『ソニックスーパースターズ』開発者インタビュー。執念の「目コピ」構築から、「マリオ」との発売かぶりまで、苦労話をいろいろ訊いた

セガはハイスピードアクションゲーム『ソニックスーパースターズ』を10月17日に発売する。本作のプロデューサーを務める飯塚隆氏と、大島直人氏にインタビューを実施した。

セガはハイスピードアクションゲーム『ソニックスーパースターズ』(以下、『スーパースターズ』)を10月17日に発売する。『ソニック』シリーズの最新作でもある本作は、2D横スクロールスタイルのいわゆる「クラシックソニック」シリーズとなる。同シリーズ作品のプレイ感をそのままに、3Dグラフィックで表現し進化させた、新しいハイスピードアクションゲームになるという。

本作は2023年9月21日より開催されていた東京ゲームショウ2023に、セガ/アトラスブースにてプレイアブル出展がおこなわれていた。そんな中弊誌は本作のプロデューサーを務める飯塚隆氏と、大島直人氏にインタビューを実施した。

左から大島直人氏、飯塚隆氏


――まずは自己紹介をお願いします。

飯塚隆(以下、飯塚):
現在セガ・オブ・アメリカでクリエイティブオフィサーをやっています、飯塚です。ソニックタイトルに関してはソニックシリーズ・プロデューサーというかたちで参加しております。

大島直人(以下、大島):
大島直人です。株式会社アーゼストで代表取締役をやっています。今回デベロップメント・プロデューサーのかたちで参加させていただいて、いろいろやらせていただきました。

3Dと2Dの違いがあっても、ゲームでなくても、すべて『ソニック』

――まずは振り返りをさせてください。「ソニック」シリーズとしては2022年11月8日に前作『ソニックフロンティア』(以下、『フロンティア』)が発売され好評を収めた印象です。同作のリリースにあたっての不安はありましたか。あるいは、リリース後の反響などありましたらお教えいただけますか。

飯塚:
何度もプレイテストをおこなっていました。一般のお客さんを集めて実際に意見を聞く会を制作途中に何回もやりました。最初は「何にもない空間でやることがわからない」とかいろんな不満が出て、それを次のテストでまた改良するサイクルを繰り返して、制作チームたちだけの意見じゃなく、ユーザーの意見を取り込みながら作っていました。

最後のプレイテストではすごくいい評価をいただいた上でついに製品発売が出来たので、きっと気に入ってくれるだろうという自信はありました。ですがそれを超えるぐらいの反響があったので、すごく嬉しかったです。

――『フロンティア』発売前には映像が公開されるたび、プラスマイナス問わずさまざまな批評が入り乱れていました。どういった気持ちで意見に向きあっていましたか。

飯塚:
ソニックシリーズには「ソニックサイクル」という「発表したときはいいけど、発売するとがっかり」という意味あいの言葉がファンの間に生まれるぐらいで。トレイラーを見た人たちがムービー中のいろいろな部分を検証するなど、いろんな視線に晒されていました。ですけど我々の中では、遊んでもらえればこの良さはわかってもらえるという自信があったので、とにかく皆さんに実際にゲームを触ってもらいたい気持ちが大きかったです。それで『フロンティア』の場合はTGSでもgamescomでも試遊台をたくさん出して、とにかくゲームに触ってもらおうという取り組みをしていました。

――昨今では、求められる“ソニック像”について意見が分かれることもあります。制作者として、そこにはどのように対応されていますか。

飯塚:
ソニックの元のデザインでも言えることですけど、かわいい面があり、かっこいい面がある二面性があって。なので、ソニックシリーズにおいて、どっちに寄せるべきかという紆余曲折がありました。今は3Dのモダンシリーズと2Dのクラシックシリーズというふたつのシリーズで分けることにしています。モダンソニックはクールでかっこよく、クラシックソニックはかわいい面もありちょっと生意気な、オリジナルのソニックに近い雰囲気で。シリーズ間で完全に分けることで二面性がうまく表現できていると思います。

