今年11月19日の発売を控えながらも、未だその全貌が明らかとなっていない『サイバーパンク2077』。今回幸いにしてメディア向けのハンズオン・イベントに参加させていただくことになった。同作のプロローグ部分に触れる、4時間ほどの試遊会。本記事ではその模様をお送りする。
*最新の公式トレーラー(日本語)
『サイバーパンク2077』はCD PROJEKT REDが送るサイバーパンク・オープンワールドRPG。発売日は11月19日。対応プラットフォームはPC/PlayStation 4/Xbox One/Google Stadiaだ。またPlayStation 5/Xbox Series Xに対応予定であることも判明している。
先鋭化された科学技術に、退廃的な雰囲気漂う、アジアモチーフのネオンがギラつく街並み。平穏を脅かすギャングとポリスの抗争に、それを裏から操るメガコーポの影。まさにサイバーパンクのイメージを体現する「ナイトシティ」を舞台に、プレイヤーは「V」(ヴィー)と名乗る一介のアウトローとして、自らに憑依した伝説の亡霊「ジョニー・シルヴァーハンド」と共に、不死の鍵となるというインプラント「Relic」を巡る物語を紡いでいく。
本作は「選択と結末」というコンセプトのもと制作されている。プレイヤーが主要キャラクターとおこなう会話や、ゲーム中のアクションによって物語の最終的な結末が変化する「マルチエンディング」の存在。取得したポイントの割り振り及び採用する戦法によって変化する「キャラクタービルド」が持つ多様性。これらがそれぞれ独立せず、相互作用を及ぼすことによって、徹底的な非リニア、自由度の高いゲームプレイが図られていることに特徴がある。
主人公の出自を決める3種の「ライフパス」
試遊開始後、最初に視界へ飛び込んできたのはプレイヤーの分身たる「V」の出自、すなわち「ライフパス」を選択する画面だ。なぜVが『サイバーパンク2077』の物語を歩むことになったのか、どうして今ナイトシティにいるのか、という動機や背景の部分をここで選択することができる。主にこの選択によって大きな影響があるのは冒頭のシーンだが、特定のライフパスでしか選べない会話選択肢が場合によって提示されることがあるなど、細かな部分で、ここでの選択は後を引くことになる。
選べるライフパスは3種類。“俺はナイトシティ生まれ、ナイトシティ育ち、悪いやつはだいたい友達”である「ストリートキッド」。続いて、外部からやってきた放浪者「ノーマッド」。通常ノーマッドは集団で動くものだが、ナイトシティ郊外にやってきたVは一匹狼であるという。最後はエリート勝ち組サラリーマン「コーポレート」だ。このパスを選んだ場合、Vはナイトシティを牛耳る三大企業の一角「アラサカ」社に勤務する上流階級の人間として物語を始める。私は「知的で真面目だが秘めたる野心は人一倍なキレ者」なVを演じたかったため、迷わず「コーポレート」を選択した。
外観や初期能力を決めるキャラクター作成機能
次に取り掛かるのはキャラクターの性別と外観の選択だ。髪型や肌の色、質感をはじめ30種類以上の項目が用意されており、中にはタトゥーや傷といった項目もある。こだわりたいプレイヤーはさぞ満足することだろう。しかしながら、先述したように今回遊んだのは国内コンシューマー版向けのビルド。性器のサイズなどに関する項目はカットされており、私はしぶしぶ、紫色のパンツを履くことにした。
キャラクタークリエイトはまだ終わらない。Vのステータスにポイントを割り振る画面へと移行する。本作はキャラクタービルドの一角として全5つのカテゴリをもったステータスシステムが用意されている。内容としては、体力やスタミナ、肉弾戦の攻防に影響する「肉体」。主に攻撃速度やクリティカル率、敵の攻撃を躱す能力に関わる「反応」。本作の特徴であるハッキングに大きく影響する「知力」。防御力や装備製作/分解(クラフト)に作用する「技術」。ステルスプレイに関係が深い「意志」。私のVはエリートであり、自らの手を汚さないタイプであるため、また本作ならではのシステム「ハッキング」を十分に楽しむため、「知力」に大きくポイント割いた。あとは技術に多く振り、残りはまちまちである。
ブラック企業勤めのVとしてスタート
