『Marathon』レビュー。「脱出シューター」の枠に収まらない“異質”ゲーム、鮮烈なデザインと死の循環がもたらす、本能的進化欲

『Marathon』最大の魅力はゲーム全体に貫かれた美学にある。

Marathon』に対して、「もし、あなたが『Escape from Tarkov』や『Arc Raiders』といったPvPvEの脱出シューターを楽しめるなら、同じようにお勧めできる」と言うのは簡単だ。だが、筆者が思うに、その最大の魅力はゲーム全体に貫かれた美学にある。端的に言えばこうだ。2023年5月に公開されたアナウンスメント・トレーラー。この映像作品に惹かれないのならば、あなたにとって『Marathon』は「流行の脱出型シューター」の一つでしかないかもしれない。だが、もしも「何か」を感じたのであれば、きっと二度と抜け出すことはできなくなるだろう。

大胆不敵なタイポグラフィーとテクニカルなフォント使い、鮮やかだが無駄のない蛍光色のカラーパレット、「有機的な無機質」と形容すべき、折り重なる繊維で構成された工業的なボディ、床を這う虫たち、塗料のように飛散する体液、加速と洗練を両立したSFの世界観、決死の逃走、無慈悲な銃声、冷酷な眼差し、そのすべてと同期する硬質なエレクトロニック・ミュージック。

公開以来数え切れないほど見返してきた筆者にとって、その世界観をゲームに投影するために一切の妥協を廃した『Marathon』は、今年のベストゲームの一つとして君臨している。この原稿を書いている今も、ゲームの舞台であるタウ・セティIVが私を呼び続けている。

「本質的なシューターとしての魅力」がもたらす戦いへの渇望

『Marathon』は、『Halo』(初代から『Halo Reach』まで)や『Destiny』シリーズで知られるBungieが手掛ける、約9年ぶりとなる新作FPSゲームだ。厳密には94年~96年にリリースされた同名シリーズのリブート作品となる。大まかな構造としては、いわゆるPvPvEの脱出シューター、つまり“広大なマップに複数人のプレイヤーが降り立ち、敵プレイヤーを含むさまざまな脅威に立ち向かいながら目的を達成して、無事に帰還する”というサイクルを繰り返す(本作では、1回のプレイを「ラン」、プレイヤーを「ランナー」と呼ぶ)。

ゲームの流れは以下の通りだ。一回のランは25分。チーム編成はトリオ(ランダムチームメイキング有り)またはソロ。個別のマッチメイキングとなるため、ソロVSトリオの構図にはならない。ランの目的は主に2つで、ゲーム内クエストの進行と、装備や素材の収集だ。プレイヤーには保管庫が与えられ、ランの前に装備(ロードアウト)を整え、固有のアビリティを持つシェルを選んでランに挑む。

マップには他のプレイヤー以外にもクリーチャーやロボット、トラップなどが配置され、これらの脅威にも対処しながらランを遂行しなければならない。脱出地点はプレイ中に明らかになり、基本的には2、3箇所が用意されているが、マップによっては特定の条件をクリアしなければ使えないものや、脱出完了までにロボットの増援が押し寄せるものもある。途中で死亡した場合、持ち込んだ装備や手にした物資はすべて失われる。

こうしたサイクル自体は他の脱出シューターにもおおよそ当てはまるもので、それだけでユニークなものにはならないだろう。『Marathon』の特筆すべき点は、まずは「純粋な撃ち合いの楽しさ」、そして「中毒性の高いスカベンジャーハントの先にある成長」にある。

「撃ち合いの楽しさ」に関しては、『Halo』や『Destiny』の開発元であることを改めて実感させられる熟練の仕上がりだ。無駄な加減速のないスムーズなエイムコントロール、確かな発砲の手応え、一気にプチプチを潰すような着弾時の破裂音、リロードした際の心地良い機械の響きなど、これまで培われてきたノウハウが見事に受け継がれている。激しい戦闘がもたらすアドレナリンは凄まじく、「この時間がずっと続けば」と思わずにはいられない。

