少女が「一日」を過ごすADV『すみれの空』開発者インタビュー。外国人スタッフが神戸を訪れた経験からゲームが生まれた

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GameTomoは5月27日より『すみれの空』をPC(Steam)/Nintendo Switch向けに発売中だ。『すみれの空』は、少女スミレが特別な「一日」を過ごすアドベンチャーゲーム。主人公のスミレと精霊のお花さんが、神社や温泉、日本の風景から影響を受けたという美しい自然の中を冒険する。旅の途中で出会うキャラクターたちと交流し、限られた時間をどのように過ごすかによって、さまざまな「スミレの物語」が描かれるという。

同作は、『Cuphead』のローカライズや『Project Nimbus』のプロデュースなどをしてきたGameTomoの完全新作であることや、和をテーマとした題材などが注目を集め、Indie Worldなどでも紹介されてきた。このたびGameTomoの開発チームにメールインタビューをおこない、『すみれの空』の魅力や、初の自社開発に挑んだ同社の開発体制などについてお話をうかがった。

ディレクターのMichael Ely氏(写真左)と、プロデューサーの渋谷啓太氏(写真右)




「一日一日を精いっぱい生きる」ことを描いた作品

――はじめに、『すみれの空』をつくったきっかけを教えてください。

変わっていく世界や人生のなかで、時間だけが過ぎていき、できなかったことの後悔に囚われることはありませんか?ディレクターのMichael (Michael Ely氏)は、そんな誰しもが一度は感じたことがある想いから「一日一日を精いっぱい生きる」というテーマを描きたいと考え、そこから『すみれの空』が生まれました。

GameTomoとしても、ずっとやりたかった自社開発を実現する、という意味では、「一日一日を精いっぱい生きる」というテーマに繋がっている部分があるかもしれません。また、Michaelやプロデューサーの渋谷(渋谷啓太氏)を含む多くのGameTomoスタッフがゲーム開発畑の出身であったため、ゲーム開発についてある程度のノウハウがあったことも制作を後押ししています。


――物語の舞台として、具体的にイメージした日本の地域はありますか?

Michaelが神戸の山中へ旅行に行った時の経験にインスパイアされています。神社や温泉など、日本ならではの自然美を表現したいという思いも込められています。作中に登場する飲食店「Jonny’s」は、某ファミリーレストランを意識しているとかいないとか……。

――「一日」という限られた時間をテーマとされていますが、『すみれの空』の世界では、「時間」はゲームプレイにどのように影響しますか?

プレイヤーはスミレを操作し、早朝から日没まで一日を過ごすことになります。イベントを進めるごとに空の色が変わり、少し時間が進みます。一度過ぎた時間には戻れません。その中でとる行動や選択が後に響いたり、特定の時間でしかできないこともあったりします。

ただ、これはリアルタイムな時間制限というものではなく、あくまでプレイヤーの行動をトリガーとしている「話の区切り」のようなものです。ですから、急かされることなく、プレイヤーの好きなペースで探索したり、お願い事を解決したりしながらゲームを進めることができます。



キャラクターの心を映す「空」と、時間の流れを暗示する「円」の世界

――グラフィックについて教えてください。風景にあるものがどれも生き生きとしていて美しいです。制作にあたって、具体的にどのような点にこだわりましたか?

「空」にとても気を使っています。一日という限られた時間を過ごすというコンセプトのゲームにおいて、時間経過を自然とプレイヤーに伝えるにはこの「空」が一番大事でした。また、時間の経過だけでなく、その時のキャラクターたちの心情も反映させています。

平地ではなく丸い地面も本作の特徴です。この地面は円環状に繋がっていて、一つの大きな円になっています。スミレは時計盤のような世界を右から左へと進んでいくのです。これは本作のテーマである時間の経過、そして過ぎ去っていく過去に抗おうとするスミレを描く物語ともシンクロしています。私たちの一般的な概念では、時間の矢は左から右へと進むものですし、西から東へ進むのは日没の方向でもありますから。

――地面に少しカーブがかかっていたり、右から左へ進行したりすることには、深い意味があったのですね。「円」を表現するのに苦労した点はありますか?

この円環の世界はコンセプトとして興味深いと考えていましたが、すべての背景やキャラクター、エフェクト、アニメーションをカーブしている地面に合わせて作るのは大変な作業でした。絵的に破綻させないためにアーティスト側で試行錯誤が必要でしたし、重力や風といった自然現象も現実世界のようには振舞ってくれません。

プログラマーとアーティストが協力してこのコンセプトの実現にあたりました。リードプログラマーのJon(Jonathan Ross氏)が、カーブした地面に沿ってレベルデザインするためのツールや、キャラクターやカメラをスムーズに移動させる仕組みを開発してくれたのです。結果的には満足のいくものになったのではないかと感じています。


――円環の世界でオブジェクトを自然に見せるためには、複雑な調整が必要だったのですね。体験版をプレイしましたが、左右だけでなく、前後に移動してもカーブに沿って歩くことができました。