ムービーが流れるロード画面を終え、さてようやくゲームプレイが始まったと思ったらなんと、私のVがオフィスのトイレでゲロを吐いているではないか。すると脳内無線で仕事仲間であるという相棒「ジャッキー・ウェルズ」から過労死を心配する旨の連絡がかかってくる。何たることか。Vが勤務する「アラサカ社」はブラック企業だったのだ。会話が終わると休むまもなく上司から急な呼び出しを受けるV。大目玉を食らう前に社内を颯爽と駆けていく。廊下を歩いていると従業員の会話が近寄るだけで聞こえてくる。1対1ではない、又聞きの会話内容はすべて音声と共に字幕で頭上に表示される。
焦る視界には衛星通信を用いた現状の健康状態や最新のニュース、株価などが常に表示されている。これに限らず、本作はかなり視覚を用いた表現に力を入れており、それは繊細なディティールで表現されるオブジェクト群だけではなく、国内であればアニメ「電脳コイル」や漫画「攻殻機動隊」において描写されるような、VRにまつわる表現にまで及ぶ。酒を飲めば視界は歪み、脳にウイルスを仕込まれれば視界には閃光が走りモザイクがかかる。会話をスキップすると、ビデオテープを早回ししたような演出とフィルムグレインが挿入される。本作は身にまとう衣服をはじめ、Vの外見をさまざまにカスタマイズすることができる。にも関わらず演出の都合によりFPSの形式を採ることに対して私は疑問を覚えていた。だがこうして体験してみると納得がいく。
途中ミスをした部下に指示を出しつつ、ようやく上司の元へたどり着いたV。彼の上司は絵に描いたような極悪人であり、出世街道から滑り落ちた負け犬でもあった。そんな上司の口から出たのは別の上司の暗殺命令。自らを蹴落としたライバルを抹殺せよと言うのだ。断るという選択肢ははなから存在せず、相棒のジャッキーの元へ協力を仰ぐV。しかしここは陰謀渦巻くナイトシティ。暗殺命令は既に察知されており、Vはすべての私財を差し押さえられ、会社をクビになってしまった。すべてを失ってしまったのだ。
だがジャッキーは私に向けこう言う。「ここからまた始めればいい」と。こうして私はナイトシティで野望を燃やすアウトロー、すなわち「サイバーパンク」になったのであった。以上がライフパス「コーポレート」における導入である。ここから物語はプロローグへと歩みを進めていく。残る「ストリートキッド」や「ノーマッド」の展開に関しては、他誌の試遊レポートを参考にするといいだろう。ちなみにプロローグの大まかな内容は作中の選択肢に関わらず変化しないが、関わったNPCのその後に関しては変わっていくとのことである。
仮想空間での戦闘訓練
導入を終えた私に待っていたのは、脳内に広がる仮想空間を利用した戦闘チュートリアルであった。用意された項目は4つ。射撃訓練、打撃訓練、ステルス訓練、ハッキング訓練。射撃に関しては、ごく一般的な一人称視点のシューターアクションだと考えてくれて構わない。サイトに敵を入れて撃つ。カバーアクションとダッシュからのスライディングを駆使して戦場を攻略していく。銃を持った場合にこれらのアクションは可能となる。なおダッシュは戦闘時問わずスタミナを消費するため注意が必要だ。
一方打撃については、高速攻撃と大振りな溜め攻撃、そしてガードに瞬時の回避行動を組み合わせて戦うコンバットアクションとなる。こちらは徒手空拳のほか、打撃専用武器を持った場合にとることができるアクションである。いずれもスタミナを消費して行動を取る。そしてステルスも射撃同様、ごく一般的なステルスアクションだ。見つからずに背後から接近すれば相手を絞め落とすか、絞め殺すか選択できる。本作はキャラクターの生存状況によって物語の展開が左右されるため、敵を殺さずに気絶させることも重要な選択肢である。
最後に紹介するのは、本作ならではのシステムであるハッキング。射撃や打撃がJRPGにおける「こうげき」コマンドに相当するのであれば、こちらは「まほう」コマンドに相当するとイメージしてもらえればわかりやすいだろう。ハッキングはサイバーデッキと呼ばれるデバイスのメモリを消費することで発動でき、対象専用の効果を発動できる(例:ドアであればメモリを1消費して解錠させる)。さらにあらかじめサイバーデッキに装備した「デーモン」というマルウェアを相手にアップロードすることで、敵の脳をショートさせたり、武器を無効化させたりといったことが可能だ。
