『Wo Long(ウォーロン)』“発売1か月後”開発者インタビュー。発売後のあの調整や、例のボスたちについて掘り下げて訊いた

コーエーテクモゲームスによるダーク三國死にゲー『Wo Long: Fallen Dynasty』開発者インタビュー。発売後ならではライブ感あるお話をうかがった。

コーエーテクモゲームスは3月3日に、『Wo Long: Fallen Dynasty』(以下『Wo Long』) を発売した。対応プラットフォームは、PC(Steam/Microsoft Store)/PlayStation 4/PlayStation 5/Xbox One/Xbox Series X|S。Xbox Game Pass/PC Game Pass向けにも提供されている。

『Wo Long』は、『仁王』を手がけたTeam NINJAに、かつて『Bloodborne』プロデューサーを務めた山際眞晃氏が加わって開発された「ダーク三國死にゲー」だ。同作はレビュー集積型サイトMetacriticのメタスコアで約80点を獲得。発売直後はPC版の最適化不足などにより賛否両論になることもあったが、三國死にゲーとして順調なスタートを切ったことだろう。

発売から1か月が経過したタイミングで、弊誌では本作開発プロデューサーの山際眞晃氏とディレクターの平山正和氏両名にリモートインタビューを実施。ボスやシステム設計の意図や、発売後の怒涛のアップデートの背景など、発売後のライブ感あるお話をうかがった。

発売後の反響

──自己紹介をお願いします。

山際眞晃(以下、山際)氏:
『Wo Long』開発プロデューサーの山際です。コーエーテクモゲームスに入社して、今年で2年ぐらいになります。『Wo Long』においてはプロデューサーの安田(Team NINJA 安田文彦氏)とディレクターである平山と一緒にタイトルを見たり、プロモーション関連を見たりしていました。本日はよろしくお願いします。


平山正和(以下、平山)氏:
『Wo Long』でディレクターを担当しています、平山と申します。入社以降Team NINJAに所属しており『NINJA GAIDEN』『DEAD OR ALIVE』を担当した後は、『ディシディア ファイナルファンタジー』プロジェクトのアーケードの初期から家庭用まで、バトルの統括を担当していました。その後『Wo Long』のディレクターをやらせていただいております。本日はよろしくお願いします。


──よろしくお願いします。まずは『Wo Long』発売おめでとうございます。発売1ヶ月、嵐のような忙しさだっただろうというのは、直近のアップデートからもうかがえるのですが、発売から1か月経った現時点での手ごたえや感想などをお聞かせください。

山際氏:
全然終わった感じがしないです。発売後もアップデートにかかりきりでした。また皆さんのご意見を我々も拝見はしていて、不具合対応とあわせて対応しているところです。シーズンパスの制作もありますし、マスターアップした感じがしないというか、ずっと引き続きやっている感じです。

平山氏:
発売後にユーザーさんの反応をいろいろ拝見させていただく中で、中華アクションのアクションゲームとしての楽しさ含め、本作で体験頂きたかった部分に関しては、楽しんでいただいているのかなと感じ嬉しく思っています。ただその中で、先ほど山際も触れていましたが、様々なご意見やご要望をいただいており、課題を真摯に受け止め、一つずつ良くしていこうと考えています。
発売からはあっという間で、時間感覚がないです……(笑)

──発売直後はSteam版のパフォーマンス面で最適化不足もあり、厳しい意見もありました。直近のアップデートでも改善されつつありますが、今後も継続して対応されるという認識で大丈夫でしょうか。

平山氏:
Steam版のパフォーマンスに関しては、いろいろなご不満点があることを把握しております。継続したアップデートで問題点に一つずつ対応していきたいと考えておりますし、発売前のタイミングで発表させていただきました、PC版のパフォーマンス向上のためのグラフィックオプションの追加、DLSSの対応などにつきましては、計画に沿って準備を進めております。近いアップデートで皆さんにお届けできるように進めていきたいと考えています。



最初に作られたボスは実は〇〇だった、“あの3人”の話題も

──本作には魅力的なボスがたくさん出てきます。発売前インタビューで、安田さんは呂布、山際さんは張梁がお気に入りというお話が出ていました。平山さんのお気に入りのボスを教えていただけますか。

平山氏:
私も呂布や張梁にもちろん思い入れがあるのですが、別で思い入れがあるのが張角です。開発の裏話的な話になるのですが、本作は武将が妖魔化して半妖状態でボスとして出てくるキャラが多数います。その中で初めて作ったのが実は張角です。ですので、張角はプロジェクトの最初期から存在していて、バトルルールの変更だったりデザインの試行錯誤も含めていろいろ様変わりしていったボスです。開発初期と製品版とは全然違う挙動をしています(笑)そういう意味で思い入れが深いボスになってます。


──デザインを試行錯誤されたというお話ですが、最初はもっと妖魔っぽいデザインだった、とういうことですか?