本来であれば、脱出シューターでは戦うべきではないというのが鉄則だ。ましてや、本作のように回復アイテムや弾薬などのリソースがシビアな本作では、不用意に攻勢をかけることは死に直結する。だが、こうした本質的なシューターとしての魅力は、プレイヤーに対して、抗えないほどの戦闘意欲を掻き立てる。

またスカベンジャーハントについては、「何に価値があって、何にないのか」が分かりやすく、物資も各地に豊富に配置されているため、テンポよく漁りながらレア物を掘り当てる喜びを味わえる。クレジットや資源のほか、武器やシールドのように直接ロードアウトを強化する装備アイテムも存在する。特に、シェル特有のアビリティを増幅させる「コア」に関してはゲームプレイそのものを一変させるものも少なくないため、言わばハクスラのような感覚で物資漁りを楽しめる。

さらに、持ち帰った物資を使って進行する計6種類のツリーは、得られる効果が大胆だ。保管庫容量の拡張といったものに加えて、本作では重要となる近接攻撃のダメージを永続で上げたり、回復のスピードを大きく向上させたりと、こちらもゲームの味をガラッと変える要素。ランの成果によって成長を感じやすい仕組みは、本作のプレイを促進する十分な理由になる。

ある者は執拗にPvPを狙い、ある者は自らを痛めつける。各派閥の思惑に翻弄されるランナーたち

先ほど、計6種類のスキルツリーがあると書いたが、これはゲーム内における派閥(ファクション)に対応している。『Marathon』には現時点で6つの派閥が存在しており、それぞれが異なる思想、価値観のもとに物語を動かしている。開始時点では、ゲーム自体の案内役でもある企業「サイバーアクメ」(すごい名前だ)しか解放されていないが、同社による「リエゾン契約」を進めることで各派閥が順にアンロックされていく。

各派閥の異質な存在感は、『Marathon』の世界観を構成する最も重要な要素の一つだ。産業・テクノロジー分野を支配する企業「トラクサス」、企業が支配する現状に反旗を翻すアナーキスト集団「MIDA」、死を広めんとする宗教組織「アラクネ」といった反社会的な勢力もいる。筆者のお気に入りは、縫製技術がある種の極地へと進化した「セキグチ」だ。

その「異質さ」については、文章で表現するよりも実際にスクリーンショットを見てもらった方が早いだろう。クエストを進めるごとに、彼らとの交流は少しずつ深まっていく。ラン中の行動についても、派閥の志向に合致すれば評価が上がり報酬を得られる。

各派閥から受注する「契約」の内容も、その思想を色濃く反映している。死を崇めるアラクネはPvP系のミッションが中心だが、一方でシェルの素材研究を進めるセキグチの場合は、「シェルの限界を確かめる」ための人体実験的な側面が色濃い。

その結果、ラン全体を俯瞰で見れば、あるプレイヤーはアラクネとの契約を遂行するために執拗に他のランナーの命を狙うハンターと化しており、別の場所ではセキグチと契約したプレイヤーが、高所から繰り返し飛び降りたり、敵の攻撃をあえてノーガードで受け続けるマゾヒスティックな行動を繰り返している。これらは『Marathon』の物語の一部であり、プレイヤー扮するランナーたちは、あくまでその歯車でしかないのだ。

すべては派閥のために。派閥の存在が映し出す命の価値

筆者が思うに、『Marathon』のゲームサイクルにおける最大の特徴は、各派閥から提供される「スポンサーキット」にある。他の脱出シューターの例に漏れず、本作においても死んだら装備をすべて失う「全ロスト」の恐怖が常につきまとうが、無料で取得可能な各派閥の「スポンサーキット」を使うことで、最低限の装備を手に入れることができる(ただし、保管庫のアイテムは使用不可)。これがあれば、即座に次のランへ挑むことができるし、脱出すれば該当派閥の評価も上がっていく。

ゲームデザイン的には「全ロストの恐怖を緩和する救済処置」だが、ここまで書いてきたように、本作ではジリ貧の状態でも頑張ればそれなりに戦えてしまう。その結果として何が起きるかというと、「装備を整えたのに死ぬ→猛烈に悔しい→スポンサーキットを引っ提げて即座に次のランへ→死ぬ→次のランに挑む→脱出して成果を得る→(最初からループ)」という中毒のサイクルが生まれる。

