『ドラゴンクエストXI』×「Unreal Engine 4」、Epic Games河崎氏がスクエニに訊く(後編)

『ドラゴンクエストXI』とUnreal Engine 4の開発舞台裏を紐解く対談企画。前編に引き続き、今回は同作で話題となった「井戸ルーラ」やUnreal Engine 4での利点をお聞きする。

『ドラゴンクエストXI』とUnreal Engine 4の開発舞台裏を紐解く対談企画。前編に引き続き、今回は同作で話題となった「井戸ルーラ」やUnreal Engine 4での利点をお聞きする。

 

「井戸ルーラ」と「30分」の真相

河崎氏:
すでに何度も話していますが、せっかく篠山くんもいるので、「井戸ルーラ」の話は避けて通れないかなと。「ルーラのロードに30分かかる(※)」という話しがありましたが。

※ルーラのロードに30分かかる: 「ドラゴンクエスト夏祭り2017」において、堀井氏や開発スタッフたちが語った話。当初PS4版の『ドラクエXI』ではルーラに30分かかっており、その打開策として井戸を登っているあいだに読み込みを終えるという「井戸ルーラ」が採用、しかし後々廃止され、Epic Gamesと協力してロード時間がなんとか短縮されたと伝えられていた。(参考リンク

岡本氏:
僕から言わせれば、シェーダーのコンパイルとか、そういうところの時間を含めると30分かかってる。

紙山氏:
それはエディタ上でキャッシュ無しでプレイした時ですよね。でも実機だと、カップ麺ができて少し水分を吸っちゃうぐらいでしたね。

篠山氏:
ちょっと伸びちゃう。

紙山氏:
生麺タイプかどうかは言わない。

岡本氏:
でもカップ麺て6分ぐらい待つやつもあるからね。

河崎氏:
300円ぐらいするいいやつですね。

岡本氏:
ブタメンか6分ぐらいするやつかは、ご想像にお任せします(笑)。ともかく、(改善前のルーラの待ち時間は)ラーメンがちょっと伸びるぐらいの時間でしたね。

篠山氏:
インターネット上では「30分ぐらい読み込むこともある」という意見もあったんですけど、そんなに読み込んだらメモリが溢れちゃう。

紙山氏:
ネットの記事にもなったじゃないですか。それを見て篠山さんに「どうしよう、最初は30分かかったって言っちゃったみたいだけど、さすがにそんなにかかってない」と連絡したら、「30分だったらなにかの間違いだと思うだろうし、どちらにしても最新バージョンのUE4では早く改善されているので、いいんじゃないでしょうか」となった。でも、そのあとに出社したら、他チームのプログラマーから「本当に30分かかったなんですか?」と何度も聞かれましたね。いや、あれは盛りすぎで、実際はラーメンぐらいですよと。

紙山氏:
堀井さんからあそこでああいう話が出たのは、UE4のエディター上で見ていただいていたことがあって、その印象が強かったんだと思うんですよね。シナリオの確認はアセットが早く上がってくる3DS版のROMを使っていたんですけど、バトルの部分はUE4のエディターを使ってましたから。

岡本氏:
それはあるでしょうね。全然マップが起動しないみたいなこともあった。

篠山氏:
僕が『ドラクエXI』に関わった2016年夏ごろには、もうロード時間を改善しようとする動きがありましたよね。

紙山氏:
そうですね。実はその半年前くらいからご相談をさせていただいてましたが、実際篠山さんと具体的に動き出したのは夏からでしたね。

岡本氏:
当時、ロード時間が解決しなかったときに備えて「井戸ルーラ」を作っておこうという話になったんですよね。

紙山氏:
ルーラに関しては、2016年の1月か2月にEpic Gamesさんに伺わせていただいて、みなさんに説明しましたよね。JRPG的な作りで、こういうものを持つゲームもあるんだよという。

