村上春樹と『MOTHER』が絡み合うRPG『YllK』プレイレポート。現実と幻想があいまいな郊外のアメリカ

今現在『MOTHER』シリーズの魂を色濃く引き継いだRPGが少なくなく製作されている。東京ゲームショウ2017にて出展されている『YllK』もまた、『MOTHER』の影響を色濃く受けているひとつだ。

今現在『MOTHER』シリーズの魂を色濃く引き継いだRPGが少なくなく製作されている。東京ゲームショウ2017にて出展されている『YllK』もまた、『MOTHER』の影響を色濃く受けているひとつだ。アメリカの郊外の町、どこにでもいるボンクラな青年の主人公の軽妙な会話と奇妙な物語を魅力とするこの作品は2014年の開発段階で『MOTHER』と村上春樹の作品からインスパイアされていることが語られている。 日本にとって馴染み深い、糸井重里と村上春樹の作品性がなんと海外にて結実しているという、類いまれなRPGのプレイレポートをお届けする。

デモでは第一章にあたる部分をプレイできる。時は1999年。大学を普通の学生よりも時間を卒業して実家に戻ってきた主人公・アレックス。街中では「Star Wars」をずっと楽しみにしている中年の父親にうんざりしている子供がいたり、思い詰めた目つきでぶるぶると震えている女性がたたずんでいたりする。最初にプレイヤーは彼を操作しながら、そんな一癖も二癖もある住人ばかりの町中を探索できる。

実家に戻ると、大学を卒業した息子を両親が手厚く出迎えてくれるのかと思いきや、なんと母親がアレックスに買い物を頼むメモが残されている。このあたりは、ものにならないまま地元に戻ってきた息子が、微妙に雑な扱いを受けるリアリティを描いていたりする。

そんな母親からのメモどおりに家から出ようとした矢先に、ここまでのコメディみたいな展開が急変する。電話が鳴り出し、受話器を取るとまったく知らない人物から、「音楽はもう始まっている」という不気味な言葉を受け取るのだ。

これを皮切りにコメディとシリアスの境目は急速にあいまいになってゆく。お買い物に外に出れば、なんとダリみたいな髭の猫にメモを奪われ、廃墟と化したビルにまで追いかけることになる。そこは廃墟らしく幽霊が出てくるというだけではなく、ビルの中にはさらに異世界が広がっていた……。

幽霊や異次元に出くわすようになれば、いよいよアレックスに襲いかかるモンスターともエンカウントするようになる。ここで戦闘になるのだが、一見よくあるシンプルなターン性バトルながらも、同作はオリジナルのゲームシステムを持っている。「たたかう」のコマンドを選択すると、選んだキャラクターによってミニゲームが差し挟まれる。主人公のアレックスの場合はレコードが回転し始め、黄色の範囲に合わせてボタンを押すことに成功すると、強力な攻撃を放つことができる。「たたかう」だけでなく「にげる」コマンドでは、いきなりスマホゲームでよく見るランゲームが始まったりする。

レコードのタイミング合わせてボタンを押す。『シャドウハーツ』みたいなアレックスの攻撃
逃げ出す時はランゲームで。舞台は1999年なのにスマホゲームっぽいフレームで敵に追いつかれないように逃げ切るのだ。

現実のアメリカ郊外をモデルにポップなイラストレーションのようなグラフィックで、どこかしら人を食ったようなテキストや、ターン性RPGをほんの少しパロディにするスタンスは、たしかに『MOTHER』を思わせる。そして主人公アレックスの無意識を反映するかのような、日常の裏側にある異世界へと気が付かないうちに入り込んでしまい、その境界もどこか曖昧である感覚は、確かに「ねじ巻き鳥クロニクル」など90年代以降に執筆された村上春樹の作品のテイストを感じさせる。
もうひとつ印象深かったのは、作品世界を活かす日本語ローカライズだ。糸井重里や村上春樹からインスパイアされているゆえに、テキストも大きな魅力である。しかし同作は日常と超現実、コメディとシリアスの境界があいまいに描かれている作品であり、煙に巻くような部分と真剣な部分の微妙なバランスを保つ難しさもある。その点、デモの日本語テキストは読みやすくまとめつつも独自の言い回しも表現しているため、魅力的なクオリティとなっている。

『YllK』はTGSインディーブースコーナーYSBRYD GAME (9-B33)のブースにて展示中。 Steam/PS4/PSVita/Nintendo Switchでのリリースを予定。公式サイトはこちらから。また、itch.ioでデモが公開中。こちらは英語版のみだが、最初から複数の仲間がいる状態での戦闘が楽しめる。独特のテイストをぜひチェックしてほしい。

Hajime Kasai
Hajime Kasai

ブログ「GAME SCOPE SIZE」を運営。その他のメディアにも寄稿しています。

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