『オバケイドロ!』開発者インタビュー。『Dead by Daylight』系ゲーマーが切り込む、ゲームバランスやこれからのこと
フリースタイルは2019年8月1日に非対称型対戦アクション『オバケイドロ!』を配信した。価格は1980円(税込)。対応プラットフォームはNintendo Switch。
『オバケイドロ!』は子供の頃に誰でも一度は遊んだことがあるであろう「ケイドロ」をテーマに、オバケ1人ニンゲン3人に分かれてケイドロをするゲームだ。ルールは至ってシンプル、制限時間3分以内にニンゲンを全員捕まえることができたらオバケの勝ち、1人でも3分間逃げ切ることができればニンゲンの勝ちだ。
非対称型対戦アクションというと、現在も日本で流行しているゲームの1つである『Dead by Daylight』が記憶に新しいが、本作は暴力的な表現が一切なく、子供でも大人でもケイドロを楽しむことができる作品になっている。また、技術的にも実装は容易ではない画面分割機能を取り入れていることから、Nintendo Switch 1台で友達や家族と遊ぶことができる。そんなローカルでもオンラインでも違った楽しみ方を提供することを追求する『オバケイドロ!』開発チームにお話をうかがった。筆者は普段から同ジャンルの『Dead by Daylight』を遊んでいることもあり、対戦ゲームとしてのバランス面をはじめ、開発背景から今後のアップデートの展望についてなどをお聞きした。
───自己紹介をお願いいたします。
田中氏:
『オバケイドロ!』のディレクター・プロデュー サーを担当させていただいている田中克功(たなか かつのり)と申します。よろしくお願いいたします。
中島氏:
キャラクターアニメーション等を担当させていただいております、中島と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
寺山氏:
プロジェクトマネージャーを担当させていただいております、寺山と申します。よろしくお願いいたします。
小野氏:
エンジニアを担当させていただいております、小野と申します。よろしくお願いいたします。
───よろしくお願いいたします。今回の作品の開発チームの人数と構成を、教えていただけますか。
田中氏:
はい。ディレクターが1人、エンジニアが4人、サーバーエンジニアが1人、デザインが4人、企画が3人、企画のアシスタントが2人、合計15人のチームという形になります。
───『オバケイドロ!』はいわゆる非対称対戦ゲームというジャンルになりますが、どういった経緯でこのようなジャンルのゲーム作りに挑戦しようと思ったのですか。
田中氏:
元々、非対称対戦という形を目指していたわけではないんです。全国エンタメ祭りというイベントがあるんですが、そのイベントを盛り上げるためのゲームを作る中で生まれたという形になります。
誰でもわいわい、気軽に楽しめることを目指したときに「対戦要素」がまず決まり、またイベントですので「馴染みがあって、ある程度ルールの説明が割愛できるもの」というところでケイドロをテーマにすることが決まりました。初めは普通のケイドロと同じように2対2でケイサツとドロボウに分かれて遊ぶ仕様を考えていましたが、僕らの開発力不足でバランス調整が取れなかったんです。巧くバランスがとれず2対2の形でどちらも面白くないという結果になってしまうなら、いっそ4人のうち3人に楽しんでもらおうということから非対称の対戦ゲームという形でスタートしました。
「レイド」というわけではないですが、強い人1人に対して3人で立ち向かうという構図を持たせたかったのもあります。強い人は3人を相手に勝ったら嬉しいし、負けた側も悔しいけど面白かったという形になりやすいんじゃないかなと。
───とすると、オバケは上級者向けですか。
田中氏:
そうですね(笑)。
───ところで、ケイドロは地域によって呼び名が違うことがありますが、そこはチーム内で揉めたりはしませんでしたか。
田中氏:
ケイドロ派、ドロケイ派、そしてドロジュン派だったりさまざまでしたが、ケイドロ派が多数を占めていたので揉めはしなかったですね。
中島氏:
1つ面白かったのは、アンケートを取ると必ず7対3に近い割合でケイドロ派とドロケイ派が分かれるんですよ。こういった経緯もあって、呼び名にはケイドロを採用しようということになりました。配信後に、イベントや他のメディアさんで同じように行ったアンケートでも、綺麗に同じくらいの結果になっているみたいです。
───なるほど。ちなみに、この作品を作るにあたって皆さんケイドロを実際にしたりしたんですか。
田中氏:
誘いはしましたが、真夏だったこともあって、賛同してくれる人は誰もいませんでしたね(笑)。
チームのリソースにあわせた結果、非対称対戦ゲームに
───(笑)。ジャンルの話に戻りたいと思います。結果的に、非対称の対戦ゲームを作られたということでしたが、その開発途中で工夫したことについてお聞かせ下さい。
