地下鉄構内構築シム『STATIONflow』開発者インタビュー。DMM GAMES発の異例のSteamゲームはいかにして生まれたのか

 

DMM GAMESは4月15日、地下鉄構内構築シミュレーションゲーム『STATIONflow』を、Steamにて正式リリースした。早期アクセス版からは、公式マップや難易度調整機能の追加や、独自マップ作成・共有機能の追加、また最適化・バグ修正などがおこなわれたほか、ついに日本語表示にも対応した。

本作は、新設された地下鉄駅の駅長となり、駅の動線の設計と施工および施設の設置と運用をおこないながら、訪れる客の満足度を高めていくゲームだ。 マップには電車が乗り入れるプラットフォームと、駅の出入り口のみが配置されており、通路や階段などを自由に建設してそれらを繋ぐと駅が稼働。そして、どの方向に何番ホームや何番出口があるのかなどを示す方向案内を要所要所に設置して、客が迷わないよう誘導する。駅の開発が進むとマップが拡張し、建設できる施設や客の種類なども追加。破産しないよう収支にも目を配りながら、複数の階層にまたがる構内を行き交う膨大な数の客の流れを操るのだ。

https://www.youtube.com/watch?v=yD8Cg0L1GMk

今回、『STATIONflow』の開発に携わったDMM GAMESプロデューサーの藤井隆之氏と、ディレクターのサボー・マルセイロ氏に、本作の制作の背景やSteamでのリリースなどについてお話をうかがった。藤井氏は、同社ではこれまでにNintendo Switch向けリズムゲーム『がるメタる! 』を手がけており、またコナミ時代にも数々の作品を担当。E3 2010ではプレスカンファレンスに登壇して強烈なインパクトを残し、Tak Fujiiの名を世界中に轟かせたことでも知られる。サボー氏はハンガリー出身で、大学卒業後に日本に移りゲーム業界歴は6年ほど。本作は、同氏が手がける2本目のタイトルとのこと。

───本作はDMM GAMESとしては異色の作品だと思われます。どのようなきっかけでこのプロジェクトが始まったのでしょうか。また、藤井さんがプロデュースすることになった経緯をお教えいただけますか。

藤井隆之氏(以下、藤井氏):
DMMは皆様ご存知のとおりのイメージだと思いますが、私たちの部署はそれらとはまったく別の方向性、別のマーケット開拓を意識した新規タイトルを模索する部署で、チームも異色の人材を取り揃えており、そのチームメンバーからの企画提案で生まれてきたタイトルとなります。

「海外」「ニッチ、でも深いコンセプト」「ゲームらしいゲーム」という大まかな所が合致していればあとはお任せでしたので、原案や細かな仕様はディレクターのサボー氏に一任して進めました。なのでアイデアはサボー氏のものです。

サボー・マルセイロ氏(以下、サボー氏):
原案はやはり日本の駅構内を見て出てきたアイデアですね。それでその大勢の乗客の流れをどう作って操っているかが気になって、ゲームで再現できないかと考えました。

───サボー氏は「ほぼ1人プロジェクト」とLinkedInにて言及しておられますが、具体的にどのような規模や役割分担で開発されたのでしょうか。

藤井氏:
前述のとおり、コンセプトからコーディングまでは彼1人で担当しました。部署には別にエンジニアリングやアートやモデリングそれぞれにハイレベルスキルを持ったメンバーがいますので、それぞれが得意な分野で必要な時にワイルドカードで入ってくる、というような体制で進めました。なので制作メンバーは私を入れて5名です。

───本作について、SNSでは梅田や新宿などいわゆるダンジョン駅を連想するとの言及が見られます。当初描いたコンセプトでは、そうした駅への意識はありましたか。

サボー氏:
具体的にいくつかの駅を参考にしましたが、どちらかと言うと駅よりかは構内図をイメージしていました。駅の複雑な構造の上に人の流れを加えて、リアルな駅を再現しようと目指していました。

Image Credit: 東京地下鉄株式会社

───参考にしたゲームはありますか。

サボー氏:
『Cities: Skylines』『Transport Tycoon』『Rollercoaster Tycoon』やその他シム系、そしてマネージメント系で『Prison Architect』などです。

───客には複数の種類が存在しますが、それぞれの採用理由は何でしょうか。

サボー氏:
お年寄りや車椅子の乗客は、やはり無視してはいけない存在にしたかった。ちゃんとすべてのお客様のアクセシビリティーも考えてエレベーターを用意する必要があることを意識させたかったのです。同じ通路でも乗客の用途に合わせないと結果が異なるという部分や、今回ゲーマーと括ってしまいましたがスマホを含む「ながら歩き」等、よりリアルな社会問題も再現したくて実装を決めました。

───経営シム的な要素もあるものの、比較的シンプルにとどめているように感じられます。意図的なものでしょうか。

サボー氏:
はい、シンプルイズベストの考えで、要素を沢山入れるよりもシンプルだがいつまでも調整が続く様なシステムにしようとしていました。

───必要最小限のシンプルなデザインを採用していることや、UI・UXへのこだわりについて教えてください。

サボー氏:
もともとは構内案内をイメージして、文字よりもアイコンで表現する様努力し、落ち着いたUIにするのが目的でした。そしてアイコンを利用する故にワールドワイドにもより分かりやすくなるかと。早期アクセスの段階では日本語未実装だったのですが、多くの日本ユーザーからアイコンだけで伝わるとの評価もいただいておりました。

