『ハースストーン』開発者メディア合同インタビュー。「殺人事件」というテーマや、久々登場の新カードタイプについて聞いてみた


Blizzard Entertainmentは6月28日、デジタルカードゲーム『ハースストーン』の新拡張版「ナスリア城殺人事件」を発表した。実装は太平洋夏時間8月2日を予定している。これに合わせて、今回取材の機会をいただき、『ハースストーン』の開発メンバーであるCora Georgiou氏(Game Designer)とValerie Chu氏(Senior Narrative Designer)へ、新拡張版の内容に関するメディア合同インタビューをおこなう運びとなった。本稿では、その模様をお届けしていく。


――今回の拡張パックの題材は前回からうってかわって「殺人事件」となっていますが、このテーマにした理由を教えてください。

Cora氏:
そうですね。確かに前回の拡張パック「深淵に眠る海底都市」と比較するとかなり違うテーマとなっています。ただ、マーダーミステリーを題材にした拡張版を作ることはずっと私の夢だったんですよ。子供の頃からミステリー小説を読んだり、ミステリーを題材にした映画やテレビ番組を見たりすることが好きでした。ダークで恐ろしい題材をハースストーンにぴったりな面白おかしい形で表現できることが非常に楽しいと感じていますし、実際にとても相性が良いテーマであるとも思っています。

――このタイミングで「殺人事件」というテーマを選んだ理由を教えてください。2回目の拡張だからですか。それとも発売時期が夏だからでしょうか。

Cora氏:
両方の理由が少しずつ混ざっていると思います。去年は1年を通して(傭兵の成長をテーマにした)長い物語を紡ぎました。最初から3つの拡張版をつなぎ合わせようというアイディアがあったのです。それは素晴らしい結果をもたらしました。そして今年はかなり久しぶりに、3つの拡張版それぞれを通して、さまざまな世界観や物語を語る機会に恵まれたのです。私は怖い話が好きですし、とても楽しいと思うので、丁度よいタイミングだと感じています。

――4年前に発表された拡張版「妖の森ウィッチウッド」は、もともと「ギルニーアス急行殺人事件」というタイトルになる案があり、今回と同じくミステリーを題材とする予定でしたよね。本拡張版に引き継がれた要素はありますか。

Cora氏:
私は「妖の森ウィッチウッド」の時点でデザインチームに所属していませんでした。ただ、最初に「ナスリア城殺人事件」のアイディアを出し始めたころ、拡張版の舞台となる場所を(『World of Warcraft』の世界)から決める必要があり、皆がいつも提案してくれたのは「ギルニーアス」でした。でも最終的に合っていると考えついたのは、『World of Warcraft』の拡張版「シャドウランズ」における「レヴェンドレス」エリアであり、ナスリア城でした。今回の拡張版である「ナスリア城殺人事件」は「妖の森ウィッチウッド」に似た題材であることは確かです。両方とも不気味な拡張内容になっていますし、他よりも少しダークな印象を持っているかもしれません。

「ギルニーアス急行殺人事件」というタイトルがボツになったことに関しては、Valerieさんの方が当時の状況について詳しいと思います。ただ、私の知る限りでは、不気味な森とおとぎ話風の設定や、キーキャラクターである「魔女ハガサ」の存在が、最初に予定されていたマーダーミステリーという題材に合わなかったのだと思います。


――新しいギミックである「推理」※についてお聞きします。3択からカードを当てるにあたって、流行のデッキタイプや、デッキタイプごとに採用されやすいカードの知識がなければ、効果的に使えない印象を受けました。「推理」は知識に関わらず、全プレイヤーが使えるようなデザインなのでしょうか。

新ギミック「推理」……発動すると、問題(いま手札にあるカードはどれ?など)と共に3択の形でカードが提示され、正解すればアドバンテージを得ることができる。

Cora氏:
「推理」は何度も議論を交わしたデザインです。本拡張のキーキャラクターである「マーロック・ホームズ」を描く上で、いろいろと推理して謎を解いていくというキャラ造形にしたかったので、実際にゲームでもプレイヤーに手がかりを推理してもらうことにしました。そしてもちろん、メタゲームの知識があり、相手のデッキがどのような内容かわかっているならば、手がかりの謎を解くことが楽になるでしょう。

