Steam地下工場自動化シム『Techtonica(テクトニカ)』は日本語ユーザーが“3番目に多かった”。高評価理由や日本語訳品質などにもふれた開発者インタビュー
デベロッパーFire Hose Gamesは7月19日、『Techtonica(テクトニカ)』の早期アクセス配信を開始した。本作は、地球外の惑星の地下を舞台にした、一人称視点の工場自動化シミュレーションゲームだ。最大4人のマルチプレイに対応している。ゲーム内は日本語に対応している。
本作でプレイヤーは何らかの災害によって機能停止してしまった管理システムの復旧を目指し、地下生活で資源の採掘、各種部品の製造をおこない、建造した設備・ベルトコンベアなどを用いて作業の自動化を進めていくこととなる。本作は、本稿執筆時点のSteamユーザーレビューにて943件中82%の好評により「非常に好評」のステータスを獲得している。
この度弊誌では、本作開発元であるFire Hose Gamesにメールインタビューを実施。詳しい開発エピソードを訊けた。本稿ではその内容をご紹介する。
――はじめに、自己紹介をお願いします。
Fire Hose Games(以下、Fire Hose):
Fire Hose Gamesは2009年からゲーム開発を始めたインディースタジオです。これまでに『にゃんこラテラル・ダメージ』、『20XX』、『Go Home Dinosaurs』、『Slambolt Scrappers』といったタイトルを発表してきました。私たちはアメリカ・ボストンのインディー・シーンに深いルーツをもつデベロッパーですが、パンデミックの影響とともに開発チームはグローバル化することとなりました。現在、私たちは私たち自身の大好きなゲームを作ることを使命として『Techtonica』でそれを実践しています。
『Techtonica』は工場自動化シミュレーションゲームです。地球外を思わせるようなミステリアス、かつネオンまみれな地下世界のビジュアルが特徴で、ボクセルベースで広がる世界に、破壊可能な地形、ブラックホールを用いた掘削ツールなども用意されています。そして、本作には明確なストーリーが用意されているのも特徴です。これにより、探検や工場建設に目的を持たせながら、SFミステリーを描いています。
――『Techtonica』は7月に早期アクセスが配信開始されてから、Steamユーザーレビューにて現在「非常に好評」のステータスを獲得されていますね。こうしたユーザーからの反響について、どのように受け止めていらっしゃいますか。
Fire Hose:
私たちは今、プレイヤーコミュニティに支えられていることに感激しています。これは、私たちが素晴らしい作品を作ることができ、本作の開発という“旅”を共にしてくれるプレイヤーたちに恵まれたことを意味していると思います。彼らはDiscordを通して開発チームと直接つながったり、多数のフィードバックを提供してくれています。彼らの存在には心から感謝しており、私たちは彼らと共有する時間を楽しんでいます。もちろん本作にはまだまだ改善の余地がありますが、プレイヤーたちはそのプロセスを助けてくれる、素晴らしい存在です!
――『Techtonica』は早期アクセス期間中ながら、商業的成功を収めているものとお見受けします。差し支えなければ売上本数などを教えてください。
Fire Hose:
今のところ、具体的な販売本数については公表できません。しかし、配信開始以来続いている成功を通して、本作が早期アクセス期間を終えて正式リリースを迎えるまでの見通しが立った、といえると思います。
――本作は2019年頃から開発を開始されたそうですね。開発のきっかけを教えてください。
Fire Hose:
実は、開発当初の『Techtonica』は工場自動化ゲームではありませんでした!当初の開発コンセプトやプロトタイプ時点では、地下世界を舞台にしたサバイバルアドベンチャーゲームでした。
私たちは、もともと工場自動化ジャンルのゲームを作りたいと考えていましたが、直近ではテラフォーミング(地球外開発)要素をもった、別のゲームのプロトタイプ開発に取り組んでいました。その過程で構想していたストーリーや、ネオンのように発光する植物に満ちた洞窟、といったアイデアを工場自動化ゲームに組み込んだらどうだろうか、という着想から『Techtonica』が誕生することになりました。
――本作の開発にあたって影響を受けた、あるいはインスピレーションを得た作品はありますか。
Fire Hose:
もちろん『Factorio』ですね。名作です。ほかにも『Satisfactory』や『Dyson Sphere Program』、『Deep Rock Galactic』や『Minecraft』、『Subnautica』といった作品からインスピレーションを受けました。特に『Subnautica』のストーリー展開や探検要素が私たちは大好きで、本作も一部それに倣っています。
――開発陣からみて、本作のどういった要素が好評に繋がっていると感じますか。
Fire Hose:
これは難しい質問ですね……。なぜなら『Techtonica』は、プレイヤーごとにまったく異なる体験や魅力を提供していると考えているからです。そうした多様性のある点が、現在の評価や魅力につながっているのではないかと考えます。
