初代PlayStation時代に生まれた名作アクションシリーズ『クラッシュ・バンディクー』。2017年に初代三部作をリメイクした『クラッシュ・バンディクー ブッとび3段もり!』がリリースされ、その続編としての新作『クラッシュ・バンディクー4 とんでもマルチバース』が昨年10月にリリースされた。
『クラッシュ・バンディクー4 とんでもマルチバース』をプレイした方の中には、難しさに驚いたという方も多いのではないだろうか。シリーズ経験者でも、初プレイでも、硬派なアクションを体験することができる作品だろう。本稿では、難易度設定に関する考えや、初代三部作を受けて追加したという新要素、開発環境などについて、開発元のToys For Bobに伺った内容をお届けする。
回答いただいたのは、Toys For BobのChief Creative Officer/Co-Studio HeadであるPaul Yan氏だ。
───『クラッシュ・バンディクー4 とんでもマルチバース』の難易度は、どのような考えに基づいて設定されましたか。個人的には、一番最初のステージから箱の隠し方が巧妙で衝撃を受けました。
Yan氏:
プレイヤーのみなさんが、ご自身で「どの程度の難しさに挑戦するか」ということを選べるように心がけました。まず、ゲームを始める際に、難易度に違いのある2つのゲームモードを選択できます。「レトロ」を選べば、シリーズおなじみの残機のあるシステムとなり、ゲームオーバー時のリセットも厳しい条件となります。一方、「モダン」モードでは、ミスに回数制限はなく、死んだ回数が表示されるのみとなります。そして、リスタート地点はもっとも近いチェックポイントです。これらの2つのゲームモードは、ゲームの進行状況はそのままに、いつでも切り替えることができます。
また、ステージごとの達成度についても新たな試みを行いました。こちらも、プレイヤーのみなさんが「どの程度挑戦するか」選べるようにするとの考えの元でデザインしたものです。今作では、ステージごとに、それぞれ取得条件が異なる6つのダイヤが用意されています。この6つの条件のうち、どこまでチャレンジするか選択することができるのです。
たとえば、ストーリーを追うことのみを目的とするプレイヤーにとっては、クリアはそれほど難しくはないでしょう。しかし、ダイヤを得る条件のひとつである「死を3回以下」の条件でクリアしたいプレイヤーにとっては、厳しい挑戦となるはずです。
───開発陣として、一番難しくつくったステージはなんでしょうか。
Yan氏:
「コルテックスの おしろ」を一番の難所として作りました。道中で力を借りてきた4つの仮面たちの能力をフル活用しなければクリアできない、プレイヤーの力を試すようなステージにしたかったのです。狙いどおり、難しいステージになったのではないでしょうか!
───1〜3作目と比べて難しくなったので、よく死んでしまいます。新しいプレイヤーキャラクターの死に方はどのように決めましたか?また開発チームに人気の死に方はどれでしょうか。
Yan氏:
とても優秀なアニメーターチームが、日々アイデアを出し合い、検討して開発を進めました。数あるアイデアのうち、チーム内でもっとも多く笑いをとった死に方が、製品版で採用されています!
*YouTubeチャンネル250crash250の死亡アニメーション集
───プレイアブルキャラクターとして、タウナが登場したことにもっとも驚きました。今作でのタウナの外見やアクションにはどういったテーマがありますか?