それに二面性があるのがソニックの魅力ですので。今回のソニックスーパースターズに関しては、ポップで明るめに、かわいい方向に舵を切りました。


――大島さんは「ソニック」作品に携わるのはかなり久々ですね。今回どのような経緯で担当されることになったのでしょうか。

飯塚:
私と大島さんが一緒に仕事をするのは、ソニックアドベンチャーを最後に25年振りとなります。大島さんに担当してもらった経緯としては、はじめにクラシックシリーズの新作を作りたいという私の希望がありました。ソニックを熟知した人によってつくられた過去作『ソニックマニア』が非常に好評だったこともあり、クラシックシリーズを知っている人であれば作品の良さがより伸びると思っていました。そこで大島さんにお声がけしたところ快諾いただいたので、プロジェクトが始まりました。

――新作に参加してほしいと依頼されたとき大島さんはどう思われましたか。

大島:
嬉しかったです。SNSのフォロワーにはソニックのファンの方が多く、「ソニックシリーズを作ってほしい」、「飯塚さんにこういうことを頼んでおいてくれ」とか、いろんな要望を受け取ることもあります。ほかにも本当にファンのかたが絵を描いてくれて、ずっとソニックを愛してくれているというのが作品から伝わってきて、本当に感謝していました。そういった意見や思いに対して、どこかでお返ししたいなと思っていたときに、飯塚さんにお声がけしていただいた時「これで恩返しができる」と思いました。

――差し支えなければ、飯塚さんが大島さんを口説いた言葉を教えていただけますか(笑)

飯塚:
そんなに口説いてはないですよ(笑)私はアメリカで、大島さんは日本で仕事をしていてずっと遠距離なので会う機会もなかったんですけど、Zoom飲み会が流行っていた時期に、大島さんから「Zoom飲み会をしないか」と誘っていただきまして。それでアメリカと日本でZoom飲み会をふたりでやりました。そのとき雑談の中で「大島さんが新作の開発をやってくれると嬉しいんだけどな」と言ったら、「やるよ」と言ってくれたのが始まりでしたね。

大島:
私はどんどん新しいものを作りたい性分なので……。飯塚さんに「ずっとソニックを作られているけど、新しいものは作らないんですか」と訊いたら、「俺はずっとソニックを守っているんだ」と言われました。そんなことを言った人に頼まれたら断れないですよ……!

――『スーパースターズ』はリメイクを除けば『ソニックマニア』以来の2Dソニックとなります。今回3Dから2Dに立ち返ったのはどういった意図があるのでしょうか。

飯塚:
「ソニック」シリーズは3Dソニックと2Dソニックのふたつの大きな柱があるんですよ。どっちが主役かはタイトルごとに変わって、『ソニック ジェネレーションズ』ではどちらも混ぜてみたりもしました。ただ今は3Dと2Dソニックのアクションを代表する二大ジャンルです。この二大ジャンルをこれからも発展させていこうという思いがあって。それぞれの良さをしっかり引き出す。そのための『ソニックフロンティア』、そのための『ソニックスーパースター』、という位置づけでやっているので、これは3Dから2Dに立ち返ったというわけではなくて、3Dと2Dがそれぞれ発展を遂げていくイメージで進めています。

――近年は映画含め「ソニック」シリーズのコンテンツは継続的に展開されているように見えます。このことで国内外の人気に変化はありましたか。

飯塚:
アジア圏では「ソニック」人気は未だ伸びきっていないのが現状です。ですが特に韓国などアジア圏で映画によって「ソニック」を知ったという人は近年爆発的に増えてきています。ゲーム以外がきっかけとなった人が増えてくると、大手企業とのタイアップでさらに「ソニック」が広まっていくという好循環になっていて、『スーパースターズ』ではレゴとのコラボがあり、「ソニック・ザ・ムービー」ではプーマとのタイアップもあります。そこから入った人たちが『フロンティア』『スーパースターズ』といったゲーム本編にも興味を持ってくれると嬉しいですね。


――『ソニック』シリーズ人気が右肩上がりになったのは、どの作品がきっかけだと思われますか。やはり映画でしょうか。

飯塚:
『ソニックマニア』です。『ソニックマニア』でソニックファンのかたたちが戻ってきた流れがあったあとに映画ができたので。

――ええ、『ソニックマニア』なんですか。

飯塚:
「ソニック・ザ・ムービー」も、ファンのかたがたが声を上げて、ソニックの見た目も変わった。あれは『ソニックマニア』によって『ソニック』シリーズのマニアが戻ってきてくれたおかげだと思います。そういう意味でファンのかたは心強い味方ですし、我々としてもファンを裏切らないように気をつかっています。