平山氏:
いえ、デザインのベース部分はあまり今と変わってはいないです。技の挙動の違いや、妖魔の体に赤色の硬化部位があるのですが、あれをどういうふうにつけていくか、表現していくかみたいなところを、張角をベースに試行錯誤しました。

──張角がシンボルデザインというのは面白いお話です。呂布はどうでしょうか。こちらもシンボリックなボスで、プレイヤーの中でも呂布が一番好きという方は多いと思います。

平山氏:
呂布も比較的序盤から作っていたボスではありました。呂布といえば赤兎馬に乗ったイメージがある一方で、地に足をつけた武人のイメージとか、弓を使うイメージとか多彩なイメージがありますよね。アクション、バトルの設計を議論する中で、そのイメージのどれかにフォーカスするのもちょっと面白くないなという考えがありました。どうせだったら赤兎馬のイメージの呂布と戦いたいし、地上の呂布とも戦いたい。ということで、それを両方使い分ける形でいこう、というのが結構早い段階で決まったボスではあります。ただスタッフにその説明をしたときには、嫌な顔をされた思い出はあります(笑)

山際氏:
大変だもんね(笑)

平山氏:
実質2体ボスを作るみたいなものではあるので、すごく嫌な顔をされたのは覚えています。


──確かに大変そうですね。2形態ある、しかも遠距離と近距離両方を器用に使うというボスは、ほかにそんなにいない印象なので、調整はかなり苦労されたのではないでしょうか。

平山氏:
呂布はコンセプト的な部分は早めに決まったのですが、バトルの調整は時間をかけて何度も繰り返しおこないました。安田からも意見をもらったりしながら、ブラッシュアップを重ねたキャラです。技の挙動とかも開発を通じて色々と変化していきました。

山際氏:
呂布が出てくるタイミングはちょうどストーリーの中盤ぐらいです。プレイヤーの皆さんもそろそろ化勁やゲームに慣れてくる頃合いだと思うので、山場にしたいという狙いがありました。それに呂布は三国志最強の武人ですし、仙術とか化勁とか、これまで学んだすべてを駆使して挑む、という立ち位置にしたいと思っていました。ただ、最初は開発チームも勝てない人が多かったです。

平山氏:
めちゃくちゃ強かったですよね。

山際氏:
強いというか、理不尽でしたね。そこから理不尽さを削いでいくことでブラッシュアップしていきました。何度も戦って負けてしまうけれど、繰り返し戦いたくなるという、やりごたえのあるボスになったのではないかと思います。

──なるほど、開発チーム内でのブラッシュアップを経て、今の呂布が生み出されていったのですね。ブラッシュアップといえば、Ver1.05では張梁が少しマイルドに調整されましたよね。この調整を入れた意図はどのあたりにあるのでしょう。

山際氏:
張梁を調整した一番大きな理由は、神獣招来のチュートリアル要素に気付きづらかったからです。ボスと戦っている最中に新しい情報を把握するのは難しいので調整を入れました。それにプラスアルファで、少し理不尽だった点を調整しています。全体的な印象は変えず、強さもそのままですが、プレイヤーの皆さんが納得して戦えるようにバランス調整を入れました。


──張梁が作られたのも開発の序盤の方だったのでしょうか。

平山氏:
そうです。彼も張角の次など、序盤で作っていたキャラクターになっています。ゲームの最初の主戦場にボスとして出すことはもちろん決まってはいましたので、本作のバトルルールを理解させるボスにしよう、というコンセプトとして作っています。

──弊誌でも張梁と呂布については記事を書かせていただきました。ある意味では、張梁と呂布が話題になったのは開発陣の意図がちゃんとプレイヤーに伝わっている証拠だと思います。

平山氏:
そうですね、張梁の話題に関してはネガティブな盛り上がりもありました。ですが、一方でシステムを理解する上では、壁になるボスとして良かったという意見もいただいたりしていたので、そういう部分はまさに意図通りで嬉しかったです。

山際氏:
張梁については、難しいけど楽しいというような意見も多く見かけましたし、実際クリア率もトロフィーなどを見てみると85%を超えているので、“死にゲー”の最初のボスとしては悪くないバランスだったかなと思います。ただ、先ほども話したように、今回の調整で理不尽な部分を調整することで、より楽しめるボスになったと思います。

