『ダンジョンエンカウンターズ』開発者インタビュー。本作に対するユーザーの評価やあの“数値問題”について訊いた

 

スクウェア・エニックスからPS4/Nintendo SwitchおよびSteam向けに発売中の『ダンジョンエンカウンターズ』。その徹底的に要素を削ぎ落したことで極めてシンプルな外見を伴うようになった稀代のダンジョン探索RPGは、賛否を巻き起こしながらも着実に評価を高めじわじわと中毒者を増やし続けている。今回は、本作のプロデューサー加藤弘彰氏とディレクター伊藤裕之氏へのメールインタビューの機会をいただいたので、開発の経緯と作品に込められた考えやこだわりをうかがった。


賛否が分かれるのは覚悟のうえだった

────この度はありがとうございます。まずは自己紹介をお願いします。

加藤弘彰氏:(以下 加藤氏)
はじめまして、スクウェア・エニックス、プロデューサーの加藤弘彰と申します。レビュー拝見しました。この度は『ダンジョンエンカウンターズ』の構成要素を存分に味わっていただき、そのうえで、思いのこもった記事をありがとうございます! 今回のインタビューも、とても楽しみにしておりました。よろしくお願いいたします。

※ 弊誌では今年11月に『ダンジョンエンカウンターズ』のレビューを掲載。同インタビューの掲載が、本インタビューにつながった。


伊藤裕之氏:(以下 伊藤氏)
今作を手に取っていただき、ありがとうございます。熱い熱いレビューをありがとうございます。記事を読み込んでいくと、何かを求めていたゲームプレイヤーの心の隙間を少しでも埋めることができたのかもしれない、という気持ちになれました。

────光栄です。たいへん楽しくプレイさせていただきました。しかしながら、世間的には本作の評価は賛否まっぷたつに割れている状態です。この評価については納得されていますか。また予想しておりましたか。

加藤氏:
その尖ったゲームデザインから、発売して間もない時期は賛否両論が起こることを覚悟していました。また、発売して1~2ヵ月過ぎたころから、やり込んだ方のレビューなどで、徐々に賛の比率が増えていくと予想し、実際にそのような流れになっているので推移的には納得しています。賛否にかかわらず、「ダンジョンエンカウンターズ」をプレイしていただいたすべての方に感謝です。

────なるほど。最終的には本作が刺さったユーザーによる高評価が前面に出てくると想定されていたということですね。そのようななかで、弊誌レビューをはじめ、ネット上では「骨と皮」だけといった評価も見受けられます。そうした評価を迎合していますか。それとも不本意でしょうか。

伊藤氏:
最初はゲームの構造体、つまり「スケルトン」を作ろうと始まったプロジェクトで、そこに最低限の皮をつけただけですので、的を射た表現だと思います。ちなみに素手に弱いです。


加藤氏:
今回は、ありそうでなかった、時間を溶かすようなプレイ体験を実現するために、とにかくシステム構築に注力しました。結果「骨と皮」だけに見えるという評価には納得しつつも、その実、データ量はナンバリングFFクラスのボリュームを誇り、「着痩せタイプのゲーム」と個人的には思っています。

────それほどのデータ量が内包されているとは思いもよりませんでした。それを指して「着痩せタイプのゲーム」と表現するのは言い得て妙ですね。そんな本作のようにプリミティブな、尖ったRPGを制作されたきっかけは何だったのでしょうか。企画書を通すのに上層部から懸念されませんでしたか。

加藤氏:
発端は、数年前に伊藤裕之さんから「こういうゲームを作りたい」と「プリミティブなRPG」の企画書をもらったところから始まるのですが、プリミティブが故に売るのは難しいと考え、しばらく寝かせる状態になっていました。その後、自分自身の中で「お話や世界観を楽しむRPG」とは異なるアプローチ、つまり「どう攻略するかを考えることが楽しいRPG」を手掛けたいという想いが芽生え、伊藤さんからもらった企画書にそのエッセンスがあったのと、市場的にインディーゲームやダウンロード専売タイトルが出ている状況なので、敢えて尖らせたタイトルを出す価値はあると判断し、プロジェクト化することにしました。

