Nintendo Switch『グランダイバー!~がんばれ!ツルハシくん~』開発者インタビュー。アークシステムワークスの挑戦的な本気タイトル、開発経緯などを訊く

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アークシステムワークスは6月11日、『グランダイバー!~がんばれ!ツルハシくん~』をNintendo Switch向けに発表した。可愛らしいキャラクターデザインが目を引く一方で、ジャンルはローグライク掘削ストラテジー。ジャンル名からはハードコアなゲームプレイを予感させる。実際のところ、筆者が事前に少し遊ばせてもらった範囲では、1プレイ内での戦略やリソース管理、瞬間の判断などが求められる硬派なゲームプレイが印象に残った。しっかりやりごたえが備えられていそうな本作であるが、一体どんな作品なのだろう。本稿では、アークシステムワークスの手がける本作について、開発チームへのインタビューを通して掘り下げてきたので、その内容をお届けしよう。


──まずは自己紹介をお願いします。経歴やアークシステムワークスの中で好きなタイトルもあわせて伺わせてください。

前田亨(以下、前田)氏:
本作で開発ディレクターを務めている前田と申します。これまでアークシステムワークスでは、『BLAZBLUE』シリーズなど格闘ゲームタイトルにプログラマーとして携わってきました。アークシステムワークスに入ったきっかけでもあるんですが、弊社のタイトルでは『GUILTY GEAR』シリーズが好きです。『GUILTY GEAR XX #RELOAD』の最初の頃は、ゲームセンターでプレイしていました。

前田亨氏


古谷亮輔(以下、古谷)氏:
本作でプロデューサーを務めている古谷と申します。これまでは受託開発が中心で、主にバンダイナムコエンターテインメントさんのタイトルに携わってきました。『ドラゴンボールZ 超究極武闘伝』『ONE PIECE 大海賊闘技場』『ドラゴンボール ファイターズ』のそれぞれディレクターをやっています。変わったところだと、『シェフィ-Shephy-』というカードゲームのデジタル版のディレクターも担当してきました。アークシステムワークスの中で好きなタイトルは、『GUILTY GEAR Xrd -SIGN-』です。ビジュアルに受けた衝撃が忘れられません。

古谷亮輔


──『グランダイバー!~がんばれ!ツルハシくん~』について、改めて紹介をお願いします。

前田氏:
プレイヤーが主人公のツルハシくんを導いて、地中の最深部にあるレア物質を入手するゲームです。ジャンルは「ローグライク掘削ストラテジー」と呼んでいて、ミックスジャンルの作品となっています。ステージ中には、至るところにエネミーが潜んでいます。プレイヤーは道中でピットという中継基地を作りながら、地中を掘り進めて最深部を目指します。中継基地には、いろいろなお助け機能があり、レベルアップや回復が利用可能です。また、道中で拾える素材を持ち帰ってツルハシくん用の強化パーツをクラフトする要素があります。ステージに関しては毎回自動生成されるので、遊ぶ度にランダムなステージを自分なりの攻略で進めていくようなイメージです。

特筆すべき要素としては、応援エネルギーがあります。本作ではプレイヤーがボタンを押すことで、ツルハシくんを応援できます。ツルハシくんは応援を受けると、一時的にバフを受けますし、ゲージが溜まると必殺技を出すことも可能です。応援エネルギーや中継基地といった要素を駆使しながら下に向かって進んでいくのが基本的なサイクルで、最部を目指してストーリー仕立てのステージを攻略するようなゲームになっています。

──本作のどういった要素がローグライク要素にあたるのでしょうか。

前田氏:
本作は全部で7ステージあるのですが、ステージ中の地層と敵の配置はランダムです。ツルハシくんのレベルが挑戦する度にリセットされる点も、ローグライク的だと思います。またこれはハクスラに近い要素として、持ち帰った素材を使ってツルハシくんのパーツをクラフトすると、ランダムなスキルが付与されます。付きやすいスキルの傾向などがパーツごとにあるのですが、スキルの数値はランダムなので、自分なりのパーツでツルハシくんを強化して、ステージの攻略を目指していくようなイメージです。


掘っていく行為が面白い

──企画当初の『グランダイバー!~がんばれ!ツルハシくん~』について伺わせてください。どういったきっかけから企画が生まれていったのでしょうか。

前田氏:
当時はプログラマーとして別のタイトルに関わっていたんですが、少し手があいたタイミングで社内企画募集があり、募集に何か出してやろうとライトな企画書を書いたことがきっかけになります。企画自体の成立としては、僕はそもそも何か掘っていくゲームが好きで、掘っていくゲーム自体を昔から結構プレイしていたんです。古くは『ディグダグ』なども掘っていく要素があり、「掘っていく行為が面白いんじゃないか」という意識が、潜在的にはありました。そこで、かわいいキャラクターが地面を掘って進んでいったら楽しいんじゃないか。そいつを応援するゲームは面白いんじゃないだろうかと考えて、企画書を書きました。

