ドット絵SRPG『フェルシール: アービターズマーク』開発者Pierre Leclerc氏ミニインタビュー。懐かしきジャンル作品をいかに現代的にしたか

DMM GAMESより本日1月28日に国内発売される『フェルシール:アービターズマーク』。懐かしくも現代的に作り上げらたSRPGだ。その開発背景に迫る。

DMM GAMESより本日1月28日に国内発売されている『フェルシール:アービターズマーク』。先行して公開された紹介記事においては、本作が日本産タクティカルRPGへのリスペクト精神に満ち溢れた作風であると同時に、豊富な難易度設定やキャラクターの育成システムなどによって、単なるファンメイドではない、揺るがぬ個性を創出していることにふれた(関連記事)。

では一体、その個性の源はどこにあるのだろうか。また、さまざまなサービスを通じて個人が手軽にゲームを制作可能となった現在。「作品」を「商品」にするには一体どんな手段を用いれば良いのだろうか。本作のリードプログラマーである開発元6 Eyes Studioのピエール・ルクレール(Pierre Leclerc)氏に対し、簡単な一問一答形式のミニインタビューを敢行した。

───まずは自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。具体的には、名前、出身地、本作の開発における役職や、過去のゲーム開発歴などを教えて下さい。

こんにちは!私の名前はピエール・ルクレール(Pierre Leclerc)です。カナダ出身ですが、アメリカに住んで10年近くになります。 現在は主に、フェルシールのリードプログラマーを担当しております。 以前には、Activision、Electronic Arts、Gameloft、Toppsや、小規模なスタジオ、また独立した開発者として働いていました。

ピエール・ルクレール(Pierre Leclerc)氏


───あなたのゲームのプレイ遍歴について教えて下さい。Game*Sparkの過去のインタビュー で好きな作品として『タクティクスオウガ』なども挙げておられましたが、キャラメイク及びやりこみ要素には『魔界戦記ディスガイア』シリーズに似た発想が見受けられます。コンセプト元になる作品達との出会いはいつ頃になり、何故好きになったのでしょうか。

『フェルシール:アービターズマーク』に影響を与えたものについて話をする際には、通常、ゲームプレイ要素に焦点を当てております。その観点からすると、『魔界戦記ディスガイア』シリーズが実際に『フェルシール』に与えた影響はかなり小さかったと思います。ゲームプレイの仕組みがまったく異なりますし、 『魔界戦記ディスガイア』が持つ「チームターン制」※1のシーケンスは、フェルシールの仕組みである「ユニットターン制」※2 とは大きく異なります。


『フェルシール』の核となるインスピレーションは間違いなく『ファイナルファンタジータクティクス』であり、『タクティクスオウガ』などさまざまなゲームからのアイデアやコンセプトが含まれています。(作品群との出会いとしては)それらのゲームが実際にリリースされてから、しばらくの間プレイしていましたね。

日本式のタクティカルRPGに惹かれた理由を正確に言うのは少し難しいのですが、 おそらく、ストーリー、戦略、ユニットカスタマイズの自由度などの素晴らしい組み合わせの部分だと思います。

※1 「チームターン制」…自軍ユニットをまとめて操作するターンと敵軍が一斉に侵攻するターンを交互に繰り返す方式。『魔界戦記ディスガイア』シリーズのほか、『ファイアーエムブレム』シリーズなどが採用。

※2 「ユニットターン制」…特定ステータス値の高いユニット順に行動権が回る方式。

───タクティカルRPGはゲームジャンルの中でも、遊ぶことが難しいイメージが先行しているように思います。開発者様が考えるタクティカルRPGの魅力は何でしょうか。

私たちは独立した開発者なので、自分たちが理想とする作品に対して、自由に制作に取り組むことができます。私たちにとってタクティカルRPGの魅力の1つは、私たち自身がタクティカルRPGに対して非常に情熱を持っているがゆえ、このジャンルのゲーム制作に取り組むことができるのは大きな喜びということですね。また、このジャンルのファンは本当に熱狂的で、彼らとのコミュニケーションも素晴らしいです。