ですが、たとえば「マーロック・ホームズ」なら、カードを多く消費している終盤まで温存しておくことで、(メタゲームの知識が少なくとも)問題の正解を導き出すことができるはずです。そして何より大事なのはこれがゲームであること。プレイヤーには楽しんでもらいたいのであって、正解しなくてはいけないストレスを与えたいわけではありません。


――新しいキーワードである「吸魂」の効果について詳しく教えてください。

Valerie氏:
「吸魂」はカードごとに書かれた一定数のミニオンが場で死んだときに、手札の「吸魂」つきカードが「吸魂態」に変化し、アップグレード効果をもたらします。カードを「吸魂態」に変化させることはミニオン同士の戦いに集中することに繋がり、盤上の戦いを促進することに貢献していると思います。普通ミニオンが倒されてしまうと心配したり悲しんだりしますよね。でも本拡張版の舞台である「レヴェンドレス」では正しくカードを使う事によって、その死が力を与えるかもしれません。これをみなさんが楽しんでくれると思うと本当にワクワクします。

Cora氏:
「吸魂」は手札にあるときだけ効果を発揮します。カードテキストにも明確に「手札にある時に味方のミニオンがX体死ぬとアップグレード」と書かれています。たとえば「屍のプリースト」が手札にあるとします。カードテキスト中にある「吸魂」の後ろに書かれた数のミニオンが死ぬと、そのカードが「吸魂態」へアップグレードされ、追加効果が発動されます。「屍のプリースト」の場合はステータスアップ。そしてカードイラストも一新されます。手札にある間にカードが変身する様子は「ダークムーン・フェアへの招待状」で登場したキーワード「変妖」に似ています。


――今回初登場となる新しいカードタイプについて詳しく教えてください。

Cora氏:
新しいカードタイプの名前は「場所」といいます。「凍てつく玉座の騎士団」における「ヒーロー」カード以来の新カードタイプなので私たちも興奮しています。これはもう内部では数年間、いろいろと形を変えつつ試行錯誤してきました。少なくとも「荒ぶる大地の強者たち」の頃はすでに盤上で起動する効果としての模索が始まっていました。そして今回「ナスリア城殺人事件」において、私たちが気に入った形を見つけました。

「場所」カードはミニオンでもない、呪文でもない、盤上に置くタイプのカードで、攻撃力と体力の代わりに耐久値と起動効果を持っています。場所カードをタップすることで効果を起動することができます。マナコストなしに効果は起動できますが、すべての場所カードは一度使うと1ターンのクールダウンが必要になります。効果を発動すると、耐久値が1減ります。0になれば消滅します。場所カードには体力もなく、攻撃もされません。カード効果で破壊されず、呪文やヒーローパワー、ミニオンの効果の対象になることもありません。(狙ったタイミングで使用できる効果という点で)ある意味、盤上に置けるヒーローパワーと考えてもいいかもしれませんね。

このカードタイプの実装に至るまでの考えとしてはまず、私たちが作り出す拡張版における、いろいろな世界観をみなさんに紹介したかったということがあります。特にナスリア城にはスポットを当てたい場所が多く、原作の『World of Warcraft』ではレイド※中のプレイヤーがかっこいいルーンを城のあちこちで見ることができたのです。それを今回「晩餐会」というテーマに沿って紹介できたらいいなと思っていました。それと同時に、プレイヤーがゲームのどの地点でも効果を発揮でき、成立が確約されることが目に見えてわかる新しいカードタイプを作りたかったのです。

※10人~30人のプレイヤーが協力して攻略するコンテンツ。ナスリア城はパッチ9.0に実装されたレイドであり、2021年初期の主力多人数コンテンツだった。


――「場所」カードは今後の拡張でも追加されますか?