企画書を踏まえての社内評価の大半は、当初の自分と同じ「伊藤さんが作るゲームだからシステムは面白くなると思われるが、見た目が地味で売るのは難しそう」でした。ただ、当時の上長(当時は取締役)だった橋本(真司)さんに、プロジェクト立ち上げの相談をしたところ、「確かに見た目は地味だけれども、こういうチャレンジは必要」ということでプッシュしていただき、松田社長からも同様に理解を得ることができ、開発を本格的に進めることになりました。

────インディーゲームの盛り上がりがプロジェクト化の一因になったというのは熱いものを感じます。では本作のミニマルなデザインは、既存のリッチなRPGから引き算するかたちで作られていったのでしょうか。それとも、ゼロから最小限の要素を足し算していくことで組み立てられたのでしょうか。

伊藤氏:
「プレイヤーキャラクターがアドレスの上にいる」というのがベースとなります。このアドレスを利用して遊ぶことがゲームのコンセプトでしたので、この仕組みに足し算をして組み立てることになりました。

借金はゲーム体験のエピソードの1つ

────危険な特殊攻撃や一部の状態異常などは、しっかり探索をしていけば初めて使ってくる敵に遭遇するよりも早く無効化アビリティを入手できてしまいます。あれは意図的な配置だったのでしょうか。

伊藤氏:
あの配置は、「備えよ、常に」というボーイスカウト精神からきています。「もし備えていなかったらどうなるか」という想像をしてもらい、もしそうなったら「最初に言いましたよね(配置してましたよね)」といわんばかりに先出しにしてあります。

────確かに振り返ってみれば、遭遇した危機のほとんどは、提供されていた情報をないがしろにしたり、備えを怠った結果が招いたものだったように思えます。そのうえで、仲間をその場に置いていかなければならない「石化」の仕様や、「借金」「装備破壊」「食べられ」など、古典的ダンジョンRPGのものよりさらに凶悪な要素のなかで、プレイヤーの反応を見て「さすがにこれはやりすぎた」と思われたものはありますか。

伊藤氏:
石化解除のめんどうくささは反省しています。ただ、完全防御のアビリティがありますので、それに見合った窮地が必要であったことは、ご理解いただけると嬉しいですね。借金については防ぎようがありませんが、ラスボスを倒すことができれば、50万程度の借金はゲーム体験のエピソードの1つに過ぎない、そう感じていただけると良いなと思っています。


────借金は本当に驚きました。そういえば、ゲームルールの根本を揺さぶるアビリティ「仮想エレベーター下り」を配置してある階層が中盤に差し掛かったあたりなのが絶妙だと感じましたが、このことについて試行錯誤はありましたか。

伊藤氏:
今作では、プレイヤーが選択することで、そのプレイヤー自身のストーリーを成立させようとしているのです。このアビリティも、その選択の一つだと思っていましたが、ゲーム性を変えてしまっているようで、次回作があれば最大の検討が必要かと思います。ただ、問題なのは「仮想エレベーター”上り”」の方の入手タイミングだとにらんでいます。アビリティ入手でゲーム性が変わるので、今作は、「前半と後半で2つのゲーム性が楽しめる」と思ってもらえるといいなぁ……。

────敵がアイテムを直接ドロップする他に、ショップの入荷ドロップが設定されているのもとても面白い仕様だと思います。この二重抽選については当初から考案されていたのでしょうか。

伊藤氏:
装備品破壊がある以上、なんらかの方法で、同じ装備品を2つ以上入手できる仕組みにしています。その方法が二重抽選になりました。落としてくれるならラッキーといった感じでしょうか。

────キャラクター自体の能力よりも、圧倒的に装備品の占めるウェイトが高いように設計されていますよね。これはやはり伊藤さんの意向なのですか。

伊藤氏:
今回は、「装備することさえできれば、強さを得られる」というテンプレートを基に設計しました。もちろん、ストレングス等、キャラクターの能力値の要素を用いることもできたのですが、「装備コスト」が最大のテーマだったので、この要素一点に絞り、成長を絡めて今作の形になりました。