またネットワークに接続している機器をハッキングすることにより、同じネットワークに接続している機器や人間にまとめて影響を及ぼすこともできる。たとえば監視カメラをハッキング→ネットに接続→防御力を下げるデーモンを発動→同じネットワークに接続中の人間の防御力が低下するという具合だ。ちなみに、ネットワークに接続する際には制限時間内にコード配列を入力するミニゲームをクリアする必要があるため注意が必要である。アップロードするデーモンが強力であるほどこのゲームは難しくなっていく。開発陣によると、ゲームが不得手なプレイヤーのためにこのミニゲームをスキップする機能を検討中であるとのことだ。
『サイバーパンク2077』における戦闘アクションはこれら4種類のアクションをリアルタイムに組み合わせることが鍵となっている。本作に登場する敵は固く、ただ弱点部位を攻撃するだけでは中々倒れてくれない。攻撃の威力も高いので、ただ撃ち合っているといつの間にかやられてしまう。遠距離から敵を狙いつつ好機を観て周辺機器をハッキング、動きを封じたら接近して殴り倒す、などなど、戦闘の攻略にはその場に応じて臨機応変な立ち回りがプレイヤーに対し求められる。レベル構造を把握すれば完全ステルスも可能ではあるが、仕込まれたギミックの豊富さと、優秀な敵の挙動から、個人的にはかなり難しいと感じた。
なお、今説明した内容以外にも身体改造を施すことで、パーツごとの専用アクションを獲得することが可能になっている。たとえば足を強化すれば2段ジャンプを獲得し、通常では行けない場所へ到達することが可能になるほか、空中殺法を発動できるようになる。腕を強化すれば、たとえ重量級の相手でも殴り倒すことができたり、閉ざされたドアを強引に開けることもできるようになる。さらに本作には装備やアイテムに重量の概念が備わっているため、持ち歩くものに対しても気を配らなければならない。どこまで現地調達で済ませるのか、改造を施して許容できる重量を増やすのか、試行錯誤が必要になってくる。
初仕事から複数の選択肢あり
チュートリアルを終えたら早速仕事にとりかかろう。この時点でナイトシティ全般の散策が可能となったが、私はまず用意されたストーリークエストを遊んでみることにした。結論から言うと、ストーリークエストはやはり本筋というだけあって『サイバーパンク2077』のコンセプトである「選択と結末」の魅力が凝縮されていた。なお本記事は「回収」というクエストの進行を中心に論を進めていく。
さて、このナイトシティで天下を取るためには「フィクサー」……大物有力者の協力が不可欠。いつか寝首をかくためにも、首は近いところに置いておいたほうが良い。そこでVとジャッキーは最近復帰したというフィクサー「デクスター・デショーン」(以下、デクス)とコンタクトをとることに。すると彼には何やら「計画」があるらしく、V達はその下準備のいくつかを任されることになった。いわゆる「採用試験」というやつだ。その内のひとつ、「蜘蛛型ボット」の奪取が今回のミッション内容である。
本来「蜘蛛型ボット」はミリテク社(3大企業の一角)の所有物であったが、ギャンググループ「メイルストローム」に強奪されてしまったらしい。デクスは既にメイルストロームに代金を払っているものの、リーダーが代替わりしたため、代品の用意無く契約がなかったことにされる可能性が高い。そこで「なんとかして」ボットを目の前に持ってこいというのだ。無茶苦茶である。だがそこは野望のため仕方ない。ため息を堪えながらプランを練ることにしよう。
ここで早速プレイヤーに選択肢が提示される。ミリテク社のエージェントである女性「メレディス・スタウト」と会うか、そのままギャングのアジトへ乗り込むか。私はとりあえずメレディスに会ってみることにした。今回の件に関して疑いのある身内をしばいていたメレディスは、会うなりVのことを脅迫してくる。だが、その程度の剣幕に臆する人間ではない。Vは元アラサカ社に勤務し諜報の仕事を任されていた人間。ここで「コーポレート出身専用の選択肢」を選ぶことができた。自身の立場が社内で危ういことを逆に指摘されてしまい狼狽えたメレディスは、Vにウイルス入りのチップ(キャッシュカードのようなもの)を渡してくる。これでボットを買い取れとのこと。
