ダーク三國死にゲー『Wo Long: Fallen Dynasty』Team NINJA 安田文彦氏&山際眞晃氏インタビュー。『Bloodborne』Pが『仁王』チームの新作づくりにもたらす影響
稀代の戦国死にゲー『仁王』が世に出たのは2017年。続編である『仁王2』は2020年に発売。そして今年はIPのイメージに囚われない作風を採用した『STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN』がスクウェア・エニックスから発売され好評を得ている。すっかり「死にゲー」メーカーとしても名を挙げたTeam NINJAであったが、未だその歩みはとどまることを知らず。彼らが向かう次なる地点は新たな時代。新たな国。新たな死にゲー。コーエーテクモゲームスの十八番である「三国志」を世界観のベースにした高難易度アクションゲーム『Wo Long: Fallen Dynasty』(ウォーロン フォールン ダイナスティー)が現在開発中であることが、このたび正式発表された。
元SIE JAPAN Studio所属であり、『Bloodborne』など著名作のプロデューサーを担当した山際眞晃氏をメンバーに加え、さらなる飛躍を図るTeam NINJA。この新作発表に際して、弊誌は本作の開発を務める安田文彦氏と、山際眞晃氏の両名に対し、『Wo Long: Fallen Dynasty』開発への思いや作品コンセプトに関する部分についてインタビューを敢行する運びとなった。本稿ではその模様をお届けする。
──本日はよろしくお願いします。ではさっそく、単刀直入におうかがいします。今回なぜ『仁王3』ではなく、完全新作として「死にゲー」を制作するに至ったのか教えてください。
安田氏:
「仁王」シリーズが1、2と世に出てきて、実はもともと(本作は)シリーズの延長線上にある「三国志」作品として世界観を検討していました。ただ「仁王」シリーズの独自のアクションや妖怪なども含めて、日本が舞台で侍が主人公であるという部分は重要なポイントなので、それを変えるのであれば新作を作るべきだと考え、完全新作のタイトルとして制作を始めました。
──ティザームービーを拝見したところ、蝗害(イナゴによる災害)を思わせる表現や、古い中国風の衣装を着た人物が怪物に変化したりする部分があるなど、旧作との違いとして、ビジュアル面での特徴づけが大きく感じられました。
安田氏:
今作は後漢時代の中国が舞台で、三国志における歴史上の英雄たちが登場しますし、「妖魔」という設定の強大な敵も登場します。それらを通してリアリティのある部分とダークファンタジーを両方描き切りたいと思っています。「仁王」シリーズと一緒じゃん! と言われたらどうしようと思っていたので、映像だけからでもしっかり変化を感じていただけて良かったです(笑)
──多対一の集団戦がフィーチャーされていたり、王朝の皇宮らしい建物が背景に写ったりとモチーフを通じたビジュアルの変化は強く感じますね。
安田氏:
歴史モノといっても日本の戦国時代や中国の三国時代はコーエーテクモゲームスの得意な分野ではあるので、美術的にもこだわって作っている部分を感じ取っていただけたようで安心しました(笑)
──ティザー内で黄巾賊のようなモチーフが登場したり、「臥龍鳳雛」からタイトルを採用したりと、三国志の中でも後漢に近い時代を選んだのは本作ならではの特色を出したかったからでしょうか。
安田氏:
確かにティザー内で登場した黄巾は、三国志が好きな方にとって目を引くイメージではありますが、黄巾賊に関連する事件だけを描きたいというわけではありません。本作のタイトルの『Wo Long』は漢字で書くと『臥龍』、日本語の「隠れた龍」という意味で採用しました。これには無名の主人公を含め、三国志における後の英雄たちがまだ世に出ていない頃の活躍を描くというテーマが込められています。実際に本作では、黄巾賊との戦い以外も描かれます。
山際氏:
本作はオリジナルストーリーですが、歴史をもとに構成しているので、三国志が好きな方にはニヤリとしてもらえる展開になっていると思います。
──多種多様な作品が世に出る中で、死にゲーという言葉は完全にありふれたものになりましたが、お二方が考える死にゲーの魅力を教えてください。
