『キングダム ハーツIII』レビュー。続編のジレンマにとらわれ、至高の傑作になり損ねたシリーズの集大成

『キングダム ハーツIII』レビュー。歴代作品の全てを集約したアクションシステムや、各所に込められた飽きさせない工夫。圧倒的クオリティにより構築されたディズニー作品の世界などがプレイヤーを魅了するものの、『キングダム ハーツIII』は続編のジレンマにとらわれてしまっている。

主人公であるソラとディズニーキャラクター達の旅路を通じて、17年にもわたり光と闇の戦い、そして心と絆の物語を描いてきた『キングダム ハーツ』シリーズ。ダークシーカー編と名付けられた一連の因縁に終止符を打つべく発売された『キングダム ハーツIII』という作品は、間違いなくシリーズの節目に相応しい、集大成と呼べる作品となっていた。ただ一点の曇りを除いて。

『キングダム ハーツⅢ』はスクウェア・エニックスより2019年1月25日に発売されたアクションRPG。PlayStation4とXbox Oneに対応している。ふとしたきっかけで鍵の形をした剣”キーブレード”を手に入れた少年ソラは、故郷にある謎の扉を開いたことをきっかけに行方不明となった親友リク、カイリを探すため、仲間のドナルド、グーフィーと共に、さまざまなディズニーの世界を股に掛けた大冒険を繰り広げていく。その旅路の果て、『キングダム ハーツ』より続くソラ達の物語における一つの区切りとなるのが本作である。

※以下文には、物語終盤の展開に関する言及が含まれています。詳細は記載しておりませんが、未クリアの方はご注意ください

 

歴代の全てを集約させたアクションシステム

『キングダム ハーツ』シリーズの醍醐味と言えば、「キャラクターを動かす楽しみ」を追求したアクションシステムだ。ボタンを押すとキャラクターが動く。もっとボタンを押すともっとキャラクターが動く。もっともっと押せば、もっともっと動く。シンプルな操作で、画面の中にド派手なアクション、演出を生みだす楽しみこそ、シリーズ全ての作品に共通する『キングダム ハーツ』シリーズの核と言っていい部分である。そして本作におけるそれは、歴代作品の総決算と呼べる出来に仕上がっている。

『キングダム ハーツ バース バイ スリープ』のシュートロックをはじめ、『キングダム ハーツⅡ』のフォームチェンジと『バース バイ スリープ』のコマンドスタイルを複合させた「キーブレード変形」や、『キングダム ハーツ Re:チェイン オブ メモリーズ』の「リアクションコマンド」、「リンク」という名前となった「れんけい」など、過去作で好評だったシステムを応用しつつ、これでもかと盛り込んだ本作の戦闘は、それ自体がシリーズの歩みを体現するものである。特に新たに追加された「アトラクションフロー」の、ディズニーランドに実在するアトラクションを突如召喚・搭乗し戦うというシステムに込められた制作陣のこだわりには執念すら感じられる。アトラクションに乗りはしゃぐソラ達の姿をみれば、制作陣がRPGにおいてルーティンでしかない「戦闘」を、いやルーティンだからこそ、パレードのような華やかな体験にしたいのだという意思が伝わってくるのだ。

そしてこれだけの機能を盛り込みつつ一切の煩雑さを感じさせないのは、その全てが複雑なコマンド入力などを必要とせず、単一のボタンでのみで発動するからである。その簡単さ故に、意識せずとも全ての機能をフルに用い、味わい尽くすことができる。歴代の良さを集約させつつ、その根本を見失わない本作の戦闘アクションは、発見と快感、そして楽しさを無限に生み出し続けるのだ。

この戦闘を影から支えているのが優秀なカメラワークである。プレイヤーの操作、画面内の演出と共に目まぐるしく動くカメラは、盛り上がりを常に意識しながら「敵を倒す」という本来の目的を決して見失うことはない。単一のボタンで全てが行われるという都合上、画一化され飽きやすくなってしまう戦闘に緩急を生み出す重要な役割を果たしている。

