『Metro Exodus』PC版のEpic Gamesストア時限独占配信を受け、Steamにて低評価レビューが大量投下される。原作者も危惧する事態に

『Metro Exodus(メトロ エクソダス)』のPC版がEpic Gamesストア時限独占配信になることを受けて、販売元がユーザーからの猛反発にあっている。Steamで販売されているシリーズ過去作には大量の低評価レビューが投下されることに。

PC版『Metro Exodus(メトロ エクソダス)』の配信プラットフォームが、発売直前のタイミングで変更されたことを受けて(関連記事)、販売元Deep Silverがユーザーからの強い反発を受けている。同作は当初予定されていたSteamではなく、Epic Gamesストアでの1年間の時限独占タイトルとして販売されることが、発売の約2週間前となる129日に発表された。

その後はSteam上の告知ニュースTwitter公式アカウントの投稿に対するコメント、redditスレッドの投稿にて、配信先の急な変更に対する不満と疑惑の声が無数にあがっているほか、Steamで販売されているシリーズ作品『Metro 2033』『Metro Last Light』のストアページでも、抗議のためプレイヤーが一斉にネガティブレビューを投稿するレビュー爆撃が仕掛けられており、多くのプレイヤーが憤りを感じていることがうかがえる。

なお『メトロ エクソダス』の日本語版は、国内PlayStation 4/Xbox One向けに215日発売予定。Epic Gamesストアで販売されるPC版は日本語非対応となっている。

最新のゲーム解説動画

本作は作家ドミトリー・グルホフスキーの小説「Metro」3部作を原作とした、ポスト・アポカリプスFPSシリーズ最新作。これまでの作品では、核戦争後のロシアを舞台に、メトロ(モスクワ地下鉄内)での暮らしを余儀なくされた人々の生活や闘争、ミュータント化した生物との戦闘、人型ミュータント「ダークワン」との交流などが描かれてきた。そして新作では、メトロに住む人々が、もはやメトロ以外には人類の行き場はないと考える中、主人公アルチョムおよび探索隊が安住の地を求めてロシア横断の冒険に出る。蒸気機関車オーロラ号に乗り、廃墟化した核シェルターや不気味な峡谷地帯など、セミ・オープンワールド型の広大なエリアを訪れ探索するのだ。

これまでのシリーズ作品と同様に重厚なメインストーリーが用意されることはもちろんのこと、戦闘・探索・サバイバル・ステルス要素がパワーアップ。放射能汚染エリア、アノマリーの発生、ダイナミックな昼夜サイクル、カスタマイズ性の高い武器、ガスマスクやアイテムのクラフト、ストーリー性のあるサイドクエストなど全体として濃厚さが増している。季節が変わる一年がかりの物語を通じて、凶暴なクリーチャーや敵対人間組織と戦いつつ、プレイヤーの選択により変化するアルチョムたちの物語を体験するのだ。

 

ユーザーの反応

ゲームの内容としては大きく期待されている作品であり、販売元も同日発売の『Far Cry New Dawn』『Crackdown 3』や翌週発売の『Anthem』といった大作に囲まれながらも、臆せず215日という発売日で勝負に出ている。本作のプロモーションには過去作よりも力が入れられており、ゲームのクオリティにも自信を覗かせている(GameIndustry.biz)。

ただ発売直前になってからのEpic Gamesストア時限独占発表は、今のところ同作の評判を下げる一手になっているように見える。Steamでは2018年から『メトロ エクソダス』の予約販売が始まっており、すでに予約済みのプレイヤーは、そのままSteamにてゲームおよび将来的なアップデート・DLCにアクセスできる。ただしEpic Gamesストアでの北米圏プレイヤー向けの販売価格はSteam59.99ドルから10ドル安い49.99ドルとなっており、59.99ドルで予約したプレイヤーとしては複雑な心境になるのも理解できるだろう。

Steamを運営するValveは本件を受けて、「メトロ エクソダス』は、パブリッシャーによる別のPCストアでの独占販売という決定を受け、Steamでの販売が中止されることになりました」「長期間の予約販売期間を経た後にゲームを削除するということは、Steamの顧客にとって残念な決定であると弊社は考えています。 この決定に関しては、弊社も直前まで知らされていなかったため、このようなかたちでの急なお知らせとなってしまい、2月15日のリリースを心待ちにしていたSteamユーザーの皆様には、心よりお詫び申し上げます」とのお知らせをストアページに掲載している。