岡本氏:
なつかしい。

篠山氏:
海外の方にルーラとは何かを説明していましたね(笑)。

河崎氏:
ルーラ説明用に3DS版の『ドラクエVIII』を持ってきていましたね。「ちょっとウェイポイント(※)とは違うんだよ」と。

※ウェイポイント: 位置情報を意味する言葉。ゲームでは『Diablo』系アクションRPGなどに登場。町やダンジョン前などに存在するポイントで、触れたり起動することでそれぞれのポイント間を行き来できるようになる。

岡本氏:
でもファストトラベル(※)と対して変わらないんじゃないんですかね。

※ファストトラベル: 街やダンジョンなどの地点を自由に移動できるシステム。いずれかの転送ポイントに行かなければならないウェイポイントに対し、一般的にファストトラベルは好きな位置から特定の地点へと行き来することができる。

紙山氏:
そうなんですけど、『ドラクエ』の様式美としてありますよね。海外の方は「ルーラがあるからいけないのでは?」というところがあって、そこはごもっともなんだけど、そこは外せない仕様なんですよと。

河崎氏:
ルーラで井戸に飛ぼうという話は、相当古かったですよね。

紙山氏:
堀井さんとの会議のときに、ロードがどうしても長いので、マップの出入り口になんらかのクランク(※)を作らないといけないと。水平に作ってみるとすごく長い道になって、まあこんぐらいの長さになっちゃいますねみたいな話をしたときに、なんか『ドラクエ』っぽい感じでクランクを表現できないかねと。それで水平なクランクを縦にしようという話になった。

※クランク: 日本語で言うと「路地」。途中に曲がり角のある狭い小道をマップとマップの間に置くことで、視界を制限し、その間に広いマップの読み込み時間をかせぐ、というテクニック。

岡本氏:
あれ、けっこう登ってるのにたどり着かないみたいなね(笑)。

紙山氏:
そうそう、ロードが終わらなかったらハシゴがどんどん伸びていくみたいな。まあ長すぎますよねと、本当にこれで大丈夫なのかと、不安がずっと続いてましたよね。

岡本氏:
そういえば井戸ルーラだったとき、ルーラポイントは自分で登録する作業をしなければならなかったんですが、まったく登録していないことがよくありました。前の町に歩いて戻ってイライラというのがずっとありましたね。

河崎氏:
つまり、井戸ルーラは底に降りなければならなかった?

岡本氏:
そうです。町のなかに入っただけで井戸のなかにルーラすることはできなくて、一度井戸の中に入らせなくちゃいけない。なのでその手間を考えて「ルーラの秘石」みたいなのを作っていたんです。秘石に手をかざすとルーラポイントを覚えるみたいな。

河崎氏:
ウェイポイントですね。

紙山氏:
井戸ルーラに関しては、自分のなかでも本当にこれでいいのかと悩んでいました。ずっとなくしたかったですよね。

 

リアルルーラ

紙山氏:
2月ぐらいに井戸ルーラの話をしたあと、まだ半年近くやるかやらないかみたいなことになってたんですけど、マップの締め切りが年末でそろそろ危なかった。マップが出来たあとにカットシーンを作るような後ろの作業もある。締め切りが近づきつつあって、もうヤバいぞということで、すごくしつこく話をさせていただいてました。

篠山氏:
Epic Gamesはいろんな国のスタッフがリモートで働いていて、アメリカの本社にポーランドやイギリス、そして僕たち日本で、サポートは24時間稼働していましたね。初めは僕も気づかなくて、本社の人たちなのに早く来る人も遅く来る人もいて、日本のゲーム業界と同じなんだなと思ってたんですけど、ふと蓋を明けてみれば米国だけでなくヨーロッパにもいて、常に時間がアクティブということだった。ちょうど僕たちが寝る時間には、海外のスタッフがアクティブになって、夜0時ぐらいに改善案が返ってきたり。

紙山氏:
朝出社しても、午前10時から11時ぐらいまでに返答すれば、一回返ってくる可能性があるんです。北米がたぶんそうですよね。

河崎氏:
北米はそうですね。こっちの早朝が向こうの夕方なので、10時ぐらいだと向こうの21時ぐらいで。

紙山氏:
そうですよね。なので朝一でチェックしたものは、午前10時ぐらいまでに返信しようかなみたいな感じでしたね。日中はもっと色々とテストして、午後8時ぐらいまのであいだにいろいろ篠山さんとやり取りして、向こうに返すことを決めた。