────そういうストイックな部分でいうと、キャラクターの背景や世界観などはあえて語らずプレイヤーの想像力に委ねている部分がほとんどですが、設定上ではどの程度まで考えられているのでしょうか。

伊藤氏:
ベースとなるのは「町」です、町民が「お互いをなんとなく知っている」程度に繋がっている町です。その町民がパーティを組んで、ダンジョンという災害に立ち向かうのが今作の世界観になります。この段階までしか決めていませんね。


ダンジョンは一つのマンション

────BGMにロックアレンジしたクラシック音楽を採用しているのも面白い部分ですよね。ぜひ経緯をお聞かせください。

加藤氏:
伊藤さんから、「クラッシック音楽のアレンジをゲームのBGMとして使用すると独自性も出て面白いのでは?という話を、以前、植松伸夫さんとしていて、今回それを実現したい」という話があり、その旨を植松さんにお伝えしたところ、ご快諾。選曲は植松さんと伊藤さんにお任せで、当初はピアノアレンジという話も出ていましたが、植松さんから「ギターアレンジにした方が独自性も出てよいと考えている」との話があり、今回の形になりました。個人的に、ハードロックやヘヴィメタルといったジャンルの音楽が大好きなので、ロック調のギターアレンジは大歓迎でした(笑)。

────階層ごとにBGMが一新されるのも良かったです。ダンジョンの話ですが、VRゲームの世界から飛んできてしまったマカリーや、監獄から脱獄トンネルが繋がってしまったモデナリなど、ダンジョン内は次元の継ぎ目が不安定になっているように思います。他にも同じような経緯でダンジョンへ迷い込んでしまう者たちがいるのでしょうか。

伊藤氏:
私たちも、本当にこの世界の住人かどうか怪しいですよ。この先訪れるシンギュラリティ以降の世界は、ひょっとするとVRと現実が逆転するかもしれません。


────考えてみれば、敵である魔獣がショップをやっているのも不思議です。なぜでしょうか。

伊藤氏:
ダンジョンを一つのマンションと考えてください。ラスボスが管理人で、裏ボスがデベロッパーです。だとするとショップ等のサービスを担当するのはコンシェルジェになります。コンシェルジュは提供側ですので、モンスターたちがあたることとなります。

────なんだかダンジョンの見方が変わりそうです。そもそも本作の物語は、舞台となる町でダンジョンが出現したことに端を発しますよね。本作の世界において、そのような事象は珍しくないのでしょうか。また、人々のダンジョンに対する認識はどのようになっていますか。

伊藤氏:
サンジェルマン伯爵という人物をご存じでしょうか。彼は18世紀頃「200年後の世界に再び現れるとしよう」と言い残し姿を消したそうです。このダンジョンも、時と場所を変えて運命的に出現する存在だと考えています。また、この世界の住人は「ダンジョン」を地震や台風等の災害と認識している想定です。


例の数値問題は数年越しで答えが発見される想定だった

────ダンジョンで遭遇した印象深い出来事はいくつもありますが、なかでも数値問題15と16にはとくに衝撃を受けました。あれはどなたの趣味なのでしょうか。また、あれほど異質かつ高難度な謎解きを採用した意図や経緯についてお聞かせください。

伊藤氏:
数値問題14までは、数学や暗号的な思考の先にみつけられますが、15と16は、その数値を何かの偶然で発見した時に、答えにつながるようなものにしました。何年も後になるかもしれませんが、何かのデータを見ていた時、何かの映像を見ていた時、それを見つけた人……その人だけは立ち上がります。
「どうしたんだい?」と周りにいた人は聞くでしょう。
「こ、これだ!」と、その人は心の中で叫ぶに違いありません。
私もそんな体験がしたいし、プレイヤーの皆さんにもその体験をしてもらいたかったのです。が、しかし、あっさりと見つけられてしまいました。それはそれでよしとします。

────答えを知ったときは、思わず「こんなの分かるわけない!」と叫んでしまいました。それはそうと、本作には『ファイナルファンタジータクティクス』等へのオマージュが随所に見られますが、ダンジョンの階層ごとに異なる世界が広がっていたり、はたまた敵の種類やデザイン、人間とメカとドラゴンによる混成パーティを作れるなど、『魔界塔士 サ・ガ』や『サガ2 秘宝伝説』あたりの影響もあるように思えます。実際はどれほど意識されたのでしょうか。

