「ソースがないので目コピから始めた」韓国人開発者が自分の“好き”を詰め込んだ、ジャレコの往年アクション復活『サイキック5 エターナル』開発者インタビュー
シティコネクションは2023年7月27日、アクションゲーム『サイキック5 エターナル』を発売する。対応プラットフォームはNintendo Switch。本作は、1987年にジャレコより発売されたアーケードゲーム『サイキック5』をリメイクした作品で、韓国のゲーム開発会社CRT GAMESが開発を手がけている。なお、7月20日より無料体験版がニンテンドーeショップにて配信中だ。
どういった経緯で韓国の会社が日本のレトロゲームをリメイクすることになったのか。シティコネクションの広報担当者同席のもと、CRT GAMESの代表であるイム氏に話を伺った。
──CRT GAMESについて教えてください。
イム氏:
CRT GAMESは韓国の会社であり、レトロゲームを専門に開発する会社です。CRTモニターというブラウン管モニターを連想させるため、CRT GAMESというネーミングをしました。
私の中ではもうひとつの意味として、「C」は「Creative」、「R」は「Remake」、「T」は「Technos」という意味を込めています。Technosは英語そのままの技術という意味もあるのですが、私はテクノスジャパンがとても好きで、そのオマージュも含めています。
──テクノスジャパンは日本でも人気がありましたが、韓国でも人気があったのでしょうか?
イム:
私が特別詳しかったというのがありまして……(笑)特に『熱血高校』シリーズと『ダブルドラゴン』シリーズが好きでした。
「目コピ」からスタートした『サイキック5 エターナル』の開発
──CRT GAMESはレトロゲームのリメイクを専門にされているということですが、リメイクするにあたって開発の流れはどういったものだったのでしょうか?
イム:
『サイキック5』が元々1987年の作品で、私は基板を持っているほど好きな作品でした。今回の『サイキック5 エターナル』を開発するにあたって、基板で『サイキック5』をプレイしながら、そのデザインをそのまま移す作業をひとつずつ進めていきました。
シティコネクション広報:
日本語で言うところの「目コピ」ですね。
──それはすごく大変そうですね……。
イム:
実際、すごく苦労しました。ひとつひとつ真似するような形で開発するのがとても苦労したことであり、開発で最初に始めたことですね。
目コピしたのはグラフィックだけではなく、ジャンプをどれくらいするか、どこからどこまで動くか、そういったゲーム内のアクションも同様です。原始的な形になりますが、『サイキック5』自体は元のソースがゼロだったので、絵を目コピするのと同じように、動きも動画を録画して、それを比較しながらゲームに反映させています。それもまた苦労しました。もちろん、こういった原始的な方法以外にも、ちゃんと計算したプログラミングもしています。
──今回のリメイクの件に関しては、CRT GAMESへシティコネクションからお話が持ちかけられたのでしょうか?
イム:
私が先にこういうもの(『サイキック5 エターナル』)を作りたいと考えて、シティコネクションへ提案しました。『サイキック5』は元々ジャレコに版権があった作品です。その版権を今はシティコネクションが保有していることを調べて、シティコネクションにコンタクトしました。
──ジャレコの作品はたくさんありますが、『サイキック5』をリメイクしようと思ったきっかけはどういった理由でしょうか?
イム:
1987年当時、韓国のゲームセンターでも『サイキック5』が稼働していました。私が『サイキック5』を初めてプレイしたときは小学校6年生でした。主人公を交代しながらプレイするゲームというものが、自分が体験してきたゲーム文化の中でとても衝撃的なゲームシステムでした。それとハンマーを利用した攻撃と、ジャンプしてスーパーマンのように空中を滞空できるシステム、マップ内に存在するギミックなどが、私の中で斬新なものでした。それらが衝撃的だったという思い出があって『サイキック5』を選択しました。
プラス、『サイキック5』のBGMを作曲した方が、私の尊敬する坂本慎一(※1)さんで、メロディがとても好きでした。そんな面白いゲームシステムと良いBGMを今のユーザーにも知らせたかったというのが何よりの理由です。
※1 坂本慎一
『サイキック5』の作曲者。ジャレコ作品では『アーガス』『バルトリック』なども手掛ける。本作『サイキック5 エターナル』ではタイトルBGMの新規アレンジ楽曲を制作。
──やはりイムさんが「このゲームが好きだからこれにしよう」と思ったことが一番大きな理由なのですね。先ほど、プログラムなどのデータがなかった状態で、ゼロから作られたと仰っておりましたが、リメイクにあたって原作の開発資料などの提供はなかったのでしょうか?
