Nintendo Switch版『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』インタビュー。短期間で移植できたのは自主練のおかげ?

MAGES.(ゲームブランド 5pb.)が、Nintendo Switch参入第一弾のタイトルとして発表した『ファントムブレイカー:バトルグラウンド オーバードライブ』。2017年12月7日に発売される本作について、プロデューサー盛政樹氏と、プログラマーの今泉正稔氏に話を聞いた。

2017年11月15日、『STEINS;GATE』などアドベンチャーゲームでお馴染みのMAGES.(ゲームブランド 5pb.)が、Nintendo Switch参入第一弾のタイトルを発表した。もちろんアドベンチャー……かと思いきや、PlayStation 4で発売されたベルトスクロールアクションゲーム『ファントムブレイカー:バトルグラウンド オーバードライブ』を移植するという。2Dのアクションゲームで賑わっている印象もあるNintendo Switchなだけに、まさにピッタリの1作と言える。

本作の概要を説明しておこう。まず2011年6月にXbox 360で対戦格闘ゲーム『ファントムブレイカー』が発売され、これのスピンアウト作として、2013年2月にXbox 360の配信専用タイトル(Xbox Live アーケード)として『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』(以下、『PBBG』)がリリースされた。その後、2014年3月にPlayStation Vitaへ、2015年1月にSteamへと移植され、2015年7月には追加要素入りのバージョンアップ版として『ファントムブレイカー:バトルグラウンド オーバードライブ』(以下、『PBBGOD』)がPlayStation 4で発売された。Nintendo Switch版はこのPlayStation 4版『PBBGOD』の移植となる。発売日(2017年12月7日)まで1か月を切った11月某日、本作が第一弾として本作が選ばれた理由を聞くため、本作のプロデューサー盛政樹氏と、プログラマーの今泉正稔氏に話を聞いた。

 

移植作業の本格スタートは9月から

――会社内でNintendo Switchに参入したいとアピールされたのはいつごろでしょうか?

盛氏:
忘れもしない、去年の10月20日に任天堂さんがNintendo Switchの全貌を正式発表した翌日、10月21日です。Nintendo Switchの発表映像を見た瞬間にアイディアが浮かび、すぐ企画書にまとめました。つぶやいたのでよく覚えています。

ただ、うちの会社は任天堂さんとはそこまで積極的な付き合いがなかったんですよ。ニンテンドー3DS向けには何作かリリースしましたが、WiiやWii Uは未参入だったんです。なので、どうやって連絡を取ったらいいんだろう?っていう。まずはそこからでした。

僕はとにかくやる気満々だったのですが、うちの会社はノベルゲーとかギャルゲーが多いので、そもそもそういったゲームがNintendo Switchに向いてるのか、っていう慎重な意見も社内にはありました。

MAGES. ゲーム事業部 第2制作セクション プロデューサー 盛政樹氏(右)と、同じく第2セクションの今泉正稔氏(左)

 

――具体的に動き出したのは?

盛氏:
僕がやりたいやりたいとずっと騒いでいたこともあってかは分かりませんが、いつのまにか僕の知らないところで任天堂さんとは話が進んでいたんです。今年の7月になって「参入する」という話が降りてきました。しかも、「今年中に出せるなら、作っていいぞ」と。

 

――7月の段階で? 今年中にって……もう半年もない段階ですよね?

盛氏:
はい、今年も折り返していたのですが、このチャンスを逃したくなかったし、とにかくやりかったので「はい、やります!」と手を上げました。そこから大慌てでしたね。期間的には完全新作は無理だと判断して、当初の企画書の内容ではなくて『PBBGOD』の移植に切り替えたんですが、それでも時間がなかった。

今泉氏:
開発機材を買ったりハード検証したりと、基本的な準備に1~2か月ほどかかりました。本格的に開発がスタートしたのは9月に入ってからです。

ステージは秋葉原や新宿、お台場などが舞台となっている

 

――えっと、いま11月なので……実質3か月程度ですか?

今泉氏:
すでに多くの機種で展開してきた『PBBG』シリーズだったので、作り慣れていたこともあります。もちろん、Nintendo Switchがそれだけ開発しやすいハードというのも、短期間で移植できた大きな要因です。

盛氏:
でも、作りやすいからだけで『PBBGOD』を選んだわけではありません。本作の遊び方はNintendo Switchに非常に向いていると思ったんです。

今泉氏:
Nintendo Switchは左右のJoy-Conを外してテーブルモードにすれば、すぐ2人で遊べるじゃないですか。本作こそ、そういうふうに遊んでほしいんですよ。

 

