『名探偵ピカチュウ』はポケモンシリーズ20年目の挑戦から生まれた ー株式会社クリーチャーズが語る挑戦的なコンセプトメイキングとは(人材募集中)

『名探偵ピカチュウ』はポケモンシリーズ 20年目の挑戦から生まれた作品。開発元の株式会社クリーチャーズが、“名探偵でおっさんのピカチュウ”を創造する攻めの姿勢について語ってくれた。なおクリーチャーズでは現在、開発スタッフを多数職種募集中だ。

名探偵ピカチュウ』のゲームなどを手掛ける株式会社クリーチャーズ(以下、クリーチャーズ)が新たに人材を募集中だ。募集職種はゲームデザイナー、プログラマー、CGエンジニア、各種3DCGデザイナーと多岐に渡る(募集職種は求人情報サイト「CREATIVE JOB」にて確認できる)。

クリーチャーズはポケモンの原作3社の内の1社で、「ポケモンカードゲーム」をはじめとするアナログゲームから、コンシューマータイトル開発、3DCG制作まで幅広い事業を手掛けており、『名探偵ピカチュウ』『ポケモンレンジャー』などポケモンシリーズの派生作品も数多く開発している。今回はゲーム開発部 ゲームデザインチーム サブマネージャー 伊藤康博氏と、ゲーム開発部 プログラムチーム プログラマー 杉山央氏に、クリーチャーズならではのものづくりの姿勢と開発コンセプトを訊いた。

 

ピカチュウの新しい表現を求めて

───本日は宜しくお願いいたします。まずはお二人の自己紹介をお願いします。

ゲームデザインチーム サブマネージャー 伊藤康博氏(入社17年目)。「ポケモンカードゲーム」のテスターとして入社後、『ポケモンレンジャー』の開発を機に正社員としてデジタル開発本部入り。メインシナリオ、フィールド設計、クエストの作成を主に担当。

伊藤氏:
ゲームデザインチーム サブマネージャーの伊藤と申します。リードプランナーとして現場で作業を行うほか、若手プランナーのマネジメントなども行っています。

杉山氏:
プログラマーの杉山です。現在は新規タイトルの開発に向けた技術開発・研究を行っています。クリーチャーズではまだ2年目となりますが、ゲーム業界歴自体は11年ほどで、最初は格闘ゲームなどコンシューマータイトルを中心に開発していました。その後スマートフォン普及時期にソーシャルゲームの開発会社に移りまして、その後またコンシューマーに戻ってきたという流れです。

プログラマーの杉山史氏(入社2年目)。プログラマーとしてのゲーム業界歴は10年以上。ゲーム開発の会社を何社かわたり、クリーチャーズにプログラマーとして入社。格闘ゲームやアクションゲーム、シミュレーションやソーシャル向けなど、さまざまなジャンルの作品を制作してきた。

───お二人はどういった経緯でゲーム開発の現場に入られたのでしょうか?

伊藤氏:
もともとデジタル・アナログ問わず、ゲームに関する仕事をやってみたいとは思っていました。私は学生時代からTRPGやボードゲームのゲームマスターをやっていたので、そういった流れからアルバイトとして「ポケモンカードゲーム」に関わることになりまして、その後プランナー職としてデジタルゲームの開発も行うようになりました。

杉山氏:
私は小学生の頃からゲームのスタッフロールに名前を載せることに対する強い憧れがあり、ゲーム業界を目指していました。

ただ、当時は絵がまったく描けず、自分から新しいゲームの発想を生み出せるタイプでもないと思っていたので、絵を動かす職業である「プログラマー」という仕事を必然的に目指すようになりました。そのままゲーム系の専門学校に入って、晴れて業界入りをしたという形です。

 

───ありがとうございます。さっそくですが、近作となるニンテンドー3DSタイトル『名探偵ピカチュウ』についてお伺いさせていただければと思います。“人間の言葉を話すおっさん化したピカチュウ”が話題となった同作ですが、こういったコンセプトはどのようにして生まれたのでしょうか。

