死の瞬間を切り取る演出、それを際立てる演技
───実在した船を参考にしたとのことですが、オブラ・ディン号という名前はLucasさんが思いついたと聞いています。
Lucas Pope:
はい、船名のアイデアが浮かんで、それから似た名前の船が当時存在していなかったか探したのですが、エリザベス号やマリア号といった平凡な名前ばかりでした。最初に思い付いたときには「いい案だけど、いまいちしっくりこない」と、より良い案がないか模索したのですが、結局最初のアイデアが一番良かったという結論に行き着いたのです。
───マリア号も少し見たかったです。ところで、死の瞬間をとらえるという本作のコンセプトは狂気じみていると思います。60人分の死因を考えるだけでも大変ですが、どのシーンもグロテスクな部分がありますよね。最近『Mortal Kombat』シリーズの開発者が、ゴア/グロ満載のシーンをつくる中で気が病んだと語る記事を読みました(Kotaku)。Lucasさんは、死亡シーンばかりつくっていて疲れませんでしたか。
Lucas Pope:
それほどでもありませんでした。『Obra Dinn』のビジュアルはリアル路線ではないですし、描かれるのは死の瞬間をとらえた1コマだけです。その1コマをどのように表現し、どのようにモデリングするのか。そしてどのようにしてプレイヤーが理解できるようなシーンに仕上げていくのか、考えていくプロセスがあります。
キャラクターの多くについては死の瞬間を描写しているのですが、何人かは命が絶える数瞬前を描いています。そちらの方が、血しぶきをあげたりと、一番衝撃的なシーンだからです。そうしたシーンをつくっていく上では、グロテスクさよりも、おもしろさの方が勝っていました。あと、全編白黒で低解像度なので、リアルな感じはしませんでした。
───ビジュアルだけでなく、BGMとサウンドエフェクトも没入感をもたらす上で重要な役割を果たしていました。何か参考にしたものはありますか。
Lucas Pope:
最初の計画では、死の瞬間ではなく、死に至るまでの様子をプレイヤーに追体験してもらう予定でした。時計を遺体に使うと、その人物の視点に移り、亡くなる少し前の時点から何が起きたのか体験できるのです。それでは作業量が多すぎるということで、最終的には静止した死の瞬間だけをとらえるという案に落ち着きました。
静止した世界を描くという案は気に入っています。聴覚情報がとても重要になってくるからです。没入感を高めたり感情を誘発するだけでなく、ゲームプレイにも影響を及ぼします。プレイヤーは、何が聞こえてきているのか把握しなくてはなりません。そうしたサウンドづくりに時間と労力を注ぐのは、意義のあることでした。
サウンドづくりにおいては、各シーンで何が起きているのか把握しておく必要があるため、他の人に任せられるわけでもありません。自分でつくった死亡シーンなので、私自身は目を閉じていてもすべて頭の中で想い描けます。ですがプレイヤーにも理解してもらえるよう、私の頭の中にあるシーンをサウンドだけで再現するというのは、なかなか難しかったです。
ちなみに自分で収録したのはごく一部だけです。サウンドライブラリから必要な素材を探してミックスしたりエフェクトを加えたり、アレンジしていくことで、その場にいるかのような感覚を生み出そうとしたのです。
サウンドづくりで学んだのは、無数の音が同時に広がっていたとしても、人間の耳は自分が聞きたい音だけに絞って聞いているということです。たとえば、海や船の音に包まれた空間にいるように感じてほしいと思って音作りを始めたところ、音をたくさん詰め込みすぎて失敗したことがあります。会話しているキャラクターの声に集中させたりと、プレイヤーにとって重要なサウンドはどれなのか明確にする必要がありました。そうすることで、その場にいるような感覚を生み出せるのです。
人は全ての音を意識的に聞いて生活しているわけではありません。ときには船がきしむ音が耳に入ることもありますが、多くの場合はドアが開く音や、遠くの話し声を優先的に聞いています。音のボリュームがほかの物音に比べて低くても、人間の耳はそれらを先にキャッチするようにできているんです。
各シーンの聴覚情報を構築し、プレイヤーがその場にいると感じられるようなサウンドにしつつ、しっかりと手がかりを残していくこと。それは本作の開発においてもっとも楽しかった工程のひとつですね。
───声優さんたちの演技もすばらしかったです。
Lucas Pope:
演技のクオリティには私も驚きました。「ゲームというよりもラジオの放送劇に近い」と声優陣に伝えたことも功を奏したのかなと。プレイヤーに状況を伝える上では、彼らの演技に頼る部分が大きいんです。それを事前に伝えたことで声優陣の理解が深まり、より良い演技につながったのだと思います。