インディーパブリッシャーPLAYISMが振り返る2020年。“飛躍の年”となった理由と、いまもっとも悩ましい課題
※ 編集部註記
弊社アクティブゲーミングメディアはPLAYISMというブランド名でパブリッシング事業を営んでいる。事業を統括するのは、同パブリッシャーの立ち上げ人でもある水谷俊次。コロナ禍の影響を受けたゲーム業界にて、インディーパブリッシャーはどのような一年を過ごしたか。自身にその思いの丈を語ってもらう。
「2020年は、PLAYISMにとって飛躍の年になります」
今年の初頭、とあるメディアインタビューでそのように答えたが、確信は何もなかった。インディーパブリッシャーの予定というのはあまりにもろい。大抵のタイトルは予定より延期するし、そもそもそれぞれのゲームがヒットするかしないかもわからないのだから、飛躍するかどうかはその時になってみないとわからないのだ。しかし、その時のインタビュアーさんがどうも「飛躍の年だと言ってほしそう」な雰囲気で、確かに「2020年どうなるかわからないです」と言われても記事にならないだろうし、“苦し紛れ”に飛躍の年だと答えたのだった。
「そんなこと言うなんて珍しいですね、期待してます」
インタビューが終わってからそう言われたが、「言ってほしそうだったから言った」とはちょっと言いにくかった。
ところが2020年。我々は売上でいうと、前年比倍近くの成長を遂げ、実際に飛躍の年となった。口にしてみるものだなと思った。もちろん、我々は毎年違うものを販売しているし、言い方は悪いが当たりはずれの大きいインディーゲームを取り扱っている以上、数字が我々の結果のすべてではもちろんない。ただ、落ち込むことなく成長できたのは事実だ。本記事では、その要因をいくつかまとめてみたいと思う。
ゲームイベントをオンラインイベントへ集中
ゲームの宣伝において、イベント出展は重要な位置を占める。占めるのだが、オフラインイベント出展の有用性とは、そう単純な話ではない。たとえば、試遊台2台を置くとする。8時間のイベントで1人10分遊ぶとすれば、96人の方に実際にさわってもらう機会を創出するに過ぎない。試遊台を倍にしても200人にも届かない。さらには、そのうちの何%が購入するのか。Twitterでツイートすれば、実況してもらえば、その何倍の人に届くか。ならばと試遊台を増やせば、コストもどんどん膨れ上がる……。要は、イベント出展は費用対効果がすさまじく悪い。これはコロナ前からずっと抱えていた問題だ。
もちろん、出展の効果は遊んでもらうだけではない。遊ばないにせよ、来場者はほぼ間違いなくゲーム好きであり、その人の目に止めるだけでも大きな価値がある。また、メディアに記事にしてもらえることもある。出展ブースに工夫があれば、写真を撮ってSNSで拡散しもらうことも期待できよう。また何より、イベント会場にはデベロッパーもディストリビューターもプラットフォーマーもいる。それを加味したうえで、遊ぶ人数が少なかろうとそもそも立派なブースを持つというのは、商売上きわめて重要なファクターである。つまり、イベント出展というのはユーザー向けのようで、その半分はビジネス向け施策である。
そのため、ゲームを宣伝することに限ってのイベント出展というのは長らく懐疑的であった。宣伝するためならもっといい方法がいくらでもあるのでは……?そのような理由で、「本当にお客さんにゲームを知ってもらうためのイベントって何がいいんだろう?」というのはずっと考えていた。いろいろ勉強する中で、『Fate/Grand Order(以下、FGO)』の生放送とかを調べたりもしていた。そこに今年襲い掛かったのが新型コロナウイルスである。年明けまでは我々も他人事なところがあったが、あっという間に3月にスケジュールしていたPAX East、GDCがキャンセルとなり、それどころではない状態となった。それどころか、その後緊急事態宣言が発効され、仕事をすることさえままならなくなり、世界中が大変なことになった。
その折、「コロナがムカつくので、インディーゲームのために何かしたい」と、『ロードス島戦記ーディードリット・イン・ワンダーラビリンスー』などでタッグを組ませていただいているワイソーシリアス代表の斎藤大地氏が、ゲームの生放送を中心としたプロモーションで知られるリュウズオフィス代表の 小沼竜太氏を連れてやってきた。この小沼氏こそがまさしく『FGO』の生放送の仕掛け人であった。
聞けばインディーゲームの生放送イベントを大々的にやりたい、実働はリュウズオフィスがするし、斎藤氏がスポンサーになるという。とにかく実務はやるので、PLAYISMにはインディーゲームの誘致や各所とのコネクションについて全面的な協力をいただきたいということで、オフラインイベントの代替として、本当に生放送は機能するのかの確認の下心も含めて、6月に開催されたIndie Live Expoに協力させていただくことにした。
