Steam『スルタンのゲーム』がかなり面白いので紹介したい。逆転劇が楽しい、闇の王様ゲーム
サイコロを振ることで展開される物語体験を主軸に据えた内容でありながら、ひたすらにプレイヤーの腕前が問われ、上達が楽しいゲームである。

『スルタンのゲーム』が面白い。これはTRPGをベースに据えた、少しレトロな1人用アドベンチャーゲームであり、ゆえに一見難しそうに見えるが、実態としてはかなりとっつきやすい。一方、シンプルに見えて奥深い。サイコロを振ることで展開される物語体験を主軸に据えた内容でありながら、ひたすらにプレイヤーの腕前が問われ、上達が楽しいゲームである。間違いなく今年を代表する1本になるだろう。本稿はそんな筆者がハマっている『スルタンのゲーム』の魅力を紹介する記事となっている。
『スルタンのゲーム』はシミュレーションアドベンチャーだ。PC(Steam)で配信中。暴虐を働くスルタン(アラビア世界で王を意味する言葉)が提示する闇のゲームに巻き込まれたプレイヤーは、次々と提示される無理難題に答えながら、このゲームから逃れる手段を探して東奔西走していく。なお、本稿はネタバレ防止の観点からストーリーの内容に関する具体的な言及は行わないが、プレイ内容が分かるスクリーンショットを使用しているため、注意してほしい。
プレイヤーの逆転劇が楽しい、闇の王様ゲーム

先述したように、『スルタンのゲーム』はサイコロを振って楽しむTRPGを体験のベースとしている。プレイを開始するとマップの至るところでイベントが発生し続け、サイコロの出目と対応するキャラクターのステータスを参照することで解決していく。やがてプレイヤーはエンディングの到達条件を発見。達成すればめでたくゲームクリアである。しかし、プレイヤーは攻略と並行して「スルタンカード」という勅命……時限爆弾の処理をし続けなければならない。山札の枚数は計28枚。1枚につき制限時間はゲーム内で7日間となっている。
「スルタンカード」は「色欲」「征服」「散財」「殺戮」の4種類が存在し、対応するイベントをこなすことで処理できる。たとえば、「色欲」のカードは娼館を利用したり、妻や恋人と情事を行うイベントを達成することで処理できる。「征服」カードは、主人公の敵対勢力を征伐するイベントで処理が可能だ。「散財」は文字通り金を払うイベントで、「殺戮」は殺人にまつわるイベントで処理することになる。また、各種カードには4段階のランク付けが設定されており、高ランクになるほど処理の条件が難しくなる。いずれのカードも、7日のデットラインを過ぎれば処刑されてゲームオーバーだ。配られるカードの順番はランダムであるため、とにかく自身が持つカードを処理可能なイベントが発生するまで、マップに湧き出るイベントをこなし続けることになる。
こうした、リスクマネジメントとイベント攻略を並行するアドベンチャーゲーム自体は特に珍しいものではない。『Cultist Simulator』をはじめ、広義で言えば『Frostpunk』など、著名作は数多い。そうした状況の中で本作の特徴を挙げるとするならば、まずはマネジメント自体が簡単であることに触れたい。本作は「BADステータスがいくつスタックしているのか」「国民からの信頼を得る」といった複雑なステータスを管理する必要はない。制限時間以内に手元のカードを処理するだけで良い。文字にすると単純だが、この効果は大きい。後述の仕様によって形成される、複雑なシナリオ進行のプランニングに脳のリソースを割くことができ、初心者でも混乱する危険性が低い。
そしてなにより特徴的なのが、プレイスキルの上達によって、ゲーム体験の変化が著しい点である。ゲームを理解すればするほど、サイコロや配布されるカードの種類、突発的に発生するイベントといったランダム性を乗りこなせるようになり、到達可能なエンディングが増えていくのだ。一見すると理不尽極まりないスルタンのゲームを掌握することにより、スルタンの首を獲るどころか、ゲームマスターに干渉することすら可能になる。