『名探偵ピカチュウ』パッケージ写真

伊藤氏:
開発当時、『ポケットモンスター 赤・緑』が発売されてから数十年近く経っており、世界的にもポケモンの認知が広まっていました。ゲームを遊ぶ大体の人にはもう根付いたといって良い状況になっていたと思います。だからこそ「いつもとは違う」ピカチュウの表現を試せる段階に来ていました。そこで、社内の映像担当のクリエイターが”かわいい”以外の要素を持ついろんなピカチュウの表現を試し始めまして、その中で「ハードボイルドなものも面白いのではないか?」となりました。アメリカのロードムービー風のCG映像を作ったり、いろいろな方向性にトライして、最終的に「名探偵」に辿りつきました。

───自社内でピカチュウのモデルを作っているからこそ出来る手法とも言えますね。それでは、”名探偵”が先行したのではなくビジュアルありきだったのでしょうか。

伊藤氏:そうですね。「ゲームとしてこういうものを作ろう!」というのではなく、ピカチュウの表現としてどうか、というところから始まりました。かわいいだけでなくだらけたり……今までのポケモンはある程度しっかりした表現だったと思いますが、そこから逸脱した表現と、ピカチュウでもあるということを突き詰めた結果、ゲームで皆さんにご覧いただいたようなビジュアルが出来上がりました。

───プランナーとして、「こういうビジュアルのピカチュウのゲームを作る」という話を聞いたとき、どういった作業から始めましたか?

伊藤氏:
まずは「名探偵のピカチュウが体験するお話はどういったものだろう?」というのを考えながら、プレイヤーの視点に立って、いくつかのストーリーパターンを試しました。もちろんシナリオライターの方は別にいますが、私自身もディレクターと一緒にゲーム体験をどう作っていくかを考えていきました。

───ゲーム体験を作っていく中で試行錯誤した取り組みはありましたか?

伊藤氏:
探偵もののゲームは、難易度が高いものが多く、大人の自分が遊ぶときも、難しくて理解できない謎があったりもします。ポケモンシリーズですから、「小さい子どもでも遊べるように、事件の難易度を少しマイルドなものにしよう」「その分、プレイヤーが、ピカチュウと一緒に謎を解いているという実感を強く感じられる仕組みを取り入れよう」と考えました。それらを考えていくうちに、3DSの2画面という構成を活かすことに行きつきました。もちろん他にも、ピカチュウと一緒に物語を体験していくという仕組みはたくさん取り入れています。

 

攻めの姿勢で、ポケモンの新しい側面を開拓

───こうしてお話をお伺いしていると、決して巨大IPだからといってあぐらをかいているわけではなく、非常に挑戦的な姿勢で作品を作っているという気概を感じます。

杉山氏:
実際、『名探偵ピカチュウ』では「おっさん過ぎる」という理由で再考するような表現もあったと聞いていますし、いろんな意味で挑戦的というか、攻めた作り方をしているなと感じるところはありますね。同作に限った話ではないですが、技術的な部分でも、最近のゲームでの表現にはどういったものがあるか、それによってどういった表現が生み出せるかなどは常に考えています。

伊藤氏:
多分その辺りはクリーチャーズの社風なのかな、とも思っていて。当たり前のものを当たり前に作るのではなく、少し王道から外れたとしても、いろんな挑戦をしていきたいという想いはあります。表現の話で行くと、たとえばミノムッチというミノムシのようなポケモンがいるんですけど、ポケモンシリーズの本編ではミノの中までは表現していないんです。ただ、設定上はミノの中までデザインがあって、こうした“本編では見せていない要素”を派生タイトルであれば踏み込んで表現することもできるんです。「ポケモンの新しい一面をどのようにユーザーに見せていこうか?」と考えるのは本当に楽しいですね。

杉山氏:
ただ、社員全員が800種類以上いるポケモンをすべて把握しているかというと、意外とそうではないんです。私自身もまだ2年目ということもあって、それこそミノムッチも後から知ったのですが、逆に言うと私のような目線から「このデザインなら、こういった見せ方・遊び方も出来るのでは?」という提案もしやすい環境なんですね。ポケモンを良く知っている人だけだと「そのポケモンならそういう表現でしょ」で思考がストップすることもありますが、詳しくない私のような者だからこそ、もとのデザインに縛られないアイデアを出せるとも思っています。そういった本編にない新しい表現が謎解きなどのゲームデザインの核心に関わっていると、最高に面白いですよね。

伊藤氏:
ポケモンを全部言えないと入社出来ないかというと、そうではありませんからね。むしろ、その辺りの知識は入社後にポケモン好きな社員がたくさん教えてくれると思います。

───今のお話でいくと、いわゆるトップダウンの作り方ではなく、プログラマーからの提案も良くあるのでしょうか?