田中氏:
いくつか挙げると、システムやUIが、シンプルで分かりやすいゲームになるようにしました。持ち寄って遊ぶことが一番楽しい状態も目指しています。そして、描写がグロテスクではなく安全であること、戦略要素をプレイヤーが見つけたときの楽しさ、これらを外さないようにしています。
開発していく段階で、成長要素や複雑なスキル要素を実装するかどうかなど、多くのことを検討しましたが分かりやすいゲームにするために、最終的には全て撤廃しました。
他に工夫した点は、全国エンタメ祭りやBitSummitといったイベントでゲームを遊んでいただいた方のほぼ全員に、どこが一番楽しく・気持ちよく感じたかというアンケートを書いていただいたんですが、そういった中で寄せられた要望も一度織り込んでみたりもしました。
面白さを練っているとどうしても複雑さが出てきてしまいますが、僕らがゲームをシンプルで子供でもすぐ分かるようにと想定していたので、それは避けたかったですね。
───非対称の対戦ゲームは現在世界中で人気を博しています。やはりトレンドみたいなものも参考にしたんでしょうか。
田中氏:
実はイベントに出展して、初めて『Dead by Daylight』だったり『IdentityV』を知ったんです。ですので、アイデア自体はそういったゲームからではなく僕らの能力不足から生まれたものなんです(笑)。
───最初は2対2だったと、さきほど仰っていましたね。
田中氏:
そういった経緯もありまして、非対称ゲームを作ることが難しいということを考えたことがなかったです。自然とその流れでやっていく形になりました。ケイドロがテーマに決まっていった時も、僕とエンジニアとで相談していたんですが、僕は『かくれんぼ』がいいと、エンジニアは『鬼ごっこ』がいいと言っていたんです。相談していくうちに、間をとってケイドロにしようと(笑)。
───面白いですね。ということは、人気作品はちょっとは触ってみたものの、そこまでゲームとして影響を受けているわけではないということですか。
田中氏:
製品版にしていく中で良いなと思ったところは、いくつか参考にさせていただいた部分もあります。たとえば、追う側と追われる側のどちらかの陣営を選んで遊べる点です。すぐに目的となる場所に遊びに行けるところは便利だなと思いました。
また当時、全国エンタメ祭りにブースを出す予定がありながら、開催まで1か月くらいしかなかったもので、参考になるものとかを探す時間もなかったです。とにかく必死に手を動かしていましたね。
───プロトタイプとはいえ、よく1か月で出せましたね。
田中氏:
僕らもそう思っています(笑)
───全体の制作期間は、開発チーム15人でどれくらい経ちますか。
田中氏:
1年経ってないくらいですね。
アップデートとバランス面
───今後のアップデート予定についてお聞かせください。
田中氏:
はい、キャラクターやマップの追加、ゲームバランス調整の予定があります。マップは既に取り掛かっているものがありまして、完成次第実装します。諸々のバランスも想定以上の方々に遊んでいただいているので、統計データをもとに調整も進めていきたいです。
しかし、現在はバグが起きている部分もあるため、その課題の解決を優先しています。ユーザーさんから多数のご意見をいただくなど、僕らにとって嬉しい悲鳴が上がっていて、これ自体初めての経験なんです。至らないところもあるとは思いますが、期待していただけている以上それに応えたいなと。
ユーザーさんからダイレクトメッセージが送られてくることがあるのですが、楽しみにしてますと言っていただける方もいれば厳しいご意見をいただくこともあります。しかし、それも楽しみにしているからこそのものなので、なんとかそこはユーザーさんとしっかりやり取りをさせていただいて、このゲームの一区切りがどこなのかを一緒に考えていきたいと思っています。
───ではここから具体的なゲームバランスや仕様について説明させてください。マップ追加の予定があることに関連してですが、対人戦のマップが一時間に一度しか変わらないのは個人的な意見ではありますが、ちょっと長いかなと感じてしまいます。一時間続けて遊ぶと、同じマップで大体十試合くらい遊ぶことになるので、少し飽きてしまうかなと。この点についてどうお考えでしょうか。
田中氏:
こちらについては追加マップを増やす段階で、一つのマップに割り当てられる時間の変更を予定しているので、いずれ解消されていくのかなと感じています。
───ちなみに、時間によってマップをローテーションするシステムは『スプラトゥーン』から影響を受けているんでしょうか。
田中氏:
若干取り入れている部分はあります。ただどちらかというと、僕らのマップの生産力という話ですね。僕らの開発はどうしても人数が少ない分、一人ひとりの負担が大きく作れる母数が少なくなってしまいます。それをどうやったら数を増やせるかというときに、牢屋のスイッチの数を増やしたり、徐々に動けるエリアを狭くしたりなど、ルールの変更をマップの差分に加えることにしました。ちょっと違った味付けをして、遊びの幅を増やせたらと。最終的にはマップが何種類か追加された状態で、今の半分くらいの時間になるんじゃないかなと思います。
───ゲームの演出について質問です。ひとりでケイドロを遊ぶ時にキャラクターの頭上に取得したコインが加算されていく演出がありますが、あの演出はオンライン対戦では導入されないんでしょうか。実はあれすごく好きなんです。
田中氏:
オンライン対戦では人と遊ぶことに集中してほしいので、敢えて非表示にしてあります。対人戦では音で近くにニンゲンやオバケがいることが分かるシーンもありますので、余分な情報が入ってくると本来一番楽しんでほしいところの楽しさが少し薄れてしまう。そういった要素は対戦から省きたいと考えています。
ただ、この演出は僕の要望からスタートしたものなので、それで喜んでいただけていることは嬉しいです(笑)。
───ニンゲンとオバケの特定の実績を解除すると、移動速度が上がるという部分があると思うのですが、この実績を解除しているかどうかで勝敗が決まってしまう一因になっているのではないかと思う部分があります。この辺りについてはどうお考えでしょうか。
田中氏:
こちらはゲーム中の説明にありますとおり、効果はほんのちょっぴりだけなんですよ。勝敗を左右するような移動速度のアップにはならないように数値を調整してありますので、今のところはスタンプをとっていくおまけだと考えると一番いいのかなと思っています。
───ユーザーが考えるほど深刻なものではないと。
田中氏:
はい、こうしたゲームにおいて移動速度がいかに大事かという部分は分かっているので、全てのスタンプを集めてようやく少し変わるかなというくらいの数値になっています。しかし、対戦データを集めているところではあるのですが、もし勝敗に大きく関わってくるレベルだなと感じたら、そこはまた調整を考えております。
───統計に基づいて考えられているということですね。そのほかとしては、キャラクター間の差別化の対象として、オバケとランタンがともに十種類以上現在実装されていると思うのですが、種類が多い割にそこまでの性能の差というか遊び方の差が変わらないと感じています。この部分は幅を広げる予定はございますか。
田中氏:
ここもたくさん意見をいただいていまして、調整を予定しています。ただ幅を広げ過ぎるとバランスが崩壊してしまうので、一番いい着地点を探しつつということになります。現在は何かの能力が高ければ別の何かの能力が低いといった、リスクとリターン、メリットデメリットを持った状態にしてあります。今後の調整も同じような方向性で、何かが突出すれば別の何かが低くなるような状態で進めるつもりです。デザインもひとりひとりのキャラクターにポンコツ感が少しあるように、わざと作っていますね。今は集まるデータの数がすごく増えてきているので、そういうところから一番いい着地点を探しているところです。
───ちなみに、牢屋のスイッチを押している時に、ニンゲンに結構長い無敵時間がある点についてどうお考えでしょうか。オバケで遊んでいる側からすると「今こっちが先に掴んだでしょ!」と言ってしまいがちです。
田中氏:
ケイドロの醍醐味は仲間を救助しに行く点だと思っているので、ゲームの中で1回でも多く救助劇があってほしいと僕らは考えています。ニンゲンは隠れているところから出てくるだけで結構なリスクがあるので、そこも相まって今のスイッチを押す挙動にしています。その挙動も実際はどちらが先かという判定が行われた後にスイッチを押す演出が出るため、無敵時間があるように見えているんです。しかし、確かに懸念点ではあるので今後調整しないといけないとは思っています。
待っているユーザー向けの工夫としては、牢屋内が暇だなと思いましたので、キャラクターがかわいらしい動きをするエモートを用意しました。また、簡単な意思疎通を仲間と取れるようにチャットも用意しました。開発の中ではケイドロであることから外したくなかったので、牢屋の中から外に直接影響を与えるようなものはないようにしていますね。僕らが小さい頃にケイドロを遊んでいたときは、ジャングルジムが檻代わりだったんですが、そこから何かできることと言えば外に手を伸ばすこととか(笑)。昔ながらのそういったケイドロの部分を現代の形に落とし込んだつもりです。モーションを連打すると、屈伸運動になったりもするので牢屋の中ではそれで遊んで貰えたらと。
───もどかしさも含めてゲームの一つの体験というわけですね。
田中氏
そうです。四画面分割で遊べる機能は凄く苦労しましたね。一つの画面に四つ描画すると処理が重くて…。今はどこの企業さんもこの機能を実装されないことが多いですが、家族でわいわい遊んで欲しいという思いもありましたので実装しました。
