ゲーム開発の大規模化・長期化にどう立ち向かうか?サイバーエージェントでは「横断型技術者集団」が活躍しているらしい、そして募集中らしい。話を訊いた

SGEコア技術本部は、一体なぜ”組織の横断“ができているのか、そして今現在どんな活動をしているのかについて、コアメンバーである石黒祐輔氏、矢野春樹氏、清原隆行氏らに話を伺った。

サイバーエージェントゲーム・エンターテイメント事業部SGEコア技術本部が現在、開発者を募集中だ。

スマートフォン向けゲーム市場において、大きなシェアを誇るサイバーエージェントグループ。そもそも同グループにはQualiArtsやサムザップ、アプリボットなど多くのゲーム子会社が存在。さまざまなゲームを開発している。

大きなゲーム会社においては「縦割り」は一般的で、チームやセクションごとに独自に動くことは珍しくない。当然メリットがあるためそのような組織体系になっているわけだが、一方で、同じ会社にいながらも、チームや部署が異なることで別々で動き、技術共有はあまりされない……といったこともあるあるだ。いわゆるナレッジの共有は、大きな会社ほど直面する難しい問題といえる。

SGE(サイバーエージェントゲーム・エンターテイメント事業部)コア技術本部は、そうしたグループやセクションを技術的に“横断”する。時にA社のトラブルに入っていき問題を解決し、そのトラブルを吸収しB社の類似問題を解決する。そうした問題を全社に共有する……などなど。いわば横断型の技術者集団だ。

SGEコア技術本部は、一体なぜ”組織の横断“ができているのか、そして今現在どんな活動をしているのかについて、コアメンバーである石黒祐輔氏、矢野春樹氏、清原隆行氏らに話を伺った。今回はその歴史と、どんなかたちでグループを支えているのか、これまでリリースされたソフトフェアについて、まとめていく。なお、SGE(サイバーエージェントゲーム・エンターテイメント事業部)コア技術本部では以下のポジションを募集中だ。

・Unity基盤エンジニア(該当リンク
・Unityグラフィックスエンジニア(該当リンク
・Unityクライアントエンジニア(該当リンク
・Unityパフォーマンスチューニングエンジニア(該当リンク
そのほか情報はサイバーエージェントの採用サイト

――皆さんの自己紹介をお願いします。

石黒祐輔(以下、石黒)氏:
SGEコア技術本部(以下、コアテク)で、開発責任者をしている石黒祐輔と申します。2014年にサイバーエージェントに入社後はQualiArtsで基盤開発をメインにおこなっておりました。そんな中、2021年にサイバーエージェントのゲーム事業部で開かれた、エンジニア組織をテーマとした会議でコアテク立ち上げの提案をして、役員の方に決議していただきまして、それからずっと開発責任者という立場を続けています。現在はUnity開発で使うような基盤づくりをほかのメンバーと一緒にメインで作りつつ、コアテクが担っている全体的な業務も見ております。

石黒祐輔氏

矢野春樹(以下、矢野)氏:
2012年にサイバーエージェントに入社した矢野春樹と申します。私も最初はサイバーエージェントの子会社であるグレンジに、企画職として入社しました。2年半くらい企画をして、そこからエンジニアになって、Unityに触れるようになりました。

矢野春樹氏

その数年後、子会社のアプリボットに行き、『ブレイドエクスロード』というプロジェクトでリードエンジニアを担当した後に、横断系のことがやりたいと思い他社に一度転職しましたが、コアテクを立ち上げる話をもらって、面白そうだなと思い戻ってきました。

コアテクでは、最初はOSSの開発に積極的に取り組んで、いろいろなOSSを出したり、それを外向けに発信したり、そういう仕事をおこなっていました。現在は事業部全体で、大きいタイトルのほかにもグローバルでヒットするようなハイブリッドカジュアルのようなジャンルをたくさん作ろうという動きがありまして、短期間でたくさん作るためにも開発の効率化に取り組んでおります。

清原隆行(以下、清原)氏:
コアテクのグラフィックスチームでリーダーをしている清原隆行です。大阪のコンソール系のゲーム会社で13年ほど働いて、PS2の頃からPS4ぐらいのタイミングまでゲーム開発に携わっていました。ただ、家庭の事情で一度、地元の愛媛県にある実家に戻りまして、そこで専門学校の講師をしていた時期があります。

