『Orangeblood』開発者インタビュー。「空想の90年代、東シナ海の人工島で少女が危険と戯れるRPG」はいかに生まれたか

弊誌アクティブゲーミングメディアのPLAYISMから発売される『Orangeblood』。ドット絵が目を引くこのRPGには、どのようなルーツがあるのだろうか。

『RPGツクールMV』でゲームを制作しています───2017年6月、そんな文言と共にとてつもない描き込みのGIF画像がTwitter上にアップロードされた。立ち並ぶ猥雑なビル。忙しなく輝く電飾。複数の言語が混ぜこぜになった看板の数々。緻密に積み上げられたドットには、世界観を想像させるに足る情報も練り込まれ、筆者の心を掴むのに十分なものだった。

しかし、タイトル名すらも明かされないまま約2年の時が経ち、多くの個人制作作品同様開発が頓挫したのではないかと思われていた矢先、「BitSummit 7 Spiritsの直前となってPLAYISMから発売されることと、タイトル名が発表された。作品の名を、『Orangeblood』。怪しげな人工島「ニューコザ」を舞台に、少女たちが銃撃戦を繰り広げる作品であることはわかったが、まだまだ謎の多い『Orangeblood』と、Grayfax氏自身について「BitSummit 7 Spirits」の会場で直接お話を伺ってきたので、今回はその内容をお届けしたい。

※ PLAYISMは弊社アクティブゲーミングメディアのパブリッシングブランドです

 

───まずは自己紹介をお願いします。

Grayfax氏:
『Orangeblood』を開発しているGrayfaxです。今はゲーム開発に専念しています。

───Twitter上では開発チームと言う風に表現されていましたが、一人で開発されていたんですね。

Grayfax氏:
情報が何も無いところから出てくるのは面白いかなと思いまして、開発チームという茶番も含めて情報を制限し、正体がよくわからない人物がいきなり出てきたという演出を狙っていたというのは正直ありました。

───先日PLAYISMから発売されることが発表されました。当初はフリーゲームとして公開予定という情報もありましたが、販売に変わったことも含めて、開発の経緯を教えてください。

Grayfax氏:
まず、僕は中学生ぐらいの頃から、何かで凄く有名になって世の中に認められるか、野垂れ死ぬかの2択に決めていたんです。それでいて、なるべく汗水を垂らしさずに自分の得意なことだけをやって生きていきたい気持ちがとても強かった。それで、高校を中退してからはずっとフリーターをしていたんですけれど、そろそろ何かアクションを起こさなければいけないかなと思い、最初に漫画を描き始めたんです。

でも漫画は描いていて、カメラが動くと背景を全部描き直さなくてはならないことが凄く面倒だった。背景を描いている時、無駄なことをしているという気持ちがあって、これは僕の適性の問題であって、それを出来る人は尊敬しています……だから背景には凝れないし、イマイチ向いていなかったんです。そこでゲームに目を向けてみると、アセットを作ると全部に使える。これは凄いことだし、もしかしたらドット絵でポチポチするのは向いているんじゃないかなと思って───でもピクセルアートをやったことは殆どなかったので、まずはその練習から始めました。

───では、Twitter上で拡散されていた画像の段階にまで辿り着くのに大変だったのではないでしょうか。

Grayfax氏:
全面的な書き直しを2回やっているので、掲載した形に辿り着くまでに2-3年はかかっています。単純な作業時間で言うと2か月から3か月ぐらいかな。ピクセルアートでは、街中に転がっているゴミ箱や電話ボックスなどが、どこの国で製造されてどういう経緯で持ち込まれたのか、この路面電車の車両はイギリスで生産されて香港で使われていたものだとか、一つ一つのルーツにも出来る限り神経を注いでいます。実在感みたいなものはそういう部分に出てくるものなので。若さとセンスで勝負できる年齢でもなくなってしまったので、これまで無駄に生きてきたことによる情報の蓄積をベースに、ピクセルアートを描いています。

