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スクウェア・エニックスといえば、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』など超有名タイトルを筆頭に、国内RPGシーンを常に最前線で引っ張ってきた大手ソフトメーカーだ。時代時代の最先端技術を駆使した圧倒的なビジュアル表現とド派手な演出を導入し、数多くの名作を生み出してきた。そのスクウェア・エニックスが、東京ゲームショウ2021でサプライズ発表した新作RPGが『ダンジョンエンカウンターズ』である。

公開されたゲーム映像を見たとき、筆者は目を丸くした。正方形のマスと数字だけで構成されたあまりにもシンプルなデザインのマップを、形ばかりの3Dキャラクターが歩いている。まるで開発が始まったばかりの、骨組みしか出来上がっていないプロトタイプのようなものが、製品として発売されるという。今の時代に、これをほかでもないスクウェア・エニックスが出す点に驚いた。だが、実際に本作を触ってみると、狂気的なまでミニマルを追求したデザインのなかには、たしかにRPGの楽しさの真髄が詰め込まれていた。孤高であり、魅力的な、ほかでは体験できないそのゲーム内容を、本稿で紹介していこう。


贅肉どころか肉ごと削いで骨だけになった外面

本作『ダンジョンエンカウンターズ』を開始してまず意表を突かれるのが、あまりにも淡白な導入である。シンプルなフォントのロゴだけがそそり立つ無音のタイトル画面を進め、任意のセーブスロットを選択すると、「突如現れたダンジョンから這い出した魔獣たちが町を襲い始めた。戦士たちは全滅し、残された市民たちで討伐隊を結成して魔獣たちに立ち向かうことになった」という内容を6行で説明したテキストだけがぶっきらぼうに表示される。そして、本作のストーリーについて明確に語られるのは、これが最初で最後となるのだ。以後、ゲーム中でストーリーが展開していくことは一切ない。あとは、ひたすらダンジョンを潜っていくだけのゲームプレイとなる。


では、キャラクターはどうか。ストーリーが説明されたのち、パーティ編成を促されるので開始してみる。なるほど、人間だけでなく、獣人や犬、メカにドラゴン、猫のような謎の生き物といった個性豊かな面々が揃っているではないか。各キャラクターには、生い立ちやダンジョンに挑む理由などが綴られたフレーバーテキストが用意されていて、そこから本作の世界観を断片的に垣間見ることができる。しかしだ。このキャラクターたちにはわずかな性能差と一部の専用装備があるだけで、個性を掘り下げる台詞などは一切ない。パーティを編成したら、やはりあとはひたすらダンジョンを潜っていくことになる。


本作の核であるダンジョンのデザインはどうだろう。冒頭で触れたように、正方形のマスを組み合わせて表現されており、そのマス上に16進数の数字が浮かび上がっているだけという、極めて飾り気のない作りとなっている。BGMは環境音のみ。この上をキャラクターが移動すると、マスに色がついてマップが埋まっていく。白い数字ならHPや状態異常の回復などといったイベントが、黒い数字を踏めば敵とのエンカウントといった具合に、あらかじめ何が起こるのか予想ができるようになっている。10階層ごとにエリアが切り替わりマップの背景と特徴は変化するが、全99階層が例外なくこのデザインで構築されている。


まさにシンプルここに極まれりといった作りだ。シンプルさはダンジョンデザインだけではなく、イベントブックを閲覧すれば、どの数字でどのようなイベントが起こるのかがすべて事前に把握できてしまう。そこには入手可能な全アビリティ(探索と戦闘で役立つスキルのこと)やレアアイテム、果てはラスボスの名前まで堂々と書かれている。拠点にもある各種ショップでは未入荷のアイテムまで表示されるので、ゲーム終盤でしか入手できないような最強装備が性能ごと分かってしまう。これらの情報は、ゲーム開始直後からすべて開示されているというストイックさだ。システムに全振りしたRPGは伊達ではない。


では、本作はシステム由来の情緒を味わうだけのゲームということになるのだろうか。たしかに、システムの面白さを追求するためにそれ以外のすべてを削ぎ落した設計なのだから、そう考えるのが自然ではある。しかし、プレイヤーの感じ方、捉え方ひとつで本作についての考えも変わってくるだろう。