──張梁に対してネガティブな意見があったというのは意外でした。

山際氏:
第2形態がありますからね。死んだらまた第1形態からというところで心が折れる人もいるでしょうし、そういう反応も当然あるものだと理解はしています。

──なるほど。確かに、チュートリアルのボスに第2形態があると、ワクワク感とともに絶望感もありますよね。納得しました。ここまで呂布と張梁について伺ってきましたが、そのほかのユーザー反応で、開発側から意外性を感じたボスやステージなどはありますでしょうか。

平山氏:
私の方で意外に苦戦されていないなと思ったのは孫堅です。苛烈な攻撃をしてくるボスで、エンチャントも使ってくる点も含めて、比較的難関になりがちなボスかなとは思っていました。でも実際はあっさり突破されていて。多分直前の呂布戦によってプレイヤーのスキルが向上したりとか、そこでしっかり自分に合ったビルド見つけたりといった準備をしたユーザーさんが多かったのかなと感じています。それもあって、ユーザーさんのプレイを見ていると、思っていたより簡単に倒されているなという印象が個人的にはあります。


──いいことが悪いことかわからないですけど、呂布戦でうまくなりすぎるところはあるかなと……(笑)後半のボス戦はもう麻痺しているというか、呂布に比べるとたいしたことがないなと感じるのかもしれません。それだけ呂布がボスとして良かったのかなと。

平山氏:
配信などで孫堅戦を見ていても「初見でそんなに化勁とるんだ!?」と驚いていました(笑)孫堅もディレイのある技だったりとか、いろいろ苦戦しそうな要素がありはしたんですけど、皆さん華麗に倒されてました。

──呂布戦でディレイ耐性も鍛えられたんでしょうね。逆に意外とみんな苦戦してるなと感じたボスはどれでしょうか?

山際氏:
……副戦場以外ですよね?

──(笑)その話はのちほど。

平山氏:
おおむね想定したぐらいの苦戦度だとは思うのですが、??(ゴウエツ)がちょっと強いという意見が多かった印象です。

──私も確かに苦戦しました。


平山氏:
序盤なので少し手強いかなとは思ってはいました。が、あそこが難所といいますか、詰まる想定はそんなになかったので、やりにくい人にはやりにくいボスだったのかなという印象があります。

──ほかのボスは豪快に正面から攻撃してきますが、??(ゴウエツ)は確かにトリッキーなイメージがあります。

平山氏:
パターン的に技が多いのと、見た目に反して遠距離攻撃とか、いろいろとクセの強いボスだったので、そこを全部覚えきるまで苦戦したのかなと感じました。

山際氏:
??(ゴウエツ)は、我々の目指す『Wo Long』のダークな世界観を体現したデザインのキャラクターになったかなと思っているので、不気味でトリッキーな強敵との戦いを楽しんでほしいです。

──ありがとうございます。では、先ほどお話に出た副戦場「江表の虎臣」の話ですが、発売後にさっそく調整がなされましたが、意図されたところと、早いタイミングでの調整を判断された理由をお聞かせください。

平山氏:
難所として納得感のある難易度ではなく、理不尽側に振れてしまった副戦場だと判断したため、すぐ対応させていただきました。


──意図的に難所にしていた、というよりはたまたま難所になってしまったのでしょうか。

平山氏:
「江表の虎臣」は、3人と同時に戦うミッションですので、初めから副戦場の中では難しいミッションという立ち位置ではありました。ただ、その中でも納得できる難しさというよりは、「これどう攻略したらいいんだ」という感情になるユーザーの皆さんの方が多くなってしまったので、楽しんでいただけるように調整しました。ただパラメータを落とすだけではなく、AIの挙動も含めてバトルの設計の部分で対応を入れました。

山際氏:
皆さんのご意見を見ることで、「難しい」に対してどういう感情をもっているかはある程度読み取れる部分があります。呂布は難しいと言われるものの、プレイヤーがどこか楽しんでいるというか、困難に対して乗り越える過程を楽しんでいるというのが伝わってきます。

ただ、この副戦場に関してはどちらかというと、嫌だという感情の方が強かったのかなと。ゲームの発売直後は、不具合であったり、ベース部分の調整であったりが対応のメインになるのですが、「江表の虎臣」は最初に直しておかないと、ゲームそのものに嫌な印象を持たれると思ったので急いで対応しました。難所は詰まっても、もう1回挑戦しようという気持ちになれるかどうかが大切だと思うので。