だがここで私の第六感が叫ぶ。絶対バレる。憂鬱な顔をして去っていくメレディスを尻目にさてどうしようかと思案したところ、ではウイルスを取り除いてしまえばいいと気づく。私はキャラクタークリエイト時に「知力」のステータスへ多めにポイントを振っていたため、チップの浄化が可能となっていたのだ。ミニゲームをクリアすれば、見事「きれいなキャッシュデータ」入りのチップが完成。おまけに仕込まれていたウイルスがデーモンとして手に入った。本作ではステータスの数値が直接プレイヤーのとれるアクションや会話中の選択肢に影響を及ぼすようにもなっており、たとえば「知力」は多めに振っておくと今回のようにハッキングによって課題解決を図ることが可能となる。
敵アジトに乗り込む前に、武器とサイバーウェアを調達
さて、アジトへと向かう前に装備を新調しよう。本作の武器は先述したハッキング用のサイバーデッキのほか、大まかに「銃」カテゴリと「近接武器」カテゴリに分かれている。銃はさらにそこから、火薬を用いた安価な武器である「パワー」、ホーミング機能などメカニカルな特徴を備えた「スマート」、いわゆるレールガンなど光学武器である「テック」の3種類がある。
さらにまた細かく武器ごとにカテゴリが分かれ(例:ハンドガン、ライフル、ブレードなど)、それぞれに関連したスキルの習熟度とパーク(PERK)の概念が存在する。たとえば、ハンドガンを使い続けると「ハンドガン」カテゴリのスキルが上昇し、さまざまな特典が得られる。パークはV自体のレベルを上げることなどで獲得するパークポイントを消費することで解除。なおカテゴリごとのスキル習熟度は対応するステータスの数値以上に上昇させることができない。たとえば「知力」の数値が8である場合、対応しているハッキングカテゴリのスキル習熟度は8までしか上げることができない。
こうした武器の選択は、最終的にストーリーに影響することにもなる。武器の選択はすなわち重視するステータスの選択であり、ステータスは物語中の選択肢や課題の解決方法に影響を及ぼす。キャラクタービルドの方向性によって、あなたが迎える結末が変化する可能性すら存在するのである。この方式を採用しているオープンワールドゲームは現時点で多数存在するが、レベルキャップを用意することで露骨にプレイヤーの選択に対し負荷をかけている作品は珍しい。
また四肢や頭に装備する防具とは別に、身体に内蔵する「サイバーウェア」という装備も存在する。いわゆる身体改造がこれに相当し、各部位のスロットにインストールすることで効果を発揮する。なおサイバーウェアの装着は手術をおこなう必要があるため、「リパードク」というエンジニア兼医者が営む専門店でのみカスタマイズすることができる。肺を取り替えてスタミナの最大値や回復量を上げたり、腕に格闘用の刃を仕込んだりといったことが可能。これに合わせてVの見た目も変化する。ナイトシティ中にはいわゆる「闇リパードク」という、格安で改造をしてくれたり、ピーキーな性能を持つサイバーウェアを提供してくれる者もいるようである。
ドライブ、そしてアジト突入
下準備の後、全自動でやってくる愛車に搭乗。ジャッキーとともにメイルストロームのアジトへ急行だ。愛車のバリエーションは直接ショップで購入したり、クエストの報酬として入手することで増えていく。なお「肉体」のポイントが一定数値以上であれば、道行く車を強奪することも可能。当然そんな真似をすれば警察が黙っておらず、追いかけて攻撃を仕掛けてくる。これは公共施設で銃を抜いたり、人を轢いたり、発砲などの暴力行為を働いても同様である。警察はかなり手強く、立ち向かっても良いが、逃げるのが最善だろう。ちなみに犯罪行為を繰り返していると手配度が上昇し、「マックス・タック」というエリート部隊が主人公を抹殺すべく動くようになる。
慣れない運転に四苦八苦しつつアジトへ到着。裏から侵入しても良かったが、ここは正面から堂々と。すると赤いサイバーアイの群れが二人をお出迎えだ。メイルストロームはギャングのひとつであり、肉体に極限まで違法改造を施していることが特徴である。アジトには地雷やタレットなど大小さまざまな兵器が仕掛けられている。これらは技術のステータスが高ければ回収できるし、肉体のステータスが高ければ無理やり引きちぎって武器として活用できる。