たとえば、本作ではパーティ編成リストにすべてのキャラクターが最初から揃っているが、そのほとんどはダンジョン内で行方不明になっている。迷っていたり、力尽きていたり、石化していたりと、各々の理由で戦線を離脱しているのだ。仲間にするのではなく、ダンジョンのどこかにいる彼らを発見してパーティに復帰させる形式になっているのがユニークな点であり、そこにキャラクター毎に付与されたエピソードを合わせると、途端に物語性が帯びてくる。

老いから逃れダンジョンに隠れ住む伝説の戦士、主を二度失うことになった異国の剣士、復讐のため殺戮兵器となり戦い果てた清掃メカ……プレイヤーがこのゲームを開始する以前から始まっていた、彼らの物語に想いを馳せることができるだろう。あるいは、わずかなヒントからキャラクター間の関係性を見出してパーティを組んだりするのもいいし、最強格の剣士がダンジョンの奥深くで力尽きているという事実に武者震いするのもいい。

そして、それはダンジョン内の光景とて例外ではない。マス上に浮かび上がった数字はそれだけでは何の感慨も湧いてこないが、砂漠マップに回復の数字がぽつんと配置されていればそれは恵みのオアシスに見え、平原マップにショップの数字が集まった地帯があれば立派なバザールに見えてくるのだ。極めてシンプルな骨格だけの本作ではあるが、このようにプレイヤーの想像力によって肉が付き、血が流れ、脈動が聞こえてくる。外から見えているものとは別の、ゲームをプレイしている者にしか見えない「景色」と「物語」が浮かび上がってくる。その行為こそ、原初のRPGにおける最高の贅沢の一つといえるだろう。


人の心を置き去りにしてきた殺意満点な設計

キャラクターを選び、パーティを編成した。ルールを理解し、装備も整えた。いよいよお待ちかねのダンジョンに潜るときだ。前述どおり、イベントだけでなく戦闘も数字として書かれているので、踏まなければエンカウントは発生しない。それはつまり、戦闘を任意に避けることができるということだ。ダンジョン内に落ちている魔物の情報を集めていけば、バトルブックに反映されていき、どの数字でどの魔獣が出現するのか予測することもできる。情報が開示されていることにより、一見アドバンテージはこちら側にあるかのように思える。しかし、それほど甘くはいかない。このダンジョン、状態異常や敵の特殊攻撃がとてつもなくエグいのである。

まずは、RPGでは定番の状態異常「毒」から。毒といえば、真っ先に思い浮かべる人も多いポピュラーな状態異常だと思われる。あまりにもポピュラーすぎて、「煩わしいが致命的でもない」くらいに考えがちではないだろうか。場合によっては、アイテムやMPの節約を考えて自然治癒するまで放置する程度であるかもしれないが、本作の毒はそんな生易しいものではない。

だが毒の恐ろしさを理解していただく前に、本作の戦闘システムを解説する必要があるだろう。本作では基本的にHPにダメージを与えるためには、まず防御ゲージを削らなければならない。防御ゲージには「物理防御」と「魔法防御」があり、武器では物理防御、魔法では魔法防御にそれぞれダメージを与えることができる。そうやって防御ゲージを0にした状態で初めてHPにダメージが届く。しかし毒は、防御を貫通する。

時間の流れの概念がある本作の戦闘において毒は、ターンに関係なく時間経過と共にHPを直接削っていく。HPのシステムそのものが防御ゲージありきで構築されていることを考えると、その恐ろしさが理解できるだろう。しかも自然治癒することはなく、またアイテムや魔法での治療も不可能。毒を取り除くためには、拠点に戻るかダンジョン内のどこかに設置された毒回復ポイントを見つけるしかない。


さらに、その毒より恐ろしいのが「石化」である。問答無用で行動不能となる石化は、状態異常のなかでも深刻な部類なので、一般的なRPGでも毒と比べると脅威度はずっと高い。本作でもそれは同じだ。しかし、ほかの作品とは決定的に違うところがある。それは、「石化したキャラクターはその場に放置していかなければならない」というルールだ。

