「日本のSteam市場の成長率は世界トップレベル」Valveに訊くSteamとSteam Deck、そして日本
今月9月15日から18日にかけて、千葉・幕張メッセで東京ゲームショウ2022が開催された。会場の真ん中に鎮座する巨大なKOMODOブースには、8月に日本でも予約が開始されたValveのゲーミングUMPC、Steam Deckの試遊スペースが設置されていた。筆者はそこで実際に15分間Steam Deckの実機を触らせていただき、また幸運にもKOMODO とValveのスタッフに直接Deckに関する質問をぶつける機会も頂いた。本稿では以下にSteam Deckの軽いインプレッションと、インタビューの内容をお届けする。
Steam Deck インプレッション
15分の試遊ということで細かい動作の確認までは難しかったが、プリインストールされていたタイトルの中でも『エルデンリング』、『Devil May Cry 5』、『Death Stranding』や『Marvel’s Spider-Man』など、負荷の高そうなタイトルを中心に一通り操作を確認した。Deckの解像度が1280×800であることが負荷軽減に一役買っていそうだが、どのタイトルも快適に動作していた。もちろん試遊機にプリインストールされているタイトルはValveが公式にDeckに完全対応済みとしているタイトルなので、当たり前といえば当たり前なのだが、改めて実機確認できると安心感が増す。
『エルデンリング』は特にオープンフィールド部分が重いのではと考えており、わざわざリムグレイブまで出てツリーガードと戦闘をしてみた。が、特別不安定だと感じることはなく、スムーズに操作できた。そもそも十分なスペックのPCでやってもフレームレートがやや安定しないパートではあるので、その範疇の内に収まっていると言ってもいいだろう。なお画質はプリセットの「高」に設定されていた。
※ Max Games TechによるSteam Deckでの『エルデンリング』ハンズオン映像
操作面に関して、手に取った感覚は「一回り大きくて重いNintendo Switch」といったところだ。とはいえ座ってプレイする分には重さはまったく感じなかったし、ベッドに仰向けの状態で顔の上に保持したとしてもそこまで疲れる重さというわけでもないように思えた。ただ十字キーとボタンの上下ではなく内側にスティックがある配置は少し独特で、親指を内側に伸ばさないとスティック操作ができないのは少し慣れが必要かもしれない。また、グリップの背面部にはR4/L4、R5/L5ボタンがあり動作をカスタム可能なので、キーコンに関してはかなり柔軟な設定ができそうだ。
発熱に関しては処理に負荷がかかると背面部が熱みを帯びてくるが、直接肌に触れる部分ではないので気にならないだろう。Nintendo Switchも『モンスターハンターライズ』のような3Dゲームを遊んでいると背面部が熱くなってくるし、それと大差ない程度であったように感じる。
実機の軽いインプレは以上として、以下にインタビュー内容を掲載する。回答していただいたのは日本での販売代理店であるKOMODOの代表取締役社長であるRicky Uy氏、そしてValveのUXデザイナーであるLawrence Yang氏とSteamビジネス担当であるErik Peterson氏の3名だ。
日本での予約状況は良い
――ついにSteam Deckの日本発売が近づいていますね。ちなみに今予約すると出荷はいつごろになる予定でしょうか?
Uy氏:
今年の終わり頃を目処に、予約された方へ順次出荷していく予定です。
――日本での予約状況はどんな感じでしょうか?
Uy氏:
具体的な数字はお伝えすることが出来ないのですが、今のところは順調ですね。当初の予想よりも好調です。
――オススメのモデルはありますか?
Yang氏:
どのモデルもオススメですよ。たとえば最上位モデルはスクリーンに特別なアンチグレア加工がされていますのでそこが選ぶポイントの一つになりますし、逆に64GBeMMCモデルにmicroSDカードで容量を追加すればかなりリーズナブルなデバイスになります。せっかく3モデル用意したので、自分にもっとも合っていると思うモデルを選んで貰えればと。
――Windowsとのデュアルブートは対応していますか?
Yang氏:
既にSteam DeckでWindowsをブートする方法はいくつかありますし、microSDからブートすることもできます。現在SteamOSの公式インストーラーの開発に着手していて、これを利用すればDeckに限らずどのようなマシンでも既存のOSとSteamOSが共存できるようになると思います。まだしばらく時間はかかりそうですが……。
Peterson氏:
Steam Deckはオープンなデバイスで、UMPCとしてユーザーが好きに扱うことが出来ます。もちろんほとんどの人はそのままSteamOSで手軽な携帯用ゲーム機として使うと思いますが、我々の側でSteam Deckで出来ることを制限するようなことはありません。PCデバイスとしてユーザーの好きなように、柔軟に使ってくれればと思います。これはSteam Deckのコア開発理念のひとつでもあります。
――日本ではPCでのゲームがあまりメジャーではなく、家庭用ゲーム機が主流です。Steam Deckの日本での展開開始の背景にはどのような判断があったのでしょうか?
