元任天堂の今村氏から学んだのは“終わらせる力”?今村氏とベテラン開発者らによる新作ゲーム『OMEGA 6 The Video Game』の始まりと、理想的な終わらせ方を訊く

元任天堂のゲームクリエイター・今村孝矢氏が執筆した漫画「OMEGA 6」を原作にした作品『OMEGA 6 The Video Game』。弊誌では、原作者である今村孝矢氏、ハッピーミール代表取締役社長、関純治氏、シティコネクション代表取締役、吉川延宏氏にインタビューを敢行した。

元任天堂のゲームクリエイター・今村孝矢氏が執筆した漫画「OMEGA 6」を原作にした作品『OMEGA 6 The Video Game』。昨年の11月にその存在が発表され、開発を『ミステリー案内』シリーズを手がけるハッピーミールが担当することが明かされた。そして今年9月、本作の販売を担当するとして、クラシックゲームの移植を中心にさまざまなIPの作品を展開するシティコネクションが参加していることが発表。シティコネクションとハッピーミールの共同プロジェクトとして『OMEGA 6 The Video Game』が制作されていることが判明したのだ。

今村氏といえば、『F-ZERO』シリーズや、『スターフォックス』シリーズをはじめとした多数の任天堂作品に幅広く携わってきたベテランだ。2021年に任天堂を退社し、現在は大阪国際工科専門職大学のデジタルエンタテインメント学科教授を務めながら、「OMEGA 6」を執筆。漫画に関しては、現在フランスにて発売されており、順次英語版、日本語版も発売される予定だが、まだ原作漫画、そして本作に関しては謎が多いまま。

弊誌では、原作者である今村孝矢氏、ハッピーミール代表取締役社長、関純治氏、シティコネクション代表取締役、吉川延宏氏にインタビューを敢行。まだ謎の多い『OMEGA 6 The Video Game』の制作について詳しく話を訊いた。

――まずは、『OMEGA 6 The Video Game』の正式なお披露目、おめでとうございます。

今村孝矢(以下、今村)氏:
ありがとうございます。

――ゲーム化の話はどのようにスタートしたのでしょうか?

関純治(以下、関)氏 :
それを説明するには、人のつながりを説明することになりますね(笑)今村さんと本作のプロデューサーである松谷さんは、ゲームクリエイター時代からずっと旧知の仲。そしておふたりとも今は大学で生徒に教えられているのですが、その大学が同じで教授としても交流があったんです。

自分(ハッピーミール)も、長らくシリーズ展開させていただいている『ミステリー案内』シリーズで、松谷さんと一緒に制作させていただいたのですが、その時今村さんとゲームを作らないかという話があった。ウチでよければぜひ参加させてくださいというところから話は始まりました。

――なるほど。……「OMEGA 6」はそもそもマンガですよね?今村さんは「OMEGA 6」をゲーム化する予定は考えていたんですか?

今村氏:
考えてないですよ!予定も何も、そもそも本になるかどうかもわからないのに……(笑)。漫画に関しては「この年になるとやりたいことやっとかないと」という気持ちでやっていました。描いた漫画がどうなるかわからないけど、誰かに見てもらえたらいいかなという気持ちで、「OMEGA 6」を書き始めました。

――では、当初はゲーム化の野望は持たれてはなかったと。

今村氏:
なかったですね。いくつかアイデアを出している中で、いろいろ話が進んで、ゲーム化する流れになりました。

関氏:
すごくいい作品だったんで、原作もあるし、これをゲームにしたらいいじゃないですかっていう話になって……。

吉川氏:
シティコネクションとしても、漫画でのキャラクターや世界観が出来上がっていたので、ゲームもいけるかなと。

今村氏:
漫画を売る前の段階でした。漫画を発売してそこそこ売れて、その段階で声がかかるならまだしも、これから売るぞっていう時にゲーム化の話がきたので、不安にはなる……(笑)。

――関さんとしては、『OMEGA 6』というIPを他の人に取られたくない気持ちもあった?(笑)

関氏:
そういうわけではないですが、漫画が本当におもしろかったので。それに、あの今村さんと仕事ができるチャンスがあるんだったら、ぜひチャレンジしたかった。ゲーム業界にいる人間として、トップレベルの人と一緒に作品に携われる、仕事ができるというのは、とても貴重です。


吉川氏:
実力ある人と一緒に仕事すると、成長のスピードが速くなりますよね。

今村氏:
もっと言ってください!この話、もっと掘り下げた方がいいんじゃないですか?