篠山氏:
これがなかなか大変で、紙山さんと夜8時まで話したあとに本社のスタッフが起き始める。そこから本社とのやり取りが始まって、気づくと深夜2時や3時になっているなんてことも。だから忙しいときは、ほんとど寝ずにやっていることもありましたね。

河崎氏:
地球上をぐるぐると。リアルルーラですね。

篠山氏:
(笑)。出産時もずっと仕事をやっていて、妻にもかなり迷惑をかけたと思うんですが、妻はどんどんやれ、どんどん仕事に行ってこいと言ってくれました。

紙山氏:
夏からはじめたロード高速化の対応ですが、11月下旬までは、『ドラクエXI』から切り出したテストマップでずっと検証やバグ調査をしていました。まだまだサンプルレベルでたくさん問題があったんですよね。そのバグ取りがだいたい終わって、『ドラクエXI』の本体にデータ高速化対応のプログラムを当てたときに、また本番特有の問題があった。それらが終わったのが年末ぐらい。

篠山氏:
テストマップでの検証中は『ドラクエXI』の背景にUE4のマネキンが動くというか、魔法の絨毯に乗って飛び回るというか。

※開発中の画像です。

紙山氏:
デルカダール地方とデルカダール城下町を行き来するとき、2日間放置するとクラッシュするとか、すごいレアなバグもそこであらかた出した。本当に年末、寝れませんでしたね。このままだとまずいな、無事に出せるのかなと思ってたんですけど、なんとかなりました。そこからクランクを取ろうという話になって、クランクを取ったバージョンを堀井さんにお見せして、それでいこうと決まったのが年明けぐらいかなあ。

河崎氏:
『ドラクエXI』をプレイしてるあいだに使われなくなった井戸を見て、これが篠山くんの足跡だと。

岡本氏:
生きた証です。

篠山氏:
そういう対応のおかげで改善されたのが、マップをつなぐクランクがすごく長かったんですけど、あれが全部なくなりましたよ。

河崎氏:
データを先読みしていたので、途中で引き返しても大変なことになってましたよね。

篠山氏:
なってましたね。

紙山氏:
ロードとしてはクランクもほぼ何もなくなったので、本当によかった。

岡本氏:
最初、神の岩から儀式が終わってイシの村に行くことになりますよね。ロードを改善するまでは、イシの村の端っこのクランクをずっと歩いて歩いて、ようやく読み込みが終わったころに村のなかにたどり着くような感じだった。

紙山氏:
クランクが1分近くあった。

岡本氏:
あと地図では、街と街のつなぎめに尻尾のようなものがずっと残っていたんですけど、全部なくなりましたね。

紙山氏:
11月下旬までは、『ドラクエXI』から切り出したテストマップでたくさん問題があったんですよね。そのバグ取りがだいたい終わって、『ドラクエXI』の本体にデータを当てたときに、また本番特有の問題があった。それらが終わったのが12月ぐらい。

 

Unreal Engineっぽくない

紙山氏:
でもロード問題に目途がついたからか、みんな安心してしまったようで河崎さんからも「そろそろ篠山は大丈夫でしょうか」と相談があったんですよね。でも確かにロードは速くなったけど、まだガベージコレクションに絡む画面のカクつき問題が残ったままになっていました。なのでまだダメですと。

篠山氏:
9月の頭に第二子が生まれて、そのあと僕は一か月間、育児休暇を頂く予定だったんです。でも全部キャンセルになった。ただ結果、家からの勤務は認められたので、泣く子供を抱えながら作って。

