カリプソメディア日本オフィス代表インタビュー。Steam版『トロピコ6』を日本語に対応させた背景や、今後の日本語対応計画を訊く

カリプソメディアジャパン代表取締役上田和弘氏にインタビュー。日本語に対応させた背景や、今後の日本語対応計画について訊いてきた。

カリプソメディア(Kalypso Media)が、2019年に世界向けにリリースした『トロピコ6(Tropico 6)』。同作では、国内向けのコンソール版は発売されていたものの、Steam版は日本語でプレイできない状態が続いていた。しかし、2021年6月に実施されたアップデートにより、日本語音声および字幕が実装。はれてSteam版が日本語でプレイできるようになった。『トロピコ』シリーズのSteam版は、過去作も日本語対応されていなかったため、『トロピコ6』Steam版の日本語対応からは、大きな方針の変化がうかがえる。

その裏には、カリプソメディアの日本オフィス設立の影響がありそうだ。日本オフィスは昨秋 に立ち上げられ、今年に入り本格始動。『トロピコ6』の日本語対応のほか、『ポート ロイヤル4』や『スペースベース スタートピア』の国内発売も発表されている。今回は同社の日本オフィス、カリプソメディアジャパン(Kalypso Media Japan)代表取締役の上田和弘氏に、日本オフィスのことも含めて話を伺ってきた。

上田和弘氏


───自己紹介をお願いします。

上田和弘氏(以下、上田氏):
カリプソメディアジャパン代表取締役の上田和弘です。前職では、ユービーアイソフトのジャパンオフィスで、ライセンス関係のビジネスとデジタルセールスを担当していました。カリプソメディアジャパンの立ち上げに参画したきっかけとしては 、2020年の春頃にカリプソメディアの創業者サイモン(Simon Hellwig氏)から、日本への進出を考えていると聞いたことです。その後、さまざまな相談に乗っているうちに 、最終的には実際に日本でビジネスを始めることになり、流れで私が代表に就任することになったのです。

カリプソメディアは、ドイツが本社の独立系ゲームパブリッシャーです。ドイツに本社とスタジオ、イギリスとアメリカのオフィスなども含めると、世界で約150人のスタッフが働いています。そこへ、アジア初となる日本オフィスを立ち上げました。日本オフィスのスタッフは現在4名と少し手が足りないので、5名ぐらいの体制を目指そうと思っています。

日本オフィスの立ち位置

───カリプソメディアジャパンは、カリプソメディアの完全子会社なんでしょうか。また、本社から見てどういった立ち位置なのでしょうか。

上田氏:
カリプソメディアグループのひとつであり、ドイツ本社の100%子会社です。基本的には、日本向けの販売子会社といった立ち位置になります。カリプソメディアジャパンの役割は、カリプソメディアが海外で発売しているタイトルを、ローカライズして日本で発売することだと思っています。ですので、たとえば「これは微妙だから売るのはやめようかな」といったことは、あまり選択肢としてないですね。将来的に知見が溜まり、発売前に「これは無理だ」と判断できるタイトルがあれば、そういった場合には考えるかもしれません。しかし現段階では、基本的に海外で出しているタイトルを、日本でも販売していく予定です。

───日本オフィスができたことで、何か新しくできるようなことはありますか。

上田氏:
今まで パートナーさんにやってもらっていたことと同じです。 きちんと日本語化して、日本のユーザーさんに対して「こんなゲームが出ますよ」としっかり伝える。普通のことをきちんとやっていくというか、日本のユーザーさんへ向けてしっかりゲームを届けることがメインだと思っています。

また、これまでと異なり自社で販売を担当することで、もう少し細かいところまで手が届くようにできるのではないかと考えています。具体的には、単なるゲームのローカライズだけではなく、ユーザーさんとのコミュニケーションそのものをきちんとローカライズしてお届けすることであったりですね。今は公式Twitterアカウントも立ち上げたばかりで、フォロワーさんを募って いる最中なんですが、日本オフィス独自の日本ユーザーに向けたコミュニケーションや、日本であがっている声を本社へ伝え ことはきちんとやっていきたいです。

ドイツの本社の方でも、日本の状況やユーザーの声を聞きたがっているので、日本のユーザーへ向けた活動をやっていけることを、スタッフとしても楽しみにしています。ちなみに、カリプソメディアは日本のゲームユーザーさんへリスペクトがあるんですよ。


───カリプソメディアは、日本ユーザーへどういった印象をもたれているんでしょうか。

上田氏:
一般的な話になってしまいますが、割とみんな日本が好きです。コンソール機のファーストパーティー3社のうち、2つは日本発の会社ですし、日本のアニメやゲームといったデジタルコンテンツは、海外に知れ渡っているものもかなりあります。ゲーム業界で働いている人は、そういったコンテンツとも親和性があるので、メールで本社のスタッフと話していても「日本のオフィス行きたいな」といった想いが端々に伝わってきます。

また代表のサイモンは、日本ユーザーの『トロピコ』の評価が高いことから、日本のユーザーにはシミュレーションゲームやストラテジーゲームを受け入れるセンスや感度の高いユーザーが多いと評価していますね。『トロピコ』には、ちょっと独特でブラックな部分もあります。そういったユーモアも含めて受け止めてくれているので、日本ユーザーに対してクールなイメージを持っているようです。それと、サイモン自身も日本や日本のゲームが好きです。シミュレーションゲームも大好きなので『A列車で行こう』シリーズにはまっていた時期があったり、『龍が如く』シリーズが好きだったり、新幹線とかに乗りたいとも言っていましたね。

