異色の戦略系 落ち物デッキバトル『錬神のアストラル』配信記念インタビュー。モバイルとコンシューマーのハイブリッドを目指す開発陣のこだわりを訊く(第1回)

異色の戦略系落ち物デッキバトル『錬神のアストラル』配信記念インタビュー(第1回)。『錬神のアストラル』は基本プレイ無料のiOS/Android向けタイトル。プロデューサーであるエヌシーソフトの鈴田健氏に、モバイルとコンシューマーのハイブリッドを目指したという同作へのこだわりを訊く。

エヌシージャパンの(社内スタジオLIONSHIP STUDIO)とアクワイアが共同開発し、11月14日に正式リリースを迎えた新作モバイル対戦型デッキバトル『錬神のアストラル』。神を錬成する術である「錬神術」を操る「錬神術師」たちの戦いを描く作品だ。今回はそんな『錬神のアストラル』の開発に参加する豪華クリエイター陣に直接質問をぶつけ、話を伺う機会を頂いた。

プロデューサーの鈴田健氏と3人のクリエイターが一堂に会する座談会形式となったインタビューは、作り手たちの本作にかける熱意と情熱が存分に伝わる内容となった。本サイトではその内容を複数回に分けてお届けする。第1回となる本稿では、プロデューサーの鈴田健氏が語る本作の見どころを紹介。続く第2回では、豪華クリエイター陣(シナリオ:里見直氏、バトルマップアート:緒賀岳志氏、キャラクターデザイン:田島幸枝氏)に各自のこだわりを語ってもらう。

 

『錬神のアストラル』とは

『錬神のアストラル』は神を錬成する術「錬神術」とそれを操る「錬神術師」たちを題材としたスマートフォン(iOS/Android)向け対戦型デッキバトルゲーム。錬神術師たちは「東京」「パリ」「ロンドン」の3つの信仰勢力に分かれており、それぞれ扱う神や得意とするバトルスタイルが異なっている。

バトルでは、マス目型の対戦フィールドに2つ連結された自軍の神を「射出」していく。神たちにはそれぞれ色があり、同じ色の神を隣同士に配置することで合体。射出前に回転させることも可能で、『ぷよぷよ』のような落ち物パズルゲームを連想してもらえば分かりやすい。本作のバトルの特色となるのは同じ色の神を連結させた時に起こる合体で、同色の神をどんどん付け足していくことで何段階にも渡って合体・巨大化させることができる。巨大な合体神が生み出されるとバトルフィールドが拡大されていくことも特徴だ。合体によって誕生する神は勢力ごとに決まっており、最終的には「最高神」と呼ばれる各勢力を象徴する非常に巨大で強力な神となる。なお東京の最高神はスサノオ、パリの最高神はルシファー、ロンドンの最高神はキング・アーサーとなっている。

『錬神のアストラル』のシングルプレイモードでは、里見直氏が手がけたボリュームのある濃いシナリオを味わえる。また本作は対戦型デッキバトルということで、PvP(対人戦)も用意されている。各勢力に属する独自のスキルを持つ錬神術師を選び、デッキを構築し、育成を行い、対戦に挑むのが主流のプレイスタイルとなるだろう。

 

目指すは、コンシューマーとモバイルのハイブリッド

エヌシージャパン プロデューサー 鈴田健氏

――自己紹介をお願いします。

鈴田氏:
プロデューサーの鈴田健です。ゲーム業界歴はSCE(現SIE)から始まりまして、外製プロジェクトを担当する部署で『無限回廊』シリーズや『rain』のプロデューサーをやらせていただきました。その後、ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)に転職し、『スーパーガンダムロワイヤル』の開発・運用を経て、エヌシージャパンに移りました。

――鈴田さんは、コンシューマーとモバイルの両方のプロデュースを経験したとのことですが、エヌシージャパンで再びモバイルタイトルに着手しようと思った理由をお聞かせください。

鈴田氏:
エヌシージャパンに入ったのは3年ほど前になりますが、当時すでにコンシューマーとモバイルの品質が変わらなくなりつつありまして、どちらでゲームを作るのも同じだなと考えていました。そのためコンシューマーとモバイル、どちらの業界にいくのかという点はそれほど意識していませんでした。

そしてたまたまエヌシージャパンに、DeNA時代に知り合った小川陽二郎がいまして、彼に誘ってもらった形となります。小川もコンシューマーとモバイルの両方を経験したクリエイターであり、その両方の楽しさが混ざるようなハイブリッドゲームを作りたいという想いで、エヌシージャパン内にスマートフォンゲーム専用スタジオ「LIONSHIP STUDIO」を立ち上げていたんです。その想いをもとに、『錬神のアストラル』の開発が始まりました。