───開発において特に苦労した要素は何でしょうか。

サボー氏:
やはりAIですね。人間の理解解釈力はすごいと改めて思いました。案内矢印をリアルな人間に近づけ、認識させるのにかなり苦労しました。そしてグリッドフリー故に通路などの設置の操作をなるべくスムーズで心地よくするのも、かなりトライが必要でした。特に他のシミュレーションには無い、平面プラス上下に繋ぐというデザインが故に、それをどう表示するかも悩みました。あとはやはり小規模なプロジェクトから立ち上がったタイトルだったので、常時人手不足だったことが苦労しました(笑)。いつも力を貸して下さったチームのデザイナー、エンジニア、そしてフィードバックをくれた方々に大変感謝しています。

───初めてプレイする人へのアドバイス、また上級テクニックがあれば教えていただけますか。

サボー氏:
チュートリアルをしっかりやりこんでほしいです!その後そのままプレイできるので損はありません。最初は少し複雑に感じるかもしれませんが、すぐに慣れると思います。難易度の設定ができますので、自分の好きな遊び方をしてください。もっと難しいのが欲しければ超ハードの難易度を選んで頂いても良いですし、まったり遊びたければ制限の少ないサンドボックスで遊んで頂いても良し。設定や遊び方は本当にプレイヤーそれぞれです!

今回自分でマップを作成し、共有する機能が追加されました。これでエンドレスに遊んで頂ける大変お得なゲームになったと思います。ぜひ皆様が普段利用されている駅を再現して世界へ共有してみてください。

───国内メーカーでありながら、日本語対応を後回しにした理由を教えてください。

サボー氏:
当初は英語のみの予定でおりましたが、全世界に広げる為に多言語を実装することにしました。しかしながら日本語はローマ字より実装が難しく、早期アクセスに間に合わせることが出来ませんでした。ただ、逆にじっくり時間をかけて最高な日本語対応が出来たと思いますので、日本の皆様には快適にプレイして頂けると思います!

藤井氏:
もともと海外をターゲティングとしてましたので、日本でこんなに話題になるとも思ってませんでした。日本語を期待されてた皆様、本当に申し訳ございません。早期アクセスにて入れなかったのは私の判断ですが、皆様の熱い思いに答えてちゃんと日本語対応させて頂きました。

───DMM GAMESでありながら、なぜSteamのみで販売したのでしょうか。

藤井氏:
冒頭でお話させて頂きましたとおり、DMMとして新規タイトルをどうやって世界へリリースしていけば良いのか?という課題の解を模索している段階なので、まずはDMMであろうとなかろうと、そもそも海外に刺さるゲームを内部で制作してリリースするというのが命題でした。ですので、国内で出すつもりは本当に無く(だから日本語も搭載しなかった)、海外PCゲームであれば王道のSteamでまずユーザーのリアクションを見てみるという理由でSteamのみで展開させて頂きました。

それがAUTOMATONさんの影響で日本に広く存在が広まってしまい(数字にも出ている)日本版をやらざるを得ない状況になり、日本語も対応させて頂きました。本当に想定外の出来事でしたがありがとうございました(笑)。

───早期アクセス開始してもプレスリリースを出しておらず、その後も正式リリースまでは広く告知していなかったように見えましが、その理由を教えてください。

藤井氏:
今回、早期アクセスにてプレイ頂きました皆様のフィードバックを経て本リリースへと進める計画でした。いきなり大量のフィードバックが来ても捌ききれませんので敢えてこっそりリリースしてこっそり修正を入れて行くつもりでしたが、AUTOMATONさんの(以下略)。結果、結構な量のフィードバックを頂きゲームもいろいろ改善出来たのでよかったと思います。

───Steamレビューでは96%が好評。期待どおりの反響でしょうか、また地下鉄駅への概念などで国によって反応に違いはありますか。

サボー氏:
高評価で大変嬉しく思っています!地下鉄なのかシムというジャンルなのかは分かりませんが、ヨーロッパの特にドイツ、フランス、イギリスの多くの方に注目頂いております。一方米国は地下鉄は少し馴染みが薄いのか、反応も違いますね。

───コンソール・モバイル向けの移植予定はありますか。アップデートも含めた本作の今後の展開について教えてください。

サボー氏:
今のところ予定しておりません。今回のリリースは「完成」を目指しましたので、これで皆さんも心置きなく遊べるかと思います。オリジナルマップ作成と共有が実装されたので、半永久的に遊べるのではないかと思っております。皆さんでマップを共有したり、さらに難易度設定を加えて長く遊んで頂ければ嬉しいです!

───ありがとうございました。

『STATIONflow』は、現在Steamにて配信中。価格は1840円だ。本作は、ゲームプレイを邪魔しないリラックスしたBGMが心地よく、そのサウンドトラックも販売されている。弊誌では本作のプレイレポートを掲載しているため、ゲームプレイの流れを詳しく知りたい方はそちらもチェックしてほしい。