紙山氏:
その子はイレブン君て名前にしないとね(笑)。

篠山氏:
結果、『ドラクエXI』が発売されてから1か月間、育児休暇をいただいたんですけどね(笑)。

紙山氏:
さっき言った画面のカクカク問題の対策は1月から始めて5月まで続いて、すごく時間がかかりましたね。

岡本氏:
QAチーム(※)の“激”怒りが止まらなかったですね。

※QAチーム: Quality Assuarance、通称QA。ゲーム開発においてはおもにデバック作業など作品の品質を保つためにおこなう活動を指す。

紙山氏:
週一でQAから「どうでしょう?今週のカクつき対応に何か進展はありましたでしょうか?」ってね。「まだちょっとかかります」と。

岡本氏:
「進捗はしてるんですよ」ってね(笑)。

紙山氏:
エンジンの根元に大胆な修正を入れ続けてたんですが、「そろそろやめていただけませんでしょうか」みたいな。

岡本氏:
それが途中から「もういいんですよ、マスターしないだけですから」っていう(笑)。どんどん冷たくなっていく。

紙山氏:
変えた部分はチェックできませんのでと言われて、そりゃ困りますと(笑)。

岡本氏:
チェックできませんというか、しませんぐらいでしたね。でも、QAの担当たちは今回相当がんばってくれましたね。

河崎氏:
QAのテスターの人たちを大事にするプロジェクトって、やっぱり絶対いいものになるなって昔から思います。モチベーションも上がりますよね。

紙山氏:
ですね。製品版として出た『ドラクエXI』はすごくスムーズに動いていて、UE4感がないと言われました。これはロードが遅いとかカクカクするとか、汎用エンジンを使った際に日本人的に気になる細かい問題点がないという意味です。Unreal Engineで動いているようには思えないと、多くの人から褒め言葉としてもらったんですよね。

河崎氏:
『ドラクエXI』は褒められているけど、Unreal Engineは褒められてないですね(笑)。

岡本氏:
でも、これ以降はUnreal Engineで『ドラクエXI』と同じことができるということですから。

紙山氏:
そうなんですよね。UE4で『ドラクエXI』がこんなにスムーズに動くんだという意見がすごく多かったですね。

篠山氏:
実際、Epic Games側もいろいろと叩いていただいたものを吸収して、最新バージョンに盛り込みましたね。ロードやカクつきに関して、『ドラクエXI』を題材にさせていただいてと。

河崎氏:
僕もいろんなライセンシーさんに「大丈夫です、『ドラクエXI』が通ったあとに綺麗な道ができますから、安心して走っていただけます」と言ってきましたが、まさにその通りに。我々からすると『ドラクエXI』の開発とともに、UE4におけるPS4への最適化が進んだという感覚です。

 

パッチのないゲーム

紙山氏:
5月以降は落ち着いてやっとテストプレイができるようになりました。そこでどうしても気になる部分を直してもらいつつ、僕の方は発売後にリリースされるかもしれないバグ修正パッチの不具合についてEpic Gamesさんとやりとりを開始しました。

篠山氏:
パッチの容量がすごく増えてしまうという問題があって、それを解決していましたね。

紙山氏:
当時のUnreal Engineだと、1.00と何ひとつアセットを変えていない状態で1.01を作成しても、山のような差分が判定されてパッチが10ギガくらいになってしまう問題があったんですよね。

篠山氏:
そういえば、Day1パッチ(※)が当たり前になっているこのご時世で、出さなかったのは本当にすごいと思います。

※Day1パッチ: 発売当日にリリースされるパッチのこと。おもにマスター版に間に合わなかった修正データが盛り込まれており、スケジュールがギリギリだった大型タイトルでは数GBのギガパッチが配信されることも珍しくない。

岡本氏:
もともとドラクエのお客さんって、インターネットに繋いでいない層も絶対いるんですよね。なので今回、DLCはなしで完全買い切りで遊びっきりというのを出している。パッチをするのがそもそも思想としてなかったという。

