売り切りゲームはもう出さない。Epic Gamesが『フォートナイト』を選んだ理由とは?社長のTim Sweeney氏に聞く

Epic Games社長であるTim Sweeney氏にインタビューする企画後編。前編はゲームエンジンUnreal Engineの仕掛け人としてお話をうかがった。後編では、ゲームメーカーEpic Gamesの社長として、全世界で大ヒット中のバトルロイヤルゲーム『フォートナイト』を中心に、ゲームづくりの哲学や今後の展望を語っていただく。

Epic Games社長であるTim Sweeney氏にインタビューする企画後編。前編はゲームエンジンUnreal Engineの仕掛け人としてお話をうかがった。後編では、ゲームメーカーEpic Gamesの社長として、全世界で大ヒット中のバトルロイヤルゲーム『フォートナイト』を中心に、ゲームづくりの哲学や展望を語っていただく。後編も引き続き、Epic Games Japanの河崎氏の協力のもと、さまざまな裏話を聞き出した。

茶目っ気たっぷりにルートボックスの話を始めるTim氏

――『フォートナイト』のヒット理由については、どう分析されますか。

Tim Sweeney氏(以下、Tim氏):
単純に遊んでいると、とても楽しいからですね。そして、友人と遊んでもとても楽しい。

――Ninjaもそう言っていました(笑)。

Tim氏:
(笑)。私自身も他のどんなゲームよりも『フォートナイト』を遊びこんでいます。理由は楽しいからです。シューターは25年以上やってきましたが、バトルロイヤルタイプのゲームはその中でもつい続けて遊んでしまうびっくりするほどの楽しさがあります。倒されるまでは誰にでも勝つチャンスがあるように感じられますし、倒されても何が悪かったのか学んで次の試合に挑めます。みんなついつい、もう1試合だけ、もう1試合だけとプレイし続けてしまうのです。

――何が悪かったのか学べるのは、リプレイ機能のおかげでもありますね。

Tim氏:
ひとつ面白いことは、そうしたジャンルやアイディアは2000年の日本の映画から来ているという点です。12年をかけてゲームにやってきたという形ですね。それをBrendan Greene
(PlayerUnknown)氏が『ARMA3』のModにし、そこから『H1Z1』を生み出し、大きな成功をおさめた『PUBG』につながりました。『フォートナイト』もそうした作品の上で作られました。日本からアイルランド、韓国、そしてアメリカ。そうした紆余曲折があるのはとても面白いですよね(笑)。クールです。

――『PUBG』の話をさせてください。『フォートナイト バトルロイヤル』を作る上で『PUBG』の何を参考にしましたか。

Tim氏:
『フォートナイト』は「バトルロイヤル」を実装するまでに7年間を費やしてCo-opゲームとして開発してきました。そこで、アートスタイルやキャラクター、建築や武器などが生まれました。『フォートナイト』チームがゲームを作る傍ら、Epicには『H1Z1』や『PUBG』にハマっている人も多かったんです。そこで、『フォートナイト』にそうしたアイディアを足してみようということになり、建築とバトルロイヤルを組み合わせたゲームプレイのメカニックを持つ『フォートナイト バトルロイヤル』が生まれた形ですね。

100人が開けた世界で戦い、時間経過によってエリアが狭くなっていく。それ自体はバトルロイヤルの映画自体のアイディアです。そして『Arma』Modや『H1Z1』『PUBG』が受け継いでいきました。一方、アートスタイルや建築、武器、作品全体としてのカジュアルなテーマ・感触というのは『フォートナイト』ならではのものです。

こうした流れからは、全ての開発者が何かを学べることでしょう。我々は7年かけて『フォートナイト』を開発してきました。それはそれで成功していたのですが、バトルロイヤルという、既存のコンテンツの上に後から乗っけたゲームモードの方が、オリジナルよりも圧倒的に高い人気を誇るようになりました。どのゲーム開発者も、既存のゲームで実験を重ねてみて、うまくいきそうなものがあれば公開してみるというアプローチを検討すべきなのです。

――カジュアルな一面といえば、『PUBG』は大人向けで、『フォートナイト』はキッズ向けという表現をよく見かけます。その表現については賛否あるかと思いますが、棲み分けを意味するものであり、非常に面白い傾向だと思うのですが、どうお考えでしょうか。