───本作のアートスタイルに関して、ダークファンタジーや中世ヨーロッパの軍記作品の要素だけではなく、スチームパンクの意匠も観られます。さらにキャラクターのディフォルメには、特に表情の部分に関して日本のアニメーションのようなモチーフも感じられます。イメージを作り上げる上で影響された作品はありますか。

私の知る限りでは、アーティストたちは特に、特定の作品からの影響は受けてはいませんでした。『フェルシール』の全体的なアートスタイルはかなりユニークです。このスタイルは、特定の目標を念頭に置いて制作されました。細部を表現するために十分な大きさのスプライトを用いたり、キャラの表情がよりはっきりとするように、頭部はプロポーションよりも若干大きくしていますし、風景の美しさを表現するための手描きの描写も含まれています。

───本作の開発における動機をお聞かせください。

独自のゲーム開発スタジオを持ち、本当にワクワクするようなゲームの開発に取り組むことは、常に私たちの夢でした。そして、これまでもずっとタクティカルRPGの制作に取り組むことを夢見てきました。『フェルシール』は特に本当に好きでやっている仕事なので、主な動機としては、自分たちが理想としている素晴らしいゲームを制作することでした。


───本作のターゲット層を教えて下さい。

間違いなく、多くの層にアピールできるようなゲームを制作しようとしていました。たとえば本作には、プレイヤーが体験をカスタマイズできるように、設定できる難易度オプションがたくさんあります。「イージー」「デフォルト」などの使いやすいプリセットもご用意しております。ストーリーに関しては、大人向けにするよう心掛け、それと同時に理解しやすくすることで、幅広い年齢層が楽しめるようにしました。そうは言っても、このジャンル自体は確かに少しニッチであり、物事を発見したり習得したりと、複雑さも備えているため、おそらくヘビーゲーマーにとってはより魅力的なゲームだと思います。

───たしかに、個人的に本作はヘビーゲーマー向けだと感じました。ターゲット層はどのように決定しましたか。

私たちが目指していたスタイルのビジョンを損なうことなく、できるだけ多くのユーザーにプレイいただけるよう試みました。最終的には、まずは私たちが望んでいたゲームの制作に焦点を合わせ、ターゲット層はそれから派生していった形となります。

───本作は『ファイナルファンタジータクティクス』や『フロントミッション』に代表される、1990年代後半の日本産タクティカルRPGを通じた体験を、現代的なUIで再現することをコンセプトとしていますが、開発者様の考える「現代的」とは一体なんでしょうか。

「最新のUI」という形で表現することができると思います。目標としては、プレイヤーがより多くの情報により簡単に、プレイヤーに負担をかけずに、より少ないナビゲーションでアクセスできるようにすることです。例としては、UI全体で一貫したボタンがあり(つまり、同じボタンが常に同じ機能を果たす)、使用可能なすべてのボタンが常に表示され、戦闘中のユニット、ターン順序などに関する情報が表示されることですね。

───ではその「最新のUI」をどのように作り上げましたか。開発プロセスを教えて下さい。

これまでにプレイしたすべてのクラシックゲームを再度振り返って、現代でも利用できるもの、そして面倒だと感じたものを、すべてリスト化しました。 次に、機能のリスト化とUIのヴィジュアルに取り組みました。そこから、Steamで8か月間の早期アクセスを行いました。これにより、ユーザーから大量のフィードバックや提案を収集することができ、それを元にさらに改善することができました。

───逆に昔らしく古い要素であるとわかっていてもあえて残している部分もあれば、残す理由と一緒に教えて下さい。

UIのどこかに昔ながらの要素があるという感覚はありますが、具体的な部分は思い浮かばないですね。「上手く機能しているのであれば、それを変える必要はない」という言葉があるように、これ以上新しくすることが難しいものに関しては、それをそのまま使用しました。