一同:
(笑)

今村氏:
でも、任天堂でどうゲームを作っていたんですかと訊かれることは多いです。正直なところ、僕もあんまり言語化できないんですよ。ひょっとしたら吉川さん、関さん、松谷さんは僕のアウトプットからそれを感じ取ってくれているのかも。

――なるほど。吉川さんや関さんは、今村さんからそういった“任天堂イズム”は感じましたか?

吉川氏:
はい。開発当初は、今村さんは予算度外視してやりたいことを突き詰めていく破天荒なイメージを抱いていたのですが、まったく違いました。開発中は「完成させないといけない」というワードがかなりの頻度で出てきます。予算や人員を使うこと自体が任天堂で培われたポリシーではなく、ちゃんとしたメンバー、決められた予算と時間、その中で最大限をやるという。いたって普通……なんですけども、その普通をずっとやり続けてきたというのがよくわかりました。

――「完成させないといけない」と聞くと鬼気迫ったように思えますね……。

今村氏:
迫ってますよ!僕はゲームを作る時は、常にゴールまで見てやっています。昔、親父から習ったことで、唯一覚えてるのが、「プロは70点でも納期を守る」という言葉。まさにそうだなって思います。

関氏:
クオリティも大事ですが、まずは確実に終わらせようという。

吉川氏:
パブリッシャーとしても、開発の皆さんがちゃんと終わりを意識されていたので、参加しやすかったです。なかなか出ないゲームのパブリッシャーを担当するのは大変なので……。ゲームって、作り始めるのは簡単なんですけど、作り終えるのがものすごく大変なんですよね。最後の締めをきっちりやる。その踏ん張りがね、かなりいるんです。終わらせるのにとてつもない力がいることを、このメンバーは過去にめちゃめちゃ経験してきている。

――今村さんとお仕事されることで刺激を受けるところは多いですか?

吉川氏:
多いです。ずっと開発でご一緒させてもらって思ったのが、ゲームの内容をバッサリ切る事を常に考える決断力があること。ゲームって、どうしても足し算をしがちになってしまうのですが、今村さんは常に引き算で考えているんですよ。ミーティングでも、早い段階からバッサリ行く話が出てきます。別にまだ焦らなくていいタイミングなのに、バッサリ行く話をずっとされていて……。でも残すものに関しては、徹底的に作りこもうと追求されていて、そこにも感心します。

関氏:
すべて、どう引き算できるか?だと思っています。足し算するのは簡単ですが、開発では引かなきゃいけないのにどれも引けない!という時がたくさんあります。同時に、本当に今が引き時なのか?そしてどこを引くのか?という見定めもすごく難しいところです。

今村氏:
やっぱりゲームを作っているとね、作り手の思い入れが入ってきて、達観的に見られなくなるんですよ。正直なところ、遊ぶ人にとってそれがあってもなくても全然関係ないのに。こねくり回して、だらだら引き伸ばしていると、すごい時間がもったいなく感じる。過去に関わった作品でも、バッサリ切ることは結構してきましたね。これに力をかける必要はない、でもここにはちゃんと満足してもらえるように作るみたいなのを判断する力は昔からあったのかなと勝手に思っています。多分、バランス感覚はいいと思います!(笑)それくらい思わないとやってこれない!

――なるほど。では、本作は引き算をしていって期限内までにとにかくリリースをするという考えで制作を進めているということでしょうか?

関氏:
終わらせるという考えが第一ですが、ただ、終わらせてつまらない作品をだすのも良くないので、当然一定のクオリティは追い求めます。今村さんと仕事をさせてもらっているという責任とプレッシャーがあるので、終わらせるのは当然として、それを時間内に100%に近い形で終わらせたいですね。それでもし、作品のクオリティをあげられるような意味のあるものであったら、開発期間を伸ばしてもいいとは思っていますが、最終的にはどの程度のクオリティで終わらせるかを判断しないといけない。でも見ている場所はみんな一緒なので、その判断も大丈夫だとは思っています。

今村氏 :
今はいいですけど、最終段階で「え、これ出す?」「おもしろないんちゃうかな~?」って自分が言い出しそうなのが怖い……(笑)。そうなったときにしっかり相談して、作品をすこしでもよくできるようにできたらいいけどね。


関氏:
そうですね。自分だけの作品であるのなら、自分の判断で終わることができますが、今作は多くの人と想いが関わっているので、「できませんでした、ごめんなさい」じゃすまない……。なので、危機感を感じつつも、それがいい意味でプレッシャーになっていて頑張れるところはあります。

――今村さんが考えるゲームを完成させるために必要なことは、なんだと思いますか?

