「ゲーム制作で知っておくべきライセンス事情」対談。Live2Dとダイナコムウェア担当者が語る“ユーザー側が判断するライセンスを管理する難しさ”


ゲーム開発においては、昨今さまざまなツールやミドルウェアが利用されている。それらはグラフィックデザインからシステムの基幹部分の開発まで広い分野にまたがるが、どんなソフトウェアも利用の際は規約に同意し、決まった範囲内での利用が認められるのが通常だ。そうして結ばれたライセンス契約によって、開発者はゲーム制作を進めることができる。

ライセンス契約の内容は、多くは利用規約や料金表などの資料によって説明される。そして、それらはどうしても理解に時間がかかりがちなものである。小さな文字でたくさんの文章が書かれている利用規約を流し見て、あるいはまったく中身を見ずに同意している方も少なくないだろう。

しかし、ライセンスに関する内容を読み落としてしまえば、誤ったプランを購入してしまうだけでなく、規約違反の状態で制作が進行してしまう可能性もある。別企業からの制作を請け負っているフリーランスや会社の場合、取引先との信用失墜につながることも。ライセンスについて正しい知識を得ることは、自分の身を守ることでもあるのだ。

今回弊誌では、2Dアニメーション制作ツール「Live2D Cubism」を開発している株式会社Live2Dの小関睦海氏と、「ダイナフォント」シリーズとして、フォントおよび関連製品を手がけるダイナコムウェア株式会社の黒岩遥氏をお呼びし、「ゲーム制作で知らないと危ないライセンス事情」についての対談をセッティングした。ツール開発者目線でのライセンス事情について、この機会にぜひ知っていただきたい。

―― まずは自己紹介をお願いします。

株式会社Live2D  マーケティンググループSDKライセンシングチーム サブリーダー
小関 睦海氏

小関氏:
株式会社Live2Dの小関です。弊社では「Live2D Cubism」という、1枚の原画から「2Dによる立体表現」を実現するソフトウェアの開発販売をおこなっております。


「Live2D Cubism」は、実際にLive2Dモデルを制作する「Cubism Editor」と、制作したモデルをアプリケーションに組み込む「Cubism SDK(※)」という2つのソフトウェアに分かれています。「Cubism Editor」では2Dアニメーション作品そのものを制作することができ、「Cubism SDK」はそうして制作したモデルを実際にアプリケーション等に組み込み、ランタイムとして動かすための開発キットです。私個人の担当領域としては、主に「Cubism SDK」の方のライセンスをメインに扱っています。

※「SDK」とは「Software Development Kit」の略。単体で機能するソフトウェアではなく、アプリケーション開発の際にSDKを組み込むことで、ソフトウェア開発に必要なプログラムを利用可能となるキット。「Cubism SDK」の場合、「Cubism Editor」で制作したLive2Dモデルをアプリケーションに組み込む際に利用される。

ダイナコムウェア株式会社
黒岩 遥氏

黒岩氏:
ダイナコムウェア株式会社の黒岩と申します。弊社では「ダイナフォント」という文字フォントを制作しており、販売の際にライセンス契約というかたちをとっております。私が担当している製品としては、「DynaSmart」シリーズという年間ライセンス――いわゆるサブスクリプション契約のものがあります。


弊社でお客様に提供しているのは文字フォントのサービスになるのですが、ライセンスとしては文字フォントをどういうことに利用できるかという細かな約束事が定められています。フォントのデザインを見て「使いやすそう」と手に取っていただく機会が多い反面、そこに約束事が付随してくるというイメージがない方もいらっしゃることと思います。弊社としても現状、啓蒙活動 的な部分が至っていない状況なのかなと考えておりまして、こうした機会を通じて少しでもライセンスについてみなさまに意識を向けていただければと考えております。

価格形態の分かれるライセンス管理の難しさ

――お二人のご担当の製品はどのようなかたちでマネタイズをされているのでしょうか。販売方法や売上形態を教えてください。

小関氏:
弊社ではSDKのダウンロード時に使用許諾契約書に同意いただいた上で、開発にあたって「Cubism SDK」を利用すること自体は無償としています。そのうえで完成したアプリケーションをリリースする段階でお客様にご申請いただき、リリースされるアプリケーションに応じたライセンス料をいただいています。基本的に個人でご利用頂く場合はライセンス料の支払が発生することはないのですが(※)、企業が利用する場合には個別契約の締結とライセンス料の支払が必要になってきます。