清原隆行氏

そのときに作った教材のテキストを書籍として出版させていただきまして、それが翔泳社様から出版されている「HLSLシェーダーの魔導書」という本なんですが、出版と同じくらいのタイミングで、サイバーエージェントのGraphics Academyという施策がありまして。つまり、グラフィックスエンジニアを求めているのかなと施策の裏を読んで、応募したのがきっかけとなって、コアテクで働くようになりました。

今はグラフィックスチームとして、おもにグラフィックス系のスタイライズなレンダリングシステムの基盤の開発や、各プロジェクトが抱えているグラフィックスのパフォーマンス的な問題、不具合の修正、あとはプロジェクト内で実現が難しい表現など、スポットで加わって実現できるような動きをしています。そこで得た知見をコアテクの方で吸い上げて、横断組織として横に展開していますね。

そもそも、サイバーエージェントのゲーム事業部はどういう構図なのか?

――まずは前知識として、サイバーエージェントのゲームグループにどういう会社があって、どういう構造になっているのか教えてください。

石黒氏:
サイバーエージェントのゲーム事業は複数の子会社が各社の強みを活かして開発をしています。6社の子会社が所属するゲーム・エンターテイメント事業部(以下、SGE)があり、SGEには、現在はQualiArts、アプリボット、サムザップ、Colorful Palette、グレンジ、GOODROIDが所属しています。

子会社それぞれに強みや事業の方向性があり、それぞれに特化したゲームを作っている中で、それを技術的に支える組織がコアテクです。子会社がゲーム開発をする上で効率的に開発するために技術的な部分を補うように一緒に仕事をしている、エンジニアの横断組織です。

――横断することもあると。子会社ではありつつも、他社でいうところの部署に近いようなものでしょうか。

石黒氏:
そうですね。子会社と言ってはいますがかなり壁は低くて、子会社間でも情報交流が活発に行われていて、気軽に話せる仲の良さもあるので、本当に部署に近いと思います。

「グループ内で似たような物が作られる」というジレンマ

――コアテクが生まれるまでには、どういった課題があったのでしょうか。

石黒氏:
まず一番大きい部分として、昔は今ほど情報交流が活発ではなく、互いの間にある壁が高い時代がありました。例えばある会社で作ったものに良いものがあったとしても、ほかの会社で使われないとか、そもそも何を作っているのかさえ知らないという、子会社ごとで埋もれてしまう技術資産が存在していました。ゲーム開発に必要なアセット基盤を開発していても、同じようなものがほかの子会社でも必要になったらそれぞれで作っていて。もったいないですよね。それがSGEの抱えていた課題であり、コアテクの一番解決したかった課題ですね。

――その課題によって、当時はどういった弊害が生まれていたんでしょうか。

石黒氏:
グループとして見ると、作らなくてもいいものを作る二度手間が発生する、非効率な状態になっていました。グループ内の他社がすでに作っているような基盤を、情報を共有されていないがゆえに、工数をかけて作ってしまう。ゲームを作るのに同じような基盤ばかりを作っていても仕方がなくて、一番の本質はやっぱり良いゲームを作ることです。

たとえばルックだったり、インゲームの仕掛けだったり、そういったゲームに直結するところにもう少し時間を使ってほしかったので。そこで、どんなゲームにも共通する基盤的なところは、コアテクが全体的に担当すれば事業的にもゲーム開発の効率的にもいいよねとなり、当部署が誕生しました。

――同じようなものを作っていたというと、どういったものがあったんでしょうか。

石黒氏:
いくつかありますが、SGEでよく事例に挙げられていたのはアセット基盤ですね。元々、グループ内の会社によってUnity開発歴が長い会社と短い会社があって。Unity開発歴が長い会社は、アセットバンドルというUnityのアセットをうまく管理して開発ができていました。逆にUnity開発歴が浅いところだと、その扱いに苦労したり、Unity独自のノウハウが必要な部分でトラブルを踏んだりとか、そういったことがありました。

そこを全体的に基盤化して整えるというところが、コアテクの役割のひとつですね。アセット基盤にも世代はありますが、すべての世代を合わせてSGEの全体的なタイトルに導入したことで、工数やノウハウの集約といった部分が効率化されていきました。

矢野氏:
そもそも、コアテクができる前は、具体的にこれが困っていたとか、これがいろいろなところで作られたということすらわからない状態だったんです。SGEが子会社制を採用しているのは、子会社同士が切磋琢磨して、互いに良いものを作ろうという姿勢になれるというのが大きな理由で、それによって事業を伸ばすという狙いがありました。

