今こそ『ハースストーン』をプレイしないか?世界で一億人が遊ぶカードゲームの素晴らしさを伝えたい

『ハースストーン』の国内競技シーンのレベルは7年にわたる歴史の中で、間違いなく最高といっていいほどの段階に達している。本稿は『ハースストーン』4年目に突入したプレイヤーによるプレゼン記事である。

「どうして『ハースストーン』は日本で話題にならないんだろう」。公式大会の中継を楽しみながら、漠然と私は考えていた。 

今年、2021年。『ハースストーン』の国内競技シーンのレベルは7年にわたる歴史の中で、間違いなく最高といっていいほどの段階に達している。昨年はKenta “glory” Sato選手が世界最高峰トーナメント「2020年ハースストーン世界選手権」にて優勝し、賞金約2000万円を獲得した。今年はその出場権をめぐる公式リーグ「グランドマスターズ:アジア太平洋部門」全16名のメンバーのうち5人が日本人である。加えてPosesi( Wataru Ishibashi )選手がすでに世界選手権への出場権を獲得しているという状況だ。これは日本におけるeスポーツの歴史というスケールから鑑みても、とんでもない状況にあるといえよう。だが5人全員どのeスポーツチームにも加入していないばかりか、『ハースストーン』それ自体の国内認知度が低い。これはなぜか。 

Blizzard Entertainmentのプロモーション不足に原因があるというのは当然明白である。 今もなお「フリー素材」の融合体を広告映像として用い、著名人起用の紹介動画を配信しても、一度アップロードしただけで、それを活動として継続していない。ゲームの最新情報を届けるためにおこなうSNSの更新も本家より随分と遅い。 

ただこれが原因だとしても、運営を全面的に非難すべきであるとは決していえないのがこの問題の難しいところだ。そもそも『ハースストーン』はビジネスであり、企業がお金を儲けるための手段である。儲かるからプロモーションをおこなうのであって、現状運営側がこのような態度を取っているのは、端的に「日本は大して儲からない地域だ」と認識されているからに他ならない。むしろそんな日本に対して、アップデートの度にフルローカライズを用意し続けているのが驚異的である。 

つまりハースストーンの国内認知度を上げるには、ゲームサービスとしての寿命を伸ばすには、状況関係なく遊び続けているプレイヤー側が率先して動き、運営の認識を改めさせるほどのムーブメントを起こし続けなければならない。「海外産のマイナーゲーム」にも関わらず遊び続ける情熱を、そのぬくもりを知らない人たちに届けなければならないのだ。それが思い出話になってからでは遅いのである(直近の成功例として有名なのは日本で特異な人気を誇るFPS『Apex Legends』だ。コミュニティの熱量ある活動によって、運営が日本向けのプロモーションを展開するようになった)。 

前置きが長くなってしまったが、本稿は『ハースストーン』4年目に突入したプレイヤーによるプレゼン記事である。『ハースストーン』を好きだから。ただその動機で筆をとった。 
 

ハースストーンとは 

 
『ハースストーン』はBlizzard Entertainmentが開発および運営するデジタルカードゲームだ。同社が発売した『ウォークラフト』シリーズの世界観をベースにしていることや、カードがデジタルであることを活かしたゲームシステムなどに特徴がある。本作には多様なゲームモードが用意されているが、今回はカードを集めてデッキを作り、戦わせるモード、俗に言う「構築戦」。その中でももっともベーシックな、「スタンダード」フォーマットに関連する情報を紹介していく。 
 

非常にとっつきやすいルールと、それを可能にしたUI 

 
これは個人的に思うところだが、『ハースストーン』ほどルールを理解することが簡単なカードゲームはないと思っている。 

構築戦のルールは「お互いに30枚のカードでできたデッキを用意。ミニオンを場に出して攻撃する、呪文を唱えるなどして、相手のライフ30点を0まで削りきれば勝利」である。コレ自体は数多くのカードゲームにさまざまな形で採用されてきたものであり、なんの変哲もない。 

だがUIの力によって、プレイヤーはルールを簡単に把握できるだけでなく、目標の達成に集中できる。画面中央には壁のようにミニオンが並び、それを乗り超えるように上下にはプレイヤーのアイコンとライフ、手札が表示される。両脇には小さく行動履歴とお互いの残り山札。制限時間は導火線で表現する。たったこれだけしか情報がないため、思考が混乱せず非常に遊びやすい。また、『ハースストーン』にはこれまでさまざまな効果をもったカードが登場してきたものの、すべてこのUIを損なうことがなかった。新しいカード置き場が生まれるなどして、画面が渋滞することは一切なかったのだ。 

