今月9月21日より開催されている東京ゲームショウ2023(以下、TGS2023)。コーエーテクモゲームスのブースでは、9月28日に発売を控えたシリーズ最新作『Fate/Samurai Remnant』のプレイアブル出展が行われていた。そんな中、弊誌では本作のプロデューサーを務める庄 知彦氏へインタビューを実施した。その内容をお届けしよう。
『Fate/Samurai Remnant』は、9月28日に発売予定(Steam版は9月29日)の3Dアクションゲーム。対応プラットフォームはPC(Steam)/PlayStation 4/PlayStation 5/Nintendo Switchとなっている。開発はω-Forceが担当し、シナリオ執筆に関しては『ファイアーエムブレム風花雪月』の担当経験もあるコーエーテクモのシナリオチーム、並びにTYPE-MOONスタッフが参加している。
本作は「究極の聖杯戦争体験」をコンセプトに掲げ、人間であるマスターの立場からゲーム体験を展開していくことを最大の特徴としている。プレイヤーは宮本武蔵の弟子「宮本伊織」として、相棒のセイバーと共に、七組のマスターとサーヴァントが互いの願いをかけて殺し合う、“盈月の儀(えいげつのぎ)”を戦い抜いていく。
ちなみに、本作のキャラクターデザインは「Fate/Grand Order -Epic of Remnant- 英霊剣豪七番勝負」を手がけた渡れい氏が担当しているが、この理由としては、新しいシリーズ作品を作るにあたって、(たとえば『Fate/EXTRA』を担当したワダアルコ氏のように)作品の顔になり、作品の雰囲気にふさわしいイラストがほしいという武内崇氏の要望によるものだそうだ。
――自己紹介をお願いします。
庄氏:
現在ω-Forceブランド長を務めています。庄 知彦です。株式会社光栄に(現 株式会社コーエーテクモゲームス)入社してから、主に『真・三國無双』シリーズの制作にずっと関わらせてもらっております。その後はスクウェア・エニックスさんとのコラボ作品である『ドラゴンクエストヒーローズ』シリーズや『ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島』だったり、DMM GAMESさんおよびニトロプラスさんとのコラボ作品である『刀剣乱舞無双』など、コラボレーションタイトルを担当させていただくことが多いです。そしてこの度ご縁があって、TYPE-MOONさんとのコラボレーション作品である『Fate/Samurai Remnant』のプロデューサーを担当させていただいております。
――制作上どのような業務を担当しましたか?
庄氏:
プロデューサーという仕事は担当するプロジェクトによって業務内容が異なってくるとは思いますが、今回のプロジェクトについては主にディレクターや現場の人たちに任せつつも、「Fateらしさ」についてであったり、ゲーム全体のクオリティに関しては監修させていただきました。
――好きな『Fate』シリーズの作品はありますか?
庄氏:
もちろん『Fate/Grand Order』であったり、アニメ作品であったり好きなものはいろいろありますが、一番好きなタイトルは『Fate/stay night』ですね。当時『Fate/stay night』のPC版をプレイしていたんですが、衝撃を受けました。私はアドベンチャーゲームが好きなんですけど、それでも想像以上に文量が凄まじくて。プレイし始めた当初は音声が収録されていないこともあり、「文字と絵だけのゲームを最後まで遊ぶのは難しいだろう」と高をくくっていましたが、プレイを進めていくうちに、文章が持つ力や背景設定に引き込まれていきました。そして、いつか「サーヴァントの視点ではなくマスターの視点で聖杯戦争を体験していく」というテーマでアクションRPGを作りたいと思うようになりました。現に『Fate/Samurai Remnant』にはその影響が色濃く出ていると思います。
――『Fate/Samurai Remnant』がアクションRPGというジャンルになったのは何故でしょうか。
庄氏:
そもそも弊社のシブサワ・コウが『Fate』シリーズのファンなんです。そして、コーエーテクモゲームスとTYPE-MOONさんだからこそ成立するゲームを作りたいと話をしていたのが作品制作のきっかけでした。やがて実際に作るという段階に入り、どんな『Fate』の形が2つの会社で作れる最高の『Fate』になり得るのかを考えた時、弊社が持つアクションゲームやシミュレーションゲームのノウハウを結集した新しい『Fate』を作れば、既にシリーズを楽しんでいただいているファンの方々だけでなく、さらにより多くの方にも『Fate』シリーズを楽しんで頂けるのではないかと思ったからですね。
あとこれは裏事情みたいなものなんですが(笑)私が『Fate/stay night』をプレイしていた当時、自分が無双シリーズを手がけていたこともあり、サーヴァントに対して抱いていた印象というのは「無双の存在」でした。アクションゲームでこれを表現できたら気持ちいいだろうなと思っていました。一方で彼らのマスターはサーヴァントと比較すると強さの差が圧倒的ですよね。すぐ殺されてしまうような存在です。これはこれで緊張感のあるゲームが作れそうだとも思っていました。なので、シブサワ・コウの『Fate』作ろうという話は自分にとって渡りに船だったんですよね(笑)
――開発をω-Forceが担当することになったのはどういった経緯によるものですか?