Cora氏:
今後も「場所」カードは登場し続けます。これから先の拡張でも可能な限り「場所」カードを使い、拡張の世界観をお見せしようと思います。あまり「場所」カードが多くならないよう慎重に作っていきたいとは思っていますが、少なくとも「ヒーロー」カードよりは多めに作っていく予定です。そのため、これから先はどんどん見かけることになるでしょう。

――『World of Warcraft』の「シャドウランズ」拡張では新たなデスナイトが登場していました。「ナスリア城殺人事件」の舞台は『World of Warcraft』の「シャドウランズ」拡張に登場したロケーションということで、デスナイト関連のカードにも期待していいでしょうか。

Valerie氏:
今回の拡張においては「レヴェンドレス」エリアに登場するキャラクター、たとえば「デナスリアス陛下」や「レナサル太子」といった面々に、「マーロック・ホームズ」など『ハースストーン』でおなじみの顔ぶれを加えました。彼らが今回の主役であるため、スポットは主に彼らに当たることになります。拡張では、ほかにもいくつかの見慣れた顔ぶれが容疑者などにいるかもしれませんが、今回は「レヴェンドレス」エリアのキャラクターに注目してくださいね。

――今回は「殺人事件」をテーマに「シャーロック・ホームズ」モチーフのキャラクターが登場する話ということで、実際に犯人は登場するのでしょうか。また、「モリアーティ」をモチーフにしたカードはありますか?

Valerie氏:
今回のキャストは「デナスリアス陛下」や容疑者たち、そして「マーロック・ホームズ」と人数がかなり多くなっています。そして謎解きの先陣を切るのが「マーロック・ホームズ」となります。ネタバレはあまりしたくないのですが、いろいろとドンデン返し的な展開も用意してあります。さらに「マーロック・ホームズ」の知能はあまりにも凄いので、現状ではライバルと呼べるキャラクターはいないと思っています。

「モリアーティ」のカードは考えましたが、モリアーティをネタにマーロック系のダジャレを考えることが難しすぎて私たちにはできませんでした(笑)

――ではワトソン役は登場しますか?

Cora氏:
「マーロック・ホームズ」のカードイラストをよく見ると、肩にお友達のカエルが乗っていることがわかりますよね。彼の名前は「ワトフィン」です。


――今回登場する新カード「レナサル太子」の効果について質問です。「自分のデッキ枚数と体力は40になる」と書かれていますが、なぜ40なのでしょうか。開発エピソードがあれば教えてください。

Cora氏:
実はこのカードには裏話があるんです。「荒ぶる大地の強者たち」のミニセット「慟哭の洞窟」を作っていたときの話です。ミニセットに登場した「大ドルイド・ナラレックス」というカードを覚えていますか?開発当初では「大ドルイド・ナラレックス」に「40枚のデッキになる」効果を与えていました。それは私たちにとってかなりお気に入りであり、ワクワクする要素であるとも思っていました。ですが、いざ実戦でテストしてみるとあまり強くなかったんですね。

そして今回「レナサル太子」のデザインに取り組んだ際、面白そうだったのでゲームのルールを少し曲げてみようかなと思ったんです。裏方には40枚のデッキを組み上げるシステムを実装する技量があったので、思いのほか楽に「レナサル太子」を作ることができました。ただ、40枚のデッキを組み上げることへのご褒美的な何かがまだ必要であるとも感じていました。個人的には40枚のデッキを組めること自体がご褒美であるべきだと考えていますが……そういった事情で体力を10追加することが良い落とし所だと決まりました。こうして「レナサル太子」が生まれたのです。

――以前より開発陣のみなさんは「今後、盤面で戦うゲームメイクを促進したい」という旨のメッセージをSNSで発信しており、実際にその成果はデッキタイプの流行として現れてきていると思います。その一方で、「完全に相手の行動を捌き耐えきる」、昔ながらのコントロールタイプのデッキは減ったと感じます※。今後もそのようなデッキは登場しないのでしょうか。

※現在のコントロールタイプの数多くは、明確なゲームフィニッシュプランを用意し、ゆっくり時間をかけてそれを遂行し勝つことが主流である。「耐え」がメインではない。

Cora氏:
(私としては)今と昔、両方のデッキタイプを共存させることは可能だと思います。仰るとおり、現在では昔ほど、相手のデッキ枚数が0になるまで耐え抜くコントロールウォリアーのような戦略は流行していません。これには私たちが楽しく派手で極め技的なカードをデザインすることが大好きだということも関係しているだろうし、実際にそういったカードはとてもドキドキする展開で試合を終わらせています。かといって、消耗戦を勝ち抜くタイプのデッキが存在すべきではない、とは言っていません。私はそのようなデッキも絶対に存在すべきだと思っており、盤上の戦いを主とする環境なら成功すると思っています。特に、除去を戦略として活用できるデッキならば、より成功が見込めるでしょう。