小沼氏は最低100万再生は必ず約束すると最初から仰っていて、「いや、100万は無理やろ……」とずっと思っていたのだが、ふたを開けてみれば700万再生以上を記録し、すさまじい宣伝効果を叩き出した。なんとその放送で取り上げられた100近くのタイトルほとんどに、売上、ウィッシュリストに変化が見られたという(悲しい事実だが、オフラインイベントに出展して、その日即座に売上がアップするということはほぼない)。また、何より驚いたのは、みんなで新作PVを見るという体験は結構楽しく、オンラインでもイベントならではの熱量が確かに感じられたことだった。
これはいけると思い、まだ皆がこのコロナ禍でどうしようと右往左往しているうちにとっとと突っ切ってしまおうと小沼氏に改めて相談をさせて頂き、9月に自前でPlayism Game Showという生放送イベントを実施。これも全世界で110万再生を越える結果となった。この辺りの変わり身の早さが、今年は上手く機能したように思う。
今後、このコロナ禍が収まっても、オンラインイベントは残るだろう。これからはオンラインとオフラインのイベントをどのように併用し、有効活用していくかが宣伝の鍵となると考えている。
次世代機 Xbox Series X|S、PS5でのリリース
今年は次世代機発売の年でもあった。幸運なことに、我々のところにはXbox Series X|Sで『Bright Memory』を、PS5で『Godfall』をそれぞれのローンチタイトルとしてリリースする話が舞い込んだ。綿密な計画の元にリリースすることになったのではなく、本当に舞い込んだという感じであった。割とどっちも、急に来た。
ゲーム機のローンチタイトルというのは大きなチャンスを秘めている。そもそも5年に1度ほどしか機会自体がないし、ゲーム機は(今は)3種類しかない。その中でローンチタイトルとはそれぞれのゲーム機の命運を握るものであり、各プラットフォーマーが宣伝を頑張らないわけはないので、タイトルの認知度最大化を図る上では最良のタイミングである。この流れに乗れたことは非常に大きかった。実際、タイトルはもちろん我々PLAYISMという名も広く知ってもらう機会を多く頂戴することができた。
一方、タイトルをゲーム機のローンチ日にリリースするというのは、本当に大変だった。とにもかくにも情報が絶望的に足りないのだ。誰もローンチしたことがないのだから当然なのだが、ない道を歩く苦労は、筆舌に尽くしがたいものがあった。万全な体制で何もかもがリリースできたかというと課題は余りにも多く残った。次のチャンスがそう簡単にあるようなものでもないので、我々としては今あるものを責任をもって引き続き販売していく他ないのだが。
ところでゲーム機というのは、出るたびにこれが最後のコンソール期になると叫ばれがちだ。これは、前回のPS4/Xbox Oneのローンチの頃も言われていた。クラウドゲームがますます発達し、そこにXbox Game Passなどの遊び放題サービスが組み合わさり、もちろんスペックをいくらでも高められるPCゲームがありと、確かにゲーム専用機の役割は今後小さくなっていくかもしれない。また、今回は世代間の互換性が高く、余計に今すぐ次世代機を手に入れる理由が薄れた。さらにはPCとの同発や現世代機でもリリースされるソフトも多かった。もしかしたら、本当にこれが最後のゲーム機になるのかもしれない。
しかしながら、ローンチを経験して感じたのは、ゲーム機はおそらく今後もなくならないだろうということだった。それでしか遊べないゲームがあるから、仕方なくそのゲーム機を買うのだと、かの任天堂の山内博氏はおっしゃっていたが、それよりもきっと、ゲームファンは、どうしようもなく「ゲーム機」が大好きなのだと思う。世界中の人が一斉にリリースの瞬間を期待するあのワクワク感は何物にも代えがたい。あの、「新しいゲーム機が出る」という期待感、熱量は余りにもすごい。あれを皆体験したいがために、役割がなくなってもゲーム機は出続けるんじゃないかとさえ感じた。全然PS5は手に入らないが。
ともあれ、ローンチの瞬間に我々が末席とはいえ存在していたことは非常に光栄であった。何よりインディーゲームが、そのような瞬間にあるという状況をつくれたことは意義はあったように感じる。Nintendo Switchのお披露目イベントで、グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏がインディーゲームの話をしていたのを見て私はNintendo Switchに希望を感じたことを覚えている。今後のインディーゲームシーンにとって、ゲーム業界における末席のパブリッシャーがPlayStation 5/Xbox Series X|Sローンチタイトルを出す立場にいる、ということ自体に価値があるのではと思い、今回はどうにか頑張った。その結果は、それこそ来年再来年に出てくるだろう。我々もメガなインディーゲームだけでなく小さな小粒のピリリと辛いインディーゲームをどうにか出していきたい。