庄氏:
『ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島』をスクウェア・エニックスさんと共同で制作させていただいたときに、当時ディレクターを担当していた新納一哉氏が、2019年にスクウェア・エニックスを退社後、TYPE-MOONへ入社して、新設スタジオであるTYPE-MOON studio BBのスタジオディレクターに就任されているんですね。
新納さんは『Fate/EXTRA』のプロデューサーを担当していたこともあり、彼に「Fateを作りたい!」と話をしたら「では奈須きのこさんと武内崇さんを紹介しましょう」と提案され、一緒に食事をしたのが7~8年前のことです。その頃から「何か作りたいね」という話はありました。その後、シブサワ・コウが奈須きのこさんと武内崇さんと会食するという際に同席させていただき、担当に指名されたのがきっかけになっています。
――『Fate』シリーズは背景設定の理解が大変な作品であり、アクションゲームは人を選ぶジャンルです。『Fate/Samurai Remnant』は新規参入者のためにどのようなアプローチをとっていますか?
庄氏:
まずアクションゲームとしてですが、基本的な部分として「難易度設定」を設けています。アクションゲーム初心者の方向けの難易度も用意されています。実を言うと、本作は開発初期の段階でいわゆる「死にゲー」的なシビアなアクションを構想していました。
しかし、奈須さんたちと相談した際、(本作を遊んで頂けることを想定したプレイヤー層の中でも)『Fate/Grand Order』をきっかけに本作に触れようとする方々が遊べなくなってしまうだろうという意見が出ました。「皆が遊べるアクションRPGを目指す」という方向へ転換することになったんですね。そういった経緯もあり、本作では難易度設定以外の部分として、「操作をいかにシンプルに分かりやすく作るか」という点や、戦闘アクションゲームにおいて攻略の基本となる「位置取り」「距離感」「敵の隙」を視覚的に分かりやすく作るという点に注力しています。
そして何より、プレイヤーのサーヴァントであり強力な性能を持つセイバーが、プレイヤーのフォローを自分でしてくれるよう作り込んでいます。あとは回復アイテムなどを戦闘中に使用するときにはゲームの時間が止まるようになっています。事前準備としてアイテムを充分に買い込んで強敵に挑めば、アクションゲームが苦手な方でも攻略が可能になっていると思います。今回のプロジェクトメンバーの中にもアクションゲームが苦手という人は何人もいて。そういう人にプレイしてもらいながら内容を調整しています。
次に「シリーズに共通する背景設定の理解が難しい」ということに対するフォローアップですが、本作は『Fate/stay night』と同様、主人公が聖杯戦争のせの字も知らないような状況から物語がスタートします。ゲームをプレイしていく中で、聖杯戦争のことであったり、シリーズ共通の世界観であったりといったことを自然と知っていけるようゲーム全体のデザインを行っています。
本作の開発メンバーにはもちろん、シリーズのコアファンも関わっていますが、あまりシリーズを知らないという人も少なくありません。そういう人たちに対するアプローチはずっと考えていました。本作をクリアする頃にはきっと「『Fate』シリーズ?ああ、詳しいよ」と語れるくらいには設定を理解して頂けることでしょう。この他にも用語辞典が用意されており、専門用語だけでなく、本作の舞台である江戸時代の情報についてもチェックすることができます。また『Fate/Grand Order』と同じく、ゲームの進行に合わせて、項目内の情報も増えていきます。辞典自体にもアクセスしやすくなっています。ぜひ本作を、シリーズの入門編として遊んでいただければと思います。
――本作は設定上、伊織は人間でセイバーはサーヴァントであり、強さには違いがあります。それは操作感にも表れていると思いますが、それを生み出すためにどのような工夫を施しましたか?