 

独特の戦闘システムは、『Might and Magic: Clash of Heroes』をやりこんだ経験から生まれた

――「配置シミュレーション x 落ちものパズル x デッキ構築」という独特の戦闘システムは、どういう経緯で生まれたのでしょうか。

鈴田氏:
戦闘システムの根幹部分は、一番最初に作った企画書から変わっていないです。ユニットを前詰めで配置していき、とにかく合体させて大きくするという。当時は合体のモチーフが魔物だったこともあり、それを「造魔術(ぞうまじゅつ)」と呼んでいました。なので仮タイトルも『伝説のゾーマ(造魔)バトル』という、けっこうアバンギャルドな感じにしていたのですが、いざ正式名を決めるというタイミングで、シナリオを担当した里見直さんに見せたら「それだけは絶対にやめた方がいい」と丁寧に言われました(笑)。

――『伝説のオウガバトル』を意識したんですか?

鈴田氏:
まさしく。戦闘画面も同じ俯瞰視点ですし、プレイフィールも似た部分があると思っており、何より僕がスーパーファミコンど真ん中の世代なので、リスペクトの意味も込めて。今思えばいろいろアウトですね……。里見さんにご指摘いただいて本当によかったです……。

――盤面を拡大していくというアイデアも当時からあったんですか。

鈴田氏:
はい。当時ユニットの合体は7段階ほどあり、最終的にとんでもなく大きな魔物になって相手を蹂躙するような内容を想定していました(最大128マス相当)。錬神術師や錬神合体(各キャラクター固有の必殺技ポーズ)の基礎となる設定も最初から固まっていました。当時はHP制ではなく『ハースストーン』や『シャドウバース』に少し近い得点計算方式を想定していたという違いはありますが、骨格は既にできあがっていました。

――戦闘システムを作る上で参考にしたゲームはありますか。

鈴田氏:
『Might and Magic: Clash of Heroes』という私の中では伝説のゲームがありまして、一時期、海外ニンテンドーDS版をやりこんでいました。同じ色のユニットを3つ縦に並べると戦闘体勢に入り、敵陣に突進していく仕組みとなっています。これがまぁ面白くて、1回の戦闘は長い時で40~50分、シナリオは1周100時間くらいかかるんですが、何周も何周もやり続けていました。「いつか自分も、これほど中毒性のあるゲームを作りたい」と思いながら遊んでいたこともあり、『錬神のアストラル』の土台はそこから強く影響を受けていますね。ただ『Might and Magic』フランチャイズの中では変わり種で、そこまで有名にはならなかったようです。評価は凄く高かったのですが。

ちなみにKing社が2018年に『レジェンド・オブ・ソルガード』というゲームを出していまして、それにも近いです。おそらくそちらも『Might and Magic: Clash of Heroes』から影響を受けたのではないでしょうか。

――『レジェンド・オブ・ソルガード』のリリース前から『錬神のアストラル』プロジェクトは動いていたのでしょうか。

鈴田氏:
はい、真っ最中です。なので一瞬ドキッとしました。

――『錬神のアストラル』のオリジナル要素は、ユニットを合体させて大きくするという点ですよね。

鈴田氏:
そうですね。そこは見たことがない要素ではないかと思っています。

 

「第2の中二病世代」をターゲットにしたら、意外と20代前半にウケた

――本作はどういったターゲット層を想定しているのでしょうか。

鈴田氏:
企画段階では30代のユーザーをターゲットにしていました。中二病的な印象が強い作風にはなっているので、「第2の中二病世代」と言いますか、「中二心を忘れていないベテラン社会人」が対象になるのかなと思っていたんです。ところが、いざプロモーションを始めてみると20代前半のユーザーからのウケが意外と良くて。いまではカードゲームが好きな20代前半から30代半ばの方に遊んでもらえたらなと考えています。

本作は10手先までガチガチに試合展開を読み合って……というゲーム性よりは、パッと見でのわかりやすさであったり、うまいこと合体すれば強い相手にも勝てるチャンスがある、といったカジュアルに遊んでもらえる要素も大事にしています。そのためカードゲームが好きな方の中でも、コアからカジュアル寄りな方まで、様々な方に楽しんでもらえるかと思います。圧倒的な勝負運によって自分が突如としてヒーローになる……そんな、ヒロイックな勝利を夢見ている方にも是非遊んでもらいたいと考えています。とはいえ、運だけでは中々勝てないバランス感にはなっておりますが……。