※開発するアプリケーションの内容によっては個人の方でも契約が必要になる場合がある。

Live2Dを使用した制作に必要な製品とライセンス

黒岩氏:
先ほども少し触れましたが、弊社ではサブスクリプション形式で、パソコン1台につきいくらという単価設定でフォントサービスを提供しています。「DynaSmart シリーズ」という名称で販売しているのですが、シリーズとして「DynaSmart T」「DynaSmart V」という2つの製品と、「DynaSmart 機関向けプラン」「DynaSmart 学生版」という製品も展開しております。

教育用途でのライセンスは少し今回のテーマとはズレてしまいますので、詳細は割愛させていただきますので、詳しくは弊社Webサイトでご確認をお願いいたします。

ダイナフォント使用許諾範囲表

「DynaSmart T」は基本的に印刷媒体向けの使用許諾がついていて、「DynaSmart V」はゲームや動画編集など、デジタル上でのクリエイティブをされる方向けのライセンスとなっております。収録フォントは一部共通しているものもあるのですが、基本的には使用用途でライセンスや価格体系が分かれています。

――ありがとうございます。どちらの製品もリリース内容や使用用途によってライセンスの契約が異なってくるとのことですが、申請の際は利用者の自己申告をもとにライセンスを判断しているということでしょうか。

小関氏:
そうですね。初めの契約の際に、利用方法を判断するのがお客様側となってしまうというのが共通点なのかなと、私としては認識しています。

黒岩氏:
はい、弊社のフォントはネットショップからお求めいただいているのですが、購入時に個人の方として登録されてしまうと、どんな用途で利用されているかという点はどうしても追いきれません。こちらとしては、製品をお求めいただいたのなら使用許諾に沿った使い方をされるんだろうな、と信頼しているかたちになりますね。

――なるほど、利用者への信頼ベースになっているのですね。

ユーザーへのライセンス周知が課題

――そんななかで、ライセンス周りのご担当者様として悩みがあるとお聞きしました。どういった内容なのか教えていただけますか。

小関氏:
弊社の悩みとしてはまず、「Live2D Cubism」が「Editor」と「SDK」に分かれていることに端を発しています。ライセンス自体もそれぞれ分かれているのですが、「Editor」がストアからお客様ご自身でライセンス購入をしていただく形態である一方で、「SDK」は完成した製品をリリースするにあたってライセンス契約が必要という形態です。

そもそもこのようなミドルウェアでツールとランタイムの機能が分かれている製品というのが少ないので、ユーザーの皆様は理解しにくいだろうな、というのは課題としてあります。製品のウェブサイト上でライセンスが分かれていることをお伝えしてはいるのですが、一般認識として片方の契約のみでいいのだろうと思われてしまう部分もあり、その部分のライセンス周知が課題ですね。

――ライセンスへの正しい理解がないことで、具体的にはどんなことが起こってしまうのでしょうか。

小関氏:
「SDK」は、それ自体は無料で利用できるので、「Editor」のライセンス契約のみで製品をリリースしてしまい、未契約のまま数年が経過してしまった、ということが起こりえるというのが最大の問題点ですね。

――なるほど、そういったケースを見つけた場合、Live2D側から連絡をするようなこともあるのですか。

小関氏:
ときには弊社からご連絡させていただくこともありますが、製品を見ただけで「これはLive2Dだろう」と断定することもできないので、きちんと使用許諾契約書の内容をお読みいただき、お客様の方からご連絡いただくことが基本になってくるかなと思います。

ライセンス料を踏み倒してやろうという気持ちで使っている方はいないと思うのですが、そもそも契約が必要ということをご存じなかったというケースもあるかと思っています。規約を読んでいないということもあると思うので、まずは知ってもらいたいなという気持ちがあります。

黒岩氏:
(何度も頷く)

――そのご様子だと、ダイナコムウェアさんの方でも同様の悩みがおありですか。

黒岩氏:
はい、弊社の場合はLive2Dさんとは異なり、ご利用いただくには有料となります。ご契約手続きの際に確認事項のご案内はできるように導線は作っているのですが、そうして表示している利用規約をお客様がどの程度理解しているかは未知数なところがあります。