イム:
現存している元のソースというものはゼロでした。私が手がけた別のレトロゲームのリメイク作品(※2)がありますが、そちらも元のソースと言えるものがひとつもなかったので、本当にゼロから作りました。
※2 『スノーブラザーズスペシャル』
東亜プランのアクションゲーム『スノーブラザーズ』をリメイクした2022年発売のタイトル。グラフィックをリファインし、さらに追加ステージやプレイアブルキャラなどが多数盛り込まれた。
──『サイキック5』はジャレコが開発したゲームということで、原作に携わった開発スタッフによる『サイキック5 エターナル』の監修などはあったのでしょうか?
イム:
ご存知のとおり、今ジャレコという会社は存在しませんが、シティコネクションの中に元ジャレコのスタッフがいらっしゃると聞いておりました。『サイキック5 エターナル』の案件元がシティコネクションですので、開発したものはすべてシティコネクションの方で監修していただいている最中です。ただ、『サイキック5』そっくりに作っていますので、根本的なものはそのまま再現しています。そういったところについてはシティコネクションから指摘されることは少なかったです。
むしろ、シティコネクションからは1987年の作品をそっくりに再現しているため、今のユーザーには少し不親切だという意見がありました。そこで『サイキック5 エターナル』ならではの、今の時代に合わせる親切なシステムをシティコネクションからいろいろなアイデアをいただいて、それを反映したものとして入れています。
たとえばゲーム内で扉を開けるとき、ブンタという力の強いキャラクターでは、短時間押すことで扉が開いて進んでいけるのですが、力が弱いアキコという女の子のキャラクターだと、長時間押さないと扉が開かないというシステムがあります。原作を知っているユーザーであれば、いつかは扉が開くということを知っているから進められますが、今『サイキック5 エターナル』を初めてプレイする方は、「これは開かないものだ」と諦めてプレイを続けられなくなる、という意見をシティコネクションからいただきました。私はもともとのゲームを知っているので疑問を抱きませんでしたが、新しいユーザーには不親切なシステムであるため、そういった部分を改善する良いアイデアをいただいてゲームに反映しています。
──『サイキック5 エターナル』では、ドアを押すときに上にゲージが表示されたと思うのですが、それが反映された意見ということでしょうか?
イム:
そのとおりです。元々『サイキック5』はゲージがなかったのですが、それを新しくシティコネクションからアイデアいただいて追加したかたちになります。
──今回のリメイクについて、ほかに苦労した点はありますか。
イム:
ひとつ前置きとして、今回の『サイキック5 エターナル』の開発は、私の中でそこまでとても苦労したものではありませんでした。そうしたなかで苦労した点をいうならば、2人同時プレイに対応したことでしょうか。
『サイキック5』は元々1人プレイ専用のゲームです。今回のリメイクでは、2人同時プレイを新しいシステムとして追加しています。元々1人プレイ専用のゲームを2人同時プレイできるようにしたことによって、『サイキック5 エターナル』を作る中で、優先順位として開発すべきもの、対応すべきものの選択に苦労しました。
たとえば、本作では使用キャラクターやボスの部屋に入るなどの状況によってBGMが変化します。2人同時プレイのときにはどのBGMを優先させるか、そういった処理に悩まされました。ほかにも、『サイキック5』には魔女からほうきを奪って、画面が停止して無敵モードになるというシステムがありますが、魔女のほうきを持っていないプレイヤーの処理はどうすればいいのかというような、原作では全然予想もしなかったところに少し苦労しました。
開発者の思い出から生まれた2人同時プレイ
──ちょうど2人同時プレイのお話をいただいたので、新要素についてお伺いしたいと思います。シティコネクションの公式YouTubeチャンネルで拝見した本作の2人同時プレイは、とても楽しそうなものでした。2人同時プレイをなぜ採用したのかお聞かせいただけますでしょうか。
イム:
CRT GAMESの代表である私の、レトロゲームをリメイクするときのポリシーでもあるのですが、個人的に1人プレイよりも2人プレイで遊ぶ方が、ゲームが面白くなると感じています。ファミコンで遊んでいた時代、2人以上でプレイできるかどうかという点は、私の中でゲームソフトを買う基準となる大事な要素でした。そういったゲームを遊んできた思い出がたくさんあるので、これからも2人以上でプレイできるものを開発していきたいと思っています。
──今回のリメイクで、画面サイズが昔のアーケード基準の縦長のものから横長の16:9に切り替えができるようになりましたが、これは本作のゲームシステムから考えると難易度が変化する思い切った判断だったと思います。画面サイズ変更に関して苦労した点はありますか?