伊藤氏:
そうですね、プログラマーだけではなくデザイナーも含めてですが、いろいろ指摘してもらうことは多いです。組み込む上での仕組みの相談ですとか、あとはポケモンの知識の面でご指摘をいただくこともあって、それらを足したり引いたりしながら、仕様を考えている感じです。

杉山氏:
やっぱり、作るからには面白くしたいですからね。

───先ほどから「挑戦」と「提案」というのがキーワードだと感じています。杉山さんは、プログラマーとしてなにか新しい挑戦を行うなどのエピソードはありますか?

杉山氏:
弊社の場合、いまはスクラムで開発を行っています。スクラムの仕組み上、個々のチーム任せになってしまう面もありますが、逆に言うとチームごとの特色を出しやすいですし、メンバーの上下関係もないので「チームがどうしたら良くなるか?」などの提案も気軽にできるような環境になっています。ただ、もちろん、弊社も最初からそうだったわけではありません。開発チーム内で発生した問題を解決するために、実践的にこうした開発手法を試しています。この辺りがフレキシブルなのも、エンジニアチームの強みかも知れません。

それと、弊社では今年の3月から「1か月に1本、記事を書いていく」という試みも行っています。エンジニアはみんなそれぞれの環境で別々の仕事を行っていますが、こうした個別のナレッジを共有することが目的です。「なにをみんなに伝えようかな?」と考えながら新しくツールを学んだりして、その知見を記事として共有する。それらがカテゴリ分けされた上で、社内資料的に蓄積されていっています。勉強会形式だと、資料を作って場所を用意して、みんなの時間を合わせて……というのが大変でして、それならばと「一方的に投稿して、それをみんなが見る」という状況を作っています。ノウハウを蓄える場所があればいいよね、という課題に対する自分たちのアンサーとして、こうした試みも自主的に行っています。

 

ポケモンは、みんなを楽しませる存在

───続いて、お二人の「ものづくりにおける譲れないコンセプト」があれば、お聞かせ下さい。

伊藤氏:
ポケモンを使ってゲームを作っていて、それが全年齢対象のものであるという以上、「誰かが楽しむために、誰かが不快になるようなゲームの仕様を作らない」というのはコンセプトとして持っています。ゲームは楽しくなるためにプレイするので、その中で「不快な思いをするようなゲームの形にはしたくない」「お話的に気分が悪くなるようなシーンをなるべく作らない」「気分を害すであろうことをポケモンにさせない」といったことは常に考えています。

───なるほど。ただ、ストーリーを展開していく上で、一時的にキャラクターが落ち込む、不幸になるといった感情曲線の描き方をされるのが一般的かと思いますが、その辺りはどのように考えていらっしゃいますか?

伊藤氏:
誰かを不幸にさせる以外にもいろいろ方法はあると思っていて、たとえば『ポケパーク』や『ポケモンレンジャー』は、ポケモンたちがみんな仲良しな世界観です。そこには当然ワルモノもいて、時には困らせるようなことをやったりもします。ただ、僕たちの場合は基本的に、悪いことをそのままやりっぱなしで賛美してしまうようなことはせず、悪いことをしてもあとで反省したり気づきがあるような、道徳的な状況は必ず作るようにしています。デジタルゲーム開発のプランナーの間では、「状況を投げっぱなしにせず、きちんと前後を考える」というコンセプトが根底にあります。そのシーンを描きたいがためにそういう状況を作るのではなく、きちんと前後を考えてから作る。こうした考え方は、全員に共有していますね。