 

徹底された“飽きさせない”工夫

戦闘以外でも、「パイレーツ・オブ・カリビアン」の世界における海戦や、フライトアクションとなったグミシップなど、新たに追加されたミニゲームの数々は、本作のジャンルを錯覚させるほどの多様性に満ち、なおかつやり込みがいのある高品質なものに仕上がっている。これらもまた全ての操作が単一のボタンで行われるシンプル性と派手な演出によるエンターテイメント性を合わせ持つ、『キングダム ハーツ』シリーズにおけるシステムの核を反映させたものだ。

ミニゲーム群が優れている点は、先述したように操作自体はシンプルなものだが、プレイヤーに考えさせる要素を多く持たせることで、ゲーム性に奥行きを持たせているということである。この工夫によって、ゲーム自体に対する抵抗感をかなり軽減させながら、エンドコンテンツの一つとしても成立させているのだ。この特徴は歴代作品内のミニゲーム全てに見られるものではあるが、本作でもしっかり継承されている。

それはグミシップであれば機体のカスタマイズとステージ攻略、プーさんのパズルゲームであればスコアアタックの為の戦略構築という具合である。どれだけ新たなジャンルのミニゲームを導入しても、一切のブレを見せない開発の姿勢には確かな一貫性が感じられる。戦闘をはじめとした本作のアクションは、初作から続くコンセプトを大切にしながら、それまでに得たノウハウを存分に活かした、正に歴代総決算に相応しい出来であると言える。

 

歴代最高の世界構築

物語の舞台となる世界は、歴代最高のクオリティでもって創造されている。特にディズニー作品の世界はただ美しいというだけでなく、出演している数々の原作に対するリスペクトがその節々に、これまで以上のものとして感じられるのだ。例えばTOYBOXの世界におけるオブジェクトの一つ一つや、おもちゃであるキャラクター達の材質再現は、まさしく職人芸。この素材で一本の映画を生み出すことのできるクオリティだ。本作ではディズニー作品のブラシ処理をしたイラストをそのままの形で動かせるよう、「キングダムシェーダー」と呼ばれる独自の陰影処理用プログラムが導入されているが、その実力は遺憾なく発揮されていると言っても過言ではない。

フリーランとカメラ撮影機能の搭載によって、世界はこれまでの小さな箱庭からさらなる広がりを見せ、「探索」という新たな楽しみを生み出した。特にカメラ撮影の機能が導入されたことは、世界の観察をより精細なものにするだけでなく、それまで単なるNPCやオブジェクトになりがちであったディズニー世界の住人を、より生きた存在に変えている。カメラを向けたときに見せてくれる仕草とセリフは、プレイヤーとキャラクターとの擬似的なコミュニケーションを生み出し、物語のレールに乗らないキャラクターの素の表情を私達に教えてくれる。大好きなあの子がこっちを向いて笑ってくれるだけで、こんなにも嬉しい気持ちになるのはどうしてなのだろう。

そんな世界を彩るBGMは新しさと過去の思い出とが入り交るアレンジが随所にかかり、ディズニーファンや『キングダム ハーツ』シリーズを古くから遊んでいるプレイヤーほど、深い感慨を覚えるものだろう。特に終盤の激闘中にかかる劇伴は素晴らしいものだった。

 

続編のジレンマ

歴代の全てを兼ね備えたゲームシステム、歴代を超えた世界構築。「ゲーム」という面で見れば、本作は間違いなくシリーズの集大成であり傑作という出来であった。だが一本の作品としてみた場合は話が違ってくる。物語という一点の曇りによって、『キングダム ハーツⅢ』という作品は傑作に相応しい輝きを得るには至らなかった。

シリーズのビックタイトル化に伴い増加する新規参入者向けのフォローと、続編作品、しかも長きに渡り続くシリーズの結末を描ききることを同時に行うという、かつてない試みをやりきったことそれ自体は評価したい。シリーズ作品の最終章において新規参入者へのフォローを行うなど通常では考えられないものだからだ。しかし、その試み自体は不完全な形で終わっていると言わざるを得ない。

