ハードコアゲーム好きの私が『アークナイツ』にハマった理由。手軽さを捨て、暴力的な熱量のコンテンツに心地よく浸れるスマートフォンゲーム

私は最近『アークナイツ』というゲームにハマっている。だが悲しいかな、自分の周りで遊んでいる人がおらず、好き語りができない。だからここで発散する。本稿はそういう趣旨の記事である。

私は最近『アークナイツ』というゲームにハマっている。セールスランキングでトップをたびたび獲っている人気タワーディフェンスゲームであり、お膝元である中国では自国の宇宙開発企業などとコラボを展開するほどの知名度を誇る作品でもある。だが悲しいかな、自分の周りで遊んでいる人がおらず、好き語りができない。だからここで発散する。本稿はそういう趣旨の記事である。

『アークナイツ』はスマートフォンに対応した、運営型タワーディフェンスゲームである。プレイヤーは製薬会社「ロドス」における指揮官「ドクター」として、仲間と共に大陸テラに蔓延る不治の伝染病「源石病」とその感染者にまつわる問題を解決するため立ち向かう。開発はHyperGryphが担当している。本作は中国にて先行展開されているバージョンと、それを後からローカライズしてグローバル展開しているバージョンが存在しており、後者の運営をYostarが担当している。なお、本作のメインストーリーを描いたアニメーション作品のシーズン1が既に各OTTサービスにて配信されているほか、シーズン2の配信と地上波放送が決定している。

手軽ではないことに個性を見出したスマホゲー


私が『アークナイツ』にドハマリした理由は、本作の特徴である「手軽ではない」ことを個性としたゲームデザインにある。当時の私はキーボードの叩きすぎ、マウスの動かしすぎ、ゲームパッドを操作しすぎ……要するにゲームの遊び過ぎで腕を怪我しており、長時間コントローラーを握ることが難しい状態に陥っていた。しかしながら自身のサガとして、どうしようもなく肉体がゲーム体験を求めて止まない。ならば腕への負担が少ないスマートフォン対応した運営型のゲームを、治療が一段落するまで遊ぼうと思ったのだが、多くの作品は「体験の手軽さ」を売りにしていることが多く、「重さと濃さ」を重視する自分の好みに合致した作品を見つけられずにいた。

ゲームデベロッパーがスマートフォンに対応した運営型ゲームを作る理由には「ゲームを遊ぶ文化のない地域に生活必需品(スマートフォン)を通してコンテンツを持ち込む」「基本プレイ無料のビジネスモデルを採用することにより継続的な収益を上げるだけでなく、関税などの理由によって、ゲームは正規品より海賊版の方が格安という状況に対抗する」などさまざまな事情が存在するが、典型的な内容としては日頃操作することの多いスマートフォンにゲームを導入することで「ユーザーの可処分時間を確保しやすい=手軽に遊んでもらう」といった理由が挙げられるだろう。さらに言うと、昨今のスマートフォン対応ゲームはそもそも操作しない時間にゲームを進行することで可処分時間の奪い合いを避け、さらに手軽な方向にデザインを設定する、「放置型」の仕組みを取り入れた作品が増えている傾向にある。


そんな中、ふと私は『アークナイツ』のアカウントを作るだけ作って放置していたことを思い出した。アニメ化作品のシーズン1をイッキ見して世界観を把握し、ゲームに触れてみたところ、『アークナイツ』は上記の潮流と真逆の道を征く作品であった。ゲームを遊ぶにあたって、システムの理解に対する努力を強く要求し、1プレイに1時間近くかかるコンテンツを数多く擁している。作品を牽引するストーリーに関しては膨大な文章量はさることながら、内容を噛み砕き消化するに当たって複雑怪奇な背景設定の把握だけでなく、世界史の理解や多様な文化への素養を要する。

4年前(グローバル版は3年半前)にサービスを開始したことを踏まえても、この「開発陣のこだわり溢れるコンテンツでプレイヤーをぶん殴ってくる」ような、極めてエゴイスティックな本作の姿勢は異端であり、同時に魅力的なものとして私の目に写った。「おう、存分に迎え撃ってやる。掛かってこい」という気持ちにさせてくれた。『アークナイツ』は間違いなく人を選ぶ作品である。だが、作り手の好きが詰まった本当に素晴らしいゲームでもあるのだ。