ゲーム自体をポートフォリオとして始めた側面もあったので、当初は無料で公開しようと考えていたのですが、下心ではありますが直接誰かしらの目にとまって買い上げられたりとか、出資が貰えたりしたらいいなとも思っていて───いつだったかな。掲載して約半年経過した頃、最初に声がかかったところがPLAYISMでした。その後も何件かお話は来ているんですけど、お断りしています。

───少し話を戻しますが、ゲーム開発のきっかけについて、ゲームが作りたかったというより、合理性から始められたということでしょうか。

Grayfax氏:
ゲームを作りたい気持ちもあったんですけど、合理的な部分も含めて、複業的な判断でゲーム制作を始めました。自分の世界観を出せるなら、媒体は何でも良い部分はありましたね。

───人工島と酒と金とロックという組み合わせはどこからきたんでしょうか。

Grayfax氏:
『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』で、難民居住区として登場する人工島があるじゃないですか。ああいう魅力的なロケーションがアニメやゲームで登場しても、例えばゲームで最初の舞台として人口島が出てきたら、ゲームが少し進むとその場所を終わらせて新しい場所へ行ってしまう。ずっとそこでやればいいのに、あれで一本作ればいいのにと常々思っていました。俺はずっとそこでやるぞという思いから、人工島が舞台になりました。サイバーパンク的というか、アジアンゴシックな空気感が好きで、どこの国のどんな人が見てもエキゾチックな雰囲気が感じられるように、誰が見ても外国人っぽく見えるように、というのが一応コンセプトにあります。

───試遊版では、音楽もゲームの雰囲気にあったものでしたが、作曲もされているのでしょうか。

Grayfax氏:
音楽はPLAYISMに制作をお願いしています。どう伝えようか迷いながら、いつキレられるかなと思いながら、凄く細かい指定をしていて、最終的に完成度の高いものを作ってもらっています。

最初にコンセプトをお伝えして、それが実現出来る人を作曲の担当に要求したんです。90年代のGolden AgeのHIP HOPで、特に西海岸系の「Dr.Dre」「Snoop Dogg」をイメージした音を出してくれという風にオーダーしたんですけど、実際担当していただいた方がめちゃくちゃうまくて。イメージ通りのものが上がってきているので、サントラを出したいぐらいです。めちゃくちゃ売れたらレコードで出したいですね。

───では音楽に続いて、バトルはどうなっているんでしょうか。

Grayfax氏:
バトルについては、世界観を見てほしいのでその邪魔にならないように作りました。たとえば難易度を上げてしまうと、世界観に価値を見出してくれたのに遊べないような人が出てしまうので、誰でも遊べるようなゲームになっています。「RPGツクールMV」製なので、とがらせるのも大変ですし、テンポを早く待ち時間を短くして、快適さに対してウェイトを置いています。あとはバトルアニメーションを作るのが面倒でしたね。どれだけツクール感を消せるかどうかが自分の中で勝負だったので、フルアニメーションさせるつもりでやったんですけど、やらなきゃよかったです。シンプルに、引っかかりの無いように仕上げています。

───逆に力を入れたのはどこになるんでしょうか。何を創っているときが楽しかったですか。

Grayfax氏:
全部楽しいかな(笑)。1番辛かったのは確定申告ですね(笑)。

制作している中で辛かったのは、1日ぼーっとしながらインターネットを見ているときの罪悪感です。やらなきゃいけないんだけどなーと思いつつも、あまりノらないからビールを飲んで寝るという。やり始めたら作れるしノってくるんですけど、やり始めるまでが大変なんですよね。1番楽しかったのは作画かもしれないです。