──なるほど。いきなり3体同時に出てくるインパクトの強い副戦場ではあったので、プレイヤーのネガティブな反応も強くなったのかもしれませんね。

そのほかにもアップデートでいろいろと調整がなされています。特に収集要素の可視化やロックオン挙動の調整などが大きな点ですが、このあたりの調整は当初から優先順位高く対応されていたのでしょうか。

平山氏:
アップデートに関しては、現状の環境を見たり、ユーザーの皆さんの声を聞いて、リアルタイムに何を優先してやるのかを判断しながら対応している状況です。発売後の1か月でやった対応に関しても、リアルタイムで情報を追いつつ、「このユーザーの声に対応したい」と判断したものをピックアップしながら、1個ずつ着実に調整しています。


難易度調整に一貫する「プレイヤーの納得感」

──今回のインタビューでは「化勁」システムに特にフォーカスしてお話を伺いたいと思います。化勁というシステムは非常に面白いと思います。一方で、製品版ではほとんどリスクのない、すごく便利なツールになっていると思います。体験版からの入力判定緩和調整も含めて、このあたりのデザインの意図を改めて教えていただけますでしょうか?

平山氏:
前提として、『Wo Long』の中華アクションは攻防が流麗に入れ替わる体験をしていただきたいと考えており、アクションのコンセプトの軸として、よくインタビューでお話させていただいています。ですので、あまりにも化勁の発動リスクが高すぎると、攻防の入れ替わりに果敢にチャレンジできなくなると考えました。調整のきっかけとなったという意味では体験版のフィードバックが大きかったです。

「攻撃する」「化勁で取る」「また攻撃する」のようなイメージのアクション展開が、体験版では(入力判定が厳しく)なかなか挑戦できなかったんじゃないかなと感じていたところがありました。なので、化勁の取りやすさとか、チャレンジしやすさといったところに関しては製品版に向けて緩和しました。その分、化勁が成功したときの気勢の収支を調整し、化勁と武技であったり、化勁と気勢攻撃であったり、技を織り交ぜるところで攻略していくようなイメージで調整しています。

──体験版の頃の難易度が、もともとあった開発チームの化勁像で、それに対してユーザーの声を反映したのが製品版、ということでしょうか。

平山氏:
体験版がイメージした化勁像というわけではないです。我々も体験版までの2年近く開発していく中で化勁を取ることにも慣れてしまっていた部分があり、少しシビアにし過ぎてしまったんです。イメージとしては、皆さんが今体験していただいているように、攻撃したり、化勁取ったりといった攻防にいろいろ使っていただくという方がイメージとして近いです。


──なるほど。体験版から調整された部分は、主に判定や受付時間であって、化勁自体が便利ツールであることは最初から変わらないわけですよね。もう少しリスクを増やそうなどの議論はあったのでしょうか?

平山氏:
いろいろな試行錯誤を経て現状の性能になっています。たとえば、気勢ゲージへのリスクであったりとか、気勢ゲージが空になったときには使えなくするとか。ただ、重めのリスクを付けて自分でイメージした動きができなくなる調整だと、面白くならなかったんです。ゲームスピードも速いゲームですし、アクション性も高いゲームではあることも踏まえて、そういった試行錯誤を経て今の形になりました。

──ありがとうございます。本作は化勁を使って戦闘を解決していく「化勁ゲー」であると認識が広まっていると思います。一方でゲーム内のチュートリアルでは化勁はそんなに重要視されていないように感じました。やっていれば気づくだろうということで、意図的に強調していないのでしょうか。

山際氏:
化勁はボタンを専用に割り当てていますし、戦闘に使うアクションの軸として考えています。ただ、すべての敵の攻撃を化勁しないといけないとは考えていません。化勁以外でも、戦略面、戦術面で突き詰めていけばいろいろな戦い方があるので、いろんなパターンで遊んでほしいです。


──なるほど、ありがとうございます。化勁だけが選択肢ではないというところは伝わってきました。ただ、ボス戦だと相手の攻撃を待ちつつ、化勁して絶脈を狙う、いわゆる待ちの戦法が基本になってしまうのではと思います。それによって武器で攻撃するシチュエーションが生まれにくい部分もあるんじゃないか、武器差が出にくいんじゃないじゃないか、とも思うのですがいかがでしょうか。

平山氏:
待ちの戦法に関して言うと、少しシステム的な話になるのですが、気勢ゲージは一定時間経つと原点に戻っていく仕様があります。そういった部分でリスクを負って今攻めるのか、それとも気勢ゲージは戻ってしまうけれど、危険を避けるために待つのかというアクションのジレンマを感じてもらいたいというのが、気勢ゲージを実装した原点としてあります。