伊藤氏:
ゲーム製作の知識はこの業界に入ってから培われたものなので、以前のタイトルに傾向するのは、自分にとっては自然な流れでした。なので、特に意識はしていません。

加藤氏:
世界観のベースを中世ファンタジーにすること以外は伊藤さんにお任せしました。そこにロボットや不思議な生き物(ネコ)が登場するなど、単なる中世ファンタジーとは一味違う、伊藤さんらしさが出ていて、とても良かったと思っています。


────ネコ以外のキャラクターの名前は、すべて実在する山かそれに属する地形の名前をもとに付けられていますよね。そこにテーマや意図のようなものはあるのですか。

伊藤氏:
多くのものに名前を付ける時、やはり元ネタがある方が付けやすいと思います。山の名前は神秘的ですので、キャラクター達に敬意を込めて使わせてもらいました。(伊豆に猫越岳があります)

────ネコの名前もしっかり山にかかっていたのですね。ダンジョンへ挑戦する者たちに山の名前が宿っていることに美しさを感じます。そんな彼らの住む世界の文明レベルはこちらの世界でいう15~6世紀の中世ヨーロッパほどだと思っていたのですが、K2000が普通に社会に馴染んでいたり、ルエンゾとントレヤナがROMを身に着けていたり、メイナサルがRPGを知っていたりするところをみると、一部では現代的な文明が存在しているのでしょうか。

伊藤氏:
「マルチバース的な…」で片付くのであれば、それです。もともとパラレルワールドやタイムスリップものが好きですので、ふんだんに入れてみました。


尖った作品のシンクロニシティと続編の可能性について

────本作と同じ時期に発表されたスクウェア・エニックスの『Voice of Cards ドラゴンの島』ですが、本作のコンセプトやスタンスと共通している部分があると思います。開発や発表は示し合わせたわけではなく偶然とのことですが、作品の存在を初めて知ったときはどう感じましたか。

加藤氏:
冗談抜きで「シンクロニシティとはこのことか!」と感じました(笑)同じ会社で、他にも尖ったタイトルがあるのは嬉しかったです。

────本当に偶然の一致だったのですね。はじめはスクウェア・エニックスさんの戦略だと思ってしまいました。そんな偶然の後押しもあり尖ったタイトルとしてしっかり評価されている本作ですが、ユーザーからの意見を受けて、今後アップデートで改善する予定のシステムはあるでしょうか。

加藤氏:
完成されたゲームだと思っていますので、アップデートの予定はございません。今後は、設定のちょっとたした掘り下げネタを公開、プレイしていただいた方々との交流などを通して、コミュニティをじわじわ盛り上げていきたいと考えています。

────潜在的なユーザーもまだまだいると思うので、盛り上がっていってほしいです。さて、最後になりますが、本作を大変楽しくまた興味深くプレイさせて頂いた身としては、やはり続編の構想があるのかが気になります。この作品からは、プレイヤーをまだまだ深みへと誘ってくれる可能性を感じましたので、希望の意味も込めてぜひお聞きしたいです。

伊藤氏:
ユーザーのみなさんと会社が許してくれるのであれば、また違う町にこのダンジョンを出現させたいと思います。その時が来たら、再び熱い熱いレビューをよろしくお願いします!

加藤氏:
システムのベースは出来たので、続編は前向きに考えたいです。時間を溶かす要素はそのままに、お話やビジュアルをもう少しデコレーションして、ちょっと間口を広げるアプローチもありかなと思っています。

────またあのダンジョンに挑める日を楽しみに待っています。本日は、興味深いお話の数々を誠にありがとうございました。

開発者のこだわりと熱意が込められた『ダンジョンエンカウンターズ』は、PS4/Nintendo SwitchおよびSteam向けに発売中。2022年1月7日まで(Steam版は1月6日まで)各プラットフォームのストアにて20%オフのセールが開催中なので、本作が気になっていた方々は、この機会にぜひ一筋縄ではいかないダンジョンへ挑戦していただきたい。




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