河崎氏:
かっこいい。

岡本氏:
本当にヤバいときはやるつもりでしたけどね(笑)。

紙山氏:
開発会社さんやQAさんがホント頑張ってくださったので、結果的にはパッチを配信せずに済んだのですが、万一のためにEpic Gamesさんとも問題点を共有して、エンジン側も修正していただきました。でもパッチは万一で考え、基本バグは全部1.00の時点で取りきって、ネットに繋がっていないお客さんでもディスクを入れればプレイできるようにするという暗黙の了解みたいなものがありました。そこは『ドラクエ』のこだわりなんですかね。

河崎氏:
カセットをガシャッで、そのまま遊べるという。

紙山氏:
『ドラクエX』のオフラインモードもそうですよね。万が一ネットに繋がってないのに買ってしまったお客さんでも、それなりに満足できるようオフラインでプレイ可能にしようという発想。そこらへんは堀井さんの『ドラクエ』ならではなのかもしれないですね。

岡本氏:
家にネット回線引いてない人ってのも、まだいますからね。

 

UE4でトライ&エラーを早く

河崎氏:
いままでUE4を使うと大変だったという話が多かったと思うんですけど、逆にUE4を使ったからこれができたみたいなのはありますか。ここが楽だったとか。

紙山氏:
基本的にはトライ&エラーが早いですよね。けっこうブループリントを使ったんですよ。

ブループリント

河崎氏:
町の人々との会話まわりはぜんぶブループリントだとか。

紙山氏:
演出を伴うようなリアルタイムイベントも、ブループリントで調整してましたね。

河崎氏:
ゲーム内って、プリレンダのムービーはほとんどないですよね。オープニングとエンディングぐらいで。

紙山氏:
ほぼないですね。処理負荷の関係で、ほんの少し実機キャプチャのムービーもあるんですけど、ムービーはほぼ全部ヴィジュアルワークスの作ったものですね。

河崎氏:
カットシーンはどうやって作ってるんですか?

紙山氏:
そこは「シーケンサー(※)」の前の「マチネ(※)」ですね。

※シーケンサー/マチネ: どちらもUE4におけるシネマティックカットシーンを作るためのツール。現在は「マチネ」から「シーケンサー」に置き換わった。

紙山氏:
『ドラクエ』特有のセリフ送り待ちって仕組みがあるじゃないですか。見てればずっと流れるんじゃなくて、ボタンを押すタイミングで進んでいくので、その辺りマチネを少しいじって実現していたり。マスターアップ後にデザイナーがシーケンサーをちょっと触ってみたんですけど、マチネでけっこう苦労したところがシーケンサーだと楽にできるねみたいな話になりましたね。

マチネ

河崎氏:
ゲームプレイの部分はどうでしょう?

紙山氏:
バトルでは使ってないですね。あの複雑な計算式はさすがにノードで組むとすごいことになる。そういうところはプログラムで組んだ方が早かったりする。バトルの計算式とかAIまわりはネイティブなんですけど、イベント周りはほぼブループリントですね。あとキャラクター周りもブループリントが多いです。プログラマーで完結する処理でも、あえてブループリントで組んでいる部分もあります。イテレーション(※)が早いのが一番のポイントですかね。

※イテレーション: ソフトウェア開発において、実際の制作からテストそして改善を短い感覚で反復的におこなうこと。

岡本氏:
今までは、ビルド(※)をチェックして修正依頼をすると、開発会社さんがビルドを直して動くかどうかチェックして、そこでまた問題があったら戻して修正してというのを、3日から4日、下手したら1週間とかかけてやっていた。次のビルドの更新タイミングはいつですかみたいな。UE4だとエディターを使ってサブミットしたから、エディタで見てくださいで、「はいOKです」とすごく早く対応することができる。

※ビルド: 動作可能な実行ファイルを作成すること、または作られたファイル自体を指す。

紙山氏:
あと、マップのレイアウトを組んでいくのが早いですよね。もしなにか不具合が起きても、エディター上で配置をずらしてまた実行してというのがすぐできる。そこら辺はすごく早かった。エディターのなかで見てるままのことが、そのまま動きますという。一昔前だと、どうしても一度コンバートして実機に流すという作業が必要でしたけど、エディターのなかで完結しているのはいいですね。