一方で本作の興味深いところは、相手のターン中、プレイヤーのカーソル操作をUI上に可視化しているという点だ。ゲームに慣れてくると、この操作を見て相手の思考がある程度予想できるようになってくる。「この状況で2枚のうちどちらか迷っているということは、すなわち同じような効果をもったカードが2枚、手札に入っている」「今まで一切触れていないあのカードは切り札なのだろう」などなど、ルールや画面を複雑化させずにゲームに段階的な奥行きをもたらす秀逸な工夫である。 
 

華やかなランダム要素 

 
『ハースストーン』最大の特徴といえば、華やかに「視覚化」されたランダム性である。画面の中ではどこに飛ぶかも分からない、輝く魔法弾や灼熱の火球が乱舞し、魚の化け物が美味そうな手札をパクリと食べる。中にはカードを創造するものや、山札の中身をすべて最高レアリティのカードに書き換えるものもある。いきなり目の前に巨大なルーレットが出現し回り始めるカードゲームなんて『ハースストーン』くらいだろう。 

これは体験を拡充すると共に、興行性の確保にも貢献している。ボードゲームの類はルールを知らなければ何をやっているのか分からず、結果として新規参入者が興味をもてないということに繋がりやすい。またショーとして盛り上がるべき瞬間もわかりにくい。だが『ハースストーン』の場合は違う。派手なエフェクトも相まって勘所が明確であり、まったく知らない人に見せても面白い……とまではいかないが、少なくとも初心者の時点で試合観戦を楽しめる。 

例えば「2019年ハースストーン世界選手権」の決勝、その最終戦。Hunterace選手 vs Viper選手の試合。的確なカウンターを主戦法とするHunterace選手によって追い込まれたViper選手は奥の手を発動した。デッキの中身をすべてランダムなカードに書き換えたのだ。よりにもよって世界一が決まる戦いで。その結果、Viper選手がカードを引く度に会場は歓声の渦に包まれることになった(試合自体は切り札不在で“ランダムの波”を完全に捌き切ったHunterace選手が勝利。世界一の称号を手にした)。 

ただここまで聞くと技術を戦わせる「競技」として成立するのか、遊んで楽しめるのかという疑問が湧くことだろう。TCGにおけるランダム性の是非に関しては本作の元になったMtGの公式コラムに詳しいが、『ハースストーン』の場合は、毎ターンプレイヤーがとれる行動の幅が確実に増える、制限時間内の選択肢をとにかく増やすという点でプレイヤーの技術面を強調している。豊富なランダム要素によって生まれる不規則な選択肢はプレイヤーを思考の迷宮にいざない、能力を問う。 

例を挙げると現行の最強デッキは最初から山札にないカードをランダムで際限なく作り出すことで生まれる、万能の対応力を持ち味にしているが、最強にも関わらず全体の使用率は高くない。これが何故かといえば、無限に生まれるカードをすべて100%活かせる能力があってはじめて使用できるデッキだからである。「カードゲームは運ゲー」といわれるが、運で勝つには自分がラッキーであるか判断できる技術力が必要であり、見て楽しい豊富なランダム要素に彩られた『ハースストーン』もまた、高い技量が問われる奥深いゲームなのである。 
 

あったかい日本コミュニティ 

 
世界中にプレイヤーが存在する『ハースストーン』のゲームシーン。その中でも日本はプレイヤー間の活動が盛んな国としても知られている。「炉端の集い」というBlizzard公式が提供するファンイベントが全国津々浦々で開催されていることをはじめ、コロナウイルスによってオフラインの活動に制限がある現在でも、『ハースストーン』イベント企画チームBeerBrickを筆頭に、プレイヤーたちが自主的に大会を開き、腕を高め合い、情報を集積し続けている。中には「アレク杯」や「ダリル杯」(これはバトルグラウンドの大会)など定期開催されている大会もある。本作はいわゆる「洋ゲー」であり、攻略の最新情報を調べるには海外のサイトや海外プレイヤーの配信を中心に巡る必要が出てくる。しかしメタレポートではなくデッキのプレイガイドなど、プレイヤーに寄り添った情報に関しては日本のプレイヤーたちが自ら発信しており、国内でも充実している印象を受ける。 

もし、「『ハースストーン』の腕前を上げたい」「『ハースストーン』を通じて、ゲームイベントを開催したい」という場合は、臆せずコミュニティに飛び込んでほしい。酒場のベテランオヤジ達が快くリードしてくれるはずだ。 
 