「なぜ?」と思うかもしれないが、よくよく考えてみれば、石像と化した仲間を運びながらダンジョンを探索する方が異常だということに気付き、妙な納得感と共に腑に落ちてしまう。もちろん、例によって石化はアイテムや魔法では治療できない。さらに石化に至っては拠点に戻っても治療手段がないので、ダンジョン内の石化回復ポイントを探すしかないのだ。そして、石化回復ポイントを無事に見つけても、それで終わりではない。

ではなにをすればいいのか。まず回復ポイントに石化した仲間が放置されている階層と座標を正確に入力することにより遠隔で回復させる。そして再び石化から回復した仲間の元まで移動して回収しなければならない。なんという回りくどさ。これなら素直に死んでくれた方がまだマシだった、などと鬼のようなことを考えてしまうのも致し方ない。だが、石化したばかりにその場に置き去りにされ、目が覚めたときには皆いなくなっていて、ダンジョンにただ一人取り残された状況に陥る仲間の気持ちにもなってあげよう。手間をかけて仲間をパーティに復帰させたとき、無事に再会できた喜びと安堵に包まれる一行の光景が脳裏に浮かぶはずである。


さて、毒と石化の恐ろしさが十分に伝わったと思うので、そろそろ本番といこう。突然だが、ダンジョン探索の楽しみといえばなんだろうか。それは装備品の入手。ダンジョンを探索し、魔獣を倒し、強力な武器をゲットできたときのあの興奮と恍惚に満ち足りた感覚といったら。とくに本作はダメージ値の上昇がインフレ気味なため、装備品のグレードが上がるたびにガンガン数値があがっていくし、攻撃力と防御力が完全に装備品依存なので、新しい装備品の恩恵と実感がとても大きいのだ。

さあ、それではさっそく試し斬りをするとしよう。すると、敵が見慣れない技を使ってきた。「破壊」。武器が壊されたと表示されたが、経験からいって攻撃力や防御力を減らす技なんだろうと高を括る。しかし戦闘終了後、ステータス画面を開くと、そこには何も装備してない素手のキャラクターが目に飛び込んでくる。なんのことはない。正真正銘の「破壊」だったのだ。このダンジョンには、装備を破壊してくるやつらがいる。希少なキャラクター専用装備だろうが、攻撃力数万の最強武器だろうが、そんなもの魔物には関係ないのでお構いなしに破壊してくる。破壊された装備品は永久に戻ってこない。こんなのRPG法に触れているのではないかとパニックになっても、当然返ってくるわけがない。笑うしかない。


毒も食らった、石にもなった、装備品も破壊された、これ以上まだ凶悪なことが起こるのかとなるが、もちろん起こる。そろそろ感覚が麻痺して楽しくなってきたのではないだろうか。それはもうダンジョンズハイといえるかもしれない。そこに現れるのが「トレジャーリセット」と呼ばれる一匹の魔物だ。見た目はフードをかぶったネズミといった風貌で、大きな袋を担いでいる。レベルは1しかないのに異常な防御力とHPをほこり、大金を落とす。「盗んでくる」と察知したのなら、あなたは優秀な探索者だ。そして、筆者もまた優秀な探索者だった。

こういう敵にはセオリーがある。それは所持金を0にして挑むことだ。はたして戦闘が始まると、思ったとおり相手はこちらの所持金を盗んできた。「残高照会」や「引き出す」といった、ハイファンタジー世界の盗賊よりも現実世界の詐欺師が使ってきそうな技名の生々しさは気になるが、とにかく目論見どおりだ。相手はすぐに逃げてしまうのでなかなか倒しきれないが、こちらも直接的な被害はないので気にしない。しかし、何度か戦ったあと異変に気づいた。0だったはずの所持金がものすごい額に増えている。いや、増えているのではない。マイナスになっている。これは……「借金」だ! このゲームには「借金」が存在する!