Tim氏:
『PUBG』と『フォートナイト』の違いでいえば、『PUBG』はリアリスティックなミリタリー・シミュレーションが好きな人が好む傾向にあり、『フォートナイト』は難しいことを抜きにしてアクションゲームを楽しみたい人が好む傾向にあります。『PUBG』はミリタリー系のリアリズムに沿ったゲームなので難しいです。実際の兵士が敵を倒そうとするとき、戦場のひらけた場所でいきなり砦を建てたりはしないでしょう(笑)。カムフラージュして、地を這うことで姿を隠し、はるか彼方にいる敵をスナイパーライフルで狙撃して、相手に見つかる前に仕留めるはずです。撃たれる側としては、敵の姿を見ることなく突然死んでしまうので、決して楽しい体験ではありません。

一方、『フォートナイト』ではそこまでの難しさは求められません。敵から撃たれたとしても、すぐに壁を建てて身を守り、状況を把握して交戦することができます。銃撃戦も建築戦も、どれも面白いです。これは『PUBG』のようなシミュレーションではなくゲームであり、メインストリーム寄りの、アーケードスタイルの楽しみ方ができる作品なのです。

Tim氏は本名とは別の名前で、『フォートナイト』を遊んでいるとのこと。ふたつの勢力が戦う中で隠密を続け、棚ぼた的にビクトリーロイヤルを獲得したこともあるという。

――ありがとうございます。そうした説明を聞くと、『フォートナイト』の魅力が改めて理解できますね。ちなみに『フォートナイト』は2018年に入りTwitchの人気の後押しを受けて著しく伸びてきました。その理由はどう分析されていますか。

Tim氏:
なぜゲームが急速的に成長しているのかと言うと、毎週プレイヤーたちが新しい友達を誘って、プレイヤーの数を増やしてくれるからです。プレイヤー人口が多ければ、それだけゲームは成長します。Twitchの面白いところは、トップ10のゲームがすべてのユーザーに見えるところです。ゆっくり成長していても、トップ10に入った瞬間大きくその数字は跳ね上がります。みんなが遊んでいるものとして認識されるわけですね。

『フォートナイト』はとても配信と相性がいいんです。もし『フォートナイト』を遊んだことがなくても、何が起こったか、状況などがわかるので見やすいんですよね。ほかのゲームと比べても、特に見ていて楽しいゲームなのは間違いないです。たとえば『League of Legends(LoL)』をプレイしたことがなかったり、スキルを理解していないと『LoL』の配信は楽しみづらいです。アニメーションや画面上の数字の意味の性質を理解する必要がありますからね。『オーバーウォッチ』に関しては、観戦するとなると非常にゲームスピードが早い。展開が早くて理解が追いつかないこともあると思います。そういう意味では『フォートナイト』は観戦しやすく、配信にピッタリだと思いますね。だから成功したのだと思います。これからゲームを作るデベロッパーは、見ていて楽しいゲームにすることを検討するべき時代に来ていると思います。

――『フォートナイト』のこの盛り上がりを、どのように維持していくつもりですか。

Tim氏:
『フォートナイト』には期間限定モードというものがあります。どちらか片方のチームが勝つまで戦う50対50モードのように、これまでに10種類ほどの期間限定モードを作ってきました。どんなゲームモードであれば面白くなるのか探るために、色々と実験を重ねているのです。他には新しい武器や機能を導入して、人気があれば残し、人気が無ければ削除しています。フィードバックを受けながら、継続的に改善を進めているのです。たくさん実験して学習するというのは、全てのゲーム開発者に推奨したいことでもあります。

――『フォートナイト』では、Epic Gamesはユーザーの声をしっかりと聞かれていますよね。老舗の大手会社としては、少し珍しい傾向にあるように見えます。

Tim氏:
実はこうしたやり方は、1991年の創業当初から始めたことなんですよ。我々はゲームをシェアウェアとして、エピソードを分割して販売していました。ゲームの開発からパブリッシングまで、全部自分たちでやっていたのです。

しかし、その後の20年間はそういうことができなくなりました。コンソール市場が強くなり、パブリッシングが難しくかつ高額になったからです。ですがSteamが大きな成功をおさめて、PSNやXbox Liveによりオンライン上でゲームを販売することが可能になったとき、開発からパブリッシングまでのプロセスを自分たちで完全にコントロールできることに気づいたのです。よって2012年に再び自社パブリッシングするという決断を下しました。この体制になってから、成功をおさめるまでにはとても時間がかかりましたね。