Peterson氏:
日本では家庭用ゲーム機優勢なのは間違いないですが、PCゲーム市場の規模はおそらく皆さんが思っている以上に大きいです。マーケット規模で世界のTOP10には入っていますし、成長速度で言えば世界一の可能性すらあります。それくらい日本のPCゲーミングシーンは今急激に成長しています。これが1つめの理由ですね。
2つめの理由は、日本が「携帯型ゲーム機のふるさと」であるからです。ポータブルゲーミングは日本で生まれ、世界へと羽ばたいていった概念です。「携帯型PCゲーミングデバイス」の先駆けとなるSteam Deckを、ポータブルゲーミングの原点であるところの日本の皆さんにお届けしたいというのは我々にとっては自然な考えなのです。
――Steamにとって日本は今注目のマーケットなのですね。
Peterson氏:
その通りです。加えて言うならば、そもそも日本製のゲーム、日本のデベロッパーやパブリッシャーのゲームが世界的に人気だということがあります。日本は世界中に良質なゲーム体験を提供していますから。日本のゲームがSteamでも発売され、世界中の人がそれを手に取り、それでPCゲーミングが世界的に成長していくという構造があります。我々が日本という地域を重要視するのは当たり前のことなのです。
Uy氏:
日本の外で開発されたゲームであっても、最近はローカライズで日本語に対応していることが多いですよね。マーケットのトレンド的にデベロッパーがPCゲームにおいて優先して対応すべき言語セットというのが存在していて、日本語はそこに含まれています。
Peterson氏:
それに、Valveではデベロッパーやパブリッシャーにゲームを日本語対応させることをいつも推奨していますし、そのためのツールの提供も惜しんでいません。
――既に販売が開始している国などでは、Steam Deckが初のPCゲーミングデバイスであるような方も多いのでしょうか?
Yang氏:
もちろん。Steam Deckで初めてSteamやPCゲームに触れたという人は多く、日本でもそうなるように期待しています。我々はSteam Deckを「一番手軽なPCゲーミングデバイス」をコンセプトにデザインしています。そのために直感的に操作できるSteamOSを開発しましたし、これで多くの人が普通の携帯ゲーム機と同じ感覚でSteam Deckを手に取ってくれるよう願っています。
――日本での販売価格が、他地域に対して比較的割高となったのはなぜでしょう?
Uy氏:
販売価格についてはさまざまな要素を多角的に判断した結果となっています。特にSteam Deckは、ノートパソコンの代わりもできるような超小型のハイパワーPCデバイスでありながらも、同時に気軽に手にとって遊べる携帯型ゲーム機でもあり、世界的に見ても前例のないタイプの商品です。ですので、価格設定は我々にとっても手探りなところはあるのですが、ベストな価格で提供できるように常に最大限努力をしています。また、日本の価格には、税金と送料が含まれています。
――Steam Deckの修理について教えてください。バッテリーが減耗したり、ボタンやスティックが破損したりといった場合の補償や修理対応はどうなるのでしょう?
Yang氏:
他地域ではiFixitと提携してパートの販売や修理対応をしています。日本地域ではどういう形になるのか未定ですので、これについてはもうしばらくお待ちください。
『エルデンリング』が動くことがパワフルな証
――ちなみにみなさんが今Steam Deckで遊ぶのにハマっているタイトルはありますか?
Yang氏:
最初は『エルデンリング』をよくプレイしていて、その後は『Marvel’s Spider-Man』をプレイしていました。子供が二人いて最近はまとまってゲームを遊ぶ時間が取れないのですが、空いた時間は『Cult of the Lamb』『No Man’s Sky』あたりをプレイしています。
Peterson氏:
今一番気に入っているのは『Slay the Spire』ですね。クラウドでセーブデータを同期してくれるので、このタイトルは特にSteam Deckとの相性が良いと思っています。自宅のPCでプレイを始めて、続きを日本に来る飛行機の中でプレイしたりすることが出来ます。
Uy氏:
今は『Teenage Mutant Ninja Turtles: Shredder’s Revenge』を遊んでいます。あと気に入ったゲームを何度もプレイしてしまうタイプなので、最近は『ニーア オートマタ』をまた最初からプレイしています。
――Steam Deckのスペックを証明するような、「このタイトルも快適に動きますよ!」というようなタイトルはありますか?
Peterson氏:
そこはやはり『エルデンリング』になりますかね。でも個人的に驚きだったのは『テイルズ オブ アライズ』ですね。Steam Deckで快適に動作しますし、ゲーム開始直後から美麗なグラフィックに目を奪われました。
――今後も似たようなポータブルPCゲーミングデバイスが出てくると思いますが、他のゲーミングUMPCに比べてSteam Deckの強みはなんだと思いますか?