嬉しいことに、多くのプレイヤーから本作のストーリーに惹かれたという話をよく耳にします。また、ほかのプレイヤーからは本作内で登場する「生物発光」のビジュアルが気に入っているという話も聞きますね。『Techtonica』のグラフィックでは、地球外惑星と工業的な要素を織り交ぜたデザインを採用しており、唯一無二の体験が出来る空間に仕上がっていると思います。
また、工場自動化というゲームジャンルのファンたちが、本作のような新規参入タイトルも受け入れてくれるくらいに、このジャンルへ愛を注いでくれているという背景もあると思います。私たちの『Techtonica』がいつか工場自動化ゲームの名作の中に加わってくれることを願っていますし、同ジャンルのプレイヤーたちは良い作品が参入してきた時には、新たに居場所を設けてくれる人々だと考えています。
――ユーザーから寄せられている反響の中に、開発陣が予期しなかった評価や感想はありましたか。
Fire Hose:
はい、ありましたね!私たちは配信開始以来、開発ロードマップを公開していましたが、最近配信したばかりの最新バージョンに含まれる2つのQoLアップデートは、当初のロードマップには含まれていなかったのです。
このQoLアップデートは、100%プレイヤーからのフィードバックに基づいて追加を決定したものです。もちろん、私たちはプレイヤーからのフィードバックを期待していましたが、プレイヤーが何を一番望んでいるかは、具体的に予想できていませんでした。リサーチシステムに関する変更やゲームプレイ設定の追加など多数のQoLアップデートを加えたのも、プレイヤーからの私たちの想定を超えたフィードバックがあってこそ実現したものです。
私たちは、プレイヤーから寄せられるフィードバックにはかならず目を通し、継続的な分析のためにそれらを一覧化しています。そうしたフィードバックが本作の改善に有用なものであれば、私たちは積極的に対応を検討していきます。一方、私たちは『Techtonica』の今後に関する明確なビジョンを持っており、この点に関してはプレイヤーからのフィードバックに左右されることなく、自分たちで掲げた方向性を貫徹していくつもりです。
――寄せられたSteamユーザーレビューの中で、特に気に入っているものがあれば、教えてください。
Fire Hose:
いい質問ですね!実は、Steamのユーザーレビューはすべて目を通しています!笑いを誘ってくれるようなレビューも好きですが、私たちにとってもっとも嬉しいのは建設的な提案をしてくれるレビューです。本作が好きか嫌いかを問わず、プレイヤーたちが時間を割いて提供してくれたフィードバックは、真剣に受け止めようと心がけています。そうした建設的なフィードバックはすべて開発チームで収集・分析して、今後のコンテンツやQoLアップデートの計画に役立てています。
――本作の開発において、特にこだわっている、あるいは魅力として押し出している点を教えてください。
Fire Hose:
早期アクセス配信現在の『Techtonica』では、自由に掘り進められる地形ブロックと、M.O.L.E.(小さなブラックホールで範囲内にある地形ブロックを一挙に破壊/整地することができるツール)は、もっとも魅力的なポイントだと思います。M.O.L.E.は非常に画期的なツールで、フルアップグレードして冷却材(使用後に発生するオーバーヒートを抑制するアイテム)を満載にして使うと最高に気持ち良いです。初めてM.O.L.E.を使ったときに心を躍らせているプレイヤーを目にすることもあり、私たちはその瞬間が大好きなんです。
――これまでの開発期間を振り返って、もっとも苦労した要素、あるいは頭を悩ませた課題を教えてください。
Fire Hose:
恐らくはゲームの開発計画を調整/変更したり、設定した開発期限を遵守することが、もっとも難しいプロセスだったと思います。本作においては、2019年から2020年時点の開発計画には、かなり野心的なアイデアもありました。そうしたアイデアは、今後実装していく予定ですが、当時の構想と比較するとプレイヤーたちが現状プレイしている『Techtonica』は、非常にシンプルなバージョンと言えるかもしれません。
このように開発の進行上、いま浮かんでいるアイデアを削ったり、先のアップデートまで一旦実装を先送りする、といったプロセスはいつも大変なものでした。私たちはプレイヤーたちとビジョンを共有することに常々喜びを感じていますが、時として、プレイヤー以上に開発者である私たちのほうが、次なるアップデートや実装を焦っているように感じることもあります。
――本作では既にユーザー有志の手によって生産効率シミュレーターなどのツールも公開されていますね。こうしたユーザーコミュニティの動向について、開発陣としてはどのように感じていますか。
Fire Hose:
最高ですね!私たちは、ツールを作成しているコミュニティーメンバーらと協力して、公開データが正確であるかのチェックをおこなったりもしています。工場自動化ゲームというジャンルは、プレイヤーコミュニティによって作成されたツールやコンテンツによってより良い作品になっていくものだと思います。私たちの『Techtonica』においてもそうしたコンテンツが生み出されていることを、本当に嬉しく思っています。
