『キングダムカム・デリバランス』開発者インタビュー。日本語PS4/PC版の発売が発表された、15世紀ボヘミアを忠実に描く中世RPGに込められた想いとは

日本語PS4/PC版が発表された『Kingdom Come: Deliverance(キングダムカム・デリバランス)』。TGS2018の開催にあわせて来日した開発元のPRマネージャーTobias Stolz-Zwilling氏に、『キングダムカム・デリバランス』の見どころを語ってもらった。

ーーご説明ありがとうございます。それでは続いて、リリースまでの経緯についてお話を聞かせてください。2014年にKickstarterキャンペーンを通じて出資を募ったとのことですが、AAA級タイトルではないとはいえ、Kickstarterだけで十分な資金を調達できたのでしょうか。

Stolz-Zwilling氏:
いえ、Kickstarterはあくまでもプロジェクトをキックスタートするためのサービスであって、そちらで募ったのは開発資金のごく一部です。ほかにも出資してくれる投資家がいました。ただ、当初は『キングダムカム ・デリバランス』のアイデアこそあったものの、パブリッシャーを見つけることができずにいました。そこで興味を持ってくれた投資家と相談して、当時新しかったKickstarterというクラウドファンディングサービスを活用することにしたのです。みんながゲームにどれくらい興味があるのか測るという意図もあって、もし30万ポンド集めることができれば、残りの必要資金は投資家が出してくれるという段取りになりました。結果的にKickstarterキャンペーンで集めた出資額は1か月で110万ポンド(約1億6000万円)に至り、そこから投資家がプロジェクトにお金を出してもらい、のちにKoch Media(Deep Silver)がパブリッシャーとして名乗り出てくれました。

ーーWarhorse Studiosの従業員数を教えてもらえますか。

Stolz-Zwilling氏:
Kickstarterキャンペーン開始時は25人、リリース時には110人、現在は120人ですね。2019年には150人にまで増やす予定です。

ーー『キングダムカム ・デリバランス』は2018年最大級のヒット作となりました。この反響についてどう思っていますか。

Stolz-Zwilling氏:
正直言うと、リリース日にはみんなハラハラして爪を噛んでいました。私は2014年6月にWarhorse Studiosにコミュニティ・マネージャーとして入社したのち、2週間でPR職に転身し、2015年6月にPRマネージャーに昇進しました。それからはゲームを広めるため世界中を旅し続けています。当時は未完成の状態のゲームを人々に見せては「いつか良いゲームになりますから!」と熱意を伝えてまわっていました。開発チームとの繋がりは強いので、各地で得たフィードバックは常に開発チームに伝えていましたよ。

そして発売直前の2017年11月ごろに各国のゲームメディアにゲームを見せた際には、揃って「面白そうだけど、誰もが楽しめるゲームかどうかはわからない」という返事が返ってきました。『キングダムカム ・デリバランス』がどういったゲームなのか、リリースまでに正しく理解してもらえるよう伝えることができたとは思っていますが、魔法とドラゴンのファンタジーでもなく、ハイスピードアクションが売りのゲームでもない、スローテンポなロールプレイゲームがどのような結果を出すのか、発売日を迎えるまで予測できませんでした。良いゲームになるとは思っていましたが、人々に理解してもらえるかどうかは、結果が出るまで分からなかったのです。

社内で「100万本売れるまでどれくらいかかるか」という話になったときには、3か月、7か月、1年といった答えが返ってきましたが、蓋を開けてみると約2週間で100万本を突破したので驚きましたよ。「誰もが楽しめるゲームかどうかはわからない」という懸念は杞憂に終わったのです。『キングダムカム ・デリバランス』は他作品とは違うユニークな作品ということで、多くのゲーマーに注目してもらえました。