Yang氏:
ゲーミングUMPCというカテゴリが今後も開拓されていくのは喜ばしいことで、PCゲームを遊ぶ際の選択肢としてメジャーになってほしいところです。現状では、Steam Deckの強みはやはりSteamOSにあると思います。Steam Deckのために作られたOSですので、Steamのゲームを遊ぶにあたっては最適な選択となるはずです。もちろん先程も話したようにSteam DeckにWindowsを入れることも出来ますが、Windowsはゲーム用に最適化されたOSというわけではないですから。
ですが、SteamOSをSteam Deckのためだけの独占技術にするつもりはありません。SteamOSは任意のデバイスに導入可能なオープンなOSで、仮に今後発売されるゲーミングUMPCがSteamOSを導入したい、対応したいという場合でも我々は最大限のサポートができるように準備しています。SteamOSはSteam Deckの強みではありますが、この技術を抱え込むつもりはなく、ゲーミングUMPCという商品カテゴリの発展に寄与してくれればと思っています。
Peterson氏:
我々はあらゆる形でのPCゲーミングマーケットの成長を歓迎しています。マーケット規模が大きくなれば、より多くのユーザーにリーチできるデベロッパーにとってもパブリッシャーにとっても、そしてさらに良質なゲームを手に取ることができるユーザーにとっても、全員にとって喜ばしいことですから。
――デベロッパーがゲームをSteam Deckに対応できるように、どのようなサポートが行われていますか?
Yang氏:
Linuxベースで動くSteamOSでWindows用のゲームが遊べるように、Valveが開発したProtonという互換性レイヤーがあります。これによって、基本的にデベロッパー側では特に何もしなくてもSteamOSでもゲームが動くようになっているはずです。そしてSteam DeckにはValveによる互換性レビューシステムがあり、Steam Deckで完動することが確認されたゲームには「Deckで確認済み」というカテゴリが用意されています。この互換性チェックに関してはかなり高いハードルを設けており、ユーザー側で特別な設定などを一切しなくても最後まで完璧に遊べることが確認された場合に限ります。これは人間が実際にプレイして確認しています。
そして「Deckで確認済み」がついておらず「プレイ可能」カテゴリのゲームであっても、ユーザーがコントローラー設定を弄ったり、タッチスクリーンでの操作を利用したりすれば問題なく遊べる場合がほとんどです。
――逆にSteam Deckで遊ぶのが難しいとされるゲームはどのようなものがあるのでしょう。
Yang氏:
ゲームがそもそもコントローラーでの操作をサポートしていない場合は、少なくとも「Deckで確認済み」を与えることは難しくなります。とはいえタッチパッド操作やマウス・キーボードの接続で遊ぶこと自体は可能であるはずです。あとはProton自体がまだ開発中ですので、細かい問題が発生することはあります。たまにあるのはビデオを再生する時にフォーマットが対応していないことで、この現象が確認された場合はDeckには非対応という表示になります。ですがこれはValve側の問題として認識していますので、今後の開発で対応していくつもりです。
――Steam Deckが完成して出荷され始めたということで、Deckのチームは次に何に着手するつもりですか?
Yang氏:
しばらくはまだSteam Deckにつきっきりになりますね。特にソフトウェアサイド、SteamOSについては多くの課題がありますから、それらを改善していく必要があるでしょう。ハードウェアサイドについても細かい改善の予定はあります。Steam Deckの次のプロジェクトについて少しずつ考えを巡らせてはいますが、だいぶ先のことにはなるでしょうね。
Peterson氏:
デベロッパーやパブリッシャーのみなさんへの対応もあります。スムーズにDeck対応ができるように必要な情報や開発キットを提供しており、ローンチ前からDeck確認済みになるタイトルも増えてきています。
――Steam Deckの今までの売れ行きについて、特徴的なことや面白いエピソードはありましたか。
Yang氏:
2つあって、ひとつめは実は一番売れているモデルが512GB最上位モデルだということですね。これは我々にとっても意外でした。もうひとつはリリース以降じわじわと売れ行きが尻上がりに伸びてきていることです。みなさんが実際に手にとって、口コミで評判が広まって予約する方も増えているようです。
Peterson氏:
この手のデバイスは触ってみないと性能や操作感が分からないですからね。多くの人の手元にSteam Deckが届き、その性能がユーザーの間でしっかり広まっていくことでじわじわと人気が伸びているようで、大変ありがたいことです。
――本日はありがとうございました。
[聞き手・執筆・編集: Mizuki Kashiwagi]
[聞き手・編集・写真: Ayuo Kawase]