四画面分割だとオバケがニンゲンの位置が分かるじゃないかという意見を以前いただいたのですが、四画面分割の状態ですとミニマップが表示されないようになっているんです。このお陰で意外と分からない。また、他の人の画面を見ているとオバケ側が自分がいる場所が分からなくなるので、こちらは問題ないと思っています。
やりたくて仕方なかった
───マルチプレイで非対称対戦で画面分割もあって。それらを1年でやり切ったコツははどんなところにあるんでしょうか。
田中氏:
精神論になってしまいますが、開発チームのみんながやりたくてやっていたという部分はあります。特にイベントで何回も遊んでくださるお客さんが喜ぶ顔を見ているということが大きいですね。楽しんでる顔をまた見たい、そしてリリースも間に合わせてゲームを持っていきたいと、他のメンバーも同じように思ってくれたことが大きいと思います。
優先順位としては、僕らが一番大事にしているローカルで4人が集まって遊ぶ、ここが一番面白くなるように注意しました。そのうえでオンライン対戦や家族で遊べる要素もあった方が良いよねと、開発の絶対抑えなきゃいけない部分に一番力を入れています。オンラインプレイというところ自体はソフトとして遊ぶにあたって絶対に必要だよね、ということは任天堂さんから仰っていただけている部分でもあったので、まずは言うことを聞いておこうと(笑)。
───プラットフォーマーさんの協力があったからこそリリースできたという部分もあるんですね。ただ、Nintendo Switch独占でゲームを出すということが、この規模のゲームだと最近はあまりないように感じますが、こちらはどのようにして決まったんでしょうか。
田中氏:
僕らが想定している遊んで欲しいユーザー層が、やっぱりNintendo Switchのハードの先にいるというところが大きいですね。持ち寄って遊ぶ、わいわいみんなで遊べるというところでNintendo switchで決め打ちしました。それに僕ら開発陣はみんなコンシューマゲームが好きで、腰を据えて誰かと遊ぶことが好きなんです。迷いなくNintendo Switchで決まりました。
───今遊び込んでいる人に向けての着地点も探さなければいけないし、子供も満足させなければいけない。この両方を意識されているんですね。
田中氏:
そうですね。ただ、子供がどこを楽しんでどこが楽しめないかという点が、実際には僕らが想像してたものとは全く違うので難しいところです。イベントの時も感想がほしいと紙を用意したんですが、子供はみんな感想を書いたりすることよりもツギハギの顔を書いたりだとか(笑)。統計の参考にはなりませんが、楽しかったことは分かったのでよかったです。
───ちなみに、こういった対戦ゲームに慣れ親しんでいる方からすると試合時間が3分間というのは非常に短い気がするんですが、そこはブレませんでしたか。
田中氏:
ブレませんでした。RPGとか普通のゲームを遊んでいるユーザーさんが、既にあるゲームのくくりというよりかは、それ以外の時間でちょっと一息をつく意味でうちのゲームを遊んでいただくことを想定しました。夜寝る前に1戦だけやって寝るとか。何かの待ち時間に少し遊ぶとか。あとは、(ぜんためを含めたゲーム系の)イベントに適した形にすることも求めていたため、3分という設定からはぶれませんでしたね。むしろそこに合わせて調整を進めました。
───ありがとうございます。それでは最後にユーザーの方へコメントをお願いします。
田中氏:
今後もバランスの調整や追加コンテンツなど、色々とやっていき、もっとローカルでもオンラインでも楽しんでもらえるようにしていきます。ローカルでの遊び、対戦の楽しさは、僕らが昔熱狂したゲームボーイの対戦ゲームに近いものを感じますので、その楽しさをユーザーの方にも感じていただければ幸いです。Nintendo Switch Liteの発売も近いのでぜひ。
中島氏:
ゲーム実況動画の投稿をどんどんしていただけると嬉しいです。今作は自社ですべて開発した作品になりますので、少しでも権利関係上どうなのかともし悩んでいる方がいらっしゃれば、投稿ガイドラインの気軽にご相談などお問い合わせしていただけると嬉しく思います。
寺山氏:
遊び方の幅を自由に広げてほしいと思います。例えば『Dead by Daylight』とかですとボイスチャットの使用が非推奨だったりしますが、うちのゲームではみんなでわいわい楽しく遊べるゲームを原点としていますので、ぜひ色んなことにチャレンジして楽しんでもらえたらと思います。
小野氏:
現在、不具合関係でご迷惑をおかけしている部分があるとは思いますが、しっかり対応していきたいと思っていますので、今後も見放さずにいただけたらと思っています。
───本日は、ありがとうございました。