───スタジオにおけるコアメンバーは二人と聞きましたが、二人という少数ならではの利点と困難について、困難があればその対処方法についても教えて下さい。

確かに、アーティストとプログラマー(妻と私)の2人のコアメンバーからなる小さなチームですが、アートや音楽の部分ではさまざまな請負業者を雇っていました。小さなチームの利点は、管理がしやすい、コストが抑えられる、自由度が高い、大きなオフィスを用意する必要がないという部分です。逆に困難な部分としては、主にいくつかの作業を外注しなければならないということでした。そうしないと、開発プロセスが長期化してしまうのですが、請負業者との作業ではそれ相応にあらゆる種類の課題に直面します。私たちのチームには音楽のエキスパートがいないので、音楽とサウンドに関しては絶対に外注する必要がありましたし、そうしたことには大幅なコストがかかる可能性もあります。

───本作はKickstarterキャンペーンに加え、Steamの早期アクセスも経験していますが、2つのサービスに関する使い方、並びに、サービスを通したユーザーからのフィードバックに関する性質の違いがあれば教えて下さい。

私たちの感覚からすると、2つのサービス(KickstarterとSteam早期アクセス)はまったく異なるものだと思います。 Kickstarterに関しては小規模なものですが、支援者は非常に熱心であり、プロジェクトが実現することを確かめたいと考えているでしょう。 Steam早期アクセスにはKickstarterと比較すると、さらに多くの支援者が関わっていますが、彼らの熱意は少し多様です。初期の開発にかかわりたいという人もいれば、単に低価格を望んでいるだけの人もいます。早期アクセスには非常に多くの支援者がいるため、フィードバックを収集して、ゲームをテストしていくのには便利ですが、早期アクセスを開始するには「実際に機能するゲーム」が必要です。一方、Kickstarterは(個人であれば実現不可能な)プロジェクトをジャンプスタートすることができ、「実際に機能するもの」の提供ではなく、アイデアの提案力が必要となります。ちなみに私たちはデモを用意していました。全体的に、この2つのサービスは異なる目的を果たしていると思います。

───インディーデベロッパーはクラウドファウンディングや早期アクセス、Discordといった、ユーザーからフィードバックを得やすくなるサービスを積極的に利用した方がいいと思いますか。

適切なベータテストは、製品のバランスと安定性の両方の観点から、タイトルの成功に不可欠だと思います。確かに上記のサービスは、インディー開発者にとって、フィードバックを得るのに最適な方法だと思います。これまでも、事前に十分なフィードバック/テストが行われていなかったため、発売後にそのゲームが持つ可能性に到達できない多くの有望なインディーゲームを見てきました。

───本作の翻訳と国内パブリッシングを担当するDMM GAMESとの付き合いはどのように始まりましたか?

私たちのスタジオである6Eyes Studioは、『フェルシール:アービターズマーク』のリリースのため、1C Entertainmentと契約しました。1Cは日本市場でゲームをリリースするために、DMM GAMESと協力しています。

───次回作の構想はありますか。

はい!次は別のストラテジーゲームを検討していますが、フェルシールとは少し異なります。戦術的なRPGゲームよりも少しニッチではなくなりますが、2Dで戦略とユニットのカスタマイズに重点を置いています。このプロジェクトに関しては非常に興奮していますが、まだまだ初期の設計段階です!

───日本のユーザーに向けて一言お願いします。

私たちはゲームをプレイして育ち、お気に入りのクラシックゲームのほとんどすべてが日本のチームによって製作されたものです。私たちは日本のゲーム大ファンであり、『フェルシール』を通して、日本のクラシックゲームに敬意を表したつもりです。私たちが製作を楽しんだのと同じくらい、皆さんにも楽しんで遊んでいただければ幸いです。ありがとうございます!


PlayStation 4/Nintendo Switch/PC(DMM GAME PLAYER)版『フェルシール:アービターズマーク』は本日1月28日より発売中だ 。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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