『Dishonored』『BioShock』など自由なゲームプレイを実現し、一時代を築いた人気ジャンル「Immersive sim」が直面する存続の危機とは

 

昨年発売された『Deus Ex:Mankind Divided』や『Dishonored 2』が前作と比較してセールスを大きく落としていることを例にあげ、「Immersive simと呼ばれるジャンルが存続の危機に陥っている可能性がある」とPC Gamerが報じている。プレイヤーの自由度を重視し、様々なゲームプレイを受け入れるジャンルに何が起きているのか?

自由度の高さと世界観の中に入り込むジャンル

Immersive simとは自由度の高いゲームプレイ実現するジャンルだ。前述したように『Deus Ex:Mankind Divided』や『Dishonored 2』のような作品をイメージしてもらえばいいだろう。基本的にはFPSをベースに、RPGの要素やステルスの要素など複数のジャンルのゲームデザインを混ぜ合わせ、自由な攻略を特徴としている。ゲームプレイに関しては、オーソドックスなものから極端なものまで、プレイヤーさまざまな攻略や探索に対してレスポンスを用意しており、リプレイ性の高さも魅力となっている。このジャンルにカテゴライズされる作品リストをGiant bombが簡潔にまとめている。

簡単に訳すと“没入型のシミュレーション”となるジャンル名は、ゲームデザイナーWarren Specter氏がデザインした初代『Deus Ex』のポストモーテムから名付けられている。Specterは『Deus Ex』のコンセプトを説明するなかで、同ジャンルを「プレイヤーにゲームであると感じさせず、作品世界の真っ只中にいると感じられる、没入できるシミュレーション(immersive simulation)」と説明したことが名前のベースになっている。この理念は、プレイヤーにゲーム的なインターフェースを意識させずにキャラクターのストーリーや能力を感じさせたり、開発者が想定している体験をなぞることで作品世界を説明するのではなく、プレイヤーが自分で体験を見つけ出していくゲームデザインであるという。

初期のImmersive Simと言われる『Ultima Underworld』

“プレイヤーが世界観に浸りながら、自由なゲームプレイができるデザイン”というゲームの理想像が生まれたのは、1990年から2000年まで存在したデベロッパーのLooking Glass Studioの存在が大きいとされている。同社が制作した『Ultima Underworld』や『Thief』、そして『System Shock』などは、RPGやステルスゲームという既存の単独ジャンルでありながらも、自由なゲームプレイや攻略を受け入れるゲームデザインを実現していた。

Looking Glass Studioの主要な作品には、現在までに連なるimmersive simの先駆者とも呼べるクリエイターが関わっていた。先述のWarren Specter氏をはじめ、『BioShock』で大きく名を馳せるKen Levine氏は『Thief』『System Shock 2』を制作する。『Dishonord』シリーズのディレクターであるHarvey Smith氏も初期に『System Shock』の制作に参加。Smith氏は後にも『Deus Ex』のゲームデザインを手がけた、現在も『Dishonord2』のディレクションを担当し、このジャンルのゲームプレイの完成度を追求している。今年リリースされた作品でも『Dishoneord』のArkane Studiosによる、野心的な作品として『Prey』が制作された。

Immersive simは今日のさまざまなゲームデザインを先行していた、未来的なジャンルだった。シューターでもあり、RPGでもあり、時にはステルスとしても攻略できるように遊べるほか、アドベンチャーゲームのように会話の選択や探索から様々なストーリーのレスポンスを引きだすといった複数のジャンルを混合したゲームデザインは、今日のAAAの複合的なゲームデザインを先行していた。

またストーリーテリングの面でも影響はあった。作品世界にプレイヤーを没入させ、自発的に探索させて膨大なテキストや環境デザインから物語を見つけ出していく環境ストーリーテリングを行っていた点などはインディーゲームで活発にリリースされているWalking Simulatorの要素も含んでいたとも言える。

革新的だったジャンルの近年の苦戦

ところが、冒頭で述べたように、そんな革新的なジャンルであるImmersive simのセールスの苦戦が報じられている。SteamSpy調べでは昨年リリースされた『Dishonored2』が約89万本、『Deus Ex:Mankind Divided』が約77万本、そして今年発売された『Prey』が現在までのセールスが約41万本。いずれもAAA級の大作でありながらSteamでの売り上げがミリオンに届かなかった。

2010年の前作『Deus Ex:Human Revolution』は現在まで約167万本を売り上げ、2012年の『Dishonored』は約348万本のセールスを記録。当時AAAタイトルとして結果を残していた。しかし約5年のスパンが空いた続編ではセールスがほぼ半減している。

一体なぜここまでセールスを落としたのだろうか?『Deus Ex:Mankind Divided』ではマイクロトランザクションの導入が反発を招くなど問題があったが、それ以上に周辺のトレンドが変わってしまったことが大きい。ここ5年ほどを振り返ると、Immesive Simの特徴を競合の他のジャンルが実現してしまい、魅力を奪われている可能性がある。

PCGamerでは『Thief』『BioShock』シリーズに関わり、インディーで『The Magic Circle』を制作したJordan ThomasにImmersive Simの現状について話をうかがっている。「正直、大きく成功しているアーリーアクセス型のサバイバルゲーム(『DayZ』『7Days to Die』など)はImmersive Simのデザインの影響を受けていると感じている。」と語り、サバイバルのジャンルがImmersive Simの特徴の一部を引き継いでいると感じているようだ。

それだけではなく、オープンワールドの躍進も挙げられるだろう。昨今のAAAのタイトルでも様々な作品が採用したオープンワールド化によって、より世界観に没入できるほか、可能な限りゲームプレイの進行やミッションの攻略が自由なゲームデザインである。近年の例を挙げても『Watch_Dogs』『METAL GEAR SOLID V』などが挙げられるし、今年発売された『ゼルダの伝説 ブレスオブワイルド』ではオープンワールドにて決められた進行さえも可能な限り廃し、プレイヤーの自由な攻略を受け入れる懐の深いゲームデザインとなっている。これもImmersive Simが目標としているゲームデザインに近い。

周辺ジャンルの躍進により、現在ではImmersive Simは革新的なジャンルというよりも伝統的なスタイルと見られることも少なくなくなってしまった。かつてプレイヤーのゲームプレイの自由を目指し、プレイヤー自身で最高の体験を見つけ出すという、ゲームデザインのひとつの理想を実現する未来を見据えた先駆者だった。そして未来にたどり着いた現在、確かに理想を実現したゲームがいくつも生まれてきた。しかし他のゲームジャンルの進化に伴い、先駆者は独自の魅力を失いつつある。