『メタルギア サヴァイヴ』売上・評価ともに振るわず。「快適な遊び」を犠牲にするF2Pライクな課金制度が批判の的に

『メタルギア サヴァイヴ』が売上・評価ともに苦しいスタートを切っている。英国ビデオゲーム業界の団体組織Ukieが公表したパッケージ版売上チャート(2月24日付)によると、本作』は英国で初週6位にランクイン。トップ5に入っているのは『FIFA 18』『Grand Theft Auto V』『Call of Duty: WWII』など旧作・準新作ばかりで、新作としては決して好調とは言えない滑り出しである。

『メタルギア サヴァイヴ』が売上・評価ともに苦しいスタートを切っている。英国ビデオゲーム業界の団体組織Ukieが公表したパッケージ版売上チャート(2月24日付)によると、本作は英国で初週6位にランクイン。トップ5に入っているのは『FIFA 18』『Grand Theft Auto V』『Call of Duty: WWII』など旧作・準新作ばかりで、新作としては決して好調とは言えない滑り出しである。なお1月に発売された『モンスターハンター:ワールド』は未だ4位にランクインしている。

英国でのパッケージ版初週売上としては『メタルギアソリッドV ファントムペイン』(以下、MGSV)の5%にも至らず、スピンオフ作品『メタルギア ライジング リベンジェンス』(以下、MGR)と比べても85%低い数字を残しているという(VG247)。これは英国パッケージ版という限定的な数字ではあるが、SteamSpyでも初週の同時接続ユーザ数は7000人台がピークで、今は下降傾向にある。『MGSV』の初週同時接続ユーザ数は9万人であったことから、PCダウンロード版も売上は大きく落ちていると見て良さそうだ。

 

キャラクタースロットの有料販売が批判の的に

キャラクタースロット1枠につき約1000円の追加料金が必要

本作は『メタルギアソリッドV グラウンド・ゼロズ』後のパラレルワールドを描くスピンオフ作品。XOF襲撃後のマザーベース上空にワームホールが出現し、兵士たちが異次元空間に飲み込まれていったという「もしも」の世界が描かれている。シングルプレイモードではゾンビのようなクリーチャー「ワンダラー」が徘徊する砂漠地帯で拠点を設営し、空腹や喉の渇きに悩まされながらのサバイバル生活を送る。またCo-opモードでは最大4人でのタワーディフェンス型ミッションに挑む。

「タクティカル・エスピオナージ・オペレーション」と銘打たれた『MGSV』とは違い、『メタルギア サヴァイヴ』は「潜入・防衛・生存」の融合という新しいコンセプトのもと開発された作品である。その方向転換ぶりと小島プロダクション無きコナミデジタルエンタテインメント(以下、コナミ)が手がける新作という事情が合わさり、従来のファンからは懐疑的な眼差しを向けられてきた。売上だけでなく評価も振るわず、レビュー集積サイトMetacriticではメタスコア64/100点、ユーザスコア1.6/10点と低い数字を残している。

低評価の一因として指摘されているのは、本作の課金要素である。海外IGNのレビュー記事では、「Tactical Espionage Microtransaction」という項目にて「セーブスロットにお金を払わせる仕様について、コナミが考えを改めることを願っている」と記載されている。Forbesのようにゲームを専門としていないメディアも、本作の課金システムに批判的な声を寄せている。セーブスロット(厳密にはキャラクタースロット)の有料販売というのはMMORPGやF2Pのゲームでは目新しいものではない。だが『メタルギア サヴァイヴ』は通常版4980円で販売されている有料タイトルであり、基本プレイ無料のゲームとは事情が異なる。

 

F2Pライクな課金システム

本作はマイクロマネジメントが必要な項目が多いサバイバルゲームであり、操作キャラクターの空腹度・喉の渇き・酸素残量、携行アイテムの所持重量、クラフト素材残量、武器防具の耐久度、クルー(生存者)の食料・医薬品など、さまざまな数字を管理しながら進めることになる。そしてマイクロマネジメントをいくらか楽にする手段として、マイクロトランザクション(少額課金)がそこかしこに組み込まれている。