もう一つの本作の特徴は、手書きのイラストと奥行のある3D表現が融合した2.5Dの世界です。手書きの温かみある厚塗りイラストの雰囲気を最大限生かしつつ、プレイヤーが自由に散策できるように世界に奥行をもたせたかったのです。本作の背景は、2Dのイラストを飛び出す絵本のように、手前から奥へと並べて奥行をもたせています。しかしこの手法はグラフィックス処理の負荷が高くなりやすく、最適化に苦労しました。一方で、3Dでレンダリングする利点として、フォグや被写界深度など、さまざまなリッチ表現を投入できました。動く絵本のような生き生きとした空気感を感じていただけたら嬉しいです。

ゲーム文化への愛が詰まった音楽

――音楽制作を担当した「TOW」とは、どのように知り合ったのでしょうか。

COVID-19のパンデミックが起こるずっと前に、東京で開催されていたTOWさんのライブに参加したMichaelがそのパフォーマンスに感激して、「いつか自分たちのゲームの音楽を作ってもらえたら……」という想いを抱いていました。やがて『すみれの空』のプロジェクトが始まった後、この世界観に合う音楽を作れるのはTOWさんしかない、ということで、ダメ元で連絡させていただいたのです。幸い、TOW側もゲームという文化を深く愛してくれていたため、すぐに意気投合して一緒に制作を開始しました。


――TOWは、和テイストの音楽を作られていますよね。ゲームの実況動画も公開しているようで、ゲームへの愛が感じられます。
 
先述のとおり、TOWのお二人はゲームという文化自体に対して理解が深かったため、音楽面だけでなく、ゲーム内容についても貴重な意見をくださり、どんどんコミットしてくださいました。そのおかげで多くの要素が改善されたと感じています。

――『すみれの空』は、どのような人にプレイしてほしいですか?

ストーリー主導型のゲームが好きな方、明日はもっといい日になってほしいと願いながら、夢や希望を抱えて生きている方に遊んでいただけたらと思っています。

GameTomoについて

――GameTomoについて教えてください。開発部門は何人規模ですか?

主要スタッフ7名と、外部の助っ人が数名という規模感です。

――とても外国人が多いですよね。日本人と外国人スタッフの比率はどのくらいですか?

ほぼ半々ぐらいですね!いろいろな国からのメンバーで構成されていて、多国籍ならではのさまざまな発想や視点を大事にしています。

――職場の主な使用言語を教えてください。

主に英語ですが、日本語と英語両方がよく飛び交います!

――『すみれの空』の開発は、どのくらいの規模のチームでおこなわれましたか? また、制作期間はどのくらいだったのでしょうか。

開発期間は2年ちょっとになります。初期の頃はスタッフ2名だけで試作していました。やがて形になってきてから、ほかのGameTomoスタッフが開発に加わり、制作に本腰が入ったという感じです。

――PCとNintendo Switchをプラットフォームに選ばれた理由を教えてください。

PCはインディーゲームの最前線として外せないプラットフォームでした。また、直近では『Cuphead』のローカライズや『ロスト・エンバー』のNintendo Switch版といったタイトルのリリースを通じて、手書き風のグラフィックのゲーム、物語メインのゲームが受け入れられる土壌としてNintendo Switchに手ごたえを感じていました。

『Lost Ember』

本作はUnityエンジンを使用しているため、Nintendo Switch向けの最適化が上手くいったことも理由の一つです。開発の中盤からPC版と並行して Nintendo Switch版の検証を始めましたが、最初から驚くほどスムーズに動いてくれたので、チーム一同感動しました。とはいえ、深堀りしていくとボトルネックが次々と見つかったため、グラフィックス負荷やメモリ使用量の最適化には多くの時間が必要でした。最終的には担当プログラマーの尽力もあって形にすることができ、Unityと Nintendo Switch、両方のパワフルさに感謝しています。

――お話いただいたように、『Cuphead』などのローカライズもされていますよね。業務比率として、開発とローカライズではどのくらいの比でしょうか。そのほかにおこなっている業務はありますか?

必要に応じて業務比率は変わりますが、開発の技術的支援であったり、パブリッシング方面のサポートであったり、日英ローカライズであったり、GameTomoでは手広く世界のインディーゲーム開発者のサポートをおこなっています。開発スタジオの事情によって必要なものが違ってくるので、柔軟に対応しています。

――最後に、GameTomoの今後の動きを教えて下さい。

現在、タイ産のメカアクションゲーム『Nimbus INFINITY(ニンバス・インフィニティ)』の技術支援、パブリッシングに注力しています。『すみれの空』リリース後にも多言語化などのアップデートを検討していますので、その方面で動きがあるかもしれません。

そのほかにもまだ未公開のプロジェクトがあります。ご期待ください!

――ありがとうございました。


以上、アドベンチャーゲーム『すみれの空』の開発元GameTomoへのメールインタビューの内容をお届けした。『すみれの空』は、PC(Steam)/Nintendo Switch向けに発売中だ。

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