山際氏:
死にゲーの魅力はやはり「達成感」だと思います。難しさはあくまで乗り越えた先にある達成感のためにあるので、「困難」がどれだけフェアに感じられるか、理不尽で無いように感じられるかが大切です。そうでないともう一度挑戦しようとか、繰り返し遊んでみようと思わないですからね。『Bloodborne』でもこの点は制作やプロモーションにおいてかなり意識していました。その上で、より強い達成感をプレイヤーへいかにして与えるのかという部分が、タイトルごとのオリジナリティになっていくのだと思います。
安田氏:
『仁王』『仁王2』を作ってきた経験で言うと、開発者側とプレイヤーとの知恵比べのような部分があると思っています。プレイヤーがクリアできない難易度のゲームを作ることもできますが、それでは面白くない。よく例えで使うのですが「辛いラーメン」って美味しくないとまた食べたいとは思わないじゃないですか。辛くて腹を壊すだけでは二度と食べたくはならない。辛いだけではなくてちゃんと「旨味がある」「美味しい」っていうことが大事だと思いますし、「美味しい」と思ってもらえる前提が「フェアさ」だと考えています。それがきちんと実現できている作品が「良い死にゲー」ではないかなと。
──その上で、『Wo Long: Fallen Dynasty』が死にゲーとして、他作品と差別化できる点や強調したい魅力を教えてください。
安田氏:
Team NINJAは『NINJA GAIDEN』などの純粋なアクションゲームを作っていて、「ソウル」シリーズや『Bloodborne』のようなタイトルに影響を受けて、アクションRPG制作に挑戦したのが「仁王」開発の始まりでした。
『Wo Long: Fallen Dynasty』は、中国武術を軸にした中華アクションを描く意味でも、原点に立ち戻って「仁王」シリーズよりもアクション性が高いものにしたいと考えています。もちろん、RPG要素をなくすという意味ではなく、作品としての軸足を「仁王」シリーズよりもアクション要素に寄せるということです。よりプレイ感やバトルスピードを早め、プレイヤーがさらに没入できるような…先程のラーメンの例えで言うならば、トッピング全部盛りではなくシンプルで、辛いけれど美味しくてついつい手が止まらなくなる、そういったゲームにしたいです。
もともとTeam NINJAが得意としているのは、そういうゲームだと思います。かといってピュア過ぎるアクションゲームだと、アクション操作や素早い反応が苦手なプレイヤーには敬遠されがちなので、「仁王」シリーズで積み上げたノウハウを活かし、RPG要素だったり、オンライン要素で、幅広い攻略法やセーフティネットは構築しています。
──「仁王」シリーズではハックアンドスラッシュ要素を活かし、ステージを周回するかたちでゲームの長期性、プレイボリュームを演出していましたが、本作ではいかがでしょう。アクションの違いなども教えてください。
安田氏:
完全に遊び方が変わるというわけではありません。本作も幅は広がっていますが、基本的にはリニアで、ちゃんと密度、強度の高いレベルデザインになっており、しっかり没入して遊んでもらうかたちですね。
山際氏:
アクション面で目指したのは、死と隣り合わせのぎりぎりの戦いの中でも、中国武術らしい流れるようなアクションで華麗に舞う、自分のプレイに酔いしれるような感覚です。 プレイヤーの気持ちを高揚させるケレン味のある演出によって、難度による達成感とは別の価値をバトルに感じてもらいたいですね。
安田氏:
「仁王」シリーズでは、どんなアクションをするにしてもスタミナが必要でしたが、本作にはそういった制約が基本的にありません。自身と相対する敵の状況は強く意識しなければなりませんが、上手くやればずっと攻め続けることもできますし、それを上回ってくる敵との攻防を楽しんで貰えると思います。
──Team NINJAが開発に協力し、発売された直近の作品である『STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN』では、難易度設定を設けるなど、高難易度作品であると共に、プレイヤーに対する間口を広くとる意図が見られました。今作を制作する上で何か影響はありましたか?