少額課金システムで使用されているのは、有償もしくは無償のゲーム内通貨SVコイン。参考までにPlayStation 4版のSVコインは「100SVコイン:108円」「550SVコイン:540円」「1150SVコイン:1080円」「3500円:3240円」「6000SVコイン:5400円」で販売されている。そしてSVコインでアンロック/購入できるコンテンツは、大きく以下の7項目に分けられる(カッコ内は1回あたりの価格)。多くは売り切り型ではなくF2Pのタイトルで見られる課金要素である。

1. キャラクタースロット(1000SVコイン)
2. ロードアウトスロット(300SVコイン)
3. 倉庫保管上限(500SVコイン)
4. 素材アイテムの自動収集枠(1000SVコイン)
5. 経験値ブーストパス(200〜2400SVコイン)
6. ベースキャンプ採掘の時間短縮(200SVコイン)
7. ジェスチャー(100〜600SVコイン)

SVコインはわずかながらログインボーナスとして無料配布されている

海外メディアで取り沙汰されている「1. キャラクタースロット」は1枠につき約1000円。参考として基本プレイ無料のMMORPG『黒い砂漠』は1枠につき320円相当のゲーム内通貨でキャラクタースロットを販売しており、『メタルギア サヴァイヴ』は相場としてやや高めの部類に入る。初期スロットは1枠しかないため、トロフィーの取り逃がしといった事情でストーリーを最初からやり直したい場合は、キャラクターを削除するか、スロットを追加購入することになる。なおアバターの外見は、顔型・髪型・肌色など性別以外であれば何度でも無料で変更できる。

「2. ロードアウトスロット」は武器・防具・アイテムなど装備内容を保存する機能。初期状態では4スロットしかなく、使用できる武器やスキルの種類が増えてくるにつれて不便さが際立ってくる。使用しなくともプレイには支障のない機能ではあるが、時間を節約したい場合や、使用しているキャラクタークラスや装備品を頻繁に変えたい場合には、保存できる枠数を増やしたくなってくるだろう。本作のようにトレジャーハント要素を含む国内タイトルでは、ジャンルは異なるものの『モンスターハンター:ワールド』が112スロットを無料で提供している。『メタルギア サヴァイヴ』のスロットアンロックは1枠300SVコイン(初期枠と合わせて最大8枠)の少額課金とはいえ、他のタイトルでは当たり前とされている「快適さ」を実現するための対価としては、やや高いかもしれない。

武器・防具・アイテムなど装備項目が多いだけに、保存スロットが少ないとやや不便

「3. 倉庫保管上限」の拡張にいたっては、1回(500SVコイン)あたり何枠拡張されるのか記載されていない。購入するまで支払いの対価が分からないという、消費者不利な取引内容となっている。なお検証したところでは1回につき50枠追加される(初期上限は武器・防具それぞれ100枠)。参考までに、Co-opミッション成功1回の報酬で得られる武器・防具は1〜3個。高レアリティの装備品は、同種類でも基本性能・パーク(性能補正)違いのものがドロップする。取捨選択すれば困ることはないにせよ、有料タイトルで倉庫枠を有料販売する作品はそう多くなく、ユーザーの心証はあまりよくないだろう。

何枠分の拡張にお金を支払っているのか、対価が明記されていない

「4. 素材アイテムの自動収集枠」「5. 経験値ブーストパス 」「6. ベースキャンプ採掘の時間短縮」はいずれも作業効率化・時間短縮用の課金要素である。「4」はNPCの探索部隊を派遣してクラフト素材を自動収集する機能。初期状態では1部隊しか派遣できないが、1000SVコインにつき1部隊追加で派遣できるようになる(最大5部隊)。ゲーム後半になればクラフト素材を簡単に集められるようになるため、基本的には1部隊だけでも困ることはない。ただ欲しい素材をピンポイントで集めてくれるため、複数枠あると便利ではある。