イム:
画面サイズを変えることを思い切って判断した理由は、今の時代は横長のワイドサイズが一般的なもので、それに逆らってはいけないと考えたからです。本作は迷路を脱出していくゲームなので、ワイドサイズで開発することによって迷路を広く見えるようになり、ゲームを進行していくためのヒントが多く得られるようになりました。ただ、本作にはいろいろなギミックがあり、直接その場に行ってみないと判断ができない部分もあります。ヒントが多くなるということに心配はありましたが、目に見えるものが増えたことによる短所よりも長所の方が多くなったと考えています。
──今回のリメイクで新しいステージが追加されると伺っています。『サイキック5』では大魔王サタンとエスパー団との戦いでしたが、『サイキック5 エターナル』では、その戦いの後が舞台になるのでしょうか?
イム:
『サイキック5』では大魔王サタンを倒すことでゲームがエンディングを迎えます。ただ、その後に大魔王ルシファーが現れて、主人公たちが全員怪我を追うことになります。そして、その中の1人であるゲンゾーは亡くなってしまいます。そこで、新しい舞台には新しい主人公たちが登場し、世界を救っていくということになります。
──新しい主人公として韓国人のキャラクターと犬のキャラクターが登場するということですが、新キャラクターたちについて教えてください。
イム:
仰るとおり、新しく追加されたエスパー団の主人公たちはすべて韓国人という設定になっています。元の主人公たちを1期、新しい主人公たちを2期と呼んでいて、1期と2期のキャラクターたちは仲が良い関係です。そんな中でも、誰かはライバル関係という設定もあります。犬のキャラクターはPPU-KKU(プク)という名前で、プクは私が飼っている犬です。
一同:
(笑)
イム:
そのほかの2期のエスパー団のメンバーは、開発スタッフをモデルにキャラクター化しています。
──そうだったんですね。とても渋いおじさんのような新キャラクターもいたと思いますが、あちらも開発スタッフの中にいる方をモデルにされているのでしょうか?
イム:
彼(ソンギル)は自分です。
一同:
(笑)
イム:
似ているかどうかわかりませんが、ソンギルは私をモデルにデザインしました。顔の形は私をイメージしていて、彼の着ている服は韓国で伝統的に死神が着ている服装をイメージしています。原作に登場するゲンゾーと親しいという設定があるのですが、ゲンゾーが死んでしまったことによって、復讐心を持って活躍するキャラクターになります。
──『サイキック5 エターナル』では、ストーリーがしっかり語られるようですが、そういったキャラクター同士の関係性も作品の中で描かれるということでしょうか?
イム:
これは原作にはなかった新要素ですが、本作をプレイしていくことでいろいろな要素が開放されていくモードがあります。エンディングを見たり、ゲームを長くプレイしたりすることで、キャラクターごとにバックボーンが語られるおまけモードがあります。本作はRPGでもアドベンチャーゲームでもないので、セリフが多くあるわけではありませんが、おまけモードからキャラクターごとの裏話をユーザーが知ることができ、そこで人物関係なども分かるようになっています。
※画像キャプション:「超能力者が大魔王サタンに戦いを挑む」というあらすじ以外ほぼ描写のなかった『サイキック5』から、本作では新たな解釈によるストーリーが描かれている。
──本作発表時には『サイキック5』のファンからたくさんの反応があったと思いますが、気になった、面白い反応はありましたか?