ただその結果として、他の子会社に技術資産を共有せず、閉じがちになってしまうという傾向がありました。そんな状況だったので、実際に当時アプリボットにいた私はQualiArtsが何をやっているのか、何を作っているのかもよく知らなかったんですよ。なので正確に言うと、いろいろなナレッジやいろいろなライブラリが各社で作られていたけど、何が被っていたのかもよくわからなかったレベルだったように思います。

――その当時、アプリボットからQualiArtsはどう見えていましたか。

矢野氏:
QualiArtsは技術資産を積み上げる意識が当時から強いイメージでしたね。当時は詳細は知りませんでしたが、アセット基盤やADVパートを効率的に作るためのフレームワークみたいなものも作っていたんですよ。すごい技術にこだわっているし、積み上げている会社というイメージでした。

――石黒さんは当時QualiArtsにいましたが、何となく他の子会社に技術を渡したくない気持ちはあったんですか。

石黒氏:
個人的には積極的にオープンにしたい派だったんですが……矢野の言ったとおりオープンにすることのメリットがなかったんですよね。むしろ、オープンにすると不具合が出たときのサポートとか要望が出たときとか、コミュニケーションに時間がかかってしまうので。時間を取られる一方で、ほかでいくら広まって成果が出たとしても、QualiArts内での評価対象になり辛いので、そこですれ違いになって、あまりオープンにすることに前向きになれないもどかしさがありましたね。

重要なのは現場とのギブアンドテイク

――そんな状況の中からコアテクができたのは、それまでの子会社の在り方とは真逆の思想だと思うのですが、どのようにコアテク設立に至ったのでしょうか。

石黒氏:
やっぱり難しいところはあったので、コアテクを立ち上げたときに正直あまり自信がないというか、手探りになるだろうなと思っていた部分は多分にありました。その中でも、各社の考え方や価値観がそれぞれにあると思ったので、話し合いで全体的に折り合いをつけていきましたね。ただ、まだまだ模索中で、今でも少しずつやり方を変えていっています。

基本的には元々組織文化としてボトムアップ型な傾向があるので、何かを作って、「これを導入してくれ」と押していくようなトップダウンにするのも違うと思っています。どちらかと言うと、良いものを作って、それが本当に良かったら使ってね、くらいのスタンスで使ってもらうようなイメージですね。だから、使ってもらうためには本当に良いものを作らないといけないから、我々としても作るものの品質をいかに高めるか、妥協しないように日々細部まで気を配りながら作っています。

――とはいえ、ノウハウをよそに渡したくないとか、学習コストがかかるという心理的な障壁はありそうなイメージです。共有しないことのデメリットは、どうやって払拭したんでしょうか。

石黒氏:
それが、実は……いざやってみたら意外に抵抗感は少なかったんですよね。なので、泥臭いことはコアテクでやるから、最初のステップだけ協力してね、といった感じでノウハウや資産を提供してもらって、受け取った後はコアテクで責任をもってSGE全体に広めますと、現場の負担を減らしていきました。

そうなったらあとはもうギブアンドテイク。もらうからにはこちらからもリソースやノウハウを提供するから、と。お互いのメリットを考えながら、バランスを取ることでやれています。

矢野氏:
ほかの部署にノウハウを公開するかどうかという点は、その会社の雰囲気とか文化も関わっているんですよね。サイバーエージェントではそもそも採用とかでも横断的な取り組みがいっぱいあったんですけど、それがエンジニアの技術的な側面にまで強化されましたね。

そのおかげで、今では結構カジュアルにみんなで勉強会や共有会なんかも横断でしています。コアテクが立ち上がったことで、横断というものが部署的に結構メジャーになって、ほかにもいくつか横断部署が立ち上がったので、その辺りの空気が全社的に変わっているのかもしれません。

石黒氏:
ちなみに、コアテクの立ち上げは何度か今はもっと他のことに集中した方がいいのではということで決議されていなかったんですよね。

――簡単じゃなかったと。

石黒氏:
その頃は、「技術の共有で開発を効率化するのもちゃんとやった方がいいのはわかるけど、今は個々の会社が全力で走った方がいいよね。技術は、ゆるく共有できればいいよね」という温度感でした。

そこから流れが変わったのは、ゲーム開発自体の変化ですね。開発がそもそもかなり長期化して、これまで2~3年かかっていたところが3~5年かかるようになって。それが原因で積み重なる人件費や開発コストが増大していたので、いかにコンパクトにするかというのを模索していたところだったんです。そこで、技術を共有して開発を効率化するということをちゃんとやった方がいいと再度提唱して、コアテクが立ち上がりました。