そういった意味では、各武器種に関しては発生とかダメージの基礎的な性能差の部分がありますがそれだけでなく、攻撃した後にどのくらいゲージの減少を止められるなどといった部分の差も実はありまして。そういった面での武器の差も、アクション性能とは別に感じていただければなと思っています。

大体イメージ的には、遅い武器はガードしたときに気勢ゲージが削られにくかったり、軽い武器に関してはガードだと削られやすいがその分化勁しやすかったりといった感じです。要は軽い武器の方が隙は少ないので化勁しやすかったりするのですが、そういった武器よりは重い重厚な武器の方がガードを固くしてあります。ただ皆さんからいろんな意見もいただいておりますので、武器種や武技などの調整は今後のアップデートも含めて検討していきたいと思っています。

──武器は気勢の挙動を含めて、個性をつけているんですね。本作は武器の種類も豊富ですが、そういった部分の差に気付いていないプレイヤーも多いんじゃないかと思います。このあたりのフォローと言いますか、チュートリアル的なものは今後調整されるのでしょうか。

平山氏:
チュートリアルというよりは、どちらかというと今より個性や性能が際立つチューニングをして、遊びの変化があるような調整をすることで、使用率が低い武器種などをもっと使っていただけるようにしていきたいと思っています。

──その点で言うと武器の五行補正も、重い武器は土行、軽い武器は水行という風に、戦略に合わせたものが割り振られているように思うのですが、ここを変えて水行補正の高い大槌で化勁を主体に戦うみたいな、そういったチューニングとかを考えていらっしゃるのでしょうか。

平山氏:
おっしゃる通り、五行傾向に関しては、ジョブといいますか、その行の遊び方がより活性化するイメージで調整しています。水行は化勁に関するパラメータが成長しやすいわけですが、軽い武器である双剣とかはガードより化勁の方が主体なプレイスタイルになるので、そういったパラメータとの相性を良くしたりという形にしてます。現状では武器を追加するだとか、調整するだとかは明言できないですけども、どの五行の補正がかかるのかという点はバリエーションを出せる場所かなと思うので、今後のアップデートも含めて検討はしていこうと思います。

──ありがとうございます。化勁の話に戻ります。本作には「化勁崩し」といいますか、化勁できない攻撃がないですが、これは結構面白い点だなと思っています。「化勁崩し」を実装しなかった理由であったり、実装を検討されたことはあったのかというのを教えていただけますでしょうか?

山際氏:
化勁をできなくするのではなくて、化勁をやるタイミングにゲーム性をもたせる方が、より深く遊んでもらえるのではないかと考えました。たとえば、遠距離の攻撃に対して化勁を決めたりとか、連続の化勁があったりとか、そういうところで幅を持たせていくことによって、化勁が楽しくなるのを目指しています。

方向性としては、化勁を決めていくことで、どんどんプレイに酔っていくというか、自分のテンションが上がっていくなかで強敵とのギリギリの死闘を楽しむイメージです。あとは化勁ができるできないが分かりづらいといった理不尽に感じるようなことを減らしたいという考えもあります。そういう意味でも本作では全部化勁できた方がいいという考えです。

平山氏:
あとはアクションとしての納得感という部分も考えてはいます。本作でもガードに対してのガード不能技みたいなのがあります。あれらの技はガードしてるけど、ものすごい勢いで攻撃してくるからガードを打ち破ってダメージを食らってしまうみたいな、いわゆるアクションとしての納得感があるんです。一方で化勁は、あくまでも敵の攻撃を受け流すアクションであるので、「受け流されない攻撃ってはたしてなんだろう」というところが、アクションゲームとして直感的ではないなと思ったんです。

パンチ攻撃に対して、いくら強そうなオーラをまとった示唆があったとしても、ほかのパンチ攻撃が化勁できるなら、なんでこのパンチだけ化勁できないんだと思いますよね。アクションゲームの体験として、あんまり3Dの納得感がでないというのも、一つの理由としてあるかもしれないです。

──なるほど。今のお話を聞いていて思ったのですが、『Wo Long』はある程度意地悪だけど、意地悪しすぎないというような難易度ポリシーを感じる部分があります。“難しいと理不尽じゃない”を判断するラインはあったりするのでしょうか。

平山氏:
本作に限らず、Team NINJAで大切にしているポリシーみたいなものはあります。どんなに難所であってもユーザーの納得できるものにする。失敗をプレイヤーの責任として感じられるようにする。そうじゃないとクリアしたときの達成感を感じられないですよね。あくまでも理不尽ではない納得できる難易度で難所にするというのは、意識して作ったところではあります。

