新たなインディーゲームパブリッシャー、グラビティゲームアライズの目指す先。新たなIPやビジネスを求めて
国内でまた新たな会社が、インディーゲームパブリッシャーとしての一歩を踏み出している。2月に『少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milky way』と5月に『エリックじいさんの不思議なブレスレット EMBRACELET』を国内向けに発売した、グラビティゲームアライズである。ところで、ちょっと年季の入ったPC/オンラインゲーマーにとって、グラビティと言えば『ラグナロクオンライン』(※1)の開発元であった。グラビティゲームアライズは、あのグラビティの関連会社なのだろうか。また、もはやインディーゲームのパブリッシャーは珍しい存在ではないが、同社はなぜ新たにパブリッシングを手掛けようとしているのだろうか。今回はちょっと機会をいただき、グラビティゲームアライズに疑問をぶつけてきたので、その内容をお届けしよう。
※1:
『ラグナロクオンライン』。韓国の開発会社グラビティが手がけ、日本ではガンホー・オンライン・エンターテイメントが運営を務めているMMORPG。リリース当時の2002年はオンラインゲームの黎明期にあたり、可愛らしいドット絵のキャラクターなども相まって、日本では一世を風靡した。
新たなIPやビジネスを作る
───グラビティゲームアライズについて教えてください。
小林正和氏:(以下、小林氏)
小林です。グラビティゲームアライズで、インディーゲームパブリッシングを手がけるプロデューサーをしています。グラビティゲームアライズは2019年に設立された会社です。これまでの活動としては、MMORPG『TERA』のモバイル版『テラクラシック』のパブリッシングや、開発タイトルとしては『NBA RISE TO STARDOM』『貞子M 未解決事件探偵事務所』など、モバイル向けの運営型タイトルをやってきました。ただし、僕はこれらタイトル群に関わっておらず、別のプロデューサーの方が担当しています。
僕自身は2年前、2020年の3月にグラビティゲームアライズに入社し、ハイパーカジュアルゲームの開発とパブリッシングを手がけてきました。日本よりも海外に向けてサービスを展開してきたんですが、ハイパーカジュアル事業自体が伸び悩んでいる状況で、今後の方針について考える機会がありました。そこで、僕自身がやりたいことやビジネスとしての今後を考えた時、インディーゲームはどうだろうと思い至ったんです。インディーゲーム事業自体は2021年の6月頃より、小規模なところからスタートしてやってきています。現在は『エリックじいさんの不思議なブレスレット EMBRACELET』『少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milky way』の2タイトルをリリース済みで、これからさらに6タイトルぐらいリリースを控えているような状態です。
───グラビティと聞くと、PCゲーマーとしては『ラグナロクオンライン』がどうしても頭を過ります。グラビティとの関係性を教えていただけますか。
小林氏:
グラビティゲームアライズは、グラビティの日本支社です。グラビティグループは『ラグナロクオンライン』が代表作ですが、グラビティゲームアライズでは、新規IPや新しいビジネスチャンスを広げていくことを目的の一つとしており、そのなかでインディーゲーム事業を立ち上げたわけです。
またグラビティとの関係性としては、弊社のアジア圏のパブリッシングに対する強さは、グラビティから引き継いだものとなります。『エリックじいさんの不思議なブレスレット EMBRACELET』『少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milky way』がアジア圏でのパブリッシングからスタートしたのはそういう理由からです。
───インディーへの参入は、会社としてというより小林さんの意向で進めた部分が大きいんでしょうか。
小林氏:
最初の提案は僕からでした。インディーゲームに「こういうタイトルがあるんですけど、パブリッシングをやってみませんか」と、会社に提案したことが起点です。
───では、オンラインゲームを運営してきたチームとはまた別のチームが、インディーゲーム事業をしているわけですね。
小林氏:
『テラクラシック』などを運営しているパブリッシング部門と、『NBA RISE TO STARDOM』などの自社開発部門はモバイルを中心にやっています。僕の部署では本インディーゲーム事業を中心に、新しい核を生み出したいなと思っています。
ローカライズの難しさ
───現在グラビティゲームアライズから発売中のインディータイトルについて、改めて紹介をお願いします。
小林氏:
『エリックじいさんの不思議なブレスレット EMBRACELET』『少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milky way』については、どちらも同じノルウェーのデベロッパーMachineboy(Mattis Folkestad氏)さんの開発したタイトルです。最初のきっかけとしては、Machineboyさんがアジア圏のパブリッシャーさんを探しており、僕の知り合いに紹介してもらいました。
『少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milky way』は、懐かしいドット絵スタイルのビジュアルで、ジャンルはADVなんですが、実際プレイしてみると主人公の女の子と、彼女と一緒に育った牛の友情物語や優しい世界観が描かれており、これは面白いなとパブリッシングを決めました。『エリックじいさんの不思議なブレスレット EMBRACELET』は少年のひと夏の成長譚ですが、僕ら40代からするとあの夏に帰りたいと思ってしまうような、ノスタルジックな空気が感じられ、これもパブリッシングすることにしました。両作ともポイント&クリックADVという懐かしいジャンルで、とてもいいストーリーなので、僕ら40代ぐらいの方から若者まで、幅広く楽しんでもらえると思いますよ。
───両作は5月に国内で発売を迎えましたが、売上や反響はいかがでしたか。発売後について聞かせてください。
小林氏:
どちらも長らく日本語版が出ていない状態でしたので、発売前には日本やアジア圏のユーザーさんからは、楽しみにしていますとポジティブな反応をいただきました。発売後には、日本語のローカライズの一部が上手くいっていなかったこともあり、結構シビアな感想もありましたが、反応としては半々ぐらいですね。またモバイル版とNintendo Switch版では、Nintendo Switchユーザーさんからの反響が非常に多かったです。モバイルよりコンソールのユーザーさんに刺さるタイトルだったのかなと思っています。
───発売後の反応を受けて、考えていることなどはありますか。
小林氏:
ローカライズの難しさを感じました。『少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milky way』も『エリックじいさんの不思議なブレスレット EMBRACELET』も今後のタイトルも、日本語に関してはもっと時間を取り、しっかり見ていきたいなと思っています。
───ちなみに、発売済みの2作と『ポーラトピア』も含めてやさしさ三部作という風にプロモーションされています。ですが、『ポーラトピア』には、前二部作とのつながりはないんですよね?
小林氏:
我々のインディーゲームプロジェクトは、世界中から面白いものを見つけ、グループのグローバルネットワークを活用し、広く伝えていくことがコンセプトの一つです。そうしたなか、最初の三作の世界観に、チームのキュレーションカラーが表れていると感じておりまして。コロナによる分断や停滞で自分自身を見つめ直す機会が増えた人たちに、そっと寄り添えるような作品群に自然となっていたなあと。
ベースはレトロ
───グラビティゲームアライズさんは、どういったパブリッシャーを目指しているんでしょうか
小林氏:
グラビティゲームアライズのインディーゲームパブリッシングとしては、ベースの部分で「どこか懐かしくてどこか新しいゲーム」を、幅広いユーザーさんに届けたいと思っています。現在、インディーゲームのパブリッシャーは弊社を含めて数ありますが、そうしたなかで「グラビティゲームアライズから出ているゲームなら間違いないよね」といってもらえるような。インディーゲームならあのパブリッシャーだよね、の一つに入っていきたいと思っています。
───タイトルピックアップの基準、グラビティゲームアライズとしてのパブリッシングにおける哲学などはありますか。
小林氏:
タイトル選びの基準としては、「どこかしら懐かしさがあるもの」でしょうか。個人的な話になりますが、僕は今で言うレトロゲームに、ファミコン時代からリアルタイムに触れ、コンソールのゲームと共に大きくなってきた人間です。なので、自分が体験してきたレトロゲームの面白さをコアに持っているインディーゲーム、というのはひとつの大きな選定基準になっています。
今ピックアップしている中で、ポイントアンドクリックADVでいうと『クロックタワー』とか。『Grid Force – 女神の仮面』だったら『ロックマンエグゼ』。タクティクスなら『ファイナルファンタジータクティクス』や『ファイアーエムブレム』。ベースのメカニクスなど、40代以降に刺さるどこかしら懐かしい要素はあるけれど、新作として遊んで楽しく、今の時代のクオリティや求められているものに合致していて、20代から30代ぐらいの層にも遊んでもらえるような、古さと新しさのバランスが程よいものをピックアップしていきたいです。
───「古さと新しさのバランスが程よいタイトル」のヒントになると思うですが、小林プロデューサー自身がインディーとレトロゲームで好きな作品を教えてください。
小林氏:
インディーゲームだと、メトロイドヴァニアばっかりやっています。『Hollow Knight』や『Touhou Luna Nights』もやりました。一番好きなのは、『Ori and the Blind Forest』ですね。体験版のオープニングで号泣して、そのまま買ってプレイしたのを覚えています。レトロゲームではSTG全盛期の世代なので、未だに一番好きなのは『グラディウス2』ですね。コナミ矩形波倶楽部(くけいはくらぶ)さんの手がけたBGMがすごく好きで、今も出社の時にずっと聴いています。あと最初に面白いなと思ったのはアイレムさんの『快傑ヤンチャ丸』です。ゲームセンターでプレイして、それがすごい好きでしたね。
───今現在、インディータイトルのパブリッシャーが多くなっています。最初の2作はアジア向け展開でしたが、今後はグローバルパブリッシングで展開されていくんですよね。グローバルパブリッシングは、アジア向け展開よりも難しいと思いますが、スムーズに移行できた理由などはあるのでしょうか。
小林氏:
アメリカ人のメンバーや社外の開拓チームが僕のプロジェクトに入ってくれたことですね。グローバルパブリッシングなり、売り方なりが、一気に拡大した理由ですね。そのメンバーたちは、とにかくゲームに対する知見をたくさんもっています。業界自体にも長く関わっているので、いろんなところに知り合いがいて、いろんなところで繋いできてくれて。この素晴らしいチームのおかげで、今までアジア圏でやっていたのが一気にグローバルにつながったという感じです。
───グローバルパブリッシングでは、よりしっかりした開発者へのバックアップが必要になると思うんです。そこら辺をどうクリアされているんでしょうか。何が背景にあるのでしょう。
小林氏:
弊社はバックボーンがしっかりしています。ほかのパブリッシャーさんの事情はわかりませんが、たとえばレベニューシェアをお支払いますとか、一般的なビジネスの中で払われないことはないので、そうした安心感は要因の一つだと思います。もう一つ、上述の専門チームが細かくケアしてくれていることも、大きな要因だと感じています。今までは僕一人でやっていたのですが、僕は英語をとても喋れたり、コミュニケーションがすごくできるわけではないので、サポートやコミュニケーションに時間がかかっていたんです。専門チームを築いたことで、サポートやコミュニケーションがどんどん進むようになり、手厚くデベロッパーさんをケアしてくれているので、徐々に信頼が積み重なり、うちとやりたいと言って頂いている部分があるのではないかと考えています。
───今後のタイトルにつきまして。グラビティゲームアライズでは、展開プラットフォームについてはどのように考えておられるのでしょうか。
小林氏:
今後、モバイルに加えてコンソール/PCに最適化したゲームプレイのタイトルが増えていきます。モバイルに絶対出さなきゃみたいな意識もないので、コンソール/PCでいろんな方に楽しんでいただけたらなと思っています。
今後
───今後展開するタイトルについて紹介をお願いします。
小林氏:
次にリリースを予定しているのは、『ポーラトピア』という白クマ親子のスライドパズルゲームです。親グマが子グマを助けに行くという物語で、救助に成功した際には、子グマを抱きしめるアニメーションが、かわいいイラスト調のデザインで描かれています。Steam版を8月9日にリリース予定で、Nintendo Switch版についてもリリースの準備をしています。内容としてはすごくシンプルなスライドパズルなのですが、とても可愛らしいデザインのゲームなので、色んな人に楽しんでいただけるかなと思っています。
その次のタイトル『NecroBoy : Path to Evilship』はパズルアクションゲームです。主人公のネクロボーイは、死せる魂をネクロミニオンとして蘇生できるんですが、本作ではミニオンに指示を出し、魂たちを使役することでパズルを解き、ダンジョンを進んでいきます。さまざまなゲームからインスパイアされているので、プレイ感から過去にプレイしたゲームを思い出す方もいるかもしれませんが、結構骨太なパズルが用意されており、ゲームプレイの進行にあわせてだんだん難しくなってきます。僕もステージ6ぐらいで結構詰まりました。それと本作では、いわゆる中二病の主人公のストーリーが描かれるので、物語も含めて幅広い方に楽しんでいただけるかなと思っています。本作は、まずSteamでリリース予定で、そのあとNintendo Switchの流れで展開していく予定です。
その次には、『Grid Force – 女神の仮面』というタイトルをリリース予定です。ジャンルとしては、グリッドベースRPGシューターと呼んでいます。マス目の中を移動して敵と撃ち合うゲームになっています。キャラクターの育成などもあり、漫画のような表現でストーリーが進行する点も特徴でしょうか。20年ぐらい前からゲームを遊んでいる方には、懐かしいプレイフィールかもしれません。
さらに次にリリースを予定しているのは『Live By The Sword: Tactics』というタクティカルRPGです。クラシックなSRPGを現代風にアレンジしたタイトルなので、『ファイナルファンタジータクティクス』や『ファイアーエムブレム』シリーズなどに親しんできた方には、入りやすいタイトルかなと思っています。特徴的な点としては、本作ではプレイする度にキャラクターのレベルが一定の状態から始まり、プレイヤーの戦略次第で難しいバトルがクリアできるようになっています。また本作はオンライン対戦に対応しており、チェスや将棋のような感覚で知らない誰かと対戦が可能です。
続けて、『River Tails: Stronger Together』は、2人協力プレイのアクションアドベンチャーゲームです。ネコと魚が協力して、2人の協力プレイで進んでいく作品になっています。友達同士でワイワイ楽しめるようなゲームデザインを目指しています。本作では、フランスでアニメーターとして活躍していた方が開発に参加しており、キャラクターデザインやアニメーションのクオリティの高いので、見た目でも楽しんでいただけると思います。
最後に、これも開発中のタイトルで『Alterium Shift』というRPGです。開発中ながらひと通りのストーリーを開発者から伺っているんですが、なかなか期待できる内容です。最初にデモ版をプレイしたんですが、昔懐かしいJRPGを彷彿とさせるゲームになっています。なので、昔のスクウェアさんやエニックスさんのRPGが好きだった方は、懐かしくも新鮮な気持ちでプレイしていただけるのではないでしょうか。
まとめ
───最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
小林氏:
弊社では、インディーゲームパブリッシャーとしてビットサミットに出展中です。タイトルとしては、インディーゲームの部署からは、これから発売予定のもののデモ版やプレイアブル版のロムを出します。『ポーラトピア』は動画のみの出展になるんですが、『Grid Force – 女神の仮面』『Live by the Sword: Tactics』『NecroBoy : Path to Evilship』はプレイアブルで設置しています。それ以外にも、『ポーラトピア』と同じデベロッパーさんの作品で、現在事前登録中の『フォレストピア』や、今開発中の『KAMiBAKO – Mythology of Cube –』『うぃず・きゅっぱ』も展示しています。会場にお立ち寄りの際は、弊社のブースにも足を運んでいただけると嬉しいです。
───ありがとうございました。
[インタビュー・編集] Ayuo Kawase
[文] Keiichi Yokoyama