米国先住部族が、スキン賭博を巡りValveを提訴。カジノ事業を営む部族として、Valveを競合他社と捉える
米国連邦政府により主権が承認された先住部族「Quinault Indian Nation」が今年4月、Steamで販売されているゲームに関わるスキン賭博を巡り、Steamを運営するValveを提訴した。ワシントン州の上位裁判所に訴状が提出されている(Scribd)。具体的には、ライセンスを得ずに賭博事業を営む、賭博行為を助長する、もしくは賭博行為に加担しているとの主張に基づき、訴訟を起こしている。
原告「Quinault Indian Nation」は、Valveについて「スキン賭博が行われていること、そしてスキンに現金価値があることを十分に認識している」と述べ、同社の人気および収益拡大につながる賭博行為を奨励および促進していると指摘。スキンをカジノにおける賭け金がわりのチップ、Valveを地下賭博を黙認しているバーに例えて同社を批判している。
原告はValveの事業について、オンライン賭博が発生し得るルートボックスおよびマーケット取引機能を組み込むことで、外部賭博サイトの活性化を助長し、Steamマーケットプレイスの取引手数料を通じた収益拡大を実現してきたと説明。それらを止めるための施策には、消極的な姿勢を見せていると述べている。たとえばスキン賭博サイトからSteamアカウントへのアクセスを封じるためのブラックリスト作成など、Valveが取り得た対策はたくさんあったはずだと指摘している。
こうした点を踏まえ、原告はワシントン州のギャンブル委員会に対し、Valveの事業が、ライセンスが必要な賭博行為に該当するかどうか調査するよう求めている。また同時に、委員会による調査および裁判所から下されるであろう他の措置が完了するまでの間、スキン賭博につながるゲーム提供の差し止めを要求。損害賠償としては、Valveが不正な手段を用いて得た収益全額を求めている。
Valveは競合相手
米国政府から承認された先住部族の主権は、部族のカジノ運営にも及んでおり、80年代からは資金源のひとつとしてカジノ産業が盛んになり始めた。ワシントン州に居住する「Quinault Indian Nation」も例外ではない。Quinault、Queets、Hoh、Quilieute、Chehalis、Cowlitz、Chinookの複数の民族から成り立つ同部族の総人数は3000以上。ホテル兼カジノであるQuinault Beach Resort & Casinoを含め、さまざまな事業を営んでいる。2018年には25億円規模の改装によりカジノエリアの拡大作業が完了している(SouthSoundTalk)。
Valveの本社所在地は「Quinault Indian Nation」と同じ米国ワシントン州。カジノ事業を営む「Quinault Indian Nation」はValveを競業相手と見ており、州法および地方自治体の厳しい規制に従う必要のある原告と比べて、Valve社は不正な優位性を有していることを不服としているのだ。主な指摘対象としては、Valveが運営する『Counter-Strike: Global Offensive』(以下、CS:GO)のゲーム内スキンアイテムを使った賭博サイトが挙げられている。これまでにも外部サイトでのスキン賭博が問題視されてきたタイトルであり、Valveは2016年、『CS:GO』のスキン賭博を巡りワシントン州のギャンブル委員会から警告を受けていた(関連記事)。
当時Valveは、スキン賭博の運営元40社以上に対し停止通知を送付済みであり、委員会が要求する是正案は実行済みであると反論。Steamのアカウント認証を組み込んだ賭博運用は同サービスの利用規約違反に該当すると明記しているほか、Steamやゲーム自体は州法に抵触していないとの見解を述べていた。委員会への返書には「委員会には、ワシントン州での賭博行為に直結すらしていない合法な商業・通信サービスを差し止める意図も権限もないことを信じています」と綴られており、その後委員会による法的措置にまで至ることはなかった。また2016年10月には、「Valveは違法なオンライン賭博マーケットを容認した」との別の訴えを連邦裁判所が棄却した事例も発生した(Justia)。
ゲーム内のルートボックス、もしくはSteamマーケットプレイスでの売買取引を通じて入手できる武器のスキンアイテム。それらを使ったオンライン賭博サイトが横行したことが、2016年のギャンブル委員会からValveへの通達につながったのだ。なお『CS:GO』にかぎらずランダム入手型のスキンアイテムを含む人気タイトルは、第三者のオンライン賭博サイトで扱われる傾向にある。2017年には、当時人気絶頂であった『PUBG』のスキンアイテムを使った賭博サイトが浮上し始めた(関連記事)。「Quinault Indian Nation」は、対策の取りようがありながら、そして違法行為により間接的に利益をあげながら、Valveがそうした賭博サイトを野放しにしてきたことを強調している。
欧州では政府や業界団体が動きを見せる
なおValveは昨年6月、自社タイトル『CS:GO』『Dota 2』について、オランダでのルートボックス規制を受けて、同国における両タイトルのSteamマーケット取引を停止している(関連記事)。両タイトルに含まれているルートボックスが、同国にて禁止されている商用賭博に該当すると、オランダ当局から通達を受けたからだ。オランダではルートボックスから手に入るアイテムの換金手段の有無により、賭博に該当するか否か判断されており、その換金手段にあたるユーザー間のアイテム取引機能を停止することで基準に従った形となる。似たように、賭博法違反であると指摘されたベルギーにおいては、『CS:GO』のルートボックス自体の販売が停止されている。両国における論点はスキン賭博ではなくルートボックスではあるが、スキン賭博にも間接的ながら影響を及ぼす対応と言える。
また今回の訴訟とは関わりはないが、今年4月にはベルギーに拠点を置く欧州インタラクティブ・ソフトウェア連盟(ISFE)が、ヨーロッパ各国のレギュレーターに対し、違法なスキン賭博サイトをブロックしていくよう呼びかけている(Gameindustry.biz)。先月3月デンマークにて、違法スキン賭博サイトを含む計25の違法賭博サイトをブロックするという判決が下されたことを受けて、ISFEが動きを見せたのである。ISFEは、ゲーム内アイテムを現金化するような違法サイトを、ビデオゲームビジネスから遠ざけるため、そしてゲーム業界の責任として消費者ならびに未成年者の保護を実現するため、各団体に能動的に働きかけているのである。過去の判例から先述した「Quinault Indian Nation」のValveに対する訴えは認められにくいと考えられるが、欧州においては政府および業界団体としてスキン賭博の取り締まりを強化しようという機運が見られるというのは、興味深い動きと言えるだろう。