杉山氏:
私個人としては、「オリジナリティのある作品を作っていきたい」という想いが強いです。弊社でしか出来ないであろう新しい遊ばせ方、他の真似ではなく弊社ならではの考え方でゲームを作っていきたいと思っています。あとは個人的なことかも知れませんが、「このゲームは絶対に面白くなるぞ!」と自分自身で思いながら開発を進めていきたいという気持ちがあります。内心「これってどうなの?」と思いながら開発をすると、そういう気持ちが作品にも表れてしまうと思っていて、だからこそ自分が自信を持って面白い作品を世の中に送り出したいと思っています。

この”面白くしたい”という気持ちがあるからこそ、先ほども申し上げたようにプランナーからの提案に対してさらに提案を重ねるようなこともしますし、意見を伝えることも多いです。また、いちプログラマーとしては、とにかく細かいところまで手を入れて開発したいという想いがあります。ただのカーソルやただのボタンといったUIも、たとえば少しだけ動きがあるとか、緻密に設計をした上で、ユーザーには気持ちいい体験をしてほしい。だけど、そういった細かい部分を「ユーザーに気づいて欲しくない」という感じでしょうか。

 

「技術に貪欲な姿勢」「アイデアをぶつけ合える熱量」

───今回の求人にあたり、どういった方と一緒に働きたいかをお聞かせ下さい。

杉山氏:
個性的な方でしょうか。周りに流されず、その人ならではの考え方を提案できる方が良いですね。そういった人同士が集まった時、化学反応が起こります。今のは一般的な話で、プログラマー的に言うと、技術に貪欲な方が好ましいです。ゲーム業界の黎明期を支えた僕らの上の世代のクリエイターは、何もかもゼロから作ってきました。ただ、今はPCを触るにしても、こういったツールが欲しいな、と思ったとしても、大体のものがすでに世の中にあるような状況です。だからこそ、その中で自主性やクリエイティブなチャレンジ精神を持っている方を歓迎します。

伊藤氏:
アイデアをぶつけ合えるような熱量のある方が良いと思っています。それこそ、ベテランからのアイデアを聞いて「じゃあ、それで」となるのではなく、ディスカッションの上で自分の意見を押し通せるような熱量を持った人材がいると良いだろうと思います。お互い切磋琢磨しながら、いいゲームを作っていきたいですね。

───お二人とも、ありがとうございました。最後に読者へ向けてメッセージをお願いいたします。

杉山氏:
弊社はプログラマーとして非常に自由な動き方が出来ると思っています。もちろん、自由な中でもチームとしての統率を保ちながら、そこでの意見や提案が出来るような環境も用意しています。自分なりの進め方であったり、やりたいことが明確にある方であれば、その個性を活かせる土壌はあると思います。そういった方と是非一緒に働きたいと思っています!

伊藤氏:
今までのお話にもあったように、弊社は新しいことに挑戦するにはかなり寛容な社風で、それをやる環境も整っていると思います。やる気がある方、いろいろなことに挑戦したい方にとってはとてもいい環境だと思いますので、特に「ポケモンでなにかやりたいことがある!」という方にはぜひ受けて欲しいです。

株式会社クリーチャーズが現在募集中の職種は、求人情報サイト「CREATIVE JOB」に掲載中。今回取り上げたプランナー、プログラマー以外にも多岐に渡る職種を募集している。

 

 

©2019 Pokémon. ©1995–2019 Nintendo / Creatures Inc. / GAME FREAK inc.
名探偵ピカチュウは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。
©2019 Pokémon. ©1995-2019 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc. Developed by Creatures Inc.
ポケットモンスター・ポケモン・Pokémon・名探偵ピカチュウは、任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。
ニンテンドー3DSのロゴ・ニンテンドー3DSは任天堂の商標です。

Daiki Kamiyama
Daiki Kamiyama

NINE GATES STUDIO コンポーザー/サウンドデザイナー/技術系ライター。商用作品への楽曲提供と並行して、”Yack Lab.”名義でゲーム制作も行っており、代表作『Gen.』は東京ゲームショウSOWNやWIRED CREATIVE HACK AWARDなどにノミネートされるなどの評価を得て来た。好きな時に好きなゲームで遊ぶため、現在はフリーとして活動中。

NINE GATES STUDIO
http://blog.nine-gates.com

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