というのも、本作には特定の状況で、特定のスルタンカードを処理する/処理しないことにより、後の展開が変化し、エンディングに影響を及ぼすイベントが数多くある。つまり、来るイベントに備えて特定のスルタンカードを保持し続ける必要があるわけだ。先程の項目で筆者は本作の内容を「爆弾処理」に例えたが、ゲームの習熟によってこの意味が裏返る。7日間のうちにカードを処理し続けるゲームから、7日間カードを保持するゲームに変貌する。
基本的には7日間しかカードを保持できないため、欲しいカードとイベントの発生タイミングが重なるよう、山札の中身を確認しつつ、カードの引き直し機能や、日数巻き戻しイベントなどを駆使することで、ゲーム進行をコントロールしていく。もちろんTRPGらしく、イベントの攻略にはキャラクターのステータスとキーアイテムが必要になることも忘れずに。イベントとカードのタイミングが重なっても、それをクリアする準備ができていなければ本末転倒である。
だがこの強烈なランダム性を乗りこなすことはできても、完全に制御することは不可能だ。ゆえにゲームプレイの再現性が低下し、たとえ同じエンディングでも内容のバリエーションが多彩に変化する。スルタンを倒したあとに、プレイヤーが次代のスルタンとして君臨するのか。傀儡を立てて裏から操るのか。前回お世話になったキャラクターが今回は活躍しないという展開もざらにある。ランダム性を通じて、ときには思わぬイベントが発生し、そこから数珠つなぎに見知らぬ物語が展開する場合もある。こうした、プレイスキルの上達によって生まれる、ゲーム構造の転換を通じた充実感と、それを裏切るかのようにブレるゲーム内容を通じた新発見が『スルタンのゲーム』の醍醐味となっている。

もちろん、バラエティ豊かなキャラクターたちによって紡がれる物語も素敵だ。オスマン帝国時代の雰囲気を下地に、戦乱の叙事詩から神と交信する奇譚まで、華やかなバラエティと分岐を通じたボリュームを備えており、彼らの半生すべてを追いかけてみたくなる。歴史的な絵画のようなアートスタイルとあわせ、血液と愛液のカクテルと形容できる、グロテスクでエロティックな物語の味わいは、飲み尽くすことさえ難しい。まさに本作ならではの体験と言っていいだろう。
充実したサポートと、それによって顕在化する弱点

本作はプレイスキルの上達によるゲームコントロールが醍醐味の1つではあるが、そこに到達できるようにするためのサポートも充実している。難易度としてはイージーからハードまで、3種類の段階が設定できる。難易度を下げるほど、ゲームの巻き戻し回数や、サイコロの判定が合格する確率が上がるため、ストレスフリーになっていく。また、ゲームが終了するたびに、処理に成功したスルタンカードの分だけポイントが貰える。ポイントを消費することで、攻略を快適にするサポートが得られる。初期ステータスを上昇させるものもあれば、主人公を双子にする、というユニークな機能もある(主人公が参加必須のイベントを複数並行して進められる)。中にはNPCやエンディングを追加する内容もある。アンロック状況はプレイヤーがON/OFF出来るため、自分好みの難易度に設定可能だ。しかしながら、ゲームを高速化するサポート機能は現状搭載されていない。そこだけがぽっかり空いている。
「リプレイを前提としている作風にもかかわらず、スタートからエンディングまでプレイ時間が間延びしてしまう」。これは本作をはじめ、類型作品に共通する弱点である。ゲームをコントロールする、ということはすなわち、適切なタイミングで適切なアクションを採ることであり、言い換えると、タイミングが来るまで待たなければならない。ゆえに「耐える時間」が発生してしまう。ゲームがつまらなくなる時間が到来すること自体は、戯画化の対象が業務である以上、必然的ではある。だが、可処分時間の取り合い激しいこの時代において、一度読んだテキストのスキップ機能などは搭載されていない。幸いにして本作は継続したアップデートを予定しているため、改善に期待したいところだ。

総じて『スルタンのゲーム』は、ルールに振り回される状況から掌握した状態への転換を通じ得られる充実感と、それでもなお完全には思い通りにならないゲームフローを通じ得られる新発見が楽しいゲームである。この状況自体が、本作における物語体験の核にもなっている。プレイ開始直後は逃亡を目指していたプレイヤーはやがて、その腕前を活かし、ゲームの主催者であるスルタンを、そしてゲームマスターを打倒していくのである。また、本作は同型の作品と比較してもリスクマネジメントがシンプルなため、とっつきやすい。シミュレーションアドベンチャーは難しいイメージが付きまとうジャンルではあるが、筆者としては本作を最初に触れる作品としてオススメしたい。この残虐極まりないゲームを破壊することができれば、きっと他のタイトルにも果敢に挑戦できるようになっているはずだ。今年を代表する1本になるであろう『スルタンのゲーム』。時間をたっぷりとれる人は是非プレイしてみてほしい。