――本作は公式サイトやSteamストアを通して、かなりの頻度で開発ブログの更新を続けていますね。プレイヤーとしてはとても嬉しいことですが、開発と高頻度の更新を並行していくのは大変ではありませんか。
Fire Hose:
この質問の答えは、YesとNoの両方ですね!開発ブログの更新頻度を高く維持するのは難しいことです。しかし、私たちは『Techtonica』が成功するためには、開発状況の透明性と、ユーザーとのオープンなコミュニケーションが不可欠だと考えています。本作のような早期アクセス配信のゲームは、開発者とプレイヤーコミュニティの密接なつながりをよりどころとしています。そうした双方のつながりを維持することは私たち開発者の責務であると考えています。DiscordやSteamフォーラム、YouTubeやReddit、そして公式ブログを通して本作の存在感を示していく取り組みのすべては、プレイヤーとのコミュニケーションにおいて欠かせないものです。
また、私たちはすべてのレビューやフィードバックに目を通して、常にプレイヤーたちの要望に耳を傾けたいと考えています。私たち開発者のビジョンを維持しつつも、プレイヤーたちが何を求めていて、どうすればそれを叶え、ゲームを改善していけるのか。それを常に考え、鋭敏な感覚を保つことに努めています。
とはいえ、私たちの最優先事項は着実に開発を進めることです。プレイヤーとの積極的な関わり合いの傍ら、開発の進捗を遅らせることは出来ません。今後も開発計画に影響を与えない範囲で、可能な限りプレイヤーたちとのコミュニケーションを続けていきます。
こうした背景をふまえて質問に立ち返ると「更新頻度を高く維持するのは大変ではないか」、この質問への回答は「Yes」です。しかし、それが私たち開発者の責務であり、これからも喜んで続けていきたいと考えています。
――現時点で今後の詳しい開発ロードマップが公開されていますが、今後のストーリー展開についても非常に気になります。現在プレイヤーに公開されているストーリーは、構想全体のうち何割程度なのでしょうか。
Fire Hose:
本作のストーリーはまだ始まったばかりです!Calyxという惑星、SparksやPaladin、Ground Breaker、これから出会うキャラクターなど、私たちにはこれから実装していく大きなストーリー構想があります。今後は大規模アップデートのたびにストーリーを展開していき、正式リリースを迎えるころに完結させることを予定しています。
――本作をプレイしていて、日本語翻訳の完成度の高さに驚かされました。データバンク(ゲーム内に残された調査記録が登録されるアーカイブ要素)のなかで語られるストーリーも興味深く、ついつい読み耽ってしまうことがありました。こうしたローカライズはどのように進められたのでしょうか。
Fire Hose:
ありがとうございます!ローカライズは、私たちにとって大きな優先事項のひとつです。現状のブラッシュアップや、今後より多くの言語に対応するため、積極的にローカライズへ取り組んでいます。ご想像のとおり、データバンクのテキストを翻訳するのは大変でした。しかし、データバンクはCalyxの世界観に息吹を吹き込むようなコンテンツであり、プレイヤーたちにもとても気に入ってもらえていると感じているので、しっかりと対応を進めました。
翻訳については、主にサードパーティのローカライゼーション・パートナーと協力して実装/評価をおこなっています。本作が英語以外の言語を母国語とするプレイヤーにも親しみやすいものとなるよう彼らの開発サポートを受けており、非常に助かっています。
――本作のプレイヤー全体で見ると、日本人ユーザーの割合はどのくらいいるのでしょうか。
Fire Hose:
実は、日本は『Techtonica』にとってアメリカ、ドイツに次いで3番目に大きなプレイヤー人口を持っている国なんです。全体のプレイヤーのうち、およそ15%が日本人ですね。
編集部補足:
2023年10月のSteamハードウェア&ソフトウェア 調査によると、日本語ユーザー人口はフランス語に次ぐ8位。3番目という本作は、相当日本語ユーザーが多いと思われる。
――最後に、日本人のゲーマーに向けて一言メッセージをいただけますか。
Fire Hose:
『Techtonica』とFire Hose Gamesについて、詳しく知っていただきありがとうございます!日本のゲーマーの皆さんは、本作のような工場自動化ジャンルのゲームにとって、非常に大きな存在であると感じています。是非一度『Techtonica』をプレイしてもらえれば幸いです。プレイヤーの皆さんからのご支援に、心から感謝いたします。開発チームには簡単な日本語を話せるメンバーもいるので、私たちのDiscordやSteamコミュニティへの参加もお待ちしています。
「私たちから本当にありがとうごさいました!(原文日本語)」。
『Techtonica』はPC(Steam)、Xbox One/Xbox Series X|S向けに早期アクセス配信中。PC/Xbox Game Pass向けにも提供中である。