『スプラトゥーン2』レビュー
「遊び」が「競技」に変わる時

去る7月21日、ついに『スプラトゥーン2』は発売された。前作の発売から2年、最後に配信されたバランス調整を含むアップデート(2.9.0)から1年。イカたちを取り巻く環境はどのように変わったのか、本記事では変更点を中心に掘り下げてゆきたい。

『スプラトゥーン』が2014年のE3でデビューした当時の衝撃は今でも覚えている。PVが流れ始めて一瞬『ブロブ カラフルなきぼう』の続編かと思ったところに、得体の知れないイカが出てきて面食らったものだが、はたして『スプラトゥーン』は世を席巻したと言って良いほどの盛り上がりを見せた。その盛り上がりは落ち着きこそしたものの消え去ることはなく、2017年に入ってもNintendo Switch体験会での整理券配布や同梱本体予約が瞬殺されるというかたちで、しばしば注目度の高さを目にする機会があった。そして去る7月21日、ついに『スプラトゥーン2』は発売された。前作の発売から2年、最後に配信されたバランス調整を含むアップデート(2.9.0)から1年。イカたちを取り巻く環境はどのように変わったのか、本記事では変更点を中心に掘り下げてゆきたい。

Splatoon2
開発・発売元:任天堂
発売日:2017年7月21日
プラットフォーム:Nintendo Switch
※本記事は「Ver1.2.0」の内容をもとに執筆されています

 

『スプラトゥーン』というゲームについての基本的なルール、特に「ナワバリバトル」については前作のレビューを参照していただきたい。今回のレビューと同様に発売から約1か月の時点での記事であるため、アップデートが重ねられた現在のWii U版『スプラトゥーン』とは少し状況が異なる点もあるが、「床を塗りあいナワバリを広げ、より面積が広かったほうが勝ち」という基本ルールに関しては前作からまったく変更がない。そのルールが生み出す駆け引きや連携の楽しさもそのままだ。これは『スプラトゥーン』というゲームの土台が、前作の時点ですでに改善の必要が無いほどに完成していたという証左でもある。そこで『スプラトゥーン』の開発陣が新作を作成するにあたって選んだ方針、それは「競技性を高める」ことであった。ナワバリバトルはガチで塗りあうときを迎え、遊びからスポーツに、競技に脱皮しようとしているのだ。

「競技性」と言っても、その言葉の意味するところはさまざまで、そして曖昧だ。キャラや武器間の格差の解消、対戦ゲームとしての奥行き、プレイヤーに対する公平性―――いくつもの要素がその一言に内包されている。だが最終的には、競技性とは「プレイヤースキルの許容量」と言えるのではないだろうか。マップやブキに対する知識、プレイヤーキャラの操作技術、画面表示の把握や効率の良い進軍といった知識面・実践面の両方を、対戦に活かし勝敗に結びつけることの出来る上限量。『スプラトゥーン2』は、前作で築いた稀有な間口の広さを活かしつつ、「競技性」を上昇させるための変更をゲーム全体に施してきた。

 

グラウンドを整備せよ

その一つが対戦環境の徹底的な整備である。前作の対戦環境は―――特に対戦バランスの面から振り返ってみると、非常に「大らか」であった。スペシャルウェポンは派手で効果が強烈、マップは構造が比較て単純で大胆。ブキも取り回しや判定に大雑把なところがあり、初期のローラーは振った瞬間に攻撃判定が全周に出るなど、大味で大雑把で、ハイカラシティは荒々しい熱気に包まれていた。そして、とてもわかりやすかった。

これは、前作では開発陣がバランスよりもわかりやすさを、楽しさを優先した結果なのだろう。というのも、特殊なルールを持つ『スプラトゥーン』の将来的なバランスを発売前から見通すことは難しかったと思われるからだ。開発者もプレイヤーも、『スプラトゥーン』と同じルールを持つゲームは遊んだことがなかったのだから、どういう要素がどう強いのか、それでどのように勝敗が歪むのか、誰にもわからなかった。さらに、ほぼ週に一度のペースでブキやマップが追加され、そのたびに環境は変化するのである。ゲームバランスの最終形など読み取れるはずもなかった。だからこそ、前作ではわかりやすさと楽しさが優先されたのだと思う。対戦環境がどのように推移・進化するのであれ、無敵スペシャルウェポンはいつでも明快で強く、積んだら積んだだけ効果が出る攻撃・防御ギアもまた同様に明快で強かった。

最終的にこれらの明快で強い要素が対戦環境を荒らしてしまうことになり、それに対応するべく開発陣もバランス調整や新システム導入でどうにか対戦環境の操縦を試みた。「リスポン時のスペシャルゲージ減少量の個体差」の追加などは、その典型と言えるだろう。しかし、どれも根底から環境を動かすには至らず、うまくいっていたとは言い難い。もはや小手先の調整や数値の変更では間に合わなくなっており、あるインタビューでの「アップデートで出来ることはやり尽くした」というプロデューサーの発言も、間違いではないだろう。