イム:
私が開発を始めてから、ファンからいろいろな意見をいただいています。ネット上では本作で新しく追加された、原作のレトロなグラフィックと新しくリメイクされたグラフィックがボタン1つでいつでも切り替えできることが衝撃的だったということが、一番の反応でした。それとアレンジされたサウンドと元のサウンドも同時に切り替えることができること、2人プレイができることについてが、私が見た限りでは一番反応が多かったです。
シティコネクション広報:
社内やゲームイベントでの試遊会、さらに実況配信などでは「タワーリングモード」がかなり評判良かったです。ひたすら上にスクロールする塔を登り続けるという原作にないゲームモードなのですが、1人プレイではどれだけ高く登れるかスコアアタックが面白く、2人同時プレイによる協力・対戦要素もあって、かなり白熱しますね。
画像キャプション:1人でも2人でも遊べる「タワーリングモード」。ひたすらジャンプしハンマーで障害物を壊し回るという、原作の要素を生かしたシンプルかつ熱中しやすいゲームルールが魅力だ。
──『サイキック5 エターナル』では、どんな部分に注目してほしいですか?
イム:
私は名作レトロゲームを蘇らせたいという想いから、本プロジェクトを始めました。本作はレトロゲームならではのプレイフィールを再現しています。現代のゲームはとても発達していますが、その分複雑になっています。本作ではそういった難しい攻略要素はほとんどなく、レトロゲームならではの、ゲームという原始的な面白さがあります。そういったところに注目してほしいです。
原作リスペクトが詰まった『サイキック5 エターナル』
──ちなみにファミリーコンピュータで発売された『エスパ冒険隊』は、ご存知でしょうか?もちろんご存知だと思いますが……(笑)
イム:
もちろんファミコンの『エスパ冒険隊』は知っています。弊社とシティコネクションを含めて、『エスパ冒険隊』の日本での知名度や評判も知っていますので、『サイキック5 エターナル』に入れると面白いだろう、レトロゲームが好きなユーザーの方に良い反応をいただけるだろうと思っていました。ただ、『エスパ冒険隊』はゲーム性が大きく異なるため、今回せっかく『サイキック5』をリメイクしたのに、同じようには遊べない別作品をそのまま入れるのはコンセプトがブレるのではないか、というのが今回のプロジェクトに参加した人たちの結論でした。
──その判断も納得です。
シティコネクション広報:
少し補足しますと、開発初期段階の構想では、今回の『サイキック5 エターナル』の中で『エスパ冒険隊』が遊べるようになる案が存在していました。一方で、開発が進むに連れ、新たに追加された遊びの要素がとても面白かったこともあり、このまま単に『エスパ冒険隊』が遊べるようになったとしても、文脈が複雑化するだけで、新作部分とのシナジーを生み出しにくいのではと思ったのです。そしてコストやスケジュールも見つつ優先度を考えていった結果の判断となります。今回に関しては、『サイキック5 エターナル』を新作アクションとしても幅広い層に遊んでもらいたいというのが、シティコネクションとしての想いでした。
──最後に、本作を楽しみにしている方々へメッセージをいただけますか?
イム:
『サイキック5』は当時、とても可愛くて洗練されたグラフィック、とても魅力的で中毒性のあるBGMを備えていたゲームです。主人公たちを交代しながら進めていくゲームは当時少なく、とても斬新なゲームシステムだった作品だと思います。リメイクして多くの部分を変化させたわけではなく、CRT GAMESとしてはリスペクトしている原作をベースに、少しだけ今の時代に合わせた追加要素を入れただけですので、私の中では原作を忠実に再現したものであることを、改めてアピールさせていただきたいと思います。本日はありがとうございました。
──ありがとうございました。
今回のインタビューは、『サイキック5 エターナル』開発の経緯から裏話、さらにはイム氏のレトロゲーム愛を窺い知ることができるものとなった。35年以上前に稼働開始したゲームを、ゼロから現代に蘇らせたイム氏の『サイキック5』愛あふれる本作。気になる方はぜひプレイをしてみてほしい。
『サイキック5 エターナル』は、Nintendo Switch向けに7月27日発売予定。アーケードモードのSCENE1とタワーリングモードが楽しめる、無料の体験版がニンテンドーeショップにて配信中だ。どんなゲームなのか、こちらをプレイしてみるのもいいだろう。