庄氏:
一言でいうと「努力」です。本作はバディものに関わらず、両者の間に大きな力の差があります。伊織は(サーヴァントと比較すると)めちゃくちゃ弱く、セイバーはめちゃくちゃ強い。この二人のアクションをバディとして同時に成立させることってある意味「矛盾」してしまうんですよね。強いセイバーが全部片付けてしまえばそれでいいだろうという。なので、どういったゲームバランスにするか、ゲームルールを作るか。そしてそれらが『Fate』の世界観に自然な形でマッチしているのか。チーム内では試行錯誤の連続でした。
開発途中のバージョンを社内スタッフに遊んでもらう機会があったのですが、最初はあまりに伊織が弱すぎて、ストレスフルで爽快感がないという意見が出ました。セイバーを強くしすぎてゲームとして成り立たないということもありました。最終的に、伊織はいわゆる「現世の存在」……人間などを相手取るときは爽快感溢れる戦いをすることができ、怪異やサーヴァントや相手には刃が届かない(サーヴァントに攻撃してもらうことで「外殻ゲージ」を破壊する必要がある)という形に落ち着きました。これは世界観にも合致していますね。セイバーに関しては、プレイヤーの呼びかけに応じる、プレイヤーに協力を求めるなど、バディものとして成立するよう、AIを作り込んでいます。このさじ加減は「努力」としか言いようがないですね。トライアンドエラーを何度も繰り返しました。その結果、「外殻ゲージ」の実装など、サーヴァントと人間の力の差を表現しつつ、強い存在が味方でいてくれる戦闘という、今までにないアクション体験を実現できたと思っています。
――バディ物にもかかわらず、セイバーがほぼAIで自動行動する(特定の条件のもとであれば一定時間のみ操作可能になる)という仕様には驚きました。
庄氏:
今回の作品におけるコアなコンセプトとして「究極の聖杯戦争体験」というものがあります。そして聖杯戦争を描くにおいて重要なことは、主人公がマスターであることだと私は考えています。サーヴァントの強大な力を味わいたいけども、あくまで主人公は人間であるという位置づけが、作品の根幹にあるということですね。なので、好き放題キャラクターを切り替えて遊ぶというのは違うと考えました。あくまでも主人公である伊織をプレイする。伊織の視点で『Fate』の世界観を体験していくという形になっています。さらに言うと、もともとセイバーは完全に操作できない仕様になっていました。とはいえ、「サーヴァントを操作したい」というファンの方の声があることも理解しています。そこで生み出されたのが今回の「一定時間だけ操作可能」な仕様になっているというわけです。
――本作は武器や魔術を強化できると聞いています。基本的にRPGというジャンルはプレイヤーの個性が出るものですが、キャラクタービルドのような概念は本作に登場するのでしょうか。
庄氏:
代表的なのは伊織の剣術における「型」ですね。本作には5つの型が存在し、戦闘中に切り替えて戦っていくことができますが、スキルツリーを通してプレイヤーの好みに応じた「型」自体を強化していくこともできます。あとは「逸れのサーヴァント」の存在ですね。ゲームを進めていくとセイバーのほかにもう一騎だけ、いろいろなサーヴァントを帯同させることができるようになります。誰を帯同させるかによっても個性が出ますし、逸れのサーヴァントにもスキルツリーが存在するので、強化度合いによってもプレイヤーの個性がでるでしょう。
それ以外では伊織の武器である日本刀も強化することができます。「魔術拵え」という形で合計4つの部位を組み合わせていくことになりますが、これがハックアンドスラッシュ的な仕様になっており、いろいろな効果の組み合わせを楽しむことができます。
――セイバーに成長要素は用意されていますか。
庄氏:
もちろんあります。セイバーにも伊織と同じようなスキルツリーが用意されていますし、「共鳴絶技」という、マスターである伊織の呼びかけに応え、 共鳴ゲージを消費することで発動する強力な技のバリエーションも数多く用意されています。スキルツリーで何を伸ばして、どんな技をセットするのか楽しめるようになっています。
――セイバーや「逸れのサーヴァント」のラインナップは物語の内容を優先して決定したのでしょうか。それともアクションのバリエーションを考慮したものでしょうか。
庄氏:
両方ですね。どのサーヴァントが登場すれば物語として魅力的になるのかはTYPE-MOONさんの方でしっかり考えて頂いております。アクション体験としても「このサーヴァントならこういうアクションが楽しめるだろう」と、一騎一騎、魅力を最大限活かせる形を追求しております。
――アクションRPGといえば探索要素ですが、江戸を探索するにあたって、連続するイベントや、箸休めになるミニゲームなどはありますか?