その上でボス配置のペーシングも意識しています。重い大型のボス戦があった後は、ちょっとテクニカルな敵がいて、というようなテンポ感も考慮しています。その上で基本的な考え方として、理不尽じゃなくユーザーが納得できる難所、というところは変わりません。

山際氏:
何度か体験版を配信させていただいたり、試遊版でお客さんの反応を直で見たりすることはとても参考になりました。またユーザーテストもしっかり行うことで、明らかな問題を潰していくことは行っています。


──なるほど。一方で私個人的には、山際さんが担当された過去作(『Bloodborne』)は、もうちょっと意地悪だった印象です(笑)そこは開発元の塩梅もあったと思うんですが、山際さんから見て『Wo Long』は「ちょっと意地悪が足りないんじゃないの」とは思わなかったでしょうか?

山際氏:
『Bloodborne』そんなに意地悪でした?(笑)レベルデザインを考える際に、ずっと同じ展開だとやはり飽きてしまうので、ステージを進むうえでの刺激としてもメリハリは意識しています。ただ、本作には落下死がないので少し楽に感じる部分はあるかもしれません。

──なるほど。ちょっとこの流れで聞きたいんですが、『Wo Long』については『Bloodborne』のプロデューサーを務めた経験のある山際さんが関わったことも話題になりましたよね。平山さんにとって印象的だった山際さんの助言というか、Team NINJAに今までなかったアイデアとか、何か印象深いものありますか。

平山氏:
ちょ、ちょっと考えます……。

山際氏:
ないみたいです。

一同:
(笑)

平山氏:
山際とは話す機会が多かったので、これという1つがあるわけではないです。何て言ったらいいんでしょうね。考えさせられるきっかけをもらったケースは多かったですね。やっぱり自分もディレクターとして開発にすごく集中して仕事していて。周りが見えづらい状態で突き進んでいるときとかに、ふと山際が話しかけてくれて。「これどうなってんの」とか「これ前言っていたことからぶれちゃってんじゃないの」といったように、いろいろと考え直すきっかけをくれていたなとは思います。

山際氏:
よく平山とそういう話はしていた記憶はあります。彼は嫌な気分になったと思いますけど(笑)

──(笑)

山際氏:
狙いがぶれたと感じるときに、「あなたの考えていたことってこれじゃないの?」「これが面白いって言ってたんじゃないの?」といった原点や本質に立ち返るための問いかけは意識してました。外れないようにリマインドする感じです。自分で言っていた面白いことをいろいろな理由があるにせよ忘れることはすごくもったいないことなので、最初の方はそれをひたすらやっていましたね。

──開発チームのケアリングというか、マネージャーというところでの立ち回りだったんですね。

山際氏:
ケアは(もう1名のプロデューサーの)安田が影でやってくれていたと思います。僕は投げっぱなしで。

一同:
(笑)


戦闘の核「気勢システム」、気勢MAXボーナスはなぜオミットされたのか

──士気のお話があったので、少し士気についても質問させていただきます。本作の士気システムはユニークなシステムで、難易度調整として面白い要素だと思うのですが、面白くもちょっと複雑かなと思いました。この辺はプレイヤーに想定通りに理解されていると感じてらっしゃいますか?

平山氏:
そうですね。どこから攻めるのかとか、今の自分のランクを見つつ、攻めていい場所なのか後回しにすべきなのか判断する戦略性みたいなところに関しては、士気システムの魅力を理解していただいていると思います。ただ発売から1か月経って、ユーザーの皆さんの習熟度だったりとか遊び方とかの幅が出てきたところもあって。たとえばランクを制限してちょっとチャレンジブルなバトルをやりたいですとか、ランクを上げずにプレイしたいですとか、そういった意見とかをいただいたところもあります。士気ランクを軸にした新しい遊びの提供は、アップデートも含めて検討していきたいです。

※ バージョン1.06アップデートにて、士気ランクの上限を設定できる機能「克己鎮心(こっきちんしん)」が追加された

山際氏:
元々士気システムは、三国志らしい戦場をいかに制圧していくのかというのがテーマにあって、それを死にゲーのレベルデザインで表現できないかと考えて始まったのが士気システムなんです。そういった経緯で、強敵に挑んでいくところにも価値を見いだしてほしいところがあって、実は強い敵を倒したときにより良い報酬が手に入る仕組みを用意していました。

発売後皆さんも慣れてきたり、さらなる刺激を求めていたりすると思うので、先日のVer1.05バージョンアップでは、士気差のある強敵に立ち向かうことによって、よりいい報酬を落とすといったアップデートを配信しました。そうした点も楽しんでほしいです。