強く反対されていたわけではなく、当時はタイミングとか時流とかも含めてちょっと合わなかっただけで、そこから組織文化も徐々に協力的な感じになってきて、いろいろ重なってタイミング良く設立できたのかなと思います。

――やはり、コストを圧縮できるという方が経営層に対しての説得力になりますよね。

清原氏:
ちなみに、私はコアテクができる前を知らないので、分断されていたというところが実はあまりピンと来ないんですよね。元々別のゲーム会社にいた私としては、その会社の部署よりも情報交流が活発な会社というのが最初のイメージでした。しかも、子会社制だから各社が競争していく、すごく良い循環の組織だなという印象でしたね。

石黒氏:
清原さんが入ったときは、コアテクができて1年経ったぐらいですかね。

清原氏:
それぐらいですね。その頃は、もう本当に情報交流も活発でしたね。

矢野氏:
コアテクがある程度軌道に乗ってきたタイミングですね。

清原氏:
子会社の方も情報共有をお願いしたら「いいですよ」って言ってくださるので、皆さん協力的だな、秘匿性が少ないなという感じでした。

石黒氏:
いやぁ……、良かったです(笑)

――(笑)

トラブル解決だけでなく技術底上げもある

――コアテクができたことによって解決できたことを教えてください。

石黒氏:
これまで述べていた「会社間で似たようなものを作っていた」ことが解決できました。例えばロガー基盤だったり、課金基盤だったり、1つに統一されているわけではないのですが、子会社で作成していた基盤が別の子会社でも積極的に採用されています。そのほか、グラフィックスについても強化できている認識です。

清原さんの入社のきっかけになったGraphics Academyは、コアテクの施策のひとつです。コアテクが立ち上がったとき、SGEにどんな課題があるのか、いろいろと検討したんですよ。で、その中のひとつとして、グラフィックスエンジニアがそもそも会社全体で足りないという問題に行き当たりました。グラフィックスエンジニアになりたいという人がいても、それを育てる土壌がなかった。そもそも、グラフィックスエンジニアになるときのきっかけが、自分で勉強するしかないので、なかなか難しい。

そこで、グラフィックスエンジニアに転向したい人も含めて、育成しながら採用も進めていくという施策として、Graphics Academyという、無料で1日8時間×8日間のグラフィックスの基礎を教える授業をやることになりました。費用はサイバーエージェントもちで、外部の会社さんと提携して講師をしていただいて。業界貢献の側面もあるため、サイバーエージェントの面接を受けるかどうかは任意なのですが、Graphics Academyを受けるための面接は参加希望者の皆さんに受けていただき、本当にこれからグラフィックスエンジニアになりたいと、しっかりやる気のある人に参加してもらいました。

――8日間で1日8時間の授業はかなりのボリュームですね。Graphics Academy出身のエンジニアさんはどれくらいいらっしゃるんでしょうか。

石黒氏:
7名です。皆さん今活躍をされていますし、良い施策になりましたね。

――育成システムを作ったことで、グラフィックスエンジニアの補強を進められていると。ほかに何か解決した、あるいは改善できたという事例はありますか。

石黒氏:
コアテクにはプロジェクトサポートチームというチームがあり、そのチームが活躍してくれています。その名のとおり、各プロジェクトで困ったことがあったときに手助けするチームです。ゲーム開発であるあるなんですが、開発中盤ぐらいでよくわからないクラッシュバグが発生しました、でも工数や技術的な障壁があり原因が探れません、ただ解決しないとやばいです、という状況が起こることがあります。

コアテクができる前は、各プロジェクトで頑張って解決していくことの方が多かったんですけど、その作業にはノウハウや専門性が必要な部分がかなりあるので、そこに苦戦している会社も多かったんですね。そういったクラッシュの問題とか、あとはメモリのパフォーマンスチューニングとか、そういった問題に専門的に取り組むチームがプロジェクトサポートチームで、本当に引っ張りだこです。

矢野氏:
専門的な知識が必要だとはいえ、スキルセット的にはゲームエンジニアの延長線上にある部分ですので、実際は各社に対応できる人が結構いると思うんですよ。ただ、そういう問題って後回しになりがちなんですよね。まずはゲームの機能を作ることに集中して後回しになって、後回しになるほど問題が大きくなっていくんです。とはいえ機能開発を優先すること自体は悪いことではありません。なので、横断で外から問題解決に入ってバランスを取れることが強みだと思います。

