『ハリー・ポッター:クィディッチ・チャンピオンズ』は、あの暴れスポーツゲーム「クィディッチ」をちゃんと成立させている。混沌アルティメット高速空中球技
「ハリー・ポッター」の世界に登場する架空の人気スポーツ「クィディッチ」。魔法使い達がほうきに跨がり、宙空を素早く飛び回りながらボールをゴールにシュートするチームスポーツだ。ただし、それのみならず相手チームの選手にタックルやキックをしたり、魔法のかかったボールをぶつけて退場させたりということもルール上認められている、極めて危険な球技である。『ハリー・ポッター:クィディッチ・チャンピオンズ』は、そんな「クィディッチ」を題材にしたオンライン対戦ゲームとなっている。本稿では、『ハリー・ポッター』シリーズファンの筆者が、マグルでありながら無謀にもクィディッチに挑んだプレイ体験記をお届けしたい。
『ハリー・ポッター:クィディッチ・チャンピオンズ』は、PC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One/Nintendo Switch向けにリリースされたオンライン対戦可能なスポーツアクションゲームだ。クィディッチは、原作当初から繰り返し登場するため、ご存知の方も多いと思う。しかし、本作では若干の変更などもあるため、その部分もまじえて改めてルールを説明しておきたい。
クィディッチは、サッカーやバスケットボールのように、相手のゴールにボールを入れたら加点されるというのが基本ルールとなっているチームスポーツだ。しかし、ここは魔法界。選手たちは全員ほうきに跨って競技場内を飛び回り、ゴールも異様に高い場所にあるのが一つの特色と言える。
本作でのクィディッチは、6人1チーム制となっている。ポジションにはチェイサー・ビーター・キーパー・シーカーの4種類がある。チェイサーは3人。クアッフルというボールを奪い合いゴールまで運びシュートを試みる。残りのポジションは1人ずつで、ビーターは敵を追跡する魔法のかかった「ブラッジャー」というボールを放ち、相手選手の妨害をする。キーパーは3つのゴールポストを守りつつ、味方にバフをかける役目も担う。そしてシーカーは、試合中数回出現するスニッチという小さなボールを見つけて捕まえるといった役割分担になっている。選手同士はタックルやキックを使っても良いことになっており、「ハリー・ポッター」の作中でもクィディッチの試合ではたびたび怪我人が出る。ハーマイオニーも思わず「危なっかしくて見ていられない」と言う。それだけ危険なスポーツなのだ。
バランスが崩壊しそうな原作ルールは、適宜改定されている
「ハリー・ポッター」を題材にしたゲームは本作以外にも存在するが、クィディッチを題材にしている、または含んでいる作品は少なかった。昨年2月にリリースされた『ホグワーツ・レガシー』に至っては、発売前から公式サイトなどで「ゲーム内でクィディッチはプレイできない」ということがあらかじめ念入りに告知されていた。
しかし、クィディッチがプレイできることを期待しているプレイヤーが一定の割合存在していただろうし、開発元もそれに配慮した可能性などは考えられる。それにそもそも、クィディッチという競技のルール自体が、そのままゲームに実装するにはいろいろと問題を孕んでいることも無視できない。どの程度のクィディッチらしさを持たせてゲームとして成立させるかは、常に課題となるところだろう。
たとえば、関連書籍の『クィディッチ今昔』や原作によれば、クィディッチのルールには以下のような特色や逸話がある。
・黄金のスニッチが捕獲されるか、両チームのキャプテンが互いに合意しなければ試合は終了にならない。そのため、試合が長引くことは珍しくない。これまでの最長記録は1試合3か月というもの。各選手たちは交代で仮眠をとりながら継続した。さらに、スニッチが捕まらないまま半年が経過し、中止になった試合もある。このときのスニッチはいまだに発見されていない。
・スニッチを獲得した選手のチームにはゴール15回分の点数が加点される。相手チームのシーカーがスニッチを捕まえても勝ちを譲らないで済むためには、最低でもクアッフルのゴールだけで160点差を維持する必要がある。
・反則が700種類以上ある。しかし、完全な反則リストは公開されていない。ちなみに第1回ワールドカップの優勝戦では、700種類以上ある反則すべてが行われたとも言われている。
・選手が負傷した場合、補欠選手を出すことはできない。負傷した選手を欠場としたまま試合を続行しなければならない。
これ以外にも細かいルールはいろいろと存在するが、ここに挙げた分だけでも、このままゲーム化したら開発元もプレイヤーも大変な目に遭ってしまうことは想像に難くない。原作世界では、プロ用のスニッチは特に捕まえることが大変難しく作られているため、150点を与えることは理に適っているというような反論もあるにはある。しかし、問題はこれをゲームにどう落とし込むかだ。ここで原作通りに150点に値するような捕獲難易度のスニッチを実装することは、原作に忠実という価値を生むかもしれないが、ゲームとしては理不尽な難易度になりかねない。