そうした経緯から生まれたので、当初は「がんばれ」とツルハシくんを応援して、ツルハシくんが掘って下に行ってくれたら嬉しい、というような内容でした(笑)最終的にゲームとして強化していくにあたって、カスタマイズ要素や戦略性などいろんな要素を追加していったんですが、最初のインパクトとしてはシンプルさや「なにこれ」という雰囲気で目に止まった部分もあると思います。それと最初は「がんばれツルハシくん」という企画名だったんです。すごく日本的な名前なので、最終的に主題は「グランダイバー」になったんですが、「がんばれツルハシくん」という名前をどうしても残したかったので、副題になっています。

──本作の開発はどのように進められたのでしょうか。開発チームの規模や人数、開発期間について教えてください。

古谷氏:
開発メンバーが一番少ない時期は、ディレクターとプログラマーを兼ねる前田と、プランナー1人の2人でした。企画自体が「社内企画募集」での前田の提案から始まったので、企画を固める段階ではかなり人数が少なかったのです。そこにプロデューサーとして僕、グラフィック面のサポートとして1人が入り、一番多い時期でも社内では10人いかないぐらいの規模でしたね。また開発期間については、企画固めの期間が長く、1年弱ぐらいかかりました。その後、本格的に始動してからは10か月程度経っています。

前田氏:
「社内企画募集」に出した段階では綿密に練られた企画ではなかったので、企画固めの期間が長くなりました。本格的にゲームとして作るにあたり、想定していない要素や改善点がたくさんあり、そうしたところを少人数で詰めていたので、時間がかかった形です。

──「社内企画募集」について伺わせてください。アークシステムワークスさんでは、社内での企画募集が頻繁におこなわれているのでしょうか。

古谷氏:
大きいタイトルの進行中はできないのですが、何年かに1度落ち着いたタイミングで、社内から企画が募集されています。アークシステムワークスには、もちろんゲームを作りたくて入った人が多いので、自分の考えたゲームのアイデアを出せる場があるわけです。ただ「社内企画募集」を経て形になった例はあまりなくて、そういう点で本作は異例の作品となります。

──なぜ「社内企画募集」を経て形になった作品は少ないのでしょうか。

古谷氏:
アイデアが面白そうだと認められて本格的な開発が始まるのですが、企画固めの段階でダメだと判断されたものはなくなっていってしまいます。アークシステムワークスのゲームとして世に出すためには、少なくとも一定のクオリティを担保しなければならないですから。本作は、開発が最後まで進むタイトルが少ない中で、珍しく最後まで開発が進んだ形です。

──では、本作が最後まで進められた要因はなんだと思われますか。

前田氏:
珍しいジャンルのタイトルで、石渡(*1)から「ちょっと可能性を感じるよね」とジャンルや内容の珍しさに期待を持ってもらったことでしょうか。またクオリティ面では、スタッフと集中してクオリティをあげようと頑張りました。だいたいの企画が途中でクオリティのラインというか、ハードルを超えられずに先に進めない中、本作ではへこたれずに前に進んでいきました。細かい部分では、特にこの部分のクオリティが高いとかもあったりはするんですが、気概を見せたところが評価されたのかなと思っています。気合と根性ですね。後半になっても、社内の壁がまだいくつもあって折れそうになったんですが、そこで折れなかったのが勝因だと思っています。

*1:
石渡太輔氏。『GUILTY GEAR』シリーズでは、ゲームデザイン/キャラクターデザイン/サウンドなどを担当する、アークシステムワークスの取締役。

──やはり企画成立を賭けて森さん(*2)や石渡さんと対戦されたりするんでしょうか。

古谷氏:
戦って勝つことはできないので、仲間になってもらいます(笑)

*2:
森利道氏。『BLAZBLUE』シリーズの1作目と3作目のキャラクターイラストを担当した、同シリーズのプロデューサー。アークシステムワークスの取締役。

──(笑)話が逸れるのですが、アークシステムワークスさんは、格闘ゲーム以外のジャンルのゲーム展開についてはどのように考えていますか。

古谷氏:
出していこうと思っているんですけど、やはりユーザーからの信頼感とかそういう部分も大きいので、いきなり格闘ゲームと同規模で新しいジャンルをやるのも難しいところはあります。割と昔から格闘ゲーム以外のタイトルは出していて、ニンテンドー3DSの時代にはすごく出していたので、格闘ゲーム以外のタイトル出していることを知っている人もいるのですが、それがそこまで認知されていないのが現状です。