──士気ランク5で15の敵と戦ったとき、結構歯ごたえはあったりしても意外と倒せたりしました。開発者の肌感覚、調整した人のイメージとして、士気ランクはどれくらいの差までチャレンジ可能というか、どれぐらいまでは戦える想定ですか。

平山氏:
基本的には士気ランクの色が、まさにその基準とはしています。5の差があるとき表示が赤色になるのですが、赤はかなり苦戦するイメージでは作ってはいました。それもあって、2週目の戦場では基本的に不屈ランクより5士気が高いボスが出てくる形にしていて、絶脈することで敵のランクを下げたりとか、自分をあげたりしながら、その赤い状態からどれだけ均衡した状態にできるかみたいな形で調整してます。

山際氏:
理論上は、20とか25離れていても倒せはしますが、やはりかなり難しいです。プレイヤースキルで5つ上ぐらいまでは何とか戦えるかなと考えています。

──ありがとうございます。もう一つシステム面のお話をお聞きしたいのですが、以前他のインタビューで、仙術が最初は個別リキャスト式だったという情報を見ました。同じように初期から仕様が変わった点などあれば教えていただけますか。

山際氏:
仙術に限らず武技も含めて、まず化勁以外のパターンも遊んでほしいところがありました。どうやったらいろんな要素を使ってもらえるかを考えた結果、仙術の形式をリキャスト式ではなく気勢消費式に変えたというのが近いかもしれないですね。

我々の結論としては、リキャストだとそれの管理とかも全部していかないといけないので、バトルのスピードの速い本作だと複雑になると思いました。なので、気勢ゲージにすべてを集約することによって、何であってもこのゲージさえあれば使えるような仕様にすることによって、プレイヤーがいろんな選択肢を取れるのかな、という方向でまとめていった経緯があります。リキャスト式を検討したのも、リキャスト式になっていれば術を使ってくれるかなというところから始まった議論もあるのですが、結果としてリキャストじゃなくて、気勢に集約した方が遊びやすいとして調整しました。


平山氏:
ほかに仕様が変わった部分で言うと、気勢ゲージもいろいろ試行錯誤した部分です。実は、「気勢ゲージが最大値になるとボーナスがもらえる」みたいな仕組みにしていた時期があったんです。ただこの仕様だとゲージを貯めることばっかりに集中してしまって。武技とか仙術とかを使おうというような遊びが狭くなってしまったり、貯めることだけがメインなってしまったので、結局やめたんです。そういった仕様に関しては、作りながら触りながら、一部なくしていったものというのはあります。

山際氏:
……やっぱり、溜めないといけないとなると人は使わないんですよね(笑)私もそうですが、もったいないから、いざというときに使用したいと考えるので。ですので、なにかをする時は気勢を使うというアイデアを戦略に落としたいところが大きかったですし、そこはかなり試行錯誤しています。

──お話を聞いていると、全体的にプレイヤーにいろんなUIに気を配らせたくないというのが開発チームの理念のように感じます。それはTeam NINJAの理念なのか、山際さんの考えなのか、どちらでしょうか?

山際氏:
ゲーム性ありきだと思います。今回の『Wo Long』はアクションスピードが速いので、まず目の前の攻防に集中しないとなかなかうまく立ち回れないし、遊びづらい。目の前の戦闘にフォーカスさせたいので、その戦いを阻害しない形でいろいろなものを使わせたいという考え方です。なので、たとえば、ターン制のゲームを作る場合だともっとUIも変わると思います。

──なるほど、ゲームスピードに合わせてシンプルな構造にしていると。

山際氏:
今回の仕様が最適かどうかはわからないですが、我々の出した結論はこういうかたちになりました。

──お話を聞いていると、気勢を使っていろいろな戦法を試してほしい、というのが伝わってきます。お恥ずかしながら、化勁に頼りっきりでした。

山際氏:
(笑)もちろん化勁がアクションの軸ではあるので、遊びのベースにはなると思います。そのうえで他の多様な遊び方も楽しんでいただけるように、DLC含めて今後調整していきたいと思っています。

平山氏:
あくまでもアクションの軸である化勁をきっかけとして、気勢ゲージを使ってさまざまなアクションや戦略を楽しんでいただきたいです。

山際氏:
「逆境を覆す」という開発コンセプトがあるのですが、気勢ゲージひとつにしても、さまざまな意図を込めているので、ぜひそういうところも楽しんでいただけると嬉しいです。


ファンタジーだが本格派、ストーリーのこだわり

──さて、今回は発売後にインタビューさせていただいているということで、発売前は聞けなかった部分について少し質問させていただこうと思います。まず本作のストーリー部分についていくつか質問させてください。本作は三国志という物語の序盤部分でストーリーが展開するわけですが、他作品で扱われることの多い献帝について、あまり言及されてないのが気になりました。このあたりの意図というか、やはり丹薬の争奪戦というところをストーリーの中心に据えるために、意図的にストーリーから排除しているのでしょうか?