Yan氏:
ネオ・コルテックスやディンゴダイルに加え、タウナもプレイアブルキャラクターとなりました。彼女はユニークなアクションを得て、クールな新しい姿で登場します。専用アクションとしては、万能なフックショットでステージ上を素早く移動したり、敵を攻撃したり、離れた位置にある箱を壊すことができます。また、地面への強力な打撃やスピンキックなどの固有アクションもあり、アクロバティックな壁キックで高所にのぼることもできます。
また、ストーリー上では、重要な役割を果たします。タウナが加わることにより、エヌ・トロピーを倒すために役立つ新たな視点がもたらされ、異なる物事の見方ができるようになるのです。
タウナは、初代『クラッシュ・バンディクー』で「囚われの姫」のようなポジションとして登場する、クラッシュのガールフレンドでした。しかし、『クラッシュ・バンディクー4 とんでもマルチバース』では、獰猛な戦士です。開発陣が「タウナヴァース」と呼ぶ彼女の次元では、英雄なのです。
私達はゲーム開発者として、人々を喜ばせ勇気づけるような物語を語ったり、キャラクターを生み出したりすることに情熱を燃やしています。また、ゲームにおける女性キャラクターのレプリゼンテーション(※)を広げることが重要だと考えています。このような考えのもと、プレイヤーのみなさんに愛されるような、複雑で野心的なヒーローとして「タウナヴァース」のタウナをデザインしました。
※レプリゼンテーションとは、「代表」や「表象」といった意味。物語の中で、「ある属性を持つキャラクターが描かれること」のような意味で使われている。ステレオタイプや偏ったイメージで描かれてきたり、そもそも描かれることがほとんどなかった少数派の属性(特定の人種や性別、身体の状態、性的指向など)について、公正な表現としてのレプリゼンテーションが重要視される。
───「あべこべ」モードで、カラフルなインクが飛び散るスピンや、不思議な景色のスクリーンショット撮影を楽しみました。「あべこべ」モードは、通常モードのプレイ体験と比べて、どのように変化させる狙いがあったのでしょうか。
Yan氏:
『クラッシュ・バンディクー』シリーズの魅力として、1つのステージを異なる遊び方で何度も楽しむことができる点があげられます。今作では、このような遊び方をより楽しめるように「あべこべ」モードを取り入れました。「あべこべ」モードでは、ステージが反転し、ビジュアルスタイルはまったく異なる表現に変わります。ですから、通常モードで馴染んだ操作のクセを捨てることになるでしょう。別次元のフルーツであるBumpa Berriesを集めながら、新鮮なプレイ体験ができるはずです!
*「あべこべ」モードのビジュアルスタイル集
───メインステージは3Dと2Dが入り交じっていていますが、きおくのカケラステージはほとんど箱だけで構成されたストイックな2Dステージですね。
Yan氏:
きおくのカケラステージは、個人的にも気に入っています!見た目のシンプルさに騙されないでくださいね。今作でもっとも面白く、挑戦しがいのあるステージのひとつですよ。よく注意してみると、クラッシュやココの興味深い過去について、見たり聴いたりできるかもしれません。
──メインステージときおくのカケラステージは、ステージをデザインする際の考え方はどのように違ったのでしょうか。どちらか一方のアイデアが、他方に反映されるなどありましたか?
Yan氏:
デザイナーチームは、密に連携をとって開発を進めます。それぞれのステージの担当者が、お互いのステージをテストプレイすることを通じて、アイデアやインスピレーションを与えあいました。良い影響を与えあった結果、いくつかのアイデアに対するそれぞれの解釈がステージの中に表れています。
きおくのカケラステージに挑戦するかどうかは、プレイヤー次第です。また、プレイするためには、メインステージを死なずに進むことによって得られる「テープ」を入手しなければなりません。こういった条件の厳しさから、きおくのカケラステージに挑戦するのは、腕前を上げたプレイヤーたちになります。そのため、通常ステージよりも難易度を大幅に高く設定する余地がありました。開発チームとしては、きおくのカケラステージは、やり込みを極めたいプレイヤー向けのステージとして考えています。
──アクアクや、4つの仮面は取得時にかけ声をあげますが、何と言っているのでしょうか?4つの仮面の名前はおそらくハワイ語だと思うので、個人的にはハワイ語が関係あるのではないかと思っています。
Yan氏:
“Aboogadaba!(造語)”です!
──新型コロナウイルスによる影響について聞かせてください。コロナ禍で仕事や生活スタイルが大きく変わったかと思いますが、ゲーム作りにおいて新たな発見はありましたか?また、状況が変わっても、変わらず大切にしていることはどういったことでしょうか。
Yan氏:
人々がなかなか外出できない状況の中、自宅にいながら体験できる冒険として、ゲームの重要性が際立ちました。一方、当スタジオでは、開発環境をリモートへ切り替えるため、さまざまな困難がありました。しかし、最終的には、できる限り良いゲームを作ることに集中することができています。人々を喜ばせるゲームを作っているんだ、という実感があるからです。
「どのように」開発するか、方法は変わりました。ですが、「何を」作るのか。そして「誰に」届けるのかという思いに変わりはありません。
──ありがとうございました。