可愛くてクセのあるキャラクターと、ハードな掘削ストラテジー

──ユニークなジャンル名はどのように決まったのでしょうか。

古谷氏:
ローグライク掘削ストラテジーというジャンルですよね。最初の企画段階はアクションパズルとなっていたんですが、考えていくと本作はパズルではない。難易度が『GUILTY GEAR 2 -OVERTURE』ぐらい難しいよと社内でいわれた時代がありまして、その当時はアクションがジャンルに付いていたんですけど、今はアクションでもない。そんな感じでさまざまな変遷を辿り、ローグライク要素やストラテジー要素がゲーム性として強く出ていることから、最終的に今のローグライク掘削ストラテジーというジャンルになりました。

──『GUILTY GEAR 2 -OVERTURE』ぐらい難しい時代があったんですか?

前田氏:
最初の頃は、もっと意識配分が忙しい感じだったんです。たとえば今では、アイテム欄を開くと時間が止まりますが、最初の頃はアイテム欄を見ていても時間は進行したままで、石渡に『GUILTY GEAR 2 -OVERTURE』レベルの難しさのゲームだなと言われました。今は時間が止まるので、落ち着いてプレイできるようになっています。

──本作の強みや魅力は、ずばりどこでしょうか。

前田氏:
本作では中盤ぐらいで、普通に進めていくと「どうしたらいいんだろう」と戸惑うような、大きな壁にぶつかります。そこをどうやって乗り越えるか。どういう準備をして、どういう戦略で突破していくかが、大きなポイントだと思います。ステージの中で上手くリソースを集めて、レベルアップによって突破していくこともできるんですが、途中のステージ5ぐらいで難しくなってきます。そうやって壁に直面した時には、拾った素材を使い新しいアタッチメントを作成したり、ステージごとの特性にあわせてアタッチを装備したりで、クリアしていくのが基本的な流れです。

またそうした、どうやってゲームを攻略するかという部分が、本作のハードな要素です。一方で、キャラクターはすごくかわいいデザインになっています。ストーリーや可愛いキャラクターを取っ掛かりとしてゲームに触れ、ハードな要素で考えてもらって、壁を超える気持ちよさを味わってもらいたいと思っています。

──本作にはかなり個性的なデザインのキャラクターたちが登場していますが、キャラクターデザインについてはどのように決まったのでしょうか。

古谷氏:
「がんばれ!ツルハシくん」という可愛いタイトルだったので、見た目は可愛くしようと最初から決まっていたんです。世界観としては地球じゃないところを舞台にしたくて。見た目がまったく地球人と同じだと、ただ舞台が地球じゃないだけになってしまう。なので、異星人要素を取り入れ、わかりやすく異星人感を出そうとしました。最初のデザイン段階では、キャラクターにはもっと異星人要素が入っていたんですが、そこまで異星人でなくてもいいかなと削った結果、異色肌の女の子や獣人など、異星人要素がキャラクターの特徴として残った形です。またキャラクターの配置として、メイン博士はツルハシくんの生みの親というかお母さんポジションなので、そういったイメージもデザインに含まれています。

──本作の開発にあたって参考にしたタイトルなどは伺わせてください。

前田氏:
具体的に参考にしていたものとしては、初期の頃に『ダンジョンメーカー』のエネミーデザインを取っ掛かりにしていました。可愛いけどちょっとクセのある感じのエネミーデザインはどうだろうと。それと『ミスタードリラー』であったり、そのあたりのタイトルは参考にというほどではないですが、チームの中では共有していました。

古谷氏:
クセがあるけど可愛いという方向性で、敵キャラクターのデザインに影響が残っています。

──開発にあたって苦労したポイントはありますか。

前田氏:
Nintendo Switchで快適に動作させることです。本作では、ゲームエンジンUnreal Engine 4(以下、UE4)を採用して開発しています。ただUE4でかつNintendo Switchだと、普通に作ってしまうと携帯機なのでフレームレートが下がってしまったり、処理負荷がかかると快適に動作しなかったりといった問題がありました。それをいかに抑えるか。快適に動作させるための試行錯誤が大変でした。