――勝敗を左右する要素として、運はどれくらいの比率を占めているのでしょうか。

鈴田氏:
勝ち負けに寄与する要素として、プレイヤースキル、デッキ構築、メタ、運がそれぞれ25%程度の配分になることを目指して調整していますが、そこまでピッタリとバランスを取るのはなかなか難しい所です。ただ、日々、何十、何百試合とこなしているチーム内での体感・統計的には、かなり近しい状態にはなっていると思います。ちなみに大会開催時には、5試合制(3勝先取制)にすることを検討しています。5試合あれば不公平な感じではなくなるかなと。

 

ときどさんのリアル瞬獄殺に憧れて生まれた錬神合体

――モバイルゲームもeスポーツに参戦する時代になり、PvPのゲームを出すとなると、多少なりとも意識する部分はあるかと思います。『錬神のアストラル』においてはいかがでしょうか。既に試合形式まで考えているとのことでしたが。

鈴田氏:
リアル大会を頂点とした、シーズン制のリーグ戦を継続運用していく予定です。シーズン1では東京・ロンドン・パリの3シリーズの中で頂点を決めるというコンセプトがあり、それが、シーズン2、シーズン3と進化・変化を遂げていくようなイメージです。

個人的には、大会という形式へのこだわりよりも、いろんな人の感情が集まって爆発する瞬間が好きなんです。私がそれを強烈に感じたのは、ときどさんが有名になった2010年SoCal Regionalsの試合です。ときどさんが操作する豪鬼が瞬獄殺で相手にトドメを刺した瞬間に、試合を写していたプロジェクターの前にときどさんが立って、豪鬼の背中に浮かぶ「天」を自分の背中に写すというパフォーマンス。あれは熱かったですよね。観客の盛り上がりも凄い。そういった興行をいつかできるといいなと思っていまして、錬神合体のポーズにこだわったのも、そういった背景があります。ちょっとでも豪鬼の「天」に近づきたいという。ああいう世界にいつかたどり着きたいという意味で、大会をやりたいと考えています。

 

コミュニティと一緒にゲームを作りたい

――ツイッター上でのプロモーションが活発ですが、どのようなマーケティング戦略を構想しているのでしょうか。

鈴田氏:
スマートフォン向けのゲームのプロモーションといえば事前登録至上主義という印象がありますが、果たしてあのやり方はどうなのかな……と思っているところがありまして。それよりも、しっかりユーザーさんとコミュニケーションを取って、さまざまな意見を取り入れながらやっていきたいと考えているので、距離感が一番近いと思われるツイッターに力を入れています。話しかけてもらうハードルを下げるために、こちらから積極的に話しかけにいったりしてまして、皆で『錬神のアストラル』のコミュニティを作り、その中で酸いも甘いも会話しながら、常に近い距離でやっていければいいな……と思っております。

――早い段階で2次創作ガイドラインを公開したのも、コミュニティ形成を意識したからでしょうか。

鈴田氏:
ゲームを遊ぶ方の中には、何かしらの表現者・クリエイターさんたちも大勢います。イラストを描いたり、小説を書いたり、音楽を作ったり。そうした方々と一緒にゲームを成長させていければ楽しいだろうな、と考えております。「皆で参加して一緒にゲームを作っていく」という空気を作りたいという想いからです。

 

PvPが大好きであるがゆえに感じたハードルの高さ

――本作はPvEよりもPvPがメインに据えられていると感じました。最初からPvPゲームを作るつもりで戦闘システムを考案したのでしょうか。それとも先に戦闘システムのアイデアがあり、そこからPvPゲームに発展させていったのでしょうか。

鈴田氏:
最初からPvPゲームにするつもりで戦闘システムを作りました。もともと対戦ゲームが大好きでして、作るのであれば自分自身が一番燃えるPvPゲームにしたいと考えていました。

――PvPメインでありながら、PvEのシングルプレイキャンペーンにも力を入れようと思った理由を教えてください。

鈴田氏:
PvPのゲームが大好きであるがゆえに、PvPのハードルの高さを課題に感じておりました。そのため本作では、PvPと同じくらいPvEのシングルプレイキャンペーンも遊べるようにしています。まずは一人用のゲームとしてじっくり遊んでもらい、ルールや戦術のコツを学んでもらった上で、「そろそろ対戦してみたい」となったときにPvPに参加してもらう。そうした考えが大前提としてありました。