平山氏:
そうですね。作中で描く戦や武将のエピソードは、ひとつずつ選んでいるのですが、その中で献帝に関しては、明確にいないという設定にはしてはいないのですが、主には触れていないという形で描かせてもらっています。

──なるほど。もう一つ、本作のストーリーは一言で表すのであれば「中華ファンタジー」に分類されると思うのですが、その一方で武将の死亡時期などは史実や演技に忠実に作られていますよね。そのせいで孫策がムービー中にあっさり殺されてしまったり。

平山氏:
(笑)

──そうした部分を含めて、ストーリー構築においてこだわってる部分を教えていただけますか。

平山氏:
歴史物を取り扱う作品として歴史の部分は大切にしています。あまりにも歴史から逸脱してしまうと何でもありなファンタジー作品になってしまうと思うので、そこはしっかりと、歴史の結論と言いますか、結果は基本的には史実通りにしています。その裏で実は丹薬が存在していたら、歴史はどうなっていたんだろうという。歴史のアナザーストーリーじゃないですけど、歴史の裏ではこういうふうなやり取りがあったんですよといったところに、想像だったりロマンだったりというのを感じていただきたいなと思って作っております。

──本作は時代考証といいますか、細かなディティールに驚かされる部分があります。たとえば主戦場の「不屈牙城」で、ステージの中に大仏があるのですが、それを見た時に紅晶が「何これ?なんのための像なの……」と言いますよね。これは三国志の時代にはまだ仏教が広まっていなかった、という説にちなんだ小ネタだと思うのですが、このあたりの細かなディティールはどのように生み出されているのでしょうか。


平山氏:
チーム内に中国のスタッフが何名もいる中で開発していて、そのメンバーのほうで、日本では調べられない文献だったりとか、デザインの資料であったりをいろいろ集めてもらいながら考証しています。「この地域はこういう建物が多いんですよ」「この時代は実はこうなんですよ」とか。武将もそうですし、ステージのひとつひとつのオブジェクトや建物を考証しながら、世界観の中での納得できる形を模索しています。

気になる今後の展開は

──先ほど武器のお話の際に少し触れていただきましたが、今後追加コンテンツのリリースが予定されていますよね。その中で呂布レベルの手ごわいボスが出てくるかどうか、期待しているんですけど、より挑戦的なボスが出てきたりするのでしょうか。

平山氏:
今後のDLCも含めて、理不尽ではない範囲で本編にはないようなバトルスタイルのボスは作りたいです。より苛烈なといいますか、より緊張感があるようなバトルを目指してやっていきたいなと。こちらは今、絶賛制作しております。

山際氏:
ハードル上げてますね。今言ったこと記録しといてください(笑)

一同:
(笑)

──ありがとうございます。最後に『Wo Long』を楽しんでいるファンの方々に向けて、お二方から一言ずついただけますでしょうか。

山際氏:
まず発売して多くの方に遊んでいただいていることを嬉しく思っています。ただ一方で諸々ご不便かけているところもあります。今後継続してアップデートしていきますし、DLC含めて多くの新しい遊びや、長く遊んでいただけるような展開も考えていますので、今後もご期待いただければと思います。Team NINJAはプレイヤーとのコミュニケーションを大切にしていきたいので、ご意見など頂けると幸いです。よろしくお願いします。

平山氏:
ほとんど言われちゃいましたね(笑)まずは『Wo Long』遊んでいただいている皆様ありがとうございます。心から感謝いたします。今後も一歩ずつアップデートやDLCを通じてより良いタイトルにしていきたいと考えていますので、引き続き応援のほどよろしくお願いします。

──ありがとうございました。今後も期待しています。


『Wo Long: Fallen Dynasty』はPC(Steam/Microsoft Store)/PlayStation 4/PlayStation 5/Xbox One/Xbox Series X|S向けに発売中。Xbox Game Pass/PC Game Pass向けにも提供されている。

[聞き手・執筆・編集:Junichi Matsui]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

Junichi Matsui
Junichi Matsui

『風来のシレン』『アンリミテッド:サガ』『Dwarf Fortress』を人生の師とする雑食ゲーマーです。

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