短期間移植を実現させたのは自主練

――移植とはいえ、3か月はかなり短期間ですね。

盛氏:
デバッグ期間やマスターのチェック期間を除くと、実質2か月くらいですかね。これが実現できたのは、複雑な理由がありまして……。

PlayStation 4版を発売した後、『ROBOTICS;NOTES』の神代フラウが使えるようになるダウンロードコンテンツを出す予定だったんです。でも、PlayStation 4版を最後に、『PBBG』『PBBGOD』の開発をお願いしてきたデベロッパーさんから「もうできません」と断られてしまって……。そこで一度無期延期と発表させていただきました。

Steam版のオンラインアップデートも残っていた段階でしたし、これはどうしようかなあと思っていたら、僕のブログのコメントで「だったら自分たちで作れよ」と言われてしまって。無茶な言われようなんですが、むしろそれもそうかなと思ってしまったんです。

対戦格闘ゲーム『ファントムブレイカー』のキャラがデフォルメされて、より可愛らしくなった。2Dのアニメパターンも豊富だ

 

――なるほど、だったら社内の開発チームに作ってもらおう、と。

盛氏:
そうです。でも社内開発チームはノベルゲーを中心に作っている人たちばかりなので、アクションゲームを作った経験が乏しくてノウハウがないんですよ。でも自分たちでやろうと決めたので、自分と今泉くん2人だけで開発会社からソースコードを引き上げて、プログラムを解析して……というところから始めました。

今泉氏:
ただ、その段階では会社の許可は得ていなかったんです。

 

――え? 『PBBG』のダウンロードコンテンツを内部開発でやることにOKは出てなかったんですか?

盛氏:
こういう場合、社内人件費がかかるんですが、そこまでコストをかけることができなかったので……OKが出てなかったというより、もう空いてる時間に勝手にやりましたね(笑)。昼休みを利用したり……。

今泉氏:
言葉はアレですけど「自主練」といいますか。盛のチームは日頃、さまざまな基礎研究をやっているんです。商品になるか分からないゲームの研究といいますか。自分たちが遊んでみたいゲームを試しに作ってみるんです。その一環としてやってみた、という感じですね。もちろん、ダウンロードコンテンツが出せる見通しがついてからは、正式に内部でやることになりましたが。

盛氏:
たとえば、いまやってるのは、対戦格闘ゲーム『ファントムブレイカー:エクストラ』をさらにバージョンアップさせたものを作っています。ただ、あくまで趣味と自主研究の範囲内でやっていることなので、残念ながら今のところ発売予定はないんですけどね。「自主練」なので(笑)。

今泉氏:
プロジェクトの合間に少しずつ作ってまして、昨今の格闘ゲームのトレンドなどを織り交ぜつつ開発していますが、スローペースすぎて出すとか出せるとか言えるような段階ではないんです。

あくまで研究として開発をしている『ファントムブレイカー:エクストラ』のバージョンアップ版。いまのところ発売予定は残念ながらないそうだ

盛氏:
そうやってなるべくコストをかけないように基礎を築いてから、正式にプロジェクトとして動かすというやり方でSteam版のオンライン機能追加と、フラウのダウンロードコンテンツを実現させました。あくまで空いた時間を利用して、というやり方だったので、いつ出せるということを明言することがなかなかできなかったんです。これは申し訳なかったんですが……。

今泉氏:
でも、こうした研究・開発のおかげで、『PBBG』『PBBGOD』の中身は完全に把握できたんです。それもあって、今回短期間で移植ができました。

 

クロスプラットフォームも視野に入れたオンラインプレイはアップデートで対応

――現時点ではオンラインプレイを実装していませんよね? 発表されたリリースによると、2018年中にアップデートで対応予定とあります。

盛氏:
そうなった理由のひとつは、Nintendo Switch Onlineの正式サービス開始が2018年だから、なんです。どのくらいのユーザーさんがどういうふうに遊ぶのか、そこを見てから正式対応したいと思っています。

今泉氏:
いまは無料でオンラインプレイを楽しむことができますが、これが本格稼働して有料になったら、Nintendo Switchユーザーがどういう遊び方をするのかちょっと様子を見てみたい、というのがあるんです。

他機種でダウンロードコンテンツだったものはすべて収録している

盛氏:
たとえばコミュニケーション手段はどうなるのか……。Nintendo Switch単体ではボイスチャット機能がありません。いま発表されている内容をみると、スマホアプリを使ってボイスチャットができるという機能があるとのことですが、子どもがみんなスマホ持っているかというと、まだそういう時代ではないですし。実際にサービスが始まって、Nintendo Switchユーザーのオンラインプレイの楽しみ方を見たうえで、オンライン機能を実装するならどういう形がいいのかを、ちゃんと見極めたいんですよ。

もうひとつの理由が、異なるプラットフォーム間でもオンラインで遊べるクロスプラットフォームに興味を持っていて……って、隣にいる今泉にはいま初めて言うんですが(笑)。