今村氏 :
1口では言えないですよね……。でも本作に関しては、これから僕が遊んでみて面白いと感じる部分が何個あるかが勝負かなと思っています。ゲームの要素でもいいし、お笑いでもいいですけど、そういった「ちっちゃいオモシロ」の数がいっぱいあればいいかなって。

―― 『OMEGA 6 The Video Game』のゲームにおける面白さは、どういうところにあるのでしょうか。

今村氏:
本作は、いろいろな人と会話して、次のステップに進むきっかけを見つけていくんですね。そこで会話の面白さだったり、謎解きの面白さだったりがいい塩梅でくるところ。その辺は『ミステリー案内』シリーズの面白さと似ていますね。あとは世界観と見た目でどれだけ面白がらせるかなとかばかり考えています。

関氏:
今作では、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のように楽しめるアドベンチャー作りをしてみようと、松谷さんやプランナーと話をしています。少し具体的にいうと、箱庭的な世界に対して、どんどん物語を読み進めるもよし、逆に物語を進めずサブイベントに没頭してもよし、といったイメージです。メインストーリーに関しては、『ミステリー案内』シリーズのような展開を目指して作っていますが、メインストーリー以外の要素も充実させるために、ゲーム全体にいろんな小ネタを仕込んでいます。結末に向かいたかったら向かえばいいし、今村さんの書いたたくさんのキャラクターたちと会話したいなら自由に探せばいい。また、『ミステリー案内』シリーズは物語が結末を迎えれば終わりですが、結末後も再びゲームを楽しめるようなアドベンチャー作品を考えています。

吉川氏:
そうですね、ストーリーは面白いと思います。それに対する肉付けがどこまで本編に寄与するのかというところですよね。そこは腕の見せどころだと思っています。

―― なるほど。ちなみに東京ゲームショウ2023で公開された映像では、バトルパートらしき部分が確認できましたが、アドベンチャー以外にもバトルが楽しめるということでしょうか?

吉川氏:
はい。原作が原作なので、バトルがないと「OMEGA 6」じゃないと思っているんですね。漫画を読めば、戦わないといけない理由っていうのははっきりとわかると思います。

今村氏:
バトルパートは、普通に遊んでみて面白いと思うものを目指しています。

関氏:
どちらかというとゲームを盛り上げる1つのスパイスとして導入しています。バトルは強制イベント以外に、場所移動によるエンカウントでも発生しますのでゲーム中では結構な回数をプレイします。とは言え、本作のメインで楽しむところはバトルではなく物語なので、ステータスをアップする成長要素はあえてなくし、それがなくても手軽に楽しめるようなものになる予定です。作中では今村さんがデザインしたユニークなキャラクターがたくさん出てくるのでそれらとの出会いを楽しむギミック的な位置づけにしようと、制作しています。

――みなさん、同じ方向を向いてしっかりと地に足をつけて作っているんですね。

吉川氏:
みんなベテランなので地に足はついていますね。

関氏:
今回は、得意分野が違う人たちが集まり、『OMEGA 6』のゲーム化という枠にピタッとハマったと思っています。

今村氏:
こんだけ言って、完成しなかったら超恥ずかしい(笑)

関氏:
いやいや、絶対大丈夫です。今村さんの原作をお預かりしておいて完成させないわけにはいかないですから!

――では、完成させる自信は皆さんあるということですね?

関氏:
そうじゃないと始めないです。完成は絶対で、持ち時間でどれだけ良いものを作れるかがプロとしての勝負どころ。スタッフ一同、ベストを尽くしていますのでご期待ください!

――完成楽しみにしています。ありがとうございました。

[執筆・編集:Tamio Kimura]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

OMEGA 6 The Video Game』は、Nintendo SwitchとSteam向けに開発中。2024年発売予定だ。

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