――その名のとおり、マニアのおかげで右肩上がりになりはじめたと。

飯塚:
はい。結論として『ソニックマニア』が起爆剤になったと思います。『ソニックマニア』なしで映画を作っていたら、こうはなっていなかった。

クラシックソニックを発展させ続けるために必要なこと

――新作『スーパースターズ』では今までの2Dソニックでありながら、3Dモデルを採用したり、マルチプレイを実装したりなどといった新たな挑戦を積極的におこなっているように見えます。チャレンジするにあたって苦労された点などはありますか。

飯塚:
クラシックソニックシリーズはすべてメガドライブからの同じエンジンを流用して、ドット絵でやっていました。今回3Dにするにあたってはゼロスタートになって。ドット絵だった昔の作品と同じ動きを、3Dモデルで実現する必要がありました。ここは大島さんたちスタッフが努力してくれたおかげで。当時のプログラムコードは流用できないので、目で見て完全再現したっていうところが一番大変だったポイントです。


大島:
最初はモニターを左右にふたつ並べながら作業をしていましたが、それじゃ全然駄目だとなって。昔のマップを新しい3Dのマップで再現して。昔の2Dソニックの動きをビデオで撮って、その録画をマップに重ねて同じ動きをするように調整しました。いわゆる目コピです。

――目、目コピ?気の遠くなるような作業ですね。

大島:
プログラマーにも「そうでもしないとできない」と言われて(笑)

飯塚:
3D化が実現できないとクラシックソニックに発展性が生まれないままでしたので。今回大島さんたちの手によって3Dのプログラムとなったおかげで、2Dのクラシックシリーズに発展性が生まれました。大変でしたが、今後発展しやすいかたちに出来たことは大きいです。

――2Dソニックを3Dモデルにしたことで、今までと見せかたが変わることなどはありましたか。

大島:
3Dモデルでは“奥行き感”がありますよね。実際は2Dで動かさなきゃいけないので、本当なら奥側にいきそうだという箇所を、描画の順番を変えて対応したりして。

飯塚:
たとえばループも3Dだとひとつ隣のレーンに移動してしまうじゃないですか。ゲームでは元のレーンに戻ってこないといけないので、そこは見せかたを工夫しています。普通に考えたら3Dでゲームを作った方が簡単ですけど(笑)ゲームは2Dでないとプレイ感が変わってしまう。


――そこまでこだわられた理由は。

大島:
2Dの遊びの良さは、自分の感覚でしっかりとゲーム内の動きを見極められるかどうかだと思っています。なので、ゲーム側の挙動が万全でないことで、プレイヤーの想像と感覚がずれたりしてしまうのは許されないですよね。

飯塚:
クラシックソニックファンを絶対に裏切らない。『ソニックマニア』が好評だったのもそういうところではないかなと。そこは新作でもこだわったところです。

大島:
クラシックソニックファンを裏切らないという点で、実はほっとしていることがひとつあって。今まで2Dソニックでは「GREEN HILL」というステージがお決まりだったんですけど、『スーパースターズ』では「ブリッジアイランド」という、違った雰囲気のステージが最初のステージになりまして。どんな反応があるか心配でした。

――3Dとして生まれ変わった2Dソニックシリーズですが、シリーズ初期からのスタッフのかたは本作のスタッフにいらっしゃるのでしょうか。

飯塚:
昔からかかわっているスタッフは、私と大島さんと、サウンド担当の瀬上さん、あとは『ソニック・ザ・ヘッジホッグCD』に関わっていた星野さんの4人だけですね。星野さんは今作ではキャラクター監修をしています。

――昔の2Dソニックを知り尽くしているスタッフが少ないとなると、どのようにイメージを共有したのでしょうか。

飯塚:
クラシックソニックにおけるレベルデザインのノウハウやセオリーが私の頭の中にしかないんです。教科書がもう残っていないので、アーゼストさんのレベルデザイナーのかたに逐次教えながら、作成してもらったステージを添削して、クラシックソニックらしいレベルデザインをしていきました。

――飯塚さんはプロデューサーという立場ですが、ディレクター的な役割もされているんですね。

飯塚:
立場上、本当はそういった役割はしないです。普通はひとつのタイトルにあんまり深く関われないんですが、『スーパースターズ』ではかなり現場仕事をやりました。

大島:
シナリオは飯塚さんにやってもらう、とか(笑)