ーーリリース後、プレイヤーからのフィードバックを踏まえて変更した点はありますか。

Stolz-Zwilling氏:
お酒ですね。本作でマニュアルセーブするには「Savior Schnapps」(アルコール度の高い蒸留酒)を飲まなくてはいけません。購入するか、どこかで見つけるか、醸造するかしないと手に入らないもので、プレイヤーからは「セーブ&終了」オプションが存在しないことについて不満の声があがりました。どうしても今すぐゲームを終了しなくてはならないけれど、セーブするための酒がないという場合があるからです。そうしたフィードバックを受け、リリース後に「セーブ&終了」オプションを追加しました。

お酒を飲んでセーブするというアイデアの根本としては、「このクエストを受けるべきか、先にセーブしておくべきか」といったことを熟考して欲しいという思いがありました。酒には限りがありますし、飲み過ぎると酔ってしまうので、小刻みにセーブすることはできません。何が起きようと結果を受け入れて先へ先へと進んでいくのです。

この「セーブ&終了」の追加が最大の変更点ですね。バグに関しては、定期的なアップデートにより改善を重ねています。

ーー『キングダムカム・デリバランス』については以前、日本語にローカライズする予定はないと仰っていました。今回日本語化を決意したきっかけはございますか?

Stolz-Zwilling氏:
アジア圏でゲームを出すには、現地で諸々の対応をこなしてくれる人が必要となります。当時は欧米圏での流通網すら整備できておらず、日本の市場で成功する道筋が見えていなかったのです。その後Koch Mediaと組むことで欧米圏をカバーできるようになり、このたび日本の市場で成功する余地があるかどうかDMM GAMESの方々と話し合った結果、今に至ります。

どこかで誰かが言っていたのですが、日本にも「故郷や家族など全てを失った青年が戦場に引きずり込まれ動乱の時代を戦い抜いていく」という、『キングダムカム・デリバランス』と似た構造の物語(作品)があるそうです。ただ、日本では伝統が断絶することなく受け継がれてきたと思いますが、中世ヨーロッパでは武器・防具・剣術などの技術・文化が目まぐるしく変化していったため、15世紀ボヘミアの文化はほとんど残っていないという違いはあると思います。

 

文化的輸出品としてのキングダムカム

Stolz-Zwilling氏:
時代の変化に伴い、15世紀当時の剣術・文化は忘れ去られてしまいました。『キングダムカム ・デリバランス』は当時の様子を再現することで、忘れ去られた歴史の一場面を垣間見る機会を与えてくれます。チェコ共和国では文化的輸出品として高く評価されており、首相からもテキストが送られてきたくらいです。チェコの歴史を世界に広めるきっかけになるからです。

またチェコの観光代理店では『キングダムカム ・デリバランス』ツアーが組まれていますよ。ゲーム内のロケーションはどれも実在する場所ですから、現在の様子を見に行って、ゲーム内のものと比較できるわけです。

ーー 興味深いお話、ありがとうございます。最後に、日本のゲーマーに向けたメッセージはございますか。

本作に登場するクマン軍のマスクをつけた、DMM GAMESのプロデューサー松本卓也氏(画像左)とWarhorse StudiosのTobias Stolz-Zwilling氏(画像右)

Stolz-Zwilling氏:
欧州と日本の伝統・文化は、大きく異なると同時に似ている部分もあります。そして15世紀ボヘミアの世界に入り込み当時の様子を知るというのは、他のゲームでは体験できないことだと思います。一部のストラテジーゲームで触れられることはあるかもしれませんが、一人称視点のロールプレイゲームとしてはないはずです。日本が戦国時代に入ろうとしていたころ、中世ヨーロッパの戦場はどのようなものであったのか、興味を抱いた方は本作を遊んでみてください。

ーーありがとうございました。

日本語版『キングダムカム ・デリバランス』の対応プラットフォームはPC(DMM GAME PLAYER)およびPlayStation 4。2019年春リリース予定だ。

 

[執筆:Ryuki Ishii]
[編集・校正:Ryuki Ishii/Minoru Umise]

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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