壮大歴史シミュレーション『Europa Universalis V』は“歴史に残る”超大作。細かい為政は“自動化”に任せつつ広大世界の動きを観測する、120時間遊んで底が見えない怪物ゲーム

筆者は120時間ほどのプレイ時間を『EU5』に注いでいるが、その全貌はつかめていない。なにしろ本作は巨大すぎる。

Paradox Interactiveは『Europa Universalis V』(以下、EU5)を配信中だ。対応プラットフォームはPC(Steam)で、ゲーム内は日本語表示に対応している。

Paradox Interactiveはスウェーデンに拠点を置くゲーム会社だ。詳細なデータと深みのあるシステムに裏打ちされた同社のストラテジーゲームは“パラドゲー”などと呼ばれ、『Crusader Kings』や『Victoria』『Hearts of Iron』など、数多くの人気シリーズを抱えている。『Europa Universalis』も同社の看板シリーズのひとつ。本作はそんな『EU』シリーズの、実に12年ぶりとなる新作である。

EU5』の開始年となるのは1337年。プレイヤーは500年に渡り、国家を導いていくことになる。しかし『EU5』はとてつもない作品だ。まず“パラドゲー”の基準から見ても、データ量が凄まじい。そして政治や経済、戦争に至るまで多数の要素が有機的に絡み合っており、極めて精巧なシステムとなっている。Paradoxのほかの作品や、あるいは他社のゲームと比べても、比較に値する作品は思い当たらない。

本稿執筆時点で、筆者は120時間ほどのプレイ時間を『EU5』に注いでいるが、その全貌はつかめていない。なにしろ本作は巨大すぎる。しかしそれでも言っておきたいことがある。それは、本作はストラテジーゲーム史に残る作品であり、興味があるなら触れておくべき作品だということだ。本作はParadoxの集大成であり、同社の歴史を『EU5』以前と『EU5』以降に分けてしまうような、記念碑的な作品である。本稿では『EU5』にとりつかれている筆者が、本作の魅力を紹介する。

尋常でないほど広大な世界

まず本作はマップが極めて精細だ。本作のマップはロケーションと呼ばれる領域で構成されており、それぞれに住民や産出資源などが設定されている。そしてそのロケーションの数がすさまじい。公式説明によると、本作には全部で2万8570のロケーションが存在している。それらすべてに地形・気候・植生・産出資源が設定されており、さまざまな施設を建てることができるのだ。その分け方の細かさは、プレイ前の筆者の想像をはるかに超えていた。

たとえば本作の日本(足利幕府)には、ゲーム開始時点で339のロケーションが存在している。現実の都道府県や律令国より細かく分割されていることになるわけだ。現代の東京近郊に当たる武蔵国には多摩・埼玉・足立・豊島・橘樹・秩父・比企・榛沢と、合計8つのロケーションが存在している。筆者としては地元のあたりならなんとかわかるが、そこを離れるともはや馴染みのない地名である。日本だけが細かいのではなく、全世界がこのディテールなのだ。

複雑な現実の、ありのままを描く

そしてもちろん、ロケーションには住民も住んでいる。住民(POP)は階級や文化、宗教などによって分類され、それぞれが数十品目におよぶ交易品のニーズをもっている。交易品の価格は需給に応じて日々流動し、それに応じて施設が生み出す利益も変化する。そして住民は得た利益の一部を税率に基づいて国に納め、それがプレイヤーの使えるお金となる。

つまりなにが言いたいかというと、本作は一般的なストラテジーゲームがおこなうような現実の抽象化、あるいはデフォルメをほとんどやっていない。そこにあるのは現実をありのまま描く、圧倒的な細かさである。本作のプレイヤーの収入は、人々が労働で得た収入の一部に課税することによって生まれている。市場を建てると国の収入が10増えるなどといった作品とは、根本的に発想が異なっているのだ。

負担を軽減する自動化機能

領有ロケーションが10程度の小国なら、もちろん自力で管理することは可能だ。人々の需給に気を配りながら利益率の高い施設を建てて、自国で賄えない資源は交易で確保する。やがて国は豊かになり、住民の満足度も上がっていく。しかし本作には交易品が70種類以上存在し、それに応じて建てられる生産施設なども数多く存在する。数千のロケーションを抱える大国ともなると、領土のすべてを自力で管理することは現実的に不可能だ。

『EU5』はそうした細密なディテールとプレイヤーが要する作業量のギャップを、広範な自動化機能の導入によって対処している。本作ではさまざまな項目の管理をAIに任せて、自動化することが可能。収支や交易、建築や研究などの内政のほか、外交や軍の編成も自動化できるのだ。設定項目も細かで、たとえば一部の重要品目だけ手動で輸入して、あとの交易は任せることも可能となっている。また特定の階級にかける税率だけ手動で固定して、あとは自動化するようなこともできる。

自動化AIはなかなか優秀で、そつのない管理をやってくれる。すべてを自動化してしまえば、もはやプレイヤーがなにかせずとも国は運営されていく。一方、手動での介入もいつでも可能となっているため、純粋に操作量の負担を軽減する機能となっているのだ。没入感という観点から見ても、細かい管理は任せつつ、興味のあるところにだけ手を出せるシステムは、当時の統治者らしさを味わえる優れた仕様だと感じている。