盗める金を持ち合わせていないからと余裕の構えで交戦していたが、実際は本人のあずかり知らぬところでみるみる借金をこさえられていたのである。本作は一回の戦闘単位でオートセーブがなされるので、気づいたときにはすでに手遅れ。筆者は地下11階層という序盤も序盤で、50万Gもの借金を背負ってしまった。一度の戦闘で100G前後しか稼げないので、稼いでも稼いでも借金は減らない。ショップに新しい装備品が入荷しても、稼ぐそばからすべて借金の返済にあてられて消えてしまうので、たったの300Gすら払えず、ショーウィンドウ越しにただ羨望の眼差しを向けることしかできない。あまりにも辛い借金苦の人生。次第に目から光が消えていくのが自分でも分かった。

本作は、編成できるキャラクターがいなくなった時点でゲームオーバーとなり、レベルだけ引き継いで最初からゲームを開始できるようになるのだが、最終的に筆者はその仕様を用いて「自己破産」することを選択した。まさかRPGで借金を背負うばかりか、自己破産するはめになるとは思わなかった。一生忘れられない体験である。


こんな具合に、本作はまさに人の心を失ってしまったかのような凶悪な設計となっている。そして恐ろしいことに、これまで書いてきたことはすべてごくごく浅い階層で起こり得る。石化に至っては、まだ治療の術がない段階で発生するのだ。仲間を置き去りにして、いつ発見できるかも分からない治療法を求めてダンジョンを潜っていくしかない手探り感は、かなりのもの。もちろん、深く深く潜っていけば、さらに凶悪な特殊攻撃を持った魔獣や致命的な状態異常、そして考えた人間の正気を疑いたくなるようなトラップが待ち受けている。

レベルが一桁の敵たちがうろつく階層に、平気な顔してレベル90の敵が配置されていたりもする。泣き出したくなるような鬼畜の所業だ。しかしながら、本作は決して理不尽の塊ではないし、高難度でもないのである。説得力がないだろうか。だが、冒頭で触れたように本作はプレイヤーに開示される情報も多く、エンカウントも調整できる。そのうえで対策を練り、準備を整え、慎重に行動し、多少の運を味方につけることで、多くの危険は事前に回避できるようになっているのだ。一見詰んでしまったように思える事態に陥っても、意外とリカバリーできてしまうので、諦めない限り攻略は可能なのだと信じさせてくれる。言うなれば、「親切に殺してくれる」といった趣き。そこまで考えられてバランス調整されているからこそ、起きてしまった悲劇を楽しむことができるのだ。


中盤以降にもたらされるルールの破壊と自由

ここまで書いてきて、まだアビリティについて解説していなかったことに気づく。危険に満ちたダンジョンを探索するための必須要素、それがアビリティだ。白数字のイベントで入手でき、マップを踏破していくと獲得できるアビリティポイントを使って付け替えていく。使用するタイプと所持しているだけで効果のあるタイプの2種類があり、戦闘中にHPを回復できたり、マップ上の敵配置をシャッフルできたり、特定の状態異常を完全に無効にできたりと、アビリティの有無が生存率を左右するといっても過言ではない。

そんなアビリティのなかでも異質なのが、「仮想エレベーター下り」である。これは、アビリティを使用した座標から垂直に下がって最初にぶち当たった床までワープするという代物だ。たとえば、地下1階のある座標で「仮想エレベーター下り」を使ったとして、次にその座標が存在しているのが17階だったとすれば、一気に17階まで下りられてしまうといった具合。はっきりいってぶっ壊れ性能である。入手した時点で、その気になれば最下層まで行けてしまうのだから。

本作のマップは、そのエリアの地形や環境をマスの組み合わせだけで見事に表現しており、単調ながらプレイヤーを飽きさせない作りになっているのだが、それでもずっとダンジョンを潜っていると中だるみしてしまうプレイヤーも出てくるかもしれない。そんな兆しが見え始めるか否かという中盤に差し掛かった辺りで、この「仮想エレベーター下り」は入手できる。ねえ、これで「悪いこと」してみない?そんな悪魔の誘惑のように、人の心が弱った絶妙なタイミングで目の前に現れるのだ。

だが筆者はそんな誘惑には耳を貸さなかった。耳を貸す前にもう悪用していたからだ。それまで1階ずつ下りていたのが嘘のように、まさにエレベーターの如く下へ下へ進めてしまう。明らかなズルをしているという背徳感と高揚感も、格上の敵たちがひしめくエリアを慎重に進む緊張感も、足を置いた瞬間「まだ来てはいけない」と肌から伝わってくるような深層に踏み入ってしまったときの心細さも、それまでの探索では味わえなかったものだ。あとはもう、高レベルの行方不明者を捜索するなり、より強力なアビリティを探し求めるなり、ラスボスに挑みにいくなり、好きに遊んでいいのだ。