下っ端との緊張感あふれる雑談の後、彼らのボスであるロイスが登場。交渉がスタートした。ここでふと、ある考えが頭をよぎる。「今ロイスを不意打ちで処理すれば、将来の敵も消えるしコイツが持ってる武器も手に入るし、綺麗なキャッシュも手に入る。一石三鳥じゃないか!」。いや冷静になれ。ここで目立つ行動をして周囲から危険分子扱いされることは、敵が消えること以上にマズい。素直に取引を遂行しつつ借りを作っておこう。私はロイスに金を渡しつつミリテク社に対する警告をおこない、その場を立とうとした。すると突如ミリテク社が強襲。アジトは戦場となってしまう。
その場から素直に離脱することもできたが、やはりロイスを生かすことは後々効いてくるだろうと判断し応戦。特にマシンに搭乗する敵の対処には手を焼いたが、ハッキングしてオーバーフローさせてしまえば良いと気づいた後はただの鉄くずである。命からがら外へ出ると、待っていたのはメレディス、ではなく彼女にしばかれていた男であった。彼はメレディスが失脚したことを告げ、これ以上の追撃をしなかった。自分を助けてくれたことの礼だという。これにて無事任務完了である。ミッションを完遂すると、自身のレベルだけではなく「クレド」という項目にも経験値が入る。クレドはナイトシティにおける評判を示しており、数値が高くなってくると、たとえば利用できる店の種類が増え、品揃えが変化する。
今回プレイできたのは、プロローグのみではあったが、すでに多数の選択肢が存在し、そこから多種多様な結末が垣間見えた。キャラクターの育成がストーリーの進行に如実に関わってくることも確認できたのではないだろうか。また世界観設定に関しても、大まかではあるが、企業とギャング、そしてフィクサーの存在と、さまざまな組織、個人が複雑に絡み合うことで成立しているという認識を持っていただければ幸いである。このほか、「BD」(ブレインダンス)という人間の記憶を追体験できる装置を使用しての、「一人称視点」「三人称視点」「熱源」「音声」という4つの視点から探索を行うアドベンチャーパートや、いくつかのサブイベントも体験することができた。サブイベントは起承転結のある物語が作られているものと、そうでないものが混在しており、いずれもクリアするとクレドが上昇する。
オープンワールド全部盛り
プレイレビューとしては、一言で表現すると「オープンワールド全部盛り」。古今東西のオープンワールド作品にて高評価を受けたシステムが可能な限り詰め込まれており、「あれ」が無いから駄目だ、「これ」が無いから物足りないといった、システム不足からくる、ゲームプレイにおける欠陥は見当たらなかった。また作品コンセプトである「選択と結末」の表現、すなわちキャラクターの育成とマルチエンディングシステムの相互作用による、非リニアなゲームプレイに関しては充分すぎるほど達成されている。会話にしろアクションにしろ、多すぎるとも感じられる選択肢は、徹底的にディティールにこだわった世界観と組み合わさることでプレイヤーが持つクリエイティビティを刺激し、単なる攻略以上の遊びを生み出している。
私の場合であれば、「元エリートの真面目な野心家だが、酒が飲めない。それでいて自らの手を汚さないことを良しとする」主人公Vを最後まで演じきることができた。なぜならこのゲームが元エリートであるという背景と、野心家であることを許容し、酒を飲むか飲まないかの選択肢を逐次提示し、手を汚さずとも戦闘を済ませることが可能なシステムを用意してくれていたからだ。それだけでなく、そんなプレイをしても独り善がりなキャラクターとして浮かないような、息遣いが聞こえてくる“リアル”な世界を描いていたからである。またローカライズに関しては流石というべきか、不備を感じられるものはまったくなかった。役者陣の演技も主役からモブに至るまで素晴らしいクオリティだ。
UIの利便性や、表現規制による演出面での懸念