こういった理由から、昔ながらのコントロールタイプのデッキを完全に排除することはないと思います。消耗戦が好きなみなさんは心配する必要はありません。私たちもそのデッキタイプが気に入っているのです。でも同時に、我々としては盤上のゲームプレイを推奨したいんです。現在の流行でも見られる一撃必殺型のコンボデッキを減らしたいのです。それは今年度の最初に「深海に眠る海底都市」で目指したことですし、さらに言えば、今年度を通しての最重要目標にしようとしています。

よって、この先も似たような方針で開発運営は進むでしょう。そしてコンボデッキの流行がもう少し廃れるようなメタゲームが展開されれば、コントロールデッキが栄えるチャンスが出てきます。特に、小型のミニオンを駆使するウォーロックのデッキや、盤上戦をベースにするドルイドデッキの人気がでれば、その可能性は高いでしょう。「ナスリア城殺人事件」がもたらす結果に注視してみてください。満足すると思います。

――今年のロードマップを確認すると、まだ明かされていないアップデートがありますね。これはハースストーン全体に関わるものでしょうか。それとも体験を快適にするものでしょうか。

Cora氏:
たしかに謎ですね。私の直感では、現状ではまだお話できる状態ではないです。でも今年度の全体像をデザインしはじめた時、さまざまな仕様に着手しています。それらはとても素晴らしい仕様になっています。その一部は今回の拡張の公開と同時にお披露目されます。いろいろな仕様にワクワクしてもらえると思いますし、すべてのプレイヤーにとって最善の体験を提供するべく、プレイの最適化を今年の目標の主軸として掲げています。去年は「マーセナリーズ」の実装で大きな一年となりましたが、今年はいろいろなモードを通してすべてのプレイヤーが遊びがいのあるコンテンツを提供するべく、サポートを強化していきたいと思っています。

――国内では拡張版の発表の際、最初に注目するのはPVという印象です。今回のPVのコンセプトを教えてください。

Cora氏:
ネタバレをせずに言うと、「深淵に眠る海底都市」のPVと比べるとかなり違ったPVに仕上がっています。そして「デナリアス陛下」のファンのプレイヤーにとっては非常に楽しめる内容になっているはずです。見慣れた顔も出てきますし、今回の拡張で狙っていた不気味な雰囲気もきちんと表現できています。とても素晴らしい出来のPVだと思いますよ。

――これは質問ではなくお願いになってしまいますが、バトルグラウンドモードに大型アップデートがあった際、拡張版を公開したときのようなPVが欲しいです。コミュニティも盛り上がると思います。

Cora氏:
そうなったら私たちも嬉しいですね。実のところ、私は個人的にもバトルグラウンドが大好きなんです。もちろんネタバレはできませんが、テストプレイも含めて、たくさんバトルグラウンドをプレイしています。私とValerieはバトルグラウンド開発チームには入っていないので、彼らの計画がどんなものかは知りません。でも、私たちもバトルグラウンドのPVを見てみたいですし、実現したらとてもクールです。Blizzardのストーリー&フランチャイズのチームがカットシーンを作るときは必ず素晴らしいものが出来上がってきますからね。だから何を作るにしろ、彼らが作る機会があれば凄いことになるはずです。「ナスリア城殺人事件」ではバトルグラウンド特有の素晴らしいコンテンツも用意しています。バトルグラウンドを楽しんでくれるプレイヤーがとても多いことに感動しています。


――6月26日に久々の国内公式オフラインイベントが開催されましたが、今後も継続する予定はありますか?

Activision Blizzard Japan 古賀氏:
計画としては、今年以降も継続して、できるかぎり皆様との交流の場を持っていこうと考えています。ただ実現するどうかについては、新型コロナウイルスの状況を鑑みた上での判断になることをご了承ください。

『ハースストーン』の新拡張パック「ナスリア城殺人事件」は太平洋夏時間8月2日実装予定。これに合わせて、通常よりお得なパックの先行購入を受け付けている。詳しくは公式サイトをチェックしてほしい。