庄氏:
ミニゲーム的なものは用意しています。伊織の魔術工房である長屋で遊ぶことができます。本編はどうしてもシリアスになりがちなので、ちょっとした息抜きに活用していただければと思います。サブクエストはさまざまなマップの各地に用意されているものの他に、「逸れのサーヴァント」にまつわる物語が楽しめるスト―リーイベント「異傳」が用意されています。
本作は章立ての形になっており、物語のタイミングに応じて出現するイベントは異なります。攻略するしないはプレイヤーの自由ですが、攻略することで対象のサーヴァントが仲間になってくれたり、能力が強化されたりもします。ゲームの進行度でイベントは消失することがあるので、コンプリートしていただければ幸いです。ただ、出現するタイミングによっては攻略が非常に難しく、プレイヤーが地獄を見るものもあります。そんなときは、強さを引き継げる周回プレイを活用していただきたいと思っています。
――今回試遊させていただいたのは吉原地域における物語でしたが、他にはどんな地域が用意されていますか?
庄氏:
スタート地点となる浅草のほかに、神奈川の鎌倉など含め大小約20箇所ほどあります。そして地域一つ一つにその土地らしい町並みを作り上げています。浅草であれば浅草寺があったり、鎌倉には大仏があります。CG担当の方々や現場のスタッフが本当にがんばってくれました。資料館に足を運んだり、現地にロケハンに行くなどして、時代考証含め、江戸探索を楽しんで頂けるよう作り込んでおります。
――コーエーテクモゲームスさんとTYPE-MOONさん、両会社共に歴史物を扱ったゲーム界の代表とも言えますが、強烈なクリエイティブの性質を持った両会社を折衝するのは大変ではなかったですか?
庄氏:
実のところ嫌な苦労はなかったんですよね。我々のことをTYPE-MOONさんが大変信用していただいた形でした。意見のキャッチボールをするときも、互いにコンテンツを作り上げてきた経験に由来する、進行のスムーズさというものがありました。なので、楽しくやらせてもらいました。たとえば『Fate』シリーズの設定に関する事柄をやり取りする際、どうしても我々は一歩引いた姿勢をとったり、ストッパーをかけがちだったんです。そんな時TYPE-MOONさんの方から「ここまでやってもいいんじゃない?」と言っていただいたり、逆にTYPE-MOONさんに対して、アクションゲームを作ってきた立場から意見させていただくこともあったり。どうすれば今回初めてシリーズに触れるみなさんや、シリーズファンのみなさんに楽しんで頂けるのか。気持ちの良いキャッチボールをさせてもらいましたね。個人的には、今までのコラボ作品制作の中でも、非常に密度の高い経験をさせていただいたと思っています。
――最後に、『Fate』シリーズといえばメディアミックスという印象がありますが、本作にも予定はありますか?
庄氏:
私からはぜひお願いをしたいという感じですね。(メディアミックスについては)あくまでもTYPE-MOONさんが最終的に決めることですから。ただ本作のプロデューサーとして、1シリーズファンとして、『Fate/Samurai Remnant』はアニメ化してほしいし、『Fate/Grand Order』とコラボイベントもやってほしいです。本作のオープニングアニメはアニプレックスさんの協力によって作られていますからね。今言えることは特にありませんが、個人的にぜひやりたいと思っています。
──ありがとうございました。
『Fate/Samurai Remnant』は、9月28日(Steam版は9月29日)に発売予定だ。