――小関さんもお話されていましたが、違反している場合も、規約を意図して無視しているわけではない可能性も高いですからね。

黒岩氏:
はい、そうですね。単純に「ライセンス利用規約」という文面で出てきてしまうと読み飛ばす癖がついてしまっていたり、大体どんな規約にも同じようなことが書いてあるよね、と流してしまうようなこともあるのかなと思います。

また、フォントはもともとPCにプリインストールされているものということもあって、入っているものは何でも使えると思ってしまいがちな製品でもあります。インストールはされていても、使用用途が限定されているという認識が他製品よりも薄い商品なのかなと。

最近はコンテンツの展開速度が非常に速くなってきているので、チラシやリーフレットといった紙媒体コンテンツだったものがデジタル化するケースもあります。弊社製品の場合はライセンスによって紙媒体では使用できるけれど映像ではダメ、といった区分けもあるのですが、過去からずっとフォントを利用されている方だったりするとなかなか意識が向かないケースもあるかもしれません。ライセンスは製品の特性や制作物によっても少しずつ変わってくるので、気をつけていただけたらなと。

――規約が読まれない傾向にあるという点で、「Cubism SDK」についても似たような傾向はありますか?

小関氏:
弊社でもダウンロードの際に利用規約は、表示はしているのですが、個人的な目線でも読み飛ばしてしまったり、しっかり読まないことが多いものであるとは感じています。読み飛ばしてしまう気持ちは非常にわかるな、と思いつつ、きちんと知っていただけると嬉しいですね。

――ありがとうございます。利用範囲やライセンスについて、個別に問い合わせをしたことはありますか?

黒岩氏:
契約情報はサブスクリプション契約の際に登録していただくものなので、問い合わせ先として参照することは可能です。しかし、広告ひとつ取っても、A社さんの広告を代理店のB社さんが制作していて、代理店もさらに外注のクリエイターCさんにお願いしている、という可能性もありまして……。確認できる範囲にも限りがありますね。

「この商品に弊社のフォントをご利用いただいていますか」という確認の連絡を差し上げることはあるのですが、利用規約的な部分を確認する目的ではなく、弊社ウェブサイトで採用事例として取り上げさせてもらいたい、という許可取りが大半です。そこからお話を聞いていって初めてライセンス不備が発覚し、遡ってのご契約をしたケースはございます。

――そうなった場合、少し気を遣われるのではないかと感じます。

黒岩氏:
はい、ライセンス料を徴収するために個別にご連絡しているわけではないので、その点では少し気を遣っています。


それでもこの形式で売りたい理由は

――そもそも、2社様の製品はなぜ買い切りではなく、現在のような販売形式となっているのでしょうか。製品特性的な意味はおありなのですか。

小関氏:
弊社の「Cubism SDK」の場合は、開発現場で使ってもらいやすい形式にしているという側面が強いです。もちろん、「Cubism Editor」や多くのツールのライセンスの様に試用期間に応じた課金や、開発・検証の段階でご連絡をいただきSDKを提供するという段階で事前に契約するという形式も考えられます。しかし、開発現場の「まずは気軽に試したい」「検証・開発段階での契約やライセンス料の支払はハードルが高い」などの気持ちを理解しているからこそ、開発者の方を信頼してまずは無償でSDK自体を提供する形式をとっています。

黒岩氏:
弊社の場合はどのプランも有料でのご契約となるのですが、許諾範囲に応じて価格が分かれています。比較的リーズナブルな「DynaSmart T」と、プロユースの「DynaSmart V」に分かれているので、前者をエントリーモデルとして位置づけてもいます。


PCの中にデフォルトで入っているフォントだけだと、可能な表現には限界があるというのを知っていただきたいので、それを実感していただくためにリーズナブルな「DynaSmart T」をご用意していますね。そういった部分では、Live2Dさんと近しい考え方です。まず手にとっていただいて、フォントの便利さを感じていただいたうえで、持続的に新しいフォントをご提供できればと思っています。

――各社様の理念としては、まず親しんでほしいと。

小関氏:
そうですね。

黒岩氏:
弊社では過去、家電量販店さん等で買い切りのパッケージ商品を販売していたこともありました。現状そちらは終売しているのですが、当時の利用規約の範囲で利用しても構わないとしています。