本作では、以上に挙げたような「ハリー・ポッター」ファンからも尖りすぎと突っ込まれてしまう一部のルールを潔く改定。スニッチ捕獲時の点数は30点に調整されているし、誰もスニッチを捕まえられなかったという場合でも開始から7分が経過すれば試合は終了となる(関連記事)。スニッチは出現から一定時間が経過すると消滅し、一定時間をおいて再び出現することがある。また、いずれかのチームが100点に達した時点でもコールドとなる。
1試合7分は、原作内だったら最短記録になりそうなくらい短い。だが本作では、同点で制限時間を迎えてサドンデスに突入しない限りは、試合が長引くことはありえない。また、負傷した選手が一定時間経過後に復帰できることも、地味ながら重要な変更点だ。ルールの方にテコ入れがなされることで、「確かに原作通りだがゲームとしてはハチャメチャ」という事態に陥っていないことは幸いだ。
空を飛びたかったマグル、飛ぶ
夢見る子ども時代の筆者は、小学生時代に「家の周りの掃除に使うから」という口実で竹ぼうきを買ってもらい、跨って真剣に「飛べ、飛べ」と念じたことがある。当然ながら飛べなかった。なぜなら筆者は魔法を使えない人間「マグル」だからだ。本作ではそんなマグルでも、ほうきに跨って常に宙に浮いていられるという。しかも、あのクィディッチを怪我を恐れずプレイできるとあっては、たいそう贅沢な話だ。ぜひとも体験してみなければなるまい。
本作のチュートリアルでは、ほうきで飛ぶ際の移動方法から始まり、4つのポジションすべての操作方法を一通り習うことになる。始めは当然よちよち歩きならぬふらふら飛びしかできない状態だったが、加速とドリフトを心得てくると、ほうきで飛ぶことにかなりの爽快感をおぼえる。チュートリアルでは各ポジションの動きを学ぶたびに、少人数構成のウィーズリー一家(ボット)との模擬戦が挟まる。そして全ポジションで模擬戦を終えると、ソロプレイ用のキャリアモードが始まりフルメンバーでのボット戦となる。
ここからはボタン一つでいつでもポジションを変えられるので、あれこれ切り替えながらプレイしてみた。自分が操作していない味方チームの選手は自動的にボットとなる。キャリアモードでボット戦を数回経て、筆者はビーターとシーカーが特に面白いと感じるようになった。これは筆者自身としても意外な感想だ。映画でクィディッチの試合のシーンを見ているときは、自分が仮に選手として参加することを想像してみても、ビーターとシーカーは一番難しそうで、なおかつ自分の性格にも合わないような気がしていたからだ。
原作では、「どうせ魔法で治す」という前提があるから、怪我のことを軽く捉えている節がある。しかし、高いところから地面に打ち付けられたら命に関わるし、ブラッジャーは鉄製だからどこに当たっても骨折しかねない。実際作中でも、ブラッジャーが当たったことによりハリーは腕を骨折している。ブラッジャーの直撃を、首から上に受けたらおそらく死ぬ。それを、ぶつけたりぶつけられたりするのは恐怖でしかない。マグルは骨折を治すのも大変なのだから。
しかし、ゲームとして実際にクィディッチに参加してみると、その印象は一変した。まず、相手選手からボールを奪い、守り、ゴールする必要もあるチェイサーの方が難しく感じた。実際オンラインの対人戦でも、チェイサーとして目立つ活躍をするのは初心者には難しかった。その一方で、ボールを持っている選手にブラッジャーを直撃させてファンブルさせるとチームに大きく貢献できたような気になるのだ。
キャリアモードには難易度が5段階あり、そのうちの3段階目ともなってくると、相手チームのボットビーターもよくプレイヤーを狙ってくるようになる。それをしっかり避けつつ、相手にはブラッジャーを当てるとすごく気持ちがいい。対人のマルチにおいても、互いの骨折や死を恐れなくてもよいので、「スニッチが出てきたから、相手のシーカーやビーターを積極的にノックアウトしよう」というような戦略の方に集中できる。
また、シーカーの方はスニッチを捕まえればチームに30点入るので、一気に3ゴール分の点数を稼げる。試合の残り時間が少なく点数を競っている時には、スニッチを捕まえることでの逆転勝利が可能となるケースは確かに存在する。そんなときは「今シーカーとしての自分の双肩に、試合の行方がかかっているんだ」と、手に汗を握りながらスニッチを追うこととなり、かなり白熱することがわかった。
シーカーも相手チームのビーターから狙われることがあるため、適宜回避行動も取りながら最大速度でスニッチを追う。時々スニッチが軌道に残す金色の輪っかをくぐることで最高速度を保つことができ、スニッチメーカーが溜まっていく。このメーターが最大になるとスニッチを捕獲できるようになるのだ。
クィディッチという競技は、シーカーとそれ以外の選手ではまったく競技性が異なるのに、それが同じ競技場内にいる状態で試合が行われる。まるで、バスケットボールとカバディを同時にやる中で二人だけが虫捕りをするようなものだ。ましてやその虫捕獲が、ゴールよりも高得点だという。それは本作でも共通していて、まさにカオスと言うよりほかない。