プレイヤーの個性を尊重するタワーディフェンス


『アークナイツ』の素晴らしい点を挙げるうえで、まず言及しなければいけないのは、ゲームの難易度調整が非常に上手いという点だろう。本作はマップに複数のユニットを配置し、キルゾーンを形成して敵の侵攻を阻むタワーディフェンスゲームであるが、プレイヤーの攻略を妨害するステージのギミックに関して、凝った内容は比較的少ない。敵の進行ルートは素直であり、ステージの構造を見ただけである程度予想がつくようになっている。

一方で、ゲームに実装されているユニットたちの能力はどれをとっても非常に個性的だ。本作はユニットが持つ役割の方向性を「職業」という8つの大きなロールを設けることで明確化し、そこから更に「職分」という形でロールカテゴリを細分化することにより、個々の能力に関して一層の差別化を促している。結果、『アークナイツ』には現在60のロールが存在し、60のロールそれぞれにさまざまなユニットが独自の個性を伴って当てはめられている。

これが何を意味するのかと言うと、ユニットの所持状況に応じたプレイヤー個々人の体験の変化であり、プレイヤーひとりひとりが持つプレイスタイルの尊重に繋がっている。シンプルなステージ構造ゆえに「特定のユニット」がいないとクリアできないという状況が極めて発生しにくく、ゆえに直感的に分かるステージの攻略法に対して、所持しているユニットの個性をいかに当てはめていくかという図式が成立する。タワーディフェンスに限らず、戦争シミュレーションとRPG要素を組み合わせた作品は少なからずこの傾向にあるが、キャラクターを販売して利益を得るガチャシステムを搭載した作品で、この図式を長期成立させている作品は珍しい。基本的に販売されるキャラクターは購買意欲を掻き立てるため性能がインフレーションしていく傾向にあり、既存キャラクターが持つ性能の上位互換になってしまう場合もある。これに合わせてゲームに追加されるコンテンツ難易度も高まっていく。そして型落ち扱いとなり使われなくなるキャラクターが登場してしまう。


しかし『アークナイツ』ではサービス初期に実装されたキャラクターが現在でも一線級の活躍を見せているだけでなく、いわゆる「チュートリアル」として育成する必要のある低レアリティのユニットたちにも、エンドコンテンツにおいて明確な使用機会が与えられる。積み重ねた時間が決して無駄にならず、好きなユニットを好きなように使ってゲームを攻略していくことが明確に認められている。そしてこれはゲーム内容が簡単であるという状態とイコールではない。本作はキャラクターを販売して利益を得ているゲームでありながら、ゲームの巧拙に関してプレイスキルの比重がかなり大きい。いくら高レアリティでメンバー揃えていても、ユニットの性能が軒並み個性的である都合上、考えなしで配置を行っていてはステージクリアをしづらい。

一方、十分にユニットの育成が済んだ状態であるならば、ゲームの仕様を理解し、適切な配置を行うことで、低レアリティメインでの攻略や、特定のロールのみでの攻略、少人数から単騎での攻略も可能になっている。


この「好きなユニットで遊べるデザイン」に合わせて、『アークナイツ』の特徴的なエンドコンテンツについても触れておきたい。本作はいわゆる「スタミナ制」を採用した育成ゲームであるが、エンドコンテンツはスタミナの消費を必要とせず、時間と気力の許す限りプレイヤーが自主的にクリア難易度を上げていく、自己満足を追求する内容になっている。高難易度ステージを縛りプレイで遊ぶ「危機契約」や、育てたユニットたちをある程度ランダムでピックアップし、運と工夫で長大なダンジョンを攻略していくローグライトモード「統合戦略」は本作を象徴するコンテンツである。両者ともにデフォルトで難易度を上げるシステムが搭載されており、高い難易度でしか得られない限定アイテムなどの報酬は存在しない。

丹精込めて磨き上げたユニットを使い、磨いた時間以上の気力を込めてコンテンツをクリアしていく快感と満足感は、ユニットを相棒に変え、彼らに単なる愛着以上の感情を乗せてくれる。このゲームにリソースをかけて良かったなと思わせてくれる。自主的に難易度を上げていくシステムは自らとの対戦という意味で、遊びを遊びと侮り消費せず、真剣に取り組む姿勢を思い起こさせてくれる。大人になってからというもの、損得抜きで何かに対し意地を張るという機会は、こういう場合にしか得られない。