岡本氏:
バトルはパラメータの調整も本当に早くできましたね。

紙山氏:
エディターで見ながらパラメータを調整してすぐに実行できる。

岡本氏:
わかりづらいかもしれないんですけど、ダメージが1変わるとか2変わるとか、行動が1ターン変わるとか、細かいことでバトルバランスって本当に変わるんですよ。それを1下げたり2上げたりっていうのを考えてやっていく。

河崎氏:
今までだと仕様書で見当をつけてプログラマーに渡していた。

岡本氏:
プログラマーから返ってきたころには、そのころの感覚は忘れていて、結局ダメだったり。それをプログラマーの手を介さずにできるのは、すごいですよね。プランナーだけで完結してしまう。バトルのバランス調整は時間がかかる部分で、そこが早くできたのはよかった。

紙山氏:
バトルはネイティブで組んでましたけど、パラメータはエディタ上から変更できました。あとUIはすべてUMG(※)とブループリントで制御してました。ほぼ全部のパートが何かしらUE4の機能を使って作ってますよね。

※Unreal Motion Graphics UI デザイナ: UE4におけるUIオーサリングツール。HUDやメニューなどのグラフィックスを作成することができる。

篠山氏:
改造してまったく原型を留めない『ドラクエXI』専用のUE4ではなくて、本当にエンジンの上で作ったという感じですね。

河崎氏:
バトルのAIはすごく頭がいいですよね。「バッチリがんばれ」はすごく気持ちよくて、ずっとオートでプレイしちゃうぐらい。

岡本氏:
最初はメタルスライム殴らなかいぐらい馬鹿だったんですよ。

河崎氏:
いまは優先して殴りますよね。

岡本氏:
「なんでメタルスライム殴らないのか、本当に意味がわからない」と言いまくってました。

篠山氏:
メタルスライム出てきてもオートでやってたんですか?

河崎氏:
はい。ちゃんとメタル斬りをやってくれるので嬉しくて(笑)。

紙山氏:
ラスボス以外はフルオートでも、ちゃんとレベルが足りていれば、ほぼなんとかなる。AI担当の人は大変だったと思います。

河崎氏:
敵の残りHPに合わせてこまめにメラミ撃ったり、バギマ撃ったりしてくれるのが、かわいくていいですよね。クリフトとの苦労が懐かしい(笑)

紙山氏:
丁度いいバランスなんですよね、頭よすぎるとそれはそれでつまらないですから。

 

Epicから見た『ドラゴンクエストXI』

河崎氏:
今回の『ドラクエXI』って、キャラクターが濃いなという印象があるんですよね。

岡本氏:
堀井さんがシナリオを作るときに、どのキャラも立たせたいというのは、やっぱりあったみたいですね。バトルもそうなんですけど、使えないようなキャラはいなくて、シナリオが進んでいくたびにキャラを入れ替えて遊んだ人も多いと思うんです。マルティナのバニーを見続けたいとか、そういった方は変えなかったかもしれないですけど。

河崎氏:
常にデビルモード。

岡本氏:
そうそうそう(笑)。

河崎氏:
セーニャやカミュ並に深く描きこまれているキャラクターって、今までの『ドラクエ』にはいなかった気がしますね。

岡本氏:
踊り子のマーニャとか商人のトルネコとかいたけど、その踊り子や商人の裏側に何かがあるみたいなのを強調して描いていたのはあるかもしれないですね。それでキャラクターの印象が強くなっているのかもしれない。堀井さんは人間臭いシナリオにしたいとはずっと言っていたので、そういうところがキャラクターを立たせているのかもしれないですね。
ところで、逆に聞いちゃうんですけど、篠山さんが『ドラクエXI』をプレイしてよかったところはどこですか(笑)。もしくは嫌だったところでもいいですよ。

篠山氏:
実はお恥ずかしながら、『ドラクエXI』が初『ドラクエ』だったんですよ。80時間以上プレイしました。髪を切ったセーニャが可愛くて可愛くて、ベロニカが(ネタバレ中略)。