方針を決めるのはあくまでプレイヤー

しかしAIにすべてを委ねられるとなると、自分でプレイする意味はあるのか。もちろんある。AIは細かい管理は手伝ってくれるが、国をどう導くか決めてくれるわけではない。本作はほかのParadoxのゲームと同じく、クリア条件などは特にない。あくまで自分で目標を定めて、自由に遊んでいくゲームである。

たとえば足利幕府でプレイしたとしても、プレイ目標は無数に考えられる。ユーラシア大陸に領土を広げるのか、アメリカ大陸に植民をするのか。それとも外征はせずに、ひたすら日本列島を豊かにするのか。何をしてもよいのだが、すべてを同時進行でするのは難しい。方針を決めるのはあくまでプレイヤーだ。

そしてプレイ方針を決めたら、それに従って国を動かしていくことになる。たとえば本作には国の価値観というものがあり、中央集権か地方分権か、好戦的か融和的かといった、国の基本的な思想を表す対立する概念が10種類以上用意されている。これらは100から-100までのグラデーション方式となっており、数字がどちらかに寄るほどバフとデバフが積み重なっていく仕組みだ。

侵略プレイをしたいなら、国の価値観を好戦的に誘導した方が有利だ。逆に内政重視でいきたいなら融和的の方がメリットを活かしやすい。そして価値観を寄せるためのツールとして、無数の法律や改革などが用意されている。プレイヤーは政策を管理して、理想とする国のかたちに寄せていくことになる。

しかし法律などの制度は価値観を作るだけでなく、国内の階級の権力や満足度に影響を与える。権力が強い貴族に高い税を課すのは難しいし、満足度が低い農民は反乱を起こすかもしれない。すべてのシステムは互いに繋がり合い、ひとつの変更がいろんなところへ波及していく。こうしたダイナミズムが、本作のシステムの大きな特徴である。

国の固有イベントもたくさん

そしてもちろん選んだ国によって、プレイ感覚や方針も変わってくる。たとえばイングランドやフランスは百年戦争の開幕が目前に控えており、のんびり内政をしている暇はない。逆に日本は国内の大名らに対処しなければならず、序盤から海外に戦争を吹っ掛けるのは難しい。ビザンツ帝国は開始時点で借金もちの上に政治は腐敗まみれで、目の前に絶好調のオスマンがいるという絶望的な状況だ。

さらに本作には、各国に固有の歴史イベントが多数用意されている。たとえばブランデンブルクには61個の固有イベントがあり、当時の支配者であるヴィッテルスバッハ家のやる気のない統治と、荒れ果てた領地という問題に対処することになる。イベントの流れによって改革をおこなったり、あるいは史実通りホーエンツォレルン家を新たな統治者として招いたりするのだ。もちろんプロイセンになることも可能であり、歴史世界に存分に浸ることができる。

さすがにマイナーな極小国家には固有イベントがないこともあるが、ある程度以上の大きさの国には50から200ほどのイベントが用意されており、固有のコンテンツを楽しめる。さらに今後、各国にフォーカスしたアップデートやDLCの配信が予告されている。現時点でも底知れないボリュームだが、未来の可能性はさらに無尽蔵である。

唯一無二の超大作

あらためて筆者の所感を述べると、本作は複雑で巨大なゲームだ。それは現実の世界が複雑で巨大だからである。本作は現実の歴史の複雑さを正面から描いた作品なのだ。無限の奥行きをもつ世界史という“原作”に、真っ向から向き合った作品ともいえる。

普通なら省略するところも徹底的に描き、圧倒的なボリュームによってゲームの中に生きた世界を作り上げる。その試みは、オープンワールドの超大作ゲームを思わせる。オープンワールドゲームが描いているのがリアルな街並みなら、本作が描くリアルは政治や経済だ。『EU5』はストラテジーゲーム界に燦然と登場した、唯一無二の超大作であると感じている。

そして壮大さが『EU5』のひとつの特徴だとすれば、もうひとつの大きな特徴は自動化システムの存在だ。本作の自動化はオプションというより、ゲームの基本機能であり、コアのひとつ。プレイヤーがすべてを人力で管理するには広大すぎる世界を用意しつつ、ゲームとして成立させている手段なのである。

プレイの始めは要素の豊富さに圧倒され、大半を自動化することになるかもしれない。しかしそれでも操作しているうちに、どこをいじるとどこがどう変化するのか、体で分かるようになっていく。システムの理解度が深まると、少しずつ国を思い通りに動かせるようになる。そして、分からないから自動化するのではなく、任せたい部分を能動的に自動化し、重要な部分に注力していくようになる。選択と集中というストラテジーゲームの根幹的な要素のひとつは、本作では自動化を任せる分野という面でも表現されている。

デフォルメせずに見たままの現実を描くというスタンスは、本作の開始年代となるルネサンスの芸術そのものだ。『EU5』はストラテジーゲームの雄、Paradoxによるルネサンスの試みであり、その結果生み出された巨大なリヴァイアサンなのだ。近世という時代や、グランドストラテジーゲームに興味があるなら、ぜひとも『EU5』に触れてみてほしい。こんな作品が現実に生み出されたという事実に、きっと感嘆するはずだ。

『Europa Universalis V』はPC(Steam)向けに配信中だ。ゲーム内は日本語表示に対応している。

Akihiro Sakurai
Akihiro Sakurai

気になったゲームは色々遊びますが、放っておくと延々とストラテジーゲームをやっています。でも一番好きなのはテンポの速い3Dアクションです

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