安田氏:
『STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN』に難易度を実装したのは、『FINAL FANTASY』とタイトルに付く以上、アクションゲームだけでなくRPGをよく遊ぶプレイヤーなど幅広いターゲットを意識しないといけない、とスクウェア・エニックスさんと協議してきたことが一番の理由でした。そこで、RPGらしい装備品のドロップ(ハックアンドスラッシュ)の要素が色濃い事もあって、難易度が髙いほど良いドロップが期待できる、という形で難易度を実装しました。
『Wo Long: Fallen Dynasty』では「難易度を切り替える」という設定を想定していません。オンラインプレイや、プレイヤーのレベルアップ要素はありますが、あくまで難易度は1つで、プレイヤーの方が「クリアしたぞ」という絶対的な達成感を誇れるようにしたかったためです。
──ゲームを宣伝、販売する上で、ゲーム配信における、俗にいう「配信映え」を意識したことはありますか。
山際氏:
ゲーム配信であれ、RTAであれ、我々の意図しないところも含めて、好きに遊んでくださっているのが楽しさを生み出しているのであって、開発側が狙うと面白くなくなると思うんですよね。なので、あまり意識したことはないです。個人的には作ったあとはお客様のものだと思っているので色々なかたちで楽しんでもらえるのは嬉しいです。
安田氏:
ゲーム配信の文化に関しては、プレイした人も配信を見る方もそれぞれオンリーワンの体験をして頂けるように、とは考えています。キャラクターの外見などのエディットも幅広く設定できて、プレイヤーアクションも選択肢が多く、敵も完全に同じ動きをすることはほぼないので、プレイしていて絶対に同じ戦い方、同じ死に方、同じ勝ち方はないと思います。そういった幅の必要性に関しては、より意識しないといけない時代だと感じています。
──ちなみに、ハードウェアの性能向上に伴って、新たな表現が可能になった実感はありますか。
安田氏:
たしかに新たな表現が可能になり、ビジュアルやゲームプレイは大幅に改善されています。ただ、本作のようなアクション要素の強いゲームでは、映像の表現力が上がるとフレームレートとのジレンマになる事が多いです。アクションをより緻密にしようとか、背景をよりリアルにしようとか、プレイヤーにより没入してもらおうとすると、何かしら制約が生じてしまう。その制約の上で、どこにプライオリティを置いていくかという悩みは、ハードウェアの性能が向上しても変わらない部分です。
──お二方に関する質問に移ります。山際氏は安田氏と過去に対談などされていましたが、そもそもなぜTeam NINJAに合流することになったのでしょうか。
山際氏:
SIE社では『Bloodborne』などでグローバル規模のタイトルのプロデュースを経験させてもらったので、次のステップとして、そうした経験を活かしたいと考えていました。当時Team NINJAが『仁王』『仁王2』などを通じて、世界に挑戦している段階にみえたので、そこからさらに上を目指していくなかで、自分のこれまでの経験を活かして何か一緒にできることがあるのではないかと安田に相談したことがきっかけです。
──実際に山際氏がTeam NINJAに合流して、お互いの印象の変化や、強みを活かせているという実感はありますか?
山際氏:
Team NINJAは、アクションに強く、手触りなどを大切にするチームという印象でしたが、妥協せずに作りこむ意識は想像以上でした。それが若いメンバーにまでにきちんと浸透しているのはチームとしての強みだと思います。
私のやるべきことは、そうした良さにプラスアルファを加えることで、これまで売るために客観視、言い換えるとお客様目線を意識してきたので、そうした経験をうまくチームにプラスしていきたいですね。
安田氏:
チームへの関わり方については、山際が今言った通りだと思います。Team NINJA全体を統括する私の立場から見ると、山際のいるプロジェクトはあんまりブレないというか。もちろんディレクターの適性もあるので一概には言えませんが、客観的に物事を観ることが一番強みだということは彼が自負しているとおりだと思います。主観がないとゲームは作れませんが、客観性がないと誰も求めていないものになってしまいます。
私が『仁王2』でプロデューサーを担当した時に、作った面白いものをどう伝えていくか苦戦したことがあったんです。そういった部分で、彼は作品の大事にしているところを伝えるという部分に長けているので、大きな力になってくるのではないかと。本作においても宣伝やプロモーションが盛り上がってくるこれからのタイミングで、さらに彼の強みが活かせると思います。
彼が加入した当初、「めちゃめちゃ全員野球なんですね。Team NINJAって」と言われたことを覚えています(笑)絶対褒め言葉じゃなかった(笑)
山際氏:
これ以上ない褒め言葉じゃないですか(笑)
安田氏:
どんだけ全力投球やねん!みたいな(笑)いずれにせよ、客観性をもたらしてくれたという意味で良かったと思います。あと、彼がかつて担当した『Bloodborne』は、私を含め『仁王』を作っていたメンバーもそうだし、最近の新人にとってもそうですが、いまだにトップクラスの人気を誇るゲームですよね。そうしたタイトルに関わった人間が同じチームにいるというのはすごく心強いものだと思います。
──ではゲームの内容について、まだ詳細な情報は出せない段階だと思いますが、可能な範囲でうかがっていこうと思います。本作は三国志の中でも序盤にあたる黄巾の乱から描かれますが、登場する武将とプレイヤーの関係性について教えてください。
山際氏:
まず主人公はオリジナルキャラクターで、名もなき義勇兵という設定です。そこに三国志の武将たちが絡むことで物語が進行していきます。
──単純に物語上にしか登場しない、ということではなく、ゲーム中にNPCとして参戦することもあるという認識でよいでしょうか。
山際氏:
はい。大丈夫です。
安田氏:
おそらくご想像のとおりかと。ゲーム中のいろいろな場面で共闘したり、敵対したりします。
──コーエーテクモゲームスが手がけてきた三国志に関するゲームには「無双」シリーズをはじめ、『三國志』のような戦略を考えるシミュレーションゲームのような要素がシステム上どこかに入っている印象を受けます。本作にはそういった部分はありますか。
山際氏:
「逆境」をテーマとした戦略要素を考えています。今後詳しい情報は出していきますが、三国志らしい戦略と、死にゲーのレベルデザインを融合させた本作らしい要素になっていると思います。
安田氏:
シミュレーションゲームに近い要素でいうと、プレイヤーキャラクターの育成部分ですね。舞台の多くが戦場なので、どのように探索して、どのような経路でステージを攻略していくのかということを俯瞰的に考えるような、従来とは異なる楽しみ方を提供したいと考えています。
──舞台が中国ということで、やはり使用する武器やアクションの内容は大きく変わるのでしょうか。
山際氏:
そうですね。大刀や双剣など中国武術を連想するような武器種はひととおり用意しています。アクションは手触りを重視しているので、いわゆるワイヤーアクションのようなイメージではなく、武術の達人のような動きに近いです。
──『仁王』を中心に、体験版などを通じて、プレイヤーからの意見に積極的に耳を傾ける方針をとっていますが、今回その方針に変化はありますか?
安田氏:
そうですね。「死にゲー」というか、ゲームを作る上でお客様の声を聞くというのは、Team NINJAの方針としてしっかりと続けていきたいです。
──では最後にファンの皆さんへ、お二方から一言ずつメッセージをお願いします。
山際氏:
『Wo Long: Fallen Dynasty』を発表することが出来て嬉しく思います。Team NINJAが得意とする骨太のアクションをベースに、コーエーテクモゲームスでは初となるダークな世界観の三国志を舞台としたアクションRPGとなります。今後SNSなどでも情報を発信していきますので、続報にご期待頂ければと思います。
安田氏:
まず、歴史モノで、歯ごたえあるアクションRPGというコンセプトは「仁王」シリーズと共通する部分なので、期待して頂きたいです。さらに新作として、より没入できて、より密度の高い「死にゲー」体験ができるものになっているのではないかなと思っています。今回は初報ということで、発表する情報を絞っていますが、今後どんどん情報を出していきたいので、楽しみにして頂きつつ、ゲームに触れる日を待っていただければと思います。
──ありがとうございました。
このインタビューのあと特別に、開発段階にある『Wo Long: Fallen Dynasty』の実機プレイを、山際氏の操作のもと見せていただいた。詳細は控えるが、筆者が受けた印象としては、少なくとも『Wo Long: Fallen Dynasty』は『仁王3』ではなく、それでいて『仁王』シリーズの進化系にある作品だということだ。
インタビュー中に言及されていた、「旧作よりアクションに比重を置いている」「スタミナ消費はない」「ケレン味のある、流れるような中国武術風アクション」という要素によって、『仁王』から続く爽快感の高さはそのままに、「仁王」シリーズとはまた異なった緊張感のあるアクションが画面上に繰り広げられていた。映像の描画力も向上し、インターフェースの変化も相まって、画面が旧来よりも広々と感じられるなか、本作ならではの新しい遊び方も確認できた。思わず山際氏が握るコントローラーを横取りしたくなるくらいに、開発中であれど、期待のもてる内容であったことをここに報告したい。新たな情報公開、そして試遊体験の機会が待ち遠しい限りである。
ダーク三國死にゲー『Wo Long: Fallen Dynasty』は2023年発売予定だ。