「好きなユニットで遊べるデザイン」や「自己満足を追求するエンドコンテンツ」の存在からして、本作は遊びが持つ面白さの発生を、プレイヤーによる能動的な姿勢に依存していることが分かる。時間をかけて遊びに真剣に取り組むプレイヤーの個性、姿勢を尊重してくれる。ゲーマー層の拡大に伴い、巨額を投じグローバルに展開する作品に一貫性のあるデザインを持たせることが難しい印象を受ける昨今において、極めてゲームらしいデザインを採用したスマートフォンゲームが人気を得ていることは驚異的であると同時に、私のような手軽な形で、手軽ではないゲームを求めている人間にとっては福音でもある。

いまもなお海賊版文化が根強い中国だからこそ生まれた「海賊版より安く、正規品で遊びごたえのある作品が欲しい」需要のもと成立した作品なのだろうが、個人的にはさらにこのデザインを採用する作品が増えて欲しいと願うばかりだ。


ちなみに、本作のガチャをはじめとする集金システムはユニークであり、筆者としてはリーズナブルであると認識している。既に一般的になったが、月額制に近いモデルを採用しており、ガチャは50回以上回した際に発生する疑似天井と疑似天井引き継ぎを導入している。(限定ガチャはこれに合わせて300回天井、コラボイベントガチャの際は120回天井がある)ガチャを回すとトークンを入手し、引き換えることで最高レアリティのユニットが手に入るほか、最大38回分の無償ガチャ権が手に入る。ちなみに10連ガチャは2000円であり、別途存在する無料ガチャからも最高レアユニットは排出される。これらの仕様によって、狙い撃ちさえしなければ最高レアを少ない金額で手に入れること自体は難しくない。

さらに上記の「好きなユニットで遊べるデザイン」「自己満足を追求するエンドコンテンツ」によって、ある程度ユニットが揃うと、そもそもガチャを回す理由が「体験の変化が欲しい」以外になくなってくる。ゆえにプレイヤーは育成の時短を行うため、スタミナ制による行動制限緩和を行うために金を払うのだと考えるのだが、これも月額の支払いにより得られるリソースで十分である。月額650〜3250円ほど払えば快適にゲームをプレイできる。言ってしまえば本作は課金の訴求力が低いのだ。

しかし何故か私は、最近行われた3.5周年イベント限定ガチャにおいて天井を叩いてしまった。前回の限定ガチャでもそうである。なんならコーデ(ユニットの着せ替え)も買っている。この理由には、『アークナイツ』にて語られる物語の魅力が関係している。

読み応え抜群な物語


私が『アークナイツ』というコンテンツに惚れている理由を語るにあたって欠かせないのは、現実にも通ずる社会問題、遠大な歴史、そして時空を超えるSFとメタフィクションが縦横無尽に交差して紡がれる本作の物語だ。不治の伝染病と人間の尊厳、停滞した社会とテロリズムをめぐり、残酷な世界の中、我々と同じように「いずれ死ぬ」ことが明確化されているキャラクターたちによって高らかに謳われる人間讃歌は、どうしようもない現実に生きる私達へ希望と勇気を与えてくれる。そして、私達が真に手を差し伸べなければならないのは、「思わず助けたくなる」「可愛そうな」人たちではなく、「救いようのない」「恩を仇で返すような」人たちなのだという残酷なメッセージを突きつける。悪人は悪人の顔をしておらず、世界は一つにならない。戦争をはじめとして人間の生と死は世界にひたすら消費されていく。

こうした強い主張を単なる説教で終わらせずに、モブを含めたすべてのキャラクターに種族と出身国=現実の歴史を象徴するモチーフを徹底的に散りばめることにより「実際にあった出来事、実際に起こりうる出来事」としてリアリティを高め、共感を煽る工夫が素晴らしい。本作に登場する架空国家群には現実をベースにした歴史がそれぞれ存在し、文化や風俗といった設定も練り込まれている。キャラクターにリアリティあるバックボーンを持たせることで、画面の中で会話している事自体に強く複雑な、そして私達の世界と地続きであることを感じさせる意味を持たせているのだ。