さて、環境をリセットする機会である『スプラトゥーン2』ではこれらの面に大幅に変更が入った。何が強かったか、何がバランス調整の障害になったかを徹底的に検証し、『スプラトゥーン』というルールを改訂しようという意志である。スペシャルウェポン一新という名目の無敵大幅削除や、攻撃・防御アップといったブキの根本パラメータを変更できるギアパワーの削除など、前作で理不尽さが強かった要素や、ゲームを壊しかねない要素、バランス調整の妨げになっていたであろう要素を徹底的に排除している。これはゲームバランス上で何か起こった時に調整しやすく、かつ、何か起こる余地をもできるかぎり削っておくといった、徹底した変更であった。

一方で間口に対する配慮は忘れていない。大きなところでは、ゲーム中に「マッチ中にやられた回数」が確認できなくなり、ネガティブなプレイ情報をゲーム上から受け取ることがほとんどなくなった。特に初心者プレイヤーが数字だけ見て「キル数がゼロ」「デス数が多い」などと気負わないようにという配慮なのだろう。地獄のようだった理想のギアパワーへの道のりも緩和されており、システム面ではより遊びやすくなるような変更が施されている。

 

ルールを整備せよ

対戦に直接関係するところで言うと、まずメインブキには入念な調整が施され、ほとんどのブキがローンチ時のバージョンでは前作比で大なり小なり何らかの弱体化を受けた状態からのスタートとなった。チャージャー、ローラーあたりは大きな仕様変更も加わり、立ち回りを根本から変更する必要が生じている。

一新されたスペシャルウェポンは、発動した瞬間に数秒間無敵というようなわかりやすさは薄れ、発動前後の硬直が露骨になったり、発動中はデメリットのほうが大きく感じるなど、一見して強さがわかりづらいものが増えた。ロックオン追尾弾や障害物貫通射程無限レーザーなど、「狙った相手を移動させる」という効果が多いのも特徴だ。

マップについても、『スプラトゥーン2』での追加マップは前作から構成がかなり変化しており、全体的に起伏と遮蔽物が増え射線が通らなくなった。ブキそのものの射程が抑えられた調整と合わせて、敵イカとの交戦距離は短い傾向にある。くわえてマップ内のエリアとエリアの仕切りがかなり露骨になっており、マップ内での撃ち合い自体はやや散発的になった。

こうした調整の結果、純粋に対戦の難易度がわずかに底上げされた。全体的に抑制傾向にあるブキ性能。豊富な遮蔽物は急な遭遇戦を誘発するためエイム力を要求し、一方で移動の自由度の関係から前作よりも「塗り」そのものの重要度は上がっている。降りたら登るのが難しい段差は間合いの調整を制限し、一方であまりにも通らない射線は常時位置取りの変更を強いる。スペシャルウェポンは考えなしに撃っては発動前に潰されるのもザラで、増量された裏取りルートは押しこみや打開に安定を許さない。前作よりもゲーム展開はせわしなくなり、考慮すべき要素が増えた。要求される知識や操作の水準、上限が上がり、それが勝敗により反映されるようになった。前作で大らかだった部分を全体的に引き締め、ゲームプレイのレベルアップ――「競技性の向上」が図られたのである。それでいて、もともとの「ナワバリバトル」というルールの完成度が高いため、間口自体はほとんど損なわれていない。そして「ガチマッチ」は、これらの調整と非常に噛み合い、前作以上の競技性を感じさせるようになった。まずは開発陣の意図どおりと言ったところではないだろうか。

一方で、こうした方針があまりにも性急すぎるのではないかという困惑もある。前作に比べると今作のゲームプレイは、良くも悪くも少々渋いのである。単純に現状を前作と比べた場合、下方修正やできなくなっていることのほうがどうしても目立ってしまっており、塗りの爽快感が減じてしまっている点は否めない。ばっちり対戦重視でデザインされたマップ同様にゲームプレイが少々窮屈になってしまっている。

前作からのプレイヤーで、本作に対する違和感や不満を覚えるとするなら、その要因の一つはこうした調整の姿勢に対するものであろう。一部の武器種では特にそうだが、前作で強かった立ち回りやテクニックに軒並み調整が入ったこともあり、立ち回りを開発側から「やらされている」という感覚が強くなってしまっているのである。そうして出る杭を打つ方向で舵取りを試みる一方、前作から派手な調整を免れたブキや、追加されたスペシャルウェポンの一部がまたも猛威を奮ってしまっている。私の困惑は、そうした現状に対する反発を内包しているのも否めない点である。