――ゲーム開発はやらないといけないことに優先順位をつけないといけないですよね。優先順位低いものはやっぱり後回しになりがちで……。

石黒氏:
品質も当然あるんですけど、やっぱり機能開発の方が優先順位が高いので。

矢野氏:
スマホゲーム開発においても、とりあえず最新のiPhoneで動いているから進めちゃおう、みたいなことになりがちですね。

石黒氏:
開発においては、本当にギリギリまで機能を詰め込んじゃうので、チューニングしている暇がない、そういう悲鳴が上がることがわかったんです。なので、コアテク側の人間とプロジェクト側の問題解決できる方と一緒に動くことで、情報の共有や育成も同時にしています。あとはそもそもそういった問題が起きないように、プロジェクトの序盤や中盤でちゃんとヒアリングして、問題を事前になるべく大きくしないようにするとか、今まで後手に回っていた部分をなるべく事前解決できるようにしています。

例えば、CEDECで一度発表したパフォーマンスチューニングを計測する基盤があって、Unity開発でフレームレートとかメモリの使用量を自動的に計測してアップロードして、それをブラウザでわかりやすく表示するというツールですね。

矢野氏:
長期間にわたってのメモリの推移などもプロジェクトごとにわかるようになっています。それを横断で集約して、ベストプラクティスも集約されていくと。これも横断ならではのやり方な気がしますね。

共通基盤を作ることで、グループ全体のプロダクトの質が上がる

――コアテクで普段取り組んでいるという基盤についても教えていただけますか。

清原氏:
お話しできるところでいくと、グラフィックスチームが重要度の高いミッションとして取り組んでいるものにSIRIUSの開発があります。SIRIUSはCharacter、PostProcess、Environmentの3つのパッケージに分かれているスタイライズドな表現ができるレンダリング基盤です。これは、各社が同じものを作っていたというところに繋がるんですが、キャラクターのルックを作るルックデブという段階で、各社で同じようなセルルックシェーダーを開発していることがあったんですね。これは重複した作業をしていることになるので、作業コストが高くなる、つまりもったいないことをしているわけです。

ただ、グラフィックスエンジニアがいる会社であれば、自社で作った方が良いというケースがあるのですが、グラフィックスエンジニアが足りていない会社もあります。そのような状況でも、SIRIUSを使ってもらうことによって、高い品質のものを短期間で作れるようにという目的でSIRIUSが作られることになりました。

――つまり、どの会社でもSGEがリリースするゲームで一定水準のルックを作れるようにするための基盤がSIRIUSなんですね。

清原氏:
そうですね。あと、今は背景、天候などを表現するためのEnvironmentの開発に力を入れています。この開発では、過去のプロジェクトで工数などの問題で実現できなかったことを可能にするものを提供できるように取り組んでいます。

石黒氏:
あとは将来的に必要になりそうなものもある程度作っています。SIRIUSは色々な機能があって、アーティストが幅広いルックをすぐに試せるようになっています。SIRIUSを使ってもらってルックがかなりスムーズに出来上がったというタイトルもあって、これはあらかじめ用意していたものがプロダクトにうまくハマったかたちですね。今作っているEnvironmentもそんな感じですよね。

清原氏:
そうですね。Environmentの開発はさらに一歩踏み込んだものになっていますが、基本的には各子会社にヒアリングをして、過去に作りたかったけど工数などの問題で作れなかったとか、試してみたかったけどコストがかかるからやめたというものを吸い上げて、先回りして作っています。なので、「こういうものがありますよ」という話をすると、クリエイターから「え、あるの」という反応をいただけますね。

――お話を聞くまでは開発の諸々にルールを敷いて、各社で統一してやりやすくしているんだろうな、というイメージでした。

清原氏:
逆ですね。私のイメージだと、トップダウンだと拒否反応が少なからずありそうなイメージがあります。ボトムアップで上がってきたものをどんどん拾って、面倒くさいものを任せてもらって、足りないところを補っていく動きの方が受け入れられるのかなと。

矢野氏:
こちらからはルールを敷いていないですね。

――となると、コアテクは各プロジェクトが必要としているものをうまく拾うことが大事になりそうですね。

矢野氏:
拾うこともそうですが、こちらからちゃんと適した人に伝えるということも大事ですね。

石黒氏:
各社の、それこそ基盤周りを担当している人だったり、プロジェクトのテックリードだったりと話しながら、どういったものがハマりそうとか、どういった課題があるのかとか、そういったことを情報交換しながらやっています。