イメージとしては、UE4自体には色んなものに対応するためにさまざまな機能が用意されているので、ツルハシくん用に必要な機能を削り出していくような感じです。UE4では情報があるにはあるんですが、深く細かいところまで見ていかないと見つからなかったりするので、そのあたりの調査の上で調整を施し、最終的にはゲームエンジン自体も少し調整しています。またアークシステムワークスではUE4を採用したタイトルが多く、社内のプログラマー/エンジニアに使い慣れている人が多いです。会社としてはUE4のノウハウがあると思っていて、何かに集まった時にいろんな人に聞けますし、情報が少ない中で社内で色んな人に聞いたりとか、僕自身の触ってきた経験も踏まえて、そうしたノウハウがあれば、Nintendo Switchでもいける手応えがありました。

───特に自信のあるゲームのポイントはどこでしょうか。

前田氏:
操作を気持ちよくできるところです。やはりブロックを掘るという基本的な動作は気持ちよくないといけないので、その部分には特にこだわりました。開発初期段階だと入力が全然上手くいかないこともあったのですが、処理落ちによって入力漏れてしまうと、どうしてもプレイフィールが悪くなってしまいます。操作が気持ちよくできるように、気をつけて実装しました。


本気のプロジェクト

──Nintendo Switch向けということですが、ハードについてはどのように決定されたのでしょうか。また、今後のマルチプラットフォーム展開は検討されていますか。

古谷氏:
Nintendo Switchがプレイヤーさんの数が多いので、一番多いところにしようとシンプルに決まりました。ほかのプラットフォームにも展開していきたいのですが、まずはNintendo Switch版が売れてほしいということで頑張っています。

──本作にはコンテンツとしてリッチな箇所が見受けられます。本作の規模感と合わせて、コンテンツとしての狙いを伺わせてください。

古谷氏:
本作は、独特な新しいジャンルの作品です。アークシステムワークスは格闘ゲームであればある程度どんな内容であっても、「アークシステムワークスの格闘ゲーム」というブランドで、お客さんは見てくれます。一方本作はアークシステムワークスのゲームではあるものの、お客さんにとって知らないジャンルのゲームなので、会社としては実績や信頼がありません。そういった状態なのでお客さんに「本気のプロジェクトなんだ」「しっかり自信をもっているプロジェクトなんだ」とアピールするために、すごい人を使ってるんだと思ってもらえるような人に、工夫してやっていただきました。

──これまで格闘ゲームのプログラムを担当してきて、本作で役立ったノウハウなどはありますか。

前田氏:
あるとすればゲージでしょうか。本作には、ツルハシくんを応援すると溜まるゲージがあるんですが、そこが少し格闘ゲームっぽいかなと思います。また格闘ゲームの開発ノウハウというほどでもないものの、応援ゲージのチャージをする要素やどこを見るかといった視線のプレイングなど、UIのところでは役立っているのかなと思います。それとユーザーさんに見えないところでは、ほかの格闘ゲームで使ってる画面に表示する仕組みも、ですね。テキストやUIなど、基本的なゲームに使う表示は、これまで培ってきたノウハウを適用できているところはあります。またツルハシくんのUIに関しては、メーターチックなものが多いですが、コックピット感というか、そういうところは意識してやっていたりします。


かわいいだけじゃない

──本作をどのような人に遊んでほしいですか。

前田:
先程から話しているとおり、本作はキャラクターが可愛いデザインになっています。敵も特徴のある可愛らしいデザインで、それを見てまずはゲームに触れてほしいです。ゲーム内容はハードな部分もありますので、可愛らしい部分を起点に、ゲームのハードなところに触れていただければいいなと思っています。

またハードなゲーマーに対しては、本作はしっかり戦略を練ってプレイする作品だと伝えたいです。ツルハシくんは、ステージに挑戦するごとにレベルがリセットされますし、ツルハシくんに対する指示やレベルアップに共通のリソースを使います。また何度もプレイして素材を持ち帰り装備を作ったり、攻略にあたって何を持ち込むか考えたり、ゲームプレイにおいてすごく考えるところがあり、骨太な部分をしっかり作り込んでいます。

死ぬとレベルがリセットされますし、何を持ち込むか考えたりとか、中でもポイントを使って指示を出すので、指示もなるべくポイントを減らしてレベルにしたりとか、考えるところがすごくあるので、そういう骨太な部分はもちろんあります。やり込める人はむちゃくちゃ考えるんじゃないかなと思います。

──ありがとうございました。

『グランダイバー!~がんばれ!ツルハシくん~』は、Nintendo Switch向けに6月30日発売予定。価格は税込1650円。公式サイトなどが公開中だ。



※ The English version of this article is available here

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