ブキで言うとチャージャーには徹底して対策が取られており、起伏の多く射線の通らないマップ、相手に移動を強要するタイプのスペシャルウェポンの増量、「半チャージ」と呼ばれるテクニックの制限など、システムと環境の両面から逆風が吹いている。

 

ゲームバランスという魔物

完全新規作だった前作と違い、今回はナンバリング2作目である。新規性が薄れている分、プレイヤーがゲームを見る目はどうしても前作より厳しくなる。プレイヤーの『スプラトゥーン』というゲームに対するスキルも上がっている。前作と同じようなゲームでは、すぐに飽きられてしまうかもしれない。そこで『スプラトゥーン2』の開発陣が選んだのは、『スプラトゥーン』を対戦ゲームとしてより整備し、許容するプレイスキルの上限を上げる。すなわち「競技性を上げる」ことだったのだ。 そのためには大味さよりも緻密さが、良好なゲームバランスがどうしても必要だった。

しかし、ゲームバランスという概念・言葉は御しがたい魔物でもある。ゲームバランスが優れたゲームが楽しいゲームであるとは限らないからだ。前作の間口の広い大らかなゲームプレイに魅せられた私は、『スプラトゥーン』は「楽しいゲーム」であって欲しいと願っている。ガチガチの競技性を纏った「対戦ツール」ではなく、楽しいゲームとしての有り様が先に来て欲しいと思っている。その点で現状の『スプラトゥーン2』には、いささかの危うさを感じている。派手で大らかな前作が、それゆえに持ちあわせた無二の楽しさ。競技性を強化する過程で失われたそれらに対する新たな楽しさを、本作はまだ示せていないように感じるのだ。

ただ、これらの調整がまったく不要であったとも思っていない。前作における無敵スペシャルのやり取りは、「強み」を通り越して「理不尽」の押し付け合いになっていたし、攻撃・防御ギアの積み合いは不毛の域に達していたので、本作の調整の方向性そのものに対しては、私は肯定的である。肥大化してしまった前作に対して、抜本的なリセットが絶対的に必要であったというのも事実なのだ。ここに本作のジレンマがある。『スプラトゥーン2』は対戦の質を向上させる方向に舵を切ったが、その質がために切り捨てた荒々しい魅力を埋め合わせるまでには、今は至っていないのである。

ナワバリバトルというもともとのルールの完成度が高いだけに、現状でも楽しいゲームであることは間違いないが、『スプラトゥーン2』での調整でナワバリバトルが”より”楽しくなったのかと問われると、現時点ではどうしても返答に窮してしまう。「間口の広さを維持しつつ対戦を高度にする」という意欲的なチャレンジをしているのは理解でき、最終的には前作を凌ぐ遊びごたえが備わると信じているが、Ver1.2.0時点ではどっちつかずになっているのだ。

 

シャケが来よる!

対戦モードに関してはこのあたりにして、本作でひときわ輝く新モード「サーモンラン」について詳しく触れておきたい。対戦モード、ヒーローモードに続く『スプラトゥーン2』で追加された第三のゲームモードが「サーモンラン」である。現時点ではオンラインでは常時プレイすることは出来ず、決まった開催時間帯(アルバイト募集をしているという設定)にのみプレイできる、完全協力プレイモードである。

いやはや、このモードは素晴らしい。世に数多あるゾンビモードやエンドレスシューターの亜種とは言えるのだが、世界観やゲームプレイをきちんと『スプラトゥーン』の文法に落とし込んで独自性を発揮できており、非常に完成度が高い。ガチマッチのルールもそうなのだが、既存のルールをアレンジして取り込むのが開発陣は非常に上手い。シャケをしばくのが楽しすぎてランクがなかなか上がらないというイカ諸兄も多いのではないだろうか。

ゲーム内容は単純で、プレイヤーたちはアルバイトと称して専用マップ内に押し寄せる「シャケ」の群れと、それに混じってやってくる中ボス的存在の「オオモノシャケ」を倒して、「イクラ」と「金イクラ」を集めることになる。100カウント1WAVEとして3WAVE生き残ればアルバイト成功なのだが、途中で全滅したらその時点で業務失敗になるほか、WAVE間の「金イクラ」の取得ノルマを達成できなくても業務失敗となる。金イクラは基本的にオオモノシャケを倒さなければ手に入らないため、押し寄せるシャケの群れをいかに捌き、オオモノシャケの猛攻をいかにかい潜り、回収ボックスまで金イクラをいかに運ぶかを、臨機応変にせわしなく対応していく。