――でも、子会社が相当数ありますよね。一言で情報交換と言っても大変ではないですか。

石黒氏:
仰るとおり全部やるのは大変ではあるので、そこは少しゆるくやっている部分はあるんですけど、全体から担当者を集めてミーティングしたり、個別に話したり、フェーズに合わせてうまく変えながら、臨機応変に進めています。

オープンソースソフトウェア開発もコアテクの仕事

――ちなみに、オープンソースソフトウェア(OSS)もたくさん作られているそうですが、これまでにどんなOSSを開発してきたんでしょうか。

矢野氏:
一番使われているものでNOVA Shaderというものがあります。これはエフェクト用、Particle System用のシェーダーなんですけど、弊社内はもちろん、いろいろな場所で採用していただいています。

あとは、こういうものがあったらいいよねというベースで作ったInstant Replay for Unityですね。これはUnityで実行中のゲーム画面を録画しておいて、いつでも書き出せるというものですが、想定した以上のスピードで導入が広がった、意外と好評なOSSでした。ほかにも、先日リリースした3DとUIのハイブリッド解像度を実現するResoDynamixがあります。このOSSは過去のプロジェクトのGPUのパフォーマンスの問題を解決するために開発されたもので、社内ではすでにいくつかの開発で採用されています。

――OSSの理念自体は崇高で、社外のあらゆる開発者たちにとって有益になるものだと思います。ただ、特に国内の会社はOSSに消極的な認識です。なぜコアテクはOSSリリースに積極的なのでしょうか。

矢野氏:
デメリットはわかるんです。よく懸念されますが、技術を流出しているわけですからね。弊社でリリースするときも、最初はメリットとデメリットを担当役員に説明して、その上で弊社にとってメリットの方が大きいということを伝えました。そのメリットのうち大きいものが会社としてのブランディングやプレゼンスの向上ですね。これが強化されると採用などの面でも実利が生まれます。さらに、OSSとしてリリースすることで品質が上がりやすいんですよ。

たとえば、Smart AddresserというOSSは、先日社外の方からUnity 6.2で動かないというフィードバックをもらって直しました。そういったかたちで品質が上がりやすいというメリットが大きいですね。

――シンプルにフィードバックが届くので品質が上がるということですか。

矢野氏:
そうですね。あとは裏事情ですが、コアテクでいろいろ基盤を作っていく上で、立ち上がったばかりの部署がこんなの出しましたと社内に言っても、使ってもらえないだろうと。なので、採用実績を作るためにOSSに取り組んだという側面もあります。

メンテナンスコストについても、OSSとしてリリースするものはしっかり作っているので、大きなバグの報告はあんまり来ないんですよね。

石黒氏:
バグ報告していただいてこちらとしても助かっていますね、それを直すことでSGEが遭遇するバグを未然に防げたと思うと、まさにwin-winですね。

――とはいえ、補修運用は必要なので、使わないOSSはリリースできないですよね。

矢野氏:
仰るとおりですね。ただ、いつか陳腐化するときは来るので、使わなくなったらアーカイブ化でいいのかなと思っています。まだ始めたばかりなので、アーカイブ化したものはないんですが。あと、今のところOSSにしているものも社内で2タイトル以上に使われるものという点を基準にしていますので、そもそも1タイトルだけで使うようなものはプロジェクトの方で用意することがほとんどです。

――OSS開発もまた、コアテクの仕事なんですね。面白いです。ありがとうございました。

なお、SGE(サイバーエージェントゲーム・エンターテイメント事業部)コア技術本部では以下のポジションを募集中だ。

・Unity基盤エンジニア(該当リンク
・Unityグラフィックスエンジニア(該当リンク
・Unityクライアントエンジニア(該当リンク
・Unityパフォーマンスチューニングエンジニア(該当リンク
そのほか情報はサイバーエージェントの採用サイト

後日公開の別記事では、コアテクに所属する方々の働き方や、どんな人材を求めているのかについて掘り下げていく。

[執筆・編集:Koutaro Sato]
[協力:Nobuaki Shibuya]
[撮影・聞き手・編集:Ayuo Kawase]

AUTOMATON JP
AUTOMATON JP
記事本文: 1112

この記事にはアフィリエイトリンクが含まれる場合があります。