今泉氏:
はい、初めて聞きました。ちょっとビックリしてます(笑)。

盛氏:
海外タイトルだと『マインクラフト』や『ロケットリーグ』がクロスプラットフォームを実装しはじめています。国産タイトルではまだどれも実装してないので、ぜひ『PBBGOD』でやってみたいんですよ。とはいえ、『PBBGOD』はいまのところPS4とNintendo Switch版だけなので、Steam版や360版も『~オーバードライブ』にしないといけないのかとか、やるならXbox 360版じゃなくてXbox One版にしたほうがいいなとか、いや今ならXbox One Xに対応しなくちゃとか、クロスプラットフォームを実現するならすべてのプラットフォームでの展開も含めて考えなければならないので、いろいろ大変なんですけどね。でもやってみたいという野望はあります。そのあたりの調整も合わせて行うためにも、もう少し時間が欲しい、という訳です。

 

サカリPの新作アクションゲームは来年発表

――Nintendo Switch版は1000円なんですね。他の機種と比べて一番安い価格となっています。

盛氏:
ベースとなったXbox 360版『PBBG』が2013年発売と4年も前のゲームなので、価格は抑えました。Nintendo Switch版発売に合わせて、他機種でも値下げの価格改定を行う予定です。今価格を調整中なんですが、これから買うユーザーさんはなるべくどの機種でも同じような値段設定にできるといいな、とは思っています。

Steam版はセールが頻繁に行われているので、ほしい価格になったときに買ってもらえれば、と思っているのでこちらは据え置きの予定ですが、まぁ未定です。

 

――言語は8カ国語に対応しているんですね。

盛氏:
最初のXbox 360版は日本語、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ドイツ語をフォローしていました。ここからさらに、今夏にSteam版で中国語(簡体字)をアップデートで対応させ、Nintendo Switch版でロシア語も入れました。

世界各国から「『PBBG』を○○語に対応させてほしい」という意見をたくさんいただいておりまして、本当にありがたいかぎりです。おかげさまでワールドワイドで売れているタイトルとなり、シリーズ累計で40万本を超えました。

今泉氏:
この前は「フィンランド語に対応してほしい」という要望も来ました。市場規模などを見て、少しずつ多くの言語に対応していくことができたらと思っています。

Joy-Conなどコントローラーが4つあれば、4人同時プレイが可能に

 

――今後シリーズとしての新作などはどのようにお考えでしょうか。

盛氏:
『ファントムブレイカー:バトルグラウンド2』のようなものが出るかと言われれば、今のところ予定はありません。『PBBGOD』で付け加えた要素は、複雑になりすぎず遊びの幅を増やす、という内容になっています。これ以上やってしまうと複雑になってしまって、単純な面白さが失われてしまうんじゃないかと。なので、『PBBG』シリーズとしてもこれでひと段落になるかと思います。先ほど言ったようにクロスプラットフォームを考えると、移植は無きにしもあらずなのですが。

そのかわりというわけではありませんが、いま○○の新作アクションゲームを作っていますので、そちらを期待していただきたいですね。

 

――え? アクションゲームだとは聞いていましたが、○○なんですか?

盛氏:
……あ、そこはまだ言っちゃダメなんだっけ?(広報のほうをチラ見)。えっと、現段階では「アクションゲームを鋭意開発中」ってことでお願いします(笑)。来年(2018年)春には発表したいですね。マルチプラットフォームでの展開を考えていますが、チームの規模から言ってマルチ同時開発は難しいので、順次発売という形になっちゃうかもですが。

 

――なるほど、ではそちらも期待しつつ、まずは12月7日に発売されるNintendo Switch版『PBBGOD』について、最後にひと言ずつお願いします。

今泉氏:
僕たちが子どものころ、友だちの家に集まって一緒にテレビゲームを遊んだような感覚が、Nintendo Switchのテーブルモードなら手軽にできちゃいます。このゲームはそういうときこそ遊んでほしいので、ぜひ持ち歩いていつでもどこでも友だちと遊んでいただけると嬉しいです。

盛氏:
任天堂ファンの方々は、MAGES.や5pb.というブランドのことをよく知らない人が多いかもしれません。今後、ウチの得意とするアドベンチャーゲームはもちろん出ますし、本作のような昔ながらのテイストを含んだアクションゲームもリリースしていきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

©2011-2017 MAGES./5pb.

Munetatsu Matsui
Munetatsu Matsui

高校卒業の1986年、パソコンゲーム雑誌「テクノポリス」で働き始めて、CGコーナーやゲーム紹介・攻略を担当。1994年にゲーメスト発行元の新声社へ。1999年にはアスキー(のちのエンターブレイン、現KADOKAWA)へ転職してファミ通ドリームキャスト、ファミ通Xbox 360などの編集に携わる。いくつかの雑誌では編集長に就任。現在はフリーライターとしてゲーム関連メディアを中心に活躍中。ゲームと名の付くものなら、家庭用ゲーム、スマホ、パソコン、もちろんアーケードも遊ぶ。近年はボードゲームにも手を出し始める。

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