このサーモンラン、定石や立ち回りの基本は存在するが、ゲーム展開が毎回同じにならないように非常に工夫されている。たとえばアルバイトではブキを自由に選ぶことが出来ず、その開催日の支給ブキ4種の中からWAVEごとにランダムで振り分けられるようになっている。支給ブキ自体は開催日ごとに変更され、中には非常に偏った構成でシャケに立ち向かわなければならない日もある。その日のブキ構成や持たされたブキを把握し、その都度立ち回りを変える必要があるので、同じマップでもゲームプレイが同一になりづらい。くわえてWAVEごとに干潮や満潮で地形が変わったり、霧の発生や特殊シャケの出現といったランダムイベントが発生したりもする。ランダムイベントは複数が組み合わさることもあり、そういった状況に誰がどう対応するかも、その日のブキ及び今もたされているブキによって変わってくる。単純なルールながら単調な展開や作業にならないように、ゲームモードとして非常に練り込まれている。

最長で100カウントx3WAVEと短めのプレイ時間に、シャケとのテンションの高い撃ち合いしばき合いがギュッと詰め込まれており密度が濃い。マッチングした同僚バイトイカたちとのその場限りの連帯感も、対戦モードとはまた異なる独自のものが味わえる。激務を極める「たつじん」レベルのアルバイトを無事乗り切った時の達成感と連帯感は筆舌に尽くしがたいものがあり、人はときに仲間への情によってブラック労働の沼に取り込まれるのだという実感を得ることが出来るだろう。

WAVE限りで強制的にさまざまなブキを扱うことになるので、普段触らないブキを持つきっかけになるモードでもあり、間接的にブキのチュートリアルにも繋がっている。シャケをしばくのはナワバリを奪い合うのとは立ち回りは異なるが、ブキの特性は変わらない。気に入ったブキが見つかったらナワバリに持ち込んでみるのも面白いだろう。

唯一マップが少ないことだけが欠点といえば欠点だが、それも8月23日のアップデートで1つ追加されることになった。おそらくまだいくつか増える余地があるだろう。常時プレイできない点から考えて、対戦とは離れた息抜きのモードという位置づけではあるのだが、それだけに隙なくまとまっている。息抜きで済ませてしまうのが勿体無いほど楽しく、完成度の高いゲームモードだと断言できる。

 

イカたちと開発陣の長期戦の始まり

本作のキャッチコピーである「ガチで塗りあう時が来た!」というのは、このことであったのかと思うほどに、本作のガチマッチには可能性を感じる。開発陣の目指した競技性向上のための調整と、前線が勝敗ギミックに集中するガチマッチのルールが、うまく噛み合っている。筆者は「ナワバリバトル」こそが『スプラトゥーン』の主役だと捉えており、前作と比較するとその楽しさは現状スポイルされているように感じるが、それでも『スプラトゥーン2』とは長く付き合ってゆくことになるだろう。また、長々と書いてきたのは前作からの変更点に対する違和感であり、新人イカ諸兄は気にすることはない。前作をプレイしていないのなら、本作からナワバリバトルに飛び込むことを止める理由はなく、興味があるのなら本体とソフトをいかにても手配すべきだ。

ただ、『スプラトゥーン2』はまだまだ発展途上にあるということは事実としておさえておきたい。控えめに見ても現時点で課題は多く、開発陣もそのことは理解しているだろう。前作ではほとんどおこなわれなかった「バランス修正の予告と時期」が早期から公式に発信されていることからも、それは明らかだ。発売からすでに2度のバランス調整がおこなわれており、本記事の仕上げをしている間にもVer1.3.0バージョンアップの日時と内容が発表された。現状の課題にかなり踏み込んだ変更内容となっており、1.2.0時点で暴れている要素はのきなみ下方修正が入っているものの、強すぎる点は丸めつつ強みそのものは残すという方向に注意が払われているように見えた。上方修正で目立っているのはハイパープレッサーで、威力アップや塗りをつける等の単純な内容ではなく、動かずに撃ち続けるというリスクに対して、打ち続ければ攻撃判定が太くなるというリターンを設ける方向で強化を図ってきたのは面白い。今後の調整にも期待が持てる内容といえるだろう。最終的に前作を凌ぐ奥深さと、前作よりも激しい楽しさを兼ね揃えたタイトルになるように祈りつつ、私は今日もデュアルスイーパーを持ってナワバリバトルに飛び込むことにする。

Rokurou Eyama
Rokurou Eyama

ビデオゲームとアメコミとバイク(盗難被害遭遇済)をこよなく愛する30台前半。レトロゲームも最新ゲームも等しく同じ大切なプレイ対象である。

幼少期に出会った『マーブルマッドネス』の衝撃でビデオゲームに目覚め、なぜか実家に転がっていたMSX2+に親しみ、バーチャルボーイに立体視の未来感を植えつけられゲーム人格が形成されていった。STGからRTSまでどんなジャンルも遊んでみるが女の子がいっぱい出てくるゲームは苦手。

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