「物語をよく知らないユーザーでも最後まで遊べる工夫を施すこと」と「シリーズファンが満足の行くような結末を用意すること」を天秤にかけた結果、新規プレイヤー向けの配慮とシリーズ経験者向けの内容とのバランスが崩れてしまっているのだ。具体的に言えば、個々のディズニー作品の物語を新規プレイヤー向けに配慮して描いていった結果、本来の主役であるソラ達の物語が分量的に少なく、なおかつ要所を詰め込みすぎて、一つ一つの山場が安易なものに成り果ててしまっている。

今回もディズニー作品を主軸にした世界での出来事は、原作の内容を圧縮しアレンジしたもの、もしくはifの後日談という形式をとっている。だがソラ一行は、作中徹底して端役として描かれる。物語は「部外者であるソラ」の視点から観測され、それでいて作品ごとのメインキャラクターたちを主軸として進行していく。故に物語の全貌をプレイヤーは知ることができない。アナとエルサの関係がなぜ進展したのか、なぜターナーがダッチマン号の船長となったのか、どうして異世界からもう一体のベイマックスが出現したのかを、ソラ達含めプレイヤーは知ることができないのだ。

また、本筋となる黒幕との因縁という部分については殆どその進展を見せない。この形式は本作で初めてシリーズに触れたプレイヤーに対し、続編という抵抗感を抱かせず、原作には興味を自然と抱かせる絶妙な工夫であった。それぞれの物語は大人気作品を原作としているだけあって皆等しく面白い。劇中には原作を再現するシーンが随所に盛り込まれ、終始プレイヤーを飽きさせることはない。

だがソラが主役の物語ではなかったが故に、本来語られるべきソラ自身の成長が具体的な描写として描かれないまま進む。そのため、真に主役が交代し、物語がクライマックスへ突入する直前、ソラにせまる重大な危機への説得力が薄れてしまっていた。その勢いのまま展開する終盤は、サクサクと非常にテンポよく進行する。この怒涛の勢いは『キングダムハーツ』の世界観が分からないプレイヤーでも最後まで飽きさせないための配慮だったのだろう。だが人生の数十時間、人によっては数百時間を共にしたキャラクター達がものの十数秒で次々と救済されていくのは、シリーズファンの立場からすれば物語として味気ないものだ。また、歴代作品の黒幕が成長した主人公の前に再び立ちはだかるというシチュエーションは、本来非常に“アツいもの”である筈だが、先述したテンポを維持するための工夫が、それを数あるシーンの一つにまで貶めている。

17年の旅路の果てに迎えた結末とその内容については非常に感動的なものであり、回収すべき伏線を全て回収しつつ次に繋げたのは総決算として素晴らしいが、ソラ達の物語における一つの節目と銘打った作品としては、高まり続けた期待には応えきれない終幕であったことは否めなかった。

現在までに発売された『キングダムハーツ』に連なる作品は10作品以上存在する。すべてが本作のストーリーに密接しているわけではないものの、なんらかの形で本作につながっている。そうした作品の積み重ねを全て1本の物語に閉じ込めながらも、新規ユーザーに最後まで遊んでもらうには、この方式を採用するしか無かったのかもしれない。

『キングダム ハーツⅢ』という作品は、間違いなくシリーズの集大成ではあった。だが至高の傑作とはなり得なかった。ビッグタイトル、そして続編タイトルのジレンマ故に良作の域に留まることとなってしまったのは非常に心苦しいものだ。しかし本作に込められた、物語そして私達プレイヤーへの愛は、紛れもない本物であったということはわかる。これからもソラ達の物語は続いていく。その行く末が黄昏ではなく夜明けであることを願い、この批評を閉じることとする。

 

『KINGDOM HEARTS III』
© Disney. © Disney/Pixar. Developed by SQUARE ENIX

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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