またデジタル版の予約だけでなく、Steamキーを同封すると記載されていたPCパッケージ版に関しても、Epic Gamesストア用のキーに差し替えられることが(『メトロ エクソダス』公式Twitter)問題視されている。Epic Gamesストア時限独占が発表されたのは129日。一方で、一部コレクターズ・エディションの予約キャンセル受付の締切は131日であったことから、購入者は商品内容の変更を受け入れるのかキャンセルするのか、判断するための猶予がほとんど与えられないという消費者不利な状況に陥ることになった。

Epic Gamesストアは、Steamよりも開発者有利なレベニューシェア条件を売りとしており(開発者の取り分は、Steam:通常70%、Epic Gamesストア:88%)、Deep SilverCEOであるDr. Klemens Kundratitz氏も、このおかげでコンテンツ開発に多く投資したりプレイヤーに還元したりできるとコメントしている。先述したように北米圏では本作の販売価格が、Steamで予定されていた59.99ドルから10ドル安い49.99ドルに設定されており、単に販売元/開発元にとって有利なプラットフォームというだけでなく、明確な恩恵を得られるユーザー層も存在する。確かに一部ユーザー向けにはメリットが存在してはいるし、販売プラットフォームの選択は販売元の自由ではある。しかしながら、本件に関してはあまりに急で強引な変更であったことから、裏切られたと感じるプレイヤーが多いのも事実だ。

そもそも複数のゲームランチャーを使用したくないプレイヤーや、SteamEpic Gamesストアではプラットフォームが提供する機能に差があり、あくまでもSteamで本作を遊びたいと考えているプレイヤーが、本稿冒頭で述べたように公式に問いかける形でTwitterredditにてコメントを残していっている。Steamのような地域別の価格設定オプションが不足していることも影響し、ブラジルやアルジェリアなど北米圏外のプレイヤーの中には、USD換算での購入だと高くなりすぎると意見するユーザーもいる。

 

誰の判断なのか

では今回の配信先変更は誰の判断なのだろうか。Koch MediaDeep Silverは同社のゲーム部門)と同じくTHQ Nordic ABの子会社であるTHQ Nordic GmbHは、あくまでも『メトロ エクソダス』のIP所有者であるKoch Media自身の判断であるとTwitter上で伝えた上で、THQ Nordic GmbHとしては、自社が手がけるゲームは、プレイヤーが好みのプラットフォームを選択できるように、そして自社のポートフォリオを少しでも多くのプラットフォームに届けられるようにしたいと述べている。Koch Mediaとやや距離を置くようなコメントを残したわけだ。

一方で親会社のTHQ Nordic ABの設立者でありCEOLars Wingefors氏は、「Deep SilverKoch Mediaは、Epic Gamesストア独占販売の利点と欠点、機会とリスクをしっかりと熟慮した上で決断を下したと強く信じています。その決断を、私は支持します」と子会社を守るコメントしている(GameIndustry.biz)。あくまでも決断を下したのは親会社のTHQ Nordic ABではなく、Koch Mediaなのだ。なお余談ながら、THQ Nordic GmbHTHQ Nordic ABという社名の似た両社が異なる意見を述べたことで、やや混乱を招くことになったが、将来的にはこうした混乱を避けるため、親会社THQ Nordic ABの社名を変更する予定とのこと。

関係者の中でいうと、本作の原作となった小説「Metro」シリーズの作者ドミトリー・グルホフスキー氏も、『メトロ エクソダス』に出てくる蒸気機関車にかけて「どうやらSteamは私たちの蒸気機関車(steam train)には不十分だったようだ」とジョークまじりのコメントをInstagramに残している。他ユーザーからの「自分で自分のフランチャイズを殺しちゃってるじゃないか」というレスポンスに対しては、「いいや、私はただそばに立って、殺されるのを傍観しているだけです」と返答(GameRant)。どこまでがジョークなのか読み取りづらいが、少なくとも原作者が気にかけるレベルのビジネス判断であったことは間違いない。

ゲームの内容とは別のところで、発売直前に批判を浴びる形となった『メトロ エクソダス』。発売直前になっての急すぎる変更、Epic Gamesストア自体が抱える劣点、独占販売という戦略に対する批判。複合的な理由により反発を受けている本作が、PC版の売上にまで打撃を受けるのかどうか。Epic Gamesストア時限独占販売という選択は吉と出るのか。215日の発売を待ちたい。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

Articles: 1953