───グラフィックと世界観に、特に力を入れられたということになるんでしょうか。

Grayfax氏:
テスターには好評なので、バトルも割と楽しいと思いますよ。戦闘バランスもこだわっていて、ナラティブは偶然───運ゲーから生まれると思っているので、運ゲーに寄せています。個人的に僕は『ボーダーランズ』が好きなんですけど、あのゲームが神ゲーなのは、ランダムドロップで武器が手に入りますけれど、それをカスタマイズする手段がないことだと思っています。カスタマイズが出来てしまうと、一気に面白くなくなる。細かいところを弄れてしまうと、それが仕事みたいになってきてしまうので、それはダメだと思うんです。だから人智が及ばないところから戦略がはじまって、自分が戦術を行使するということは徹底しています。

報酬を受け取ることで逆に意欲が削がれる、アンダーマイニング効果ってありますよね。街中で飯とか食えるじゃないですか。下手な調整だとランダムでバフを付与したりする。ドロップ率アップとか。けれど、そんなことをすると、バフを付けることが義務になってしまう。それでは全く面白くないので、完全に無意味にしています。せっかく作ったからやらせようというのも無しで、意味はないけれど、そこにあるものとして用意してあります。

───プレイヤーの体験を重視しているということでしょうか。

Grayfax氏:
そうですね。誰がやっても一緒なら、やらなくていいと思っちゃうので。ランダムに強く寄せたり報酬をカットすることで、自分で選択してやってる感を演出しようとしています。

───そうした持論の背景には、さまざまなゲームをプレイしたことによる見地というか、理論があるんじゃないかと思うんですが、普段からゲームはプレイされますか。

Grayfax氏:
ゲームはやりますねえ。でも、家庭の事情で高校生になって有耶無耶になるまでゲーム禁止でした。友達の家で少し触れたぐらいで、ファミコンもスーパーファミコンもあまり触れてないんですよね。親が厳しかったというより、単にゲームが禁止だっただけなんです。

面白かったのがまだサンタさんがいる“設定”だった時、クリスマスプレゼントの希望を第3希望まで全部ゲーム機で埋めたら、急にサンタさんがいないとカミングアウトされて、吉祥寺にあったおもちゃ屋に連れて行かれて、スーパーファミコンより全然高いモデルガンを買い与えられたんですね。モデルガンも好きだけど、なんでそこまでしてゲーム機を買い与えたくないんだろうな、この親はと思いました。詳しく聞いたことは無いので、理由はわからないです。そのおかげで、歪んだ執着がゲームに対して生まれました。

ゲームが出来るようになって、僕が最初にバイトして買ったのはもう白くなったセガサターンです。CMで一度見てから天命を感じていた『サクラ大戦』を最初に買いました。普段プレイするのは、やっぱり洋ゲーとかのほうが多いですかね。直接影響を受けたのは『GTA』と『ボーダーランズ』だと思います。

───『ボーダーランズ』は先程お話にありましたが、『GTA』からはどういう影響があるんでしょうか。

Grayfax氏:
なんだろう、単にアメリカにかぶれただけかもしれないです。ただ、クライムアクション的な、面白い死に方をするのが面白いみたいなところはありますよね、電柱にぶつかった時に物理演算がおかしくなって、ぽーんってとんでったりとか。

───『Orangeblood』には、自身がゲームをしながら思ってきたことが多く投影されているんでしょうか。

Grayfax氏:
こうだったらいいのにな、というのは常々思っているので、そうして思ってきたことは反映されています。

───ゲームプレイ中に作り手の視点にたってしまうと、苦しい時もあるのでは。

Grayfax氏:
辛い時はたしかにあります。ただ、ゲームはそれぞれどこかしらいいところはあったりするし、極端な話マルチプレイできるなら何でも面白い。こうだったらいいのにと思うところは、自分のゲームでやればいい。人の遊んでる時にこうだったらいいのにと思っても、どうしようもないじゃないですか。どうにかできる手段をもっているんだから、それはそれでいい。別に細かいあら捜しをしながらゲームをしてもそんなに面白くないので、逆に救われています。

───最後に、特に見てほしいところなど、アピールポイントをお願いします。

Grayfax氏:
全部見てください。トータルで。全部見てくれ。

───ありがとうございました。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

記事本文: 2572