ただその一方で気になる点も多数散見された。まず1つ目はBDを用いたアドベンチャーパートが面白みに欠けるという点だ。先述したように本作には4つの視点を切り替えながら人間の記憶を追体験する探索パートが存在するが、対象オブジェクトを指し示すエフェクトの視認性が悪く、4つの視点をぐるぐる回りながらクリアにたどり着けないという事態が多発してしまった。また同じ映像を4つ分なんども繰り返し見続けなければいけないという状況は、多彩な思考とアクションがとれる普段とのギャップもあり非情に退屈である。
2つ目はキャラクタービルド画面UIにおける利便性の欠如だ。本作のキャラクタービルドシステムは「V自体のレベル」「クレド」「5つのステータス」「ステータスごとに対応した武器のスキル」「武器ごとのパーク」から構成される複雑な仕様となっているが、ひと目見ただけではこれらの相関関係が分からない。慣れるまでに時間がかかることだろう。
3つ目は、ハッキングの際に挿入されるミニゲームのルールを理解することが難しいという点だ。これはパズルの内容に問題があるのではなく、チュートリアルの情報がかなり乏しい。一昔前のゲームのように、手探りで解決のコツを掴む必要が出てくる。こちらに関しては、ゲームの発売までに改善される予定とのことだ。
4つ目は表現規制による演出面への影響という懸念だ。『サイバーパンク2077』は「絶え間ない肉体改造に取り憑かれた人々」という世界観を描く上で欠かせない要素として、性別と肉体の垣根を越えた性描写の存在や、倫理観を逸脱した過激なゴア描写を挙げている。国内コンシューマー版では、これらの描写に規制が入ることになる。まず性描写に関しては性器の露出がカット。下着に置き換わる。このことにより、キャラクターメイキングにおいて、性器に関する項目が下着に関する項目へと置き換わっている。性商品に関する広告や性器をモチーフにした落書き、セックスシーンは異なる演出に差し替えられるようだ。
ゴア描写に関しては主に脳漿や臓物の露出が無くなり、肉体の切断面が暗色を用いて描かれる。なお人体の切断、四散自体は発生する。先行プレイ時、コンシューマー版用にチューンナップされたビルドにて確認したところ、たしかにセクシャルな表現や臓物の露出といったグロテスクな描写に関して規制が入っていることが確認できた。
『サイバーパンク2077』はそのこだわりによって、見事リアリティのある世界を創造することに成功している。そうした中、世界観が崩壊するほどではないが、規制部分が不自然に浮いているように感じた。規制対象となっている性描写と暴力描写は、コントロールを失った科学技術により、さまざまな面で人間という概念が破壊されてしまった状態の世界を表現する上で欠かせないものだ。そんな「常識の通用しない」世界に私達の倫理観が介入することで、どことなく小綺麗に感じられ、説得力の点で物足りなさが漂うのではないか。試遊を通して、そのような懸念を抱くようになった。
とはいえ、たとえば男性器が描かれた看板であれば、単に黒で塗りつぶすのではなく、ゲームの世界観に合うよう電子掲示板にグリッチ表現を入れるなど、工夫が凝らされている。そもそもレーティングがなければ、製品を発売できない。日本においては、海外版と同じ表現のままではレーティングを通せないのが実情であり、ゲームデベロッパーの多くは、許容範囲内の表現におさめつつも、できる限りプレイ体験を損なわないよう苦心している。CD PROJEKT REDも例外ではなく、試遊時には開発アートチームがかなり頭を悩ませながら変更をおこなっているとの説明があった。
以上、4時間に渡るゲームプレイはたしかに期待通りの内容であったが、同時にCD PROJEKT REDが延期を決断したことを裏付けるような内容でもあった。核の部分に関しては試遊段階でもまばゆく感じられるほどに輝く魅力があるが、画竜点睛を欠く。答えの見つからないアドベンチャーパートの退屈さにしても、利便性の悪いステータス画面にしても、ミニゲームのわかりづらさにしても、主にアクセシビリティという点で、まだ調整が必要である段階なのだということを強く認識させられた。とはいえ今回プレイしたのはあくまで「試遊版」。つまり「製品版」が発売される頃にはさらなるグレードアップが図られることが確約されている。良い部分は更に良く、悪い部分は取り除かれ、あとに残るは至極の大器に違いない。8年の眠りから「サムライ」が目覚めるその時を、首を長くして待ちたいところである。