先程も言ったように『フォートナイト』の開発には7年かかりましたし、『Paragon』も商業的に十分な収益を出せることはありませんでした。ですが『Paragon』で学んだことを『フォートナイト』で生かして、より良いプロセスに仕上げることができました。

――Epicほどの会社でも、そうした失敗から学ぶのですね。

Tim氏:
そのとおりです(笑)。プレイヤーたちは、全員が平等に遊べて、マネタイズ手段がゲームプレイに影響しないコスメティックアイテムに限定されたゲームが大好きです。ルートボックスやその他のギャンブル要素が含まれていないゲームが好きなのです。我々はその事実を、自らの失敗や経験から学び取りました。他の開発者たちも、我々の経験から学んでくれることを願っています。

UE4を用いて作られた『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』

――最後の質問になるんですが、PCゲーマーとしては『Unreal Tournament』や『Gears of War』を発売していたEpic Gamesが恋しくなる時もあります。そうした売り切りのゲームに回帰する予定はありますか。

Tim氏:
いいえ、ないですね。私達は『Gears of War』などのゲーム開発は恋しくありません。そういったゲーム開発には3年を費やし、発売した時にやっとユーザーが何を好むか、何が嫌いか、何を求めているかのアイディアといったフィードバックを得て、改善を進めるのです。そして、そこから3年をかけてそのフィードバックを反映します。3年をかけて実装するんですよ。ひどいものです。あまりにも長く時間がかかってしまいます。

一方、『フォートナイト』では毎週アップデートを配信しています。プレイヤーたちはゲームの何が好きで何が嫌いだったのか毎週フィードバックを寄せてくれますし、私達は彼らのニーズに応えられるよう、すぐさまゲームに変更を加えられます。結果として、かつてない速度でゲームの改善を進められるようになりました。私は、このモデルこそがゲーム業界にとって最良の選択だと思っています。このモデルで運営して、プレイヤーからのインプットにうまく応えることができれば、旧来のモデルで開発されたゲームよりもはるかに大きな成功をおさめられるはずです。

――Game as a service(※)というと、ビジネスやマネタイズの文脈で語られることが多いですが、Timさんはむしろ開発や開発者のモチベーションのためにやられているように聞こえています。

※ Game as a service
昨今のゲームタイトルに取り入れられつつあるサービス。一度遊びクリアして終わるのではなく、ユーザーに継続的に遊んでもらい、継続的に投資してもらうという、オンラインアップデートによる長期運営を視野に入れたサービスモデル。

Tim氏:
まさしくそうですよ。オンライン運営ならば、これまでよりも良いゲームを、より速くつくれますし、より速く改善していくことができます。ゲーム業界にはふたつの側面があるという考えにも同感です。ゲーマーと開発者のことを大切にする側面と、利益の追求を大切にする側面です。私達はそれらを分離すべきでしょう。

ゲームを素早く改善していけるGame as a Serviceは、ゲーマーと開発者の両方にとって最適な運営モデルです。また『フォートナイト』のようなF2Pゲームは、友人みんなを誘って一緒に遊ぶことができます。それもお金を払うことなくゲームをインストールして、プレイし始めることができます。新規プレイヤーの参入を妨げる要素がないのです。私達はこうしたアプローチのメリットを、ゲーマー・開発者の視点から認識すべきでしょう。

この業界の重役には、収益性だけを考慮して決断を下すような、無知な人たちが沢山います。そのせいでゲーム業界は悪い慣習を数多く取り入れてしまいました。みんなが『フォートナイト』でうまくいっている部分を見て学んでくれることを願うばかりです。カジュアルではなくシリアスなゲーマー向けのF2Pタイトルを見てみると、『LoL』『フォートナイト』『PUBG(モバイル)』など、良心的なビジネスモデルを採用した、プレイヤーフレンドリーな作品が沢山あります。一方で、ルートボックスまみれの強欲なゲームというのは、あまり多くのプレイヤーを惹きつけません。

とはいうものの、誰だって失敗から学んで適応するものです。『フォートナイト』の「世界を救え」モードにも、ゲームメカニックの一部としてルートボックスが組み込まれています。これも徐々に改善していきたいと考えている部分ではありますし、ときには間違いを犯さないと理解できないこともあるのです。

――Epic Gamesのさらなる快進撃に期待しております。ありがとうございました。

 

 

[Special Thanks : Ryuki Ishii]

 
Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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