ゲーム内ショップでは別途、探索部隊の効果を上げるアイテムも販売されている

次のウェーブ開始まで24時間

「6」はゲームクリア後に解放される「ベースキャンプ採掘ミッション」に関連するもの。ウェーブ形式で押し寄せる敵襲からベースキャンプ(拠点)を防衛するシングルプレイ用コンテンツである。クリアするとベースキャンプ設備の設計図や、Co-opモードでも役立つ防衛ユニット(トラップや重機関銃)の設計図が手に入る。ただし1ウェーブを終えるごとに24時間という恐ろしく長いインターバルがあり、ウェーブ開始時にプレイヤーが不在だとNPCが代わりに防衛することになる。

かなり不便な仕様だが、200SVコインを消費することでインターバルをスキップし、即座にウェーブを開始させることができる。1ミッションにつき2〜3ウェーブあるため、通常だと2日〜3日に1回しか報酬を得られない。強力なトラップやガジェットを手早く揃えたい方や、ウェーブ開始時間にスケジュールを合わせられない方は、ゲーム内通貨を消費して時間短縮を図ることになる。

ベースキャンプの設営

このように『メタルギア サヴァイヴ』では、F2Pゲームに近い課金システムが採用されている。少なくとも筆者がプレイした50時間の間で「実質必須」と思えるような有料コンテンツは見られなかったものの、5000円の有料タイトルに「快適さ」をアンロックするための課金システムがこれだけ多く実装されているというのは、それだけでも批判される理由になるだろう。ゆえに先述した一部メディアの指摘は十分に理解できる。特にベースキャンプ採掘ミッションの「24時間インターバル」に関しては、追加収益を優先するために快適さを犠牲にしてしまっている。バリケードやトラップの配置をじっくりと考えてから挑むという、Co-opモードとは違った楽しみ方ができるだけに、好きな時に好きなだけ遊べないというのは実に惜しい。

課金コンテンツの多くは、その性質からプレイヤーが継続的に遊ぶことを想定して組み込まれたものと思われる。各社メディアの紹介記事では、サバイバル生活や拠点設営&防衛要素が重点的に扱われることの多い『メタルギア サヴァイヴ』だが、実はゲームクリア後にはトレジャーハントという新しい楽しみ方が提示される。理想的な性能・パークを備えた武器・防具の発掘。本作は長く遊べるゲームを目指して作られていることは間違いない。

理想の性能&パークを求めて戦う

「ベースキャンプ採掘ミッション」をクリアすることで新しい防衛ユニットを入手。それらを駆使してCo-opモードの高難度ミッションをこなし、高レアリティ武器・防具の獲得を目指す。そして強力な「ボスクリーチャー」を討伐することで、高レアリティ装備の強化材料を集める。本編クリア後も長く遊び続けるためのコンテンツはしっかりと用意されており、だからこそロードアウトや倉庫容量が制限されているという事実が気になり始める。

とはいえ、『メタルギア サヴァイヴ』は小島秀夫氏が抜けた後に開発されたシリーズ新作、それも大きく方向転換したタイトルということもあって、最初から批判は避けられない運命にあった。F2Pライクな課金システムが火に油を注がなかったとしても、セールスや評価にはさほど影響を及ぼさなかっただろう。確かにサバイバルとしてもタワーディフェンスとしても新しさはなく、エンジンがかかるのに時間を要する作品ではある。ただゲーム終盤から味わえる熾烈な防衛戦は素直にやりごたえがあり、刺さるプレイヤー層は確実にいるはず。作品全体に張り巡らされた課金システムや、リソースの細かい管理が気にならないサバイバル&タワーディフェンス好きであれば、どこかのタイミングで試してみても良い作品だろう。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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