低くなっていく課金圧力 

 
TCGと定期的な課金は切っても切れない関係にあり、『ハースストーン』もまた基本無料を謳ってはいるが、ゲームを隅々まで遊ぶには課金が必要なゲームだ(余ったカード数枚を別なカードに変換できるシステムや、ゲーム内通貨の概念があるものの、収集効率や精神衛生から考えれば課金したほうが良い。ちなみに課金限定のカードは存在しない)。これはPay to Winであるというより、それ以前の段階、野球をするにあたって、バットやグローブ、ボールを買う行為に近い。同時に昨今の運営型ゲームにおけるトレンド(体験の核に無料で即座に到達できる)にはそぐわないデザインでもある。 

そこで本作は数年前から運営方針を転換し、プレイヤーの課金圧力を低くする方法を採用し始めている。具体的には「コアセット」「報酬レーン」の登場、「重複入手」の消滅、「初心者ランク」実装と「無料デッキ」の配布である。 

まずは「コアセット」と「報酬レーン」の登場に関してだが、前者は簡単にいうと毎年一定枚数のカードが無料で配られるというものだ。今年は235枚だった。すべて手に入れるにはゲームを継続的に遊ぶ必要があるが、1年中活用できる大量のカードが無料で手に入る。後者はいわゆる「バトルパス」システムであり、継続的に遊び続けることでカードパックやゲーム内通貨などの報酬が手に入る。課金することで進行速度が高まるほか、着せ替えなどの報酬を追加で入手できるようになる。 

「重複入手」の消滅に関しては、すでに2枚同じカードを所持している場合、パックを剥いても追加で出現することがなくなった(同レアリティのカードをすべて入手している場合は出現する)。これによってカードを集めるために必要な課金額が格段に減少することになった。 

「初心者ランク」と「無料デッキ」については、新規参入者及び復帰プレイヤー向けのランクがあらかじめ用意されており、それを卒業すると、その後の本格的なランク戦でも戦えるデッキが無料で手に入るという仕組みになっている。なお、初心者ランクは一定のランクへ到達するごとに数パックずつ入手することができる。このほか、月初に渡されるランク戦の報酬が大幅に増加した。 

なるほど。よく分かった。で、いくらかかるんだ? 4か月ごとに新しいカードが「拡張パック」として発売される本作。筆者の体感からすると、一番効率的な課金の方法は、新拡張の予約販売である「メガ・バンドル」(1万円)+「報酬レーンの有料アップグレード」(前回の販売時は2440円)。約1万2500円を4か月に一回払い、遊び続けていれば、少なくとも最新の拡張で登場するカードはすべて揃えることができるだろう。次の拡張が発売するときに、数十パック分購入できるゲーム内通貨をもち越すことも可能なはずだ。これを繰り返していると、最終的に「メガ・バンドル」ですら購入する必要性が薄れてくる。初期投資をしっかりしていれば、課金する必要性は次第に低くなっていくようできている。仮に最新拡張以外のカードが欲しいという場合は、必要に応じて先述した変換システムを活用するなり、ときおり販売される、課金効率の良いバンドルを購入すると良いだろう。 

本作は使用可能なカードに制限をかける「フォーマット制」を採用しており、なかでも花形種目にあたる「スタンダード」フォーマットは毎年無料で配られるコアセットと、直近2年以内に発売されたカードしか使用できない。その都合上、課金をするならば、可能な限りその年に発売されたカードたちを対象におこなっていきたいところだ(2年経ったあとのカードたちは上記の変換システムに使う、「スタンダード」以外のフォーマットに用いるなどの用途がある)。 
 

 
『ハースストーン』は「ルールが理解しやすくて」「ランダム性が面白くて」「コミュニティ活動が充実している」「お金がかかりにくいカードゲーム」であることが分かっていただけただろうか。これを機に『ハースストーン』に興味を持ったという方はぜひ臆することなく酒場の門を叩いてほしい。ただ中には、いつまで続けるかわからないゲームにお金を注ぎ込むのは少し抵抗がある、という方がいるかもしれない。であれば、完成度の高さで知られるオートバトルゲーム「バトルグラウンド」や今後実装予定である「マーセナリーズ」をオススメ……おっと時間が来たようだ。ほかのゲームモードについては機会があれば紹介しよう。 

始まりがあるものは、何事も終わりがある。それを止めることは誰も出来ない。ただそうした道理に対して祈り、願い、それを表明することは決して無駄ではないと思っている。終わりまでを引き伸ばすのか、新しいものを生むのか、どのような形であれ、集まった好きという感情は人を動かすものだ。今回私は『ハースストーン』という自らの「好き」を表明したわけだが、コンテンツでも、ペットでも、恋人でも家族でも、好きな対象には「私はあなたを愛している」とぜひ伝え続けてほしい。愛は形にしなければ伝わらないし、愛は消えない。 

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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