『Marathon』では、「シェルが死んでも、ランナーの意識が別のシェルに転移されるだけであり、本当の意味でランナーが死ぬことはない」という。だからこそ各派閥はキットを送り、自らの代わりに命を投げ出す者を支援する。この「死」のループは、おそらく各派閥にとって最初から織り込み済みだ。死んでもなお、新たなランを渇望する筆者のような存在は、彼らにとってまさに格好のカモだろう。

ランナーたちは駒であり、代替可能な存在であり、その命は極めて軽い。彼らが戦う理由は、派閥の思想への共感かもしれないし、報酬目当てかもしれない。あるいは、ただのドーパミン中毒というだけかもしれない。それが分かっているにも関わらず、死のループに溺れるのが妙に心地良い。

アナウンスメント・トレーラーが示したように、『Marathon』はサイバーパンクやSFのスタイルをさらに加速させたかのような、先鋭的で尖り倒したデザインに満ちている。その背景にあるのは、資本主義が暴走したディストピアのさらに「その先」だろう。各派閥の代表はほとんどがAIだが(キャラクター的な意味で)、視点を引けば本作の世界観は「AIのために人間が命を削って使役される」という構図の具現化でもある。2026年現在、妙なリアリティを覚えるのは筆者だけではないはずだ。

『Marathon』における「死」を中心としたサイクルは、見事なまでに最適化されている。撃ち合いとスカベンジャーハント、契約やスキルツリーの進行における短時間で「面白い」と感じられる鮮やかな仕上がり。PvPを積極的に推奨するアラクネを筆頭とした、ラン全体を変貌させる各派閥の存在。「スポンサーキット」によるスピーディーな「全ロス」からの現状復帰。本作は決してカジュアルなゲームではない。だが、死んだ瞬間に次のランへと引き込もうとする。現実であれば悪夢だが、これはあくまでゲームであり、その完成度は間違いなく高い。

『Marathon』への期待と不安。日本語版特有の「ある欠点」について

ここまで書いてきた通り、筆者は『Marathon』をかなり気に入っている。だが、現時点で問題がないわけではない。UIのわかりづらさはその代表で、「どのアイテムがどの能力を持つのか」が分かりにくいインベントリ管理や、契約・ロードアウトなどの各画面を切り替える際の煩雑さなど、若干の難がある。

ただ、もっとも気になっているのが日本語版のフォントだ。英語版では一つの画面内に6~7種類のフォントが同居した、かなり挑戦的なデザインを採用しており、「脱出成功/失敗」といった「ここぞ」という場面でのキレのあるフォント使いも相まって、本作の尖った世界観を支える重要な要素となっている。だが日本語版ではそれらすべてが単一のフォントに集約されており、一度英語版を見てしまうと物足りなさを感じてしまう。

本作のサーバースラムにおいて、一部のプレイヤーからデザインに対して「fontslop(~slop:低品質なものに対する揶揄)」と批判の声が上がった際、UIデザインを務めたデザイナー自身が「イケてるところ(SAUCE)を変える気はない」と明言する一幕があったように、こうしたフォント使いは『Marathon』が貫く美学の象徴でもある。日本語フォントで再現することが難しいのは理解できるが、それでも、今後のアップデートで“本来”のデザインに近づいていくことを切に願っている。

『Arc Raiders』の大ヒットによって勢力図が揺らぐ脱出シューターにおいて、死のサイクルを最適化することで、程よくシビアに、かつスピーディーにその魅力を凝縮してみせた『Marathon』は、決して万人向けではないかもしれないが、新たな変化をもたらす異端児になり得る存在だ。尖り倒したデザインや世界観、ユニークな派閥に彩られた本作は、刺さる人にはこれ以上ないほど刺さり、一度ハマれば二度と抜け出すことができないほどの中毒性を誇る。それはまるで、数十年後、あるいは数年後の自分たちの姿を見ているようにも感じられるかもしれないが、それもまた一興というものだ。

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ノイ村
ノイ村

音楽ライターとゲームライターの2つの顔を持ち、Webメディアやラジオ、書籍などで活動中。いつも『Bloodborne』のことを考えています。

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