――大島さんも飯塚さんと同様に、教えながらデザインをしていったのですね。

大島:
そうですね。アーゼストの若いスタッフは手探り状態でもあったので、私に聞いてもらって都度指導するという感じでした。0からのスタートだと難しいので、私がマップを何種類か作って、お手本として参考にしてもらったりもしました。

飯塚:
若い人たちに伝承していかないと、クラシックシリーズはなくなってしまいかねないですから。

――逆におふたりからは生まれなかった、若いスタッフの意外なアイデアや、良かったものはありますか。

飯塚:
トレイラーに出てくるサイバースペースのステージで、ソニックたちがピクセル状態になってロケットになったりするんですよ。いろんな形態に変身する、というのは従来のソニックシリーズではやらなかったアイデアでした。そういう若い人たちのアイデアも素晴らしいなと思います。


「『ソニック』だから」以外の魅力

――現在2Dアクションゲームは多くのタイトルがリリースされ続けています。その他のタイトルと比較したときに、「『ソニック』ブランドである」以外に『スーパースターズ』だからこそ楽しめる体験や魅力はなんでしょうか。

飯塚:
『フロンティア』のような3Dソニックとなると、ハイスピードの3Dの迫力あるスピード感が味わえますが、2Dのソニックはなによりも“爽快”に尽きます。同じハイスピードのアクションゲームでありながら、体感する気持ちが迫力と爽快で違い、気持ちよく遊べるというのが魅力だと思います。そして今回は新たにマルチプレイを入れました。仲の良い友達と遊んでいて、つい会話が弾むような、楽しい空気感を作れるマルチプレイが実装されています。そういったところが『スーパースターズ』の推しているポイントでもあります。

――マルチプレイについて、実装するにあたって乗り越えたハードルや工夫した要素などはありましたか。

大島:
結構あります。山があったら超えたくなる性分なので、試行錯誤はたくさんしていました。

飯塚:
具体的には「『ソニック』のマルチプレイはどうあるべきなのか」というところから制作をはじめました。他タイトルでは、マルチプレイというのはゆっくり動く画面の中で4人みんな揃って移動するようなものが多いと思います。しかしそれでは「ソニック」らしくないと。誰かを待たないといけない、誰かのためにゆっくりいかないといけないというのは違う。

そういった4人協力プレイゲームのフォーマットは無視して、「ソニック」ならではのマルチプレイを見つけようとしました。誰も待たなくていいし、先に行きたい人が先行すれば、置いてかれた人は自動的についてくる、というような4人プレイを作りました。望み通りのマルチプレイを作りあげるのは簡単ではなかったですが、できあがったときに「ソニックの4人プレイはこういうものだ」という正解が見つけられたかなと。


――『スーパースターズ』の発売に近い時期に、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』も発売されます。どちらも魅力的だと思いますが、あえて『マリオ』との違いをあげるならどういう点になりますか。

飯塚:
まさか同じ週に発売するとは思いませんでした(笑)驚きましたよ。『マリオ』も『ソニック』も横スクロールのアクションゲームを代表するゲームですけど、楽しさが双方違いますよね。『マリオ』には『マリオ』らしさがありますし、『ソニック』には『ソニック』らしさがあります。『ソニック』らしさを受け入れてもらったからこそ30年間愛し続けてもらえた。今回両方とも買っていただける人には、その“らしさ”の違いが明確にわかると思います。『ソニック』らしい2Dアクションゲームには自信を持っています。

――最後にファンに向けてメッセージをお願いします。

大島:
ずっとソニックを愛してくれた人、映画などでソニックを好きになってくれた人、そういう人たちのおかげで『スーパースターズ』が生まれましたので、これからもぜひ応援してください。

飯塚:
今回トリップという新キャラクターがいます。あまり深く紹介していないですけど、実は『スーパースターズ』でのキーキャラクターとなっています。愛嬌があってドジっ子という、個人的にもすごく気に入っているキャラクターでして。彼女が『スーパースターズ』の中でどういった活躍をしてストーリーが進んでいくかを、ぜひ発売後楽しんでいただければと思います。

『ソニックスーパースターズ』は10月17日にPC(Steam/Epic gameストア)/PS5/PS4/ Nintendo Switch/Xbox Series X|S/Xbox One向けに発売予定だ。

[聞き手・執筆:Kosuke Takenaka]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

Kosuke Takenaka
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ジャンルを問わず遊びますが、ホラーは苦手で、毎度飛び上がっています。プレイだけでなく観戦も大好きで、モニターにかじりつく日々です。

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