国産インディーの市場規模拡大、岐路に立たされるパブリッシャー
我々は10年近くインディーゲームの仕事に携わり、長らく多くの国産タイトルを世界に向けて発売してきた。今年は『ジラフとアンニカ』、『DEEEER Simulator』、『LA-MULANA 1&2』、『カニノケンカ』、『常世ノ塔』など多くのタイトルを預かり、発売させていただいた。また、それらのタイトルはおかげさまでそれなりの評価と成功を納められたと思う。
だが、2020年はそれ以上に『天穂のサクナヒメ』『クラフトピア』『グノーシア』など、恐るべき成果を挙げる国産インディータイトルが一気に現れた。インディーゲームを取り巻く環境は年々少しずつ変化しているのだが、今年はその変化が特に大きく、国産インディーゲームの市場規模が飛躍的に伸びたと感じられた一年だった。
10年前、Steamは日本ではひどくマイナーなものであったし、家庭用ゲーム機が日本のインディーゲームに門戸を開くことはないと言われていた。そもそもゲームがローカライズされること自体が珍しかった。もっと言えば、インディーゲームというワードが一般的でなかった。それが今、全世界に向けてインディーゲームをつくり、届けるということ、そしてこれは国産に限った話ではないが、インディーゲームを遊ぶことが10年かけて当たり前になったのだろう。「機が熟した」というにふさわしい一年で、その恩恵に預かれた気がする。
来年以降は、我々としても『黄昏ニ眠ル街』、『露払いマコの見習い帖』、『かおなしのダブル』……そして何より『グノーシア』Nintendo Switch版の海外展開が直近控えており、これから非常に楽しみである。
その一方で、インディーゲームパブリッシャーの余り好ましくないニュースが今年は多数出て、パブリッシャーに対する不信感がかなり高まった一年でもあった。そもそも年々パブリッシャーの役割は減ってきているのだ。昔は自分たちではSteamやコンソール機向けのゲームはリリースできなかったため、パブリッシャーは必須であった。しかし今や、セルフパブリッシュの道がありとあらゆるプラットフォームで開かれている。そして、必須ではなくなったがゆえ、パブリッシャーに求められるハードルは年々上がっている。
我々も十全な体制ではないし、日々ユーザー、デベロッパー、関係各位のご期待すべてには応えることができず、日々ご迷惑をお掛けしている。それに、そもそもインディーパブリッシャーというのは本質的にちょっと胡散臭い仕事なのだ。自分のものでもないものに、自分の名前を張り付けて売るのだから。だからこそ、余計にきちんとしなければならない。パワハラ、セクハラで訴えられないように、誰にも指一本触れず声も荒げないようにしているし、デベロッパーにはロイヤリティだって毎月ちゃんと払うようにしている。何とわが社の社長は文句も言わずに毎月給料を振り込んでくれる。あとは、開発者の権利を無碍に取り上げることもしないし……、あと何だったか、とにかく日々いろんな諸問題に頭を悩ませながらも、我々はどうにか普通に仕事をしている。
ともあれ、インディーパブリッシャーは今岐路に立たされている。個人的には、「もはやパブリッシャーって今後要るのかな?」と日々悩む。そのうち、我々ができることなど、なくなるかもしれない。我々は、今後拡大し続けるインディーゲームシーンにどうやって役に立つのだろう?
というわけで、今年は国産インディーゲームの大きな成長を強く感じ、同時に我々パブリッシャーはこの流れについていけるのだろうか、というのが喫緊の課題であると感じた。
いやしかし、考えてみれば、これはずっとそうだった。PLAYISMは始まって以来、タイトルのクオリティとデベロッパーの志についていくのにずっと必死だった。毎回毎回、身分不相応なタイトルを預かっては困ってきたのだ。だから、これからもどうにかこうにかして素晴らしいインディーゲームを届けるために食らいついていかなければいけないのだろう。それに、一個人としては、一ゲームファンとしては、これは我々の手に負えるようなタイトルではないと思うような、とんでもないゲームに出会いたいといつも楽しみにしているのだから。
長々書きましたが、そのような一年でありました。ここで言うことでもないですが、スタッフ各位はじめ、デベロッパー様、プラットフォーマー様、メディア様、関係会社様、そして何よりユーザーの皆様、ありがとうございました。Steamやニンテンドーeショップ、PlayStation Storeなどでセールが実施されていると思いますので、ぜひチェックいただき、インディーゲームを年末年始に一本でも多くお楽しみいただければと思います。ではよいお年を。PLAYISMの2021年は、飛躍の年になると思います。