな要素が散りばめられているのがわかると思います。

まず、第一に挙げられるのは『MOTHER 2』(海外名:Earthbound)でしょう。おそらくビジュアル面での影響が大きいと思います。私が『MOTHER 2』の革新的なデザインに引き込まれたことが、『LISA』の物語の最大のインスピレーションとなった要素の中核にあるかもしれません。

そして意外な影響源となったのが『The Last of Us』です。映画的な手法で、少しのリアルな人間性とリアリティを巧みに織り込み、成功を収めたゲームを見たことで、LISAの中心的なダイナミクスについて考え直すきっかけになりました。当初はブラッドとその息子を主人公にするつもりでしたが、『The Last of Us』は最高の形で物事を揺さぶり、物語の構成を変更させるに至りました。

――限定版である『LISA:Bundle of Joy』にはLISAシリーズの第一作目となる『Lisa:The First』のダウンロードカードと日本語ガイドが同梱されております。シリーズ一作目からすでに悪夢のようなビジュアルと内省的なシナリオが特徴的であるように思われますが、作風の方向性を決めたきっかけやエピソードがあれば教えてもらえますか。

Jorgensen氏:
作風が定まった方向性は、ちょっと背景が複雑なんです。主にプロレスと『MOTHER 2』からインスピレーションを得ましたが、この2つはまったく異なる要素でありながら、どういうわけかゲームのDNAに組み込まれています。加えて、私自身の人生経験の影響も見逃すことはできないと思います。

でも、インスピレーションというのは、えてして思いがけないところからやってくるものなんです。自分が夢中になっているものや印象に残っているものだけでなく、心に響く要素をとらえ、それを他の人たちと共有することを考えました。私が熱中しているものであれ、単に他の人が体験すべきだと思うものであれ、インスピレーションに関して制限はないと思っています。私がクールだと思うもの、あるいは有意義だと思うものを共有し、他の人たちが同じように感じてくれることを願うのです。だからある意味、『LISA』のスタイルを支えるインスピレーションは、人生そのものと同じくらい多様で多彩だと考えています。


コンソール版への最適化と、新たな要素

――本作はNintendo Switch、PlayStation 5、PlayStation 4でリリース予定ですが、コンソールプラットフォームへの最適化にあたり、苦労した点等ございましたらお聞かせいただきたいです。

Jorgensen氏:
コンソール版『LISA: Definitive Edition』の最適化は間違いなく旅そのものでした。Serenity Forgeと密接に協力しながら、『LISA the Painful』と『LISA the Joyful』を「RPGツクール」からUnityベースの特注エンジンに作り変える作業に着手しました。

開発は、オリジナルの「RPGツクール」のエッセンスに忠実でありながら、Unityで可能な新要素や新機能を取り入れることのバランスを取る、長いプロセスでした。

私たちが直面した大きな課題の1つは、Unityへの移行によってゲームの魂が損なわれないようにすることでした。『LISA』のピクセルアートとゲームプレイはシンプルであることで知られていますが、「RPGツクール」では扱えないような新しい拡張機能やエフェクトを導入する際には、ユニークな挑戦となりました。ゲームのシンプルさを維持しつつ、プレイヤーを驚かせるようなエキサイティングな新機能を導入したかったのです。

最終的に、その努力は報われました。コンソール版では、高品質なバイブレーション、コントローラーのスピーカー音声、ライトバーのパターン、さらにはアダプティブトリガーなど、数多くの新機能や拡張が盛り込まれています。さらに、『LISA: Definitive Edition』全作品の楽曲を収録した音楽再生プレイヤーを組み込みました。

全体として、コンソール版の最適化には困難が伴いましたが、そのおかげで『LISA』が提供できる限界に挑戦することができ、Nintendo Switch、PlayStation 5、PlayStation 4のプレイヤーに没入感のあるダイナミックな体験を提供することができました。

――サウンドトラックも非常に印象的です。楽曲制作を手がけたJorgensenさんは、普段はどのようなジャンルの音楽を好んで聞いておりますでしょうか?

Jorgensen氏:
音楽に関しては、私は何でも受け入れています。幅広いジャンルからインスピレーションを得ることができるからです。それに、新鮮さが保てるし、創作のマンネリ化も防げる。でも、最近私がどんな音楽にバイブスが上がるか、となると、トラップ、EDM、そして古き良きアメリカのフォーク・ミュージックをミックスしているものになりますね。


『LISA』を通して送る、プレイヤーへのメッセージ

――開発者の視点として、本作の魅力についてはどのようなものがあるとお考えでしょうか?

Jorgensen氏:
『LISA』が本当に特別なのは、典型的なRPGというジャンルを超えている点にあると思っています。人生の浮き沈みに新鮮な視点を提供するものです。私の最大の願いは、本作がプレイヤーを楽しませるだけでなく、人生の試練を乗り越える手助けをしてくれることです。単なるゲームではないと、思ってください。

――最後となりますが、本作を初めてプレイする日本のユーザーに向けてメッセージを頂けますでしょうか。

Jorgensen氏:
皆さんがゲームをプレイして、すべての新しいコンテンツと秘密を自分で見つけることを心から楽しみにしています。最終的に、LISA が楽しめるだけのものでなく、誰かがそこから何かしらの意味を見出せるようなものであってほしいと思っています。

――ありがとうございました。

LISA:Definitive Edition』は、PS4/PS5/Nintendo Switch向けにBeep Japanから3月21日発売予定。パッケージ版も用意されており、限定版にはシリーズの原点となる『LISA: The First』のダウンロードカードと日本語ガイドが付録する。グローバルパブリッシャーであるSerenity Forge からはPC/Xbox版も展開されている。

Jun Namba
Jun Namba

埼玉生まれBioWare育ちです。悪そうなやつはだいたいおま国でした。RPG全般が好きですが、下手の横好きでいろいろなジャンルに手を出しています。

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