この仕様に合わせて、アートワークやBGMにも現実のモチーフ導入は徹底されている。
たとえば、狼人のマフィアたちが実効支配する架空国家「シラクーザ」(シラクーザという名前の都市はイタリアに実在しており、ローマ神話と狼には繋がりがある)を舞台とする物語イベントでは、傑作マフィア映画をイメージするアートワークが採用されているほか、ボス戦時にキング・クリムゾンの「21世紀のスキッツォイドマン」をオマージュする楽曲が流れる。果てはCVにイタリア語が実装された。違うところでは、イベントPVのナレーションにモチーフ国家の母国語を使用したり、いわゆるキャラクターソングに所属国家の文脈が入っていたりする。最近実装された「焔影リード」というユニットはヴィクトリア……イギリスをモチーフとした国家内における、被差別民族の復権を目指すキャラクターであり、彼女のキャラソンにはイースター蜂起に関する楽曲「フォギー・デュー」をイメージさせる旋律が組み込まれている。

そしてこれらの工夫はSFを演出する上でも効果的である。本作はポストアポカリプス作品の側面をもっており、現実のモチーフを導入すればするほど「人は過ちを繰り返すのか」というメッセージ性を強固にしている。制作陣が込めたこだわりは、さまざまなキャラクターたちの交わりを通して、身近な社会問題から遠大な歴史ロマン、武侠小説から神話の戦いまで、心に残るバリエーション豊かな物語体験を提供することを可能にしている。定期的に開催されるストーリーイベントとメインストーリーが密接に関係しているのも本作の物語における特徴であり、膨大な文章を読めば読むほど相乗効果が発揮され、方方で深いカタルシスを得ることができる。時間をかけて長い文章を読む姿勢を尊重するこのエゴイスティックなデザインは、まったく持って時代にそぐわないものではあるが、本作を象徴するデザインでもある。


キャラクター同士の関係性が織りなす物語だけでなく、キャラクター自体もまた魅力的である。本作には獣人、魚人、鳥人、天使、悪魔、エルフ、ドラゴン、鬼、妖怪などさまざまな生き物をモチーフにした魅力的なビジュアルとバックボーンを持つ亜人が登場するが、個人的に特筆すべきは魅力的な年長者の多さだろう。本作はキャラクターを中心としたゲームには珍しく、登場するキャラクターの年齢層が男女ともに幅広い。中年の男女が画面を埋めているシーンが多発することもある。そして年を重ねた人物ほど男女ともに戦闘能力が高く、物腰もスマートでかっこいい。

「規格外の実力を持つ剣客でありながらうだつの上がらないサラリーマン」というキャラクターが居れば、「出会った際、下手に動けば惨殺されると直感させる、マフィアを力で束ねた麗しいマダム」という女傑もいる。直近のイベントで登場した武術の達人は、実のところ人間好きだが種の違いによって決して交わることのできない神のような存在であった。ちなみに筆者の好きなキャラクターは「ケルシー」という人物である。歳を重ねるほど憂いと哀愁、実力と度量を備えたキャラクターに魅力を覚えるようになったが、アークナイツはそんな私の需要を満たしてくれている。あなたの「推し」もきっと見つかるはずだ。

『アークナイツ』は物語表現を行うにあたり、楽曲に凄まじく力を入れている作品であることも言及しておかねばならない。開発会社が「MONSTER SIREN RECORD」という自社レーベルを擁し、1キャラクターをイメージした楽曲が2021年のHMMA賞にノミネートしているという事実だけでも、そのこだわりは推して知るべしだが、驚異的なのは楽曲バリエーションの豊かさである。本作にはEDM、ダブステップ、シティ・ポップ、アイドルソング、ジャズ、K-POP、ハードロック、ポストロック、プログレッシブロック、民族音楽、バラード、ゴシックメタルなどの楽曲が、豪華アーティストたちの協力のもとBGMやキャラクターをイメージする音楽として用意されている。ゲーム中の楽曲に力を入れるメーカーは数あれど、この豊かさは表現対象が多様かつ奥行きのある世界を内包していること、これからもそれを表現していくという姿勢の証明であると言える。


本作の魅力は、当然これだけで収まるものではない。コンテンツにハマった様子を形容するに当たって「底なし沼に沈む」という言葉があるが、本作の姿は沼なんて生易しいものではなく、絶えず湧き出す煮えたぎったマグマのようだ。コンテンツが持つ暴力的な熱量に対し備えもせず火口に飛び込むようなものなら、途端に焼き尽くされてしまうだろう。しかしながら、私にとっては存外心地よい暖かさでもある。ずっと浸っていたいとさえ思ってしまう。『アークナイツ』はこれから、大陸版は4.5周年。グローバル版は4周年へと突き進んでいく。明日を目指す船旅に、いつまでも幸多からんことを。1プレイヤーとして、HyperGryphとYostarを私は応援しています。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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