河崎氏:
あーあ、せっかくしゃべったのに全部カットだ。

篠山氏:
すいません(笑)。僕はオートプレイではなくて全部コマンドでやっていました。キャラクターが可愛くて、戦闘も楽しくて、敵と戦うのがすごい好きでした。普段はやり込みプレイとかまったくプレイしないんですけど、気づいたら全員レベル90を超えていました。

岡本氏:
すごいやり込んでくれましたよね。初めての『ドラクエ』プレイヤーとは思えない(笑)。

篠山氏:
そうなんですよね、びっくり。

河崎氏:
なかなかこの業界にいて『ドラクエ』まったくやったことないですって人探すのも難しいですよね。

岡本氏:
でも、うちの会社にも『ドラクエ』をやったことないですっていう人いるんですよ。ちょいちょい見かけるんですよね。

岡本氏:
初めてだったと思うんですけど、『ドラクエ』って楽しいなって思いました?

篠山氏:
やり込めて楽しかったです。

河崎氏:
クリアまで早かったよね、1週間ぐらい。

篠山氏:
のめり込んじゃったんですよね。一緒に作業していたので各マップは見慣れている場所だったんですけど、いざ始めると自分がサポートしてたことは忘れるほど熱中できて、ひさびさにRPGに没頭した。楽しかったです。会社も正直2日くらい休みました。

 

世界を作るツール

河崎氏:
それじゃ最後、話まとめてください。

紙山氏:
雑(笑)。

篠山氏:
髪が短いセーニャの話でまとめていいですか(笑)。アクセサリでセーニャが髪を短くできるんですけど、それを付けていると状態異常にかかってしまうんですね。ラスボスと戦うときに状態異常を付けないようにフル装備にしてるんですけど、セーニャだけは髪を短くしたいので、状態異常がかかっているという。それぐらい好きですね。

岡本氏:
やっぱり一定層いますね。きぐるみが脱げないとか、バニーガールが脱げないとか、一緒ですね。

篠山氏:
きぐるみも途中までずっと着てて、ムービーがおかしいみたいな。

岡本氏:
わざわざ自分から縛りプレイを課していくスタイル、嫌いじゃない。

篠山氏:
(笑)。そんな感じで、サポート大変でしたけど完成した『ドラクエXI』を楽しませてもらいました。

河崎氏:
セーニャに報われたと。

篠山氏:
はい、女神です。

河崎氏:
スクエニの方々はいかがでしょうか。

紙山氏:
UE4ならではの高品質なグラフィックスを届けることができて、よかったです。あとはサポートへの感謝、本当に最後までお付き合いいただいた。そしてさっき言ったように、「UE4っぽくない」という褒め言葉ですね。いい意味でね。

篠山氏:
魔改造をしているわけでもない。

紙山氏:
なので、今のUE4の最新版は、きっと『ドラクエXI』をトラブルなく作れるエンジンになっているはずです。

岡本氏:
僕は今回Epic Games Japanさんにご協力いただいたおかげで、UE4で日本っぽいゲームを作ることができるのは証明されたと思います。ほかのデベロッパーさんやパブリッシャーさんも、「『ドラクエ』を作れるんだったらこれが作れるじゃん」と、UE4を見る機会が増えていくと思うんですよね。デベロッパーやインディーズだけでなく一般のお客さんも、UE4は無料なので気軽に落として、こんなことができるんだと触ってみてほしい。そういうところからゲーム開発、UE4で何かを作るみたいなのに興味を持ってもらえると、ゲーム業界全体が盛り上がっていいと思いますね。

河崎氏:
世界を作るツールですからね(※)。

※世界を作るツール: 今年のアンリアル・フェスにて堀井氏が放った言葉。「Unreal Engineは世界を作るツール。みなさんそれぞれの世界を作ってほしい」。

岡本氏:
そうですね。堀井さんのおっしゃる、世界を作るツール。独自の世界を作り上げていってもらえればなと。

[撮影・編集 Shuji Ishimoto]

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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