この変則的なアプローチが可能になったことで、ゲームルールはいともたやすく壊わせてしまう。しかしそれは、ここまで本作を信頼して遊んできたプレイヤーに対しての開発者側からの信頼のお返しに思える。もしかしたら、ゲームにおける自由とは、開発者とプレイヤーの信頼関係が成立してこそ初めて得られるものなのかもしれない。


自由ついでに、どうしても触れておかなければいけない要素がある。それは「数値問題」だ。これはダンジョン内のイベントとして配置されている謎解きのひとつで、一定の法則に基づいて並べられた数字の空欄をすべて埋めると、強力な装備品やレアアイテムが埋まった座標が表れるというもの。通常では入手困難かつその時点では破格の性能を誇る装備品が入手できる、サービス満点のボーナスイベントといえる。

この数値問題、序盤は少し考えれば解けるくらいのほどほどの難度なのだが、中盤以降に途端に難度が跳ね上がる。数学知識などのゲーム外知識が必須の問題も出てくるので、すべてを自力で解読するのは困難だ。とくにラスト2問に至っては、ゲームにおける謎解きのタブーを犯しているといっても差し支えなく、問題に書かれている数字をネットで検索した程度では絶対に答えへ辿り着けないほどの高難度となっている。

筆者はそのうちの1問がどうしても分からず、何時間も思考の迷宮をさまよった果てに「スクウェア・エニックス本社前のバス停の時刻表ではないか?」という会心の答えを導き出し、一緒に問題の答えを考えてくれていた知人に精神状態を心配されてしまった。実際の答えが“バス停の時刻表ほど狂ったものなのか”は自分の目で確かめていただくとして、ゲーム内にこれほどの破天荒かつ自由な発想の謎解きを採用してしまったことに驚きを隠せなかった。大丈夫なのか?スクウェア・エニックスの最新RPGだぞ?そういう思いが幾度となく去来した。さきほど開発者との間に信頼関係を見出した云々などと言ったが、信頼していた者に突然背後から絞め落とされた気分だった。筆者が甘かった。そうやって、本作の底知れなさを改めて実感したのだった。


スクウェア・エニックスが“尖った”ゲームを出す意義

『ダンジョンエンカウンターズ』というゲームのエッセンスを抜き出し書いてみて、改めてその尖り具合を再認識できた。スクウェア・エニックスの尖ったゲームといえば、ここ最近では『LEFT ALIVE』、それに『THE QUIET MAN』などが鮮烈なまで脳裏に焼き付いている。筆者はどちらも発売日に購入し、ときに笑いときに吐血しながらも大いに楽しんだくちだが、その鋭すぎる内容に身体ごと貫かれ持っていかれたユーザーも数多い。薄々感じていると思うが、本作もまた賛否両論の評価となっている。

ユーザーからの高い評価をもって成功というのなら、決して成功したとは言い難いだろう。ならば、最高峰の技術力と蓄積したノウハウと人気の高いシリーズの資産を活用して、万人に受ける安定した作品ばかりを送り出していけばいいのか。たしかにそれは一理ある。だが、面白いゲームを追求していくには、決して安定だけでは辿り着けない領域があるのだと筆者は思う。どのようなゲームが面白いかということを、我々は知った気でいるようで、実はまだなにも知らないのだ。

そういうまさに未知のダンジョンへ潜っていくかのような行為を、昨今ではインディーゲームシーンが一手に担っている節がある。だからこそ、業界最大手のスクウェア・エニックスが尖ったゲームを出すことに、大きく感情を揺り動かされるのだ。それは、ゲームの探求を変わらず続けているという証明にほかならない。子供のころから大好きなメーカーが、まだゲームを好きでいてくれているという実感が強く湧いてきて、たまらなく嬉しいのである。

本作『ダンジョンエンカウンターズ』も、そんなスクウェア・エニックスがこだわり抜いて磨き上げた一作だ。ここまで読んできて、あまりピンとこなかった人には、おそらく楽しむことは難しいだろう。だが、なにか少しでも心に引っかかるものがあったあなたには、このゲームを楽しむ素養がある。勇気を振り絞り、未知なるダンジョンへ踏み出してみてはどうだろうか。

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