上田氏とカリプソメディアの縁

───上田さんご自身は、気に入っているカリプソメディアのタイトルなどはありますか。

上田氏:
『レイルウェイ エンパイア(Railway Empire)』が個人的に好きです。ユービーアイソフトで働いていたときに買い付けたタイトルでもあるんですが、かなりプレイしていましたし、今でもたまに遊んでいます。アメリカ大陸に鉄道が敷かれ、段々開拓が進んでいく、歴史的バックグラウンドとあわせて展開されるゲームです。経済シミュレーション的にも面白いですし、鉄道シミュレーター的な面白さもありまして、当時のアメリカの機関車もいろいろ入っていたりします。経済/鉄道シミュレーター双方の側面から楽しんでいただけるかなと思います。

───『レイルウェイ エンパイア』が、今回のカリプソメディアジャパン代表就任のきっかけにもなったんでしょうか。

『レイルウェイ エンパイア』のスクリーンショット
『グランドエイジ メディーバル』のスクリーンショット


上田氏:
ユービーアイソフト時代には、カリプソメディアからもう1本『グランドエイジ メディーバル(Grand Ages: Medieval)』というタイトルも買っております。『グランドエイジ メディーバル』のほうが古いタイトルなので、そういう点でいえば『グランドエイジ メディーバル』が最初の縁です。ただ実際には、ゲームショーなどの機会で代表のサイモンと昔から顔を合わせていたので、約10年弱ぐらいは知ってる間柄ではありますね。

───10月にオフィスが設立されてから、半年間の活動について教えてください。

上田氏:
会社が設立された2020年10月からは、会社設立にまつわるさまざまな作業と、日本でタイトルを出すためのローカライズ作業を並行して進めていました。最初のタイトルであるNintendo Switch版『トロピコ6 』は4月のリリースとなりましたが、設立から6か月で最初のタイトルがリリースできたので、順調に来られたのではないかと思っています。

『トロピコ6』のスクリーンショット


───リリースされた『トロピコ6』について、改めて紹介をお願いします。

上田氏:
『トロピコ6』は、カリプソメディアの一番大きなブランドである『トロピコ』シリーズの最新作です。ジャンルは、独裁国家運営シミュレーション。プレイヤーは、プレジデンテとして独裁国家を運営していくのですが、いわゆる独裁者的な統治もできますし、品行方正な政治を心がけることもできて、色んな選択肢があります。どんなふうに国家を支配していくかは、プレイヤー次第ですので、お好みの方法で楽しく独裁国家を運営していただければと思います。

また、『トロピコ6』では追加要素として、世界のランドマーク的なものが建築可能です。たとえば、スフィンクスや自由の女神、日本の彦根城とかも入っています。世界遺産も含めて、はちゃめちゃなところ要素も楽しんでいただければと思います。

───『トロピコ6』が日本オフィスの第1弾タイトルとなったことには、何か意図があるのでしょうか。

上田氏:
『トロピコ6』を意図的に日本オフィスの最初のプロダクトにしたわけではありませんでした。ただし『トロピコ』シリーズはカリプソメディアにとって一番大きなブランドなので、結果的に『トロピコ6』でスタートを切れたのは良かったのではないかと思っています。

『ポート ロイヤル4』


───『ポート ロイヤル(Port Royale 4)』の日本語版と、PC版の日本語対応が発表されました。改めて魅力を教えていただけますか。

上田氏:
『ポート ロイヤル4』は大航海時代のカリブ海を舞台にした交易シミュレーションです。ゲーム内で様々な要因をケアしながら経済圏の拡大や領土支配を強めていく必要がありますので、そのマネジメントを楽しめるゲームだと思います。ゲームシナリオ内での問題を解決し、また複数要因を計画的・長期的にマネジメントして勝者を目指してください。

PC版の日本語対応について

───『トロピコ6』Steam版が、6月に日本語音声・字幕対応を果たしました。ユーザーの反応はいかがですか?

上田氏:
お待たせしてしまいましたが、最終的に日本語化が実現出来たことについて嬉しく思っています。ユーザーの皆様からも、お礼のメッセージをいただくなど、おおむね好評をいただけているのではないかと思います。

───カリプソメディアのPC版タイトルには、日本語対応していない作品が多くあります。今後PC版『トロピコ』シリーズの過去作は、ローカライズされていきますか?

上田氏:
現在カリプソメディアのPC版タイトルは、日本語に完全対応しているものもあれば、日本語に対応していないものもあり、まちまちな状態になっていっています。そうした状況については、カリプソメディアジャパンとしても当然理解しております。『トロピコ』シリーズは弊社の主力ブランドですので、アセット的・リソース的に対応可能かどうか、確認して検討したいと思います。

またコンソール版も含めた話ですが、2020年から2021年にかけて弊社が海外向けにリリースしているタイトルは、順次日本語版を発売する方向で考えています。どのタイトルをいつ発売する、日本語対応するといった具体的なことはまだ言えません。これから順次進めて、適切なところでご案内させていただこうと考えていますので、続報をお待ちいただければ幸いです。

───Steamタイトルの日本語対応については、前向きに検討されているわけですね。

上田氏:
弊社としてもPCを重要なプラットフォームの一つとして認識しています。今まではライセンスで出していたこともありましたが、日本向けのPC版はきちんとケアされていなかった部分がありました。今後は日本オフィスとしても、一つの重要なプラットフォームとして、PC版を扱っていこうと考えています。

───ありがとうございました。

『スペースベース スタートピア』


トロピコ6』はPC/PS4/Nintendo Switch向けに発売中。9月には『ポート ロイヤル4』や『スペースベース スタートピア』もPC/PS4/Nintendo Switch向けに発売される予定だ。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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