しかし、実際にやってみると、最高速度を保ちながらスニッチだけを追いかけるのは、ボールの奪い合いよりシンプルだからプレイしたてには遊びやすいし、飛行訓練にもなる。それに、ほかのポジションとは異なるキャラコントロールのスキルを要求されている感じもして楽しい。映画を見ると、ほうきの性能がシーカー適性のほとんどを決めているのではないかと思うこともあった。しかしプレイでは、求められるキャラクター操作能力のベクトルが、他のポジションと明らかに異なるように感じた。
たとえば、相手チームのシーカーとかなり近い距離でスニッチを追いかけているときには、バンプコマンドで相手に攻撃もできる。ビーターが飛ばしてくるブラッジャーを避けながらも、輪っかをくぐってスニッチメーターを溜め、その上で相手シーカーを妨害しなければ勝てない。つまり、ほうきの性能だけがシーカーの強さを決めているとは言いにくい。このような発見により、今後「ハリー・ポッター」の映画を繰り返し視聴する際、クィディッチのシーンへの解釈や印象も変化するに違いない。また、バスケットボールとカバディをしながら虫捕りをするような球技はほかに存在しないので、本作がその唯一無二のカオスな体験ができるゲームであることも確かだ。
1試合は7分間で終わり、キャリアモードの寮対抗戦におけるスニッチはその間に最大2回投入されるようだった。特に2回目のスニッチは、どちらのチームのシーカーが捕まえるにしても、試合の残り時間が1分を切っている中でのことになるので緊迫感が増す。筆者はキャリアモードで、スニッチが出ていない間はビーターを担当し、スニッチが出たらすぐさまシーカーに切り替えるというプレイスタイルを満喫した。
デフォルメと再現度が絶妙なバランスのキャラクタースキンで、トンデモチームを作る
本作には、「ハリー・ポッター」シリーズでおなじみのキャラクターたちが「ヒーロースキン」として多数登場する。試合を通じて集めることのできるゲーム内通貨を使用してショップで購入したり、シーズンのレベルアップ報酬として受け取ったりすることで集められる。これらに追加課金などは一切必要ない。スキンは、自分のチームのカスタマイズに使用することで、映画さながらのレジェンドチームを作り上げられる。しかも、チームメンバー6人に対して同一のスキンを適用することもできてしまうため、以下の画像のような見た目をしたチームさえも作れる。
現在、本作のコインショップでは上記画像で使用しているベラトリックス・レストレンジだけでなく、ロンの母親モリー・ウィーズリーや、ロンの兄にあたるジョージとフレッドの双子兄弟、ハーマイオニーなどを購入できる。また、シーズンレベルを上げていくとスネイプ先生も獲得可能だ。今後も新スキンが追加されていけば、ホグワーツ教師チームなども編成できるかもしれない。6人ともが「名前を呼んではいけないあの人」というチームも考えられる(ドリーム・チームというよりナイトメアという感じだが)。
映画の中ではありえないようなチームでクィディッチを楽しめるので、ファンとしてはさまざまなヒーロースキンを獲得するべく、実績解除やシーズンポイント集めを頑張ってしまう。それぞれに持たせるほうきや魔法の杖も、原作に登場する見覚えのある名前のものが多く、ハリー・ポッターファンにはたまらない。もちろん、既存のパーツを組み合わせてオリジナルアバターを作成することもできる。自分や友達のようなキャラクターを作り出してヒーローたちとチームを組むなど、遊び方はさまざまだ。
ソロでもマルチでもサクサク遊べるお手軽スポーツアクション
本作には、ソロ・マルチ用それぞれに複数のモードが用意されており、一人で練習したり友達とワイワイ遊んだりとさまざまな楽しみ方ができる。1試合が基本7分で終了するため、短時間サクっと遊ぶのにも向いている。オンラインPvPには3対3のカジュアルと、6対6のプロというモードが存在し、筆者のプレイしたところではプロモードには特に熟練のプレイヤーが多いと感じた。「明らかな強敵と戦っている」というヒリヒリした感覚があり、ボット戦と比べて急激に自分のプレイスキルが磨かれていく感じがした。7分という時間はすぐに決着がつく上、「もっと遊びたい」と感じるちょうどよい長さで、勝っても負けても「もう一回だけ!」と連戦してしまうのだった。また、「ハリー・ポッター」シリーズおなじみのキャラクターが実況解説者として登場するため、試合中の音声も楽しみの一つだ。
本作は、「ハリー・ポッター」やクィディッチにそこまで詳しくなくとも、各ポジションの操作はシンプルでわかりやすい上に、カオスで楽しいのでぜひ身構えずにプレイしてみてほしい作品だ。またファンとしては、ゲームアカウントを「ハリー・ポッター」ファンクラブ公式サイトと紐付けする工程も含めて、ずっと世界に浸っていられる感じがしてたまらなかった。そのままではハチャメチャになってしまいそうなルールについても調整がなされていて、ワンサイドゲームにはなりにくいので安心してプレイしてほしい。
『ハリー・ポッター:クィディッチ・チャンピオンズ』は、PC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One/Nintendo Switch向けに、クロスプラットフォーム対応で好評配信中。
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