ですが、当時から長らくご利用いただいていると、ライセンスのことは記憶の彼方に行ってしまうケースもあるかと思います。実際に過去のパッケージ製品をご利用いただいていたお客様が意図せず契約外の制作にフォントを使用され、「知らなかったので契約をし直したい」というご相談をいただいたケースなどもございます。

「DynaSmart シリーズ」ですと新しいOSへの対応などもしていっておりますので、そちらに順次移行していただくと同時に、ライセンスの知識もアップデートしていっていただけるとありがたく思います。

――契約にそぐわない利用に対して何かペナルティを課した事例はあるのでしょうか。

小関氏:
利用規約に反する状態になってしまうと、最終的にはライセンス料をお支払いいただく必要は出てきてしまいます。本来存在しないと認識していた料金が発生してしまうとなると、さまざまな面で負担となってきてしまうかと思いますので、まず最初に利用を検討する時点で、利用料金がどの程度になるのかについて認識しておくのが一番理想だと思いますね。

――特に企業内での利用だと、予算での計上のこともありますよね。黒岩様はいかがですか?

黒岩氏:
弊社でも、遡って料金を頂戴することがあるというのはLive2Dさんと同様なのですが、弊社以外とのトラブルに発展する可能性のほうがユーザー様にとっては影響が大きいのかなと。

というのも、ライセンスが不適切なまま制作を進めた結果、クライアントに迷惑がかかってくる可能性が出てくるんです。契約の見直しのために納品予定がずれてしまったりだとか、そもそも納品後に初めてライセンス不備が発覚した際にクライアントにしわ寄せが行ってしまったりだとか、弊社以外とのトラブルが起きかねないので、お気をつけいただきたいです。

DynaSmart Vでは多言語フォントも提供しており、ゲームでも使用可能。


小関氏:
それは弊社も同じことは言えますね。特にゲームではデベロッパーとパブリッシャーが分かれていることも多いと思います。「Cubism SDK」はリリース時点で契約が発生するので、リリースする段階になってパブリッシャーにライセンス料が必要だと伝えられ、そこで初めて契約のことを知るとなると、事務的に滞ってしまうケースもあるかと思います。


リリース後に未契約であることが発覚したとお客様からご連絡をいただいて、利用分を遡ってお支払いしていただいたケースもあります。円満に利用分をお支払いいただいており、基本的にはすべての企業さんにお支払いいただいております。

企業側はどう考えるべきか

――最後に、今後ライセンスの承認抜けを防ぐために、消費者側ではどのようなマインドを持っていけばよいのでしょうか。

小関氏:
Live2Dはツールとミドルウェアが分かれているという特性上、導入を提案する人、「Cubism Editor」でモデル・アニメーションを制作するデザイナー、実際に「Cubism SDK」使用してゲームに組み込むエンジニアとそれぞれが気をつけるべき規約が異なります。その場合でも、全員が利用規約について責任を持って確認していただくのが大事なのかなと思います。

黒岩氏:
会社の規模によっても異なってくるのかも知れませんが、情報システム部の方がライセンス周りを一元管理していることも珍しくないと思います。その場合、使って良いフォントしか現場に提供していない、というケースも多いと思います。そういった環境にいらっしゃる方が社外で制作したときに規約を再確認する必要性があると思っています。

例えば趣味で制作をする場合やフリーランスとして独立した場合、今まで当たり前のように使っていたツールにライセンスという厄介そうなワードがついて回ってくる。どうしてもその部分を弊社としては申し訳なく感じているのですが、常日頃から「このライセンス内で契約しているものはゲームでは使えるが、別媒体では使えない可能性がある」などのケースを頭の片隅にでも置いておいていただいて、別領域でクリエイティブを発揮する際に思い出していただけたらなと思います。使用後に修正する、というのは一番ストレスがかかってしまうと思いますので……。

小関氏:
ライセンスを厄介なものだと思わせたくないですし、思ってしまう気持ちのわかるのですが、お互いを守るために必要なものとして見ていただけるとありがたいですね。

――ライセンス契約を守ることは、自分を守ることにもつながるのですね。ありがとうございました。

[聞き手・執筆・編集:Aki Nogishi]
[聞き手:Ayuo Kawase]