私がやってきたゲームは、最初から対戦して「負けながら強くなれ」というスタンスのものが多くて。たとえば韓国のゲーマーと話すと、負けるところから始まることを受け入れている方が多いのですが、日本だとそういうスタンスではない方が多いと思います。そのため、シナリオと世界観をしっかりと味わってもらいながら、少しずつ自分の成長を感じてもらうという流れに沿うようバランスを調整しています。

――最初からPvPを遊びたいユーザーは、序盤からPvPに飛び込めるのでしょうか。

鈴田氏:
PvPは1時間ほど遊ぶとアンロックされます。

 

バランス調整だけで半年

――PvPゲームはPvEゲームに比べて、バランス調整に対するユーザーの目が格段に厳しくなります。またPvPですと、ユーザーがお金や時間をかけて手に入れたアイテムをやむなく弱体化しなくてはいけない状況に直面する機会がPvEよりも多いかと思います。そうしたバランス調整という課題に対し、どのような方針で取り組んでいく予定なのでしょうか。

鈴田氏:
バランス調整だけても半年以上はかけていると思います。あらゆるパターンの組み合わせを想定して1日50~100試合ほどまわしています。本作ではユニットの引き、つまり運の要素も勝敗を左右するため、1試合だけではバランス状態がわかりません。そのため平均値が出るまでの試合数をこなし、その統計で強弱を決めています。それを長くやってきたので、バランスはかなり良くなってきていると思います。ただ成長要素があるゲームなので、成長していないデッキは、成長しているデッキに負けます。

――本作では術師とユニットの両方に成長要素がありますが、やはりレベル差があると勝敗が決まってしまうということでしょうか。

鈴田氏:
ユニットの総合力がひとつの判断基準になっていまして、2000~3000ほどの差であればチャンスはあります。

――マッチングはどのような基準が採用されているのでしょうか。

鈴田氏:
総合力、直近の勝敗、切断回数などからフィルタリングし、なるべく実力が近しい状態で遊んでいるユーザー同士で当たるようなマッチング機能を入れています。

――ベータテストでのユーザーフィードバックで、印象的なものはありましたか。

鈴田氏:
戦闘まわりでいうと、圧倒的に強い組み合わせが存在してしまっていたことです。さすがに勝負にならなかったので、弱体化させていただきました。ほかにも、術師スキルを使った上で超必殺技のアストラルエンドを発動できていたので、それを1回しか使えないようにしたりと、不公平感が無くなるような調整をしています。パラメータの調整も多岐にわたってしています。1回のユニット合体で戦局が変わらないと面白くないと思う一方で、強くしすぎると1回合体すれば終わりになってしまうので、そのバランスを取ることに苦労しました。

――課金システムに関しては、どのような方針になっているのでしょうか。

鈴田氏:
術師は、基本的には、プレイし続けていれば好きなのを獲得できるようにしています。成長素材はプレイする中で自然と溜まっていくようなバランスにしつつも、時短用に、ショップのアイテムライナップは充実させています。ガチャに関してはいろいろと賛否があると思いますが、たとえば初期レアリティが4のユニットでも育て方やデッキ編成次第ではかなりの戦力になる塩梅になっているとは思います。

――最後に、本作に興味を持っていただいた読者の皆さんにメッセージをお願いします。

鈴田氏:
本作はさまざまなクリエイターの想いとともに、いろんな要素が詰まったゲームとなっています。トゲのあるゲームなので一言では言い表せないのですが、ゲームが好きな方ならば、いろんな側面からとことん遊び尽くせる作品になっているんじゃないかなと思います。キャラクターのデザインやバトルマップなども凝っていますので、サクっと遊ぶこともできる作品ですが、ぜひいろんな部分を深堀りして遊んでみてほしいです。

――本日はありがとうございました。

 

 

インタビュー第2回、クリエイター編はこちら。シナリオ担当の里見直氏、バトルマップアート担当の緒賀岳志氏、キャラクターデザイン担当の田島幸枝氏に話をうかがう。なお『錬神のアストラル』は11月14日、基本プレイ無料タイトルとしてリリース。AppStore/Google Playよりダウンロード可能だ。

 

 

[聞き手:Mizuki Kashiwagi]
[執筆:Mizuki Kashiwagi/Ryuki Ishii]
[撮影/校正:Ryuki Ishii]

Mizuki Kashiwagi
Mizuki Kashiwagi

PCとPS4をメインで遊んでいます。自分で遊んでも、観戦していても面白いような対戦ゲームが好きで、最近は格闘ゲームとMOBAをよく遊んでいます。

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