Steamで2万本売れた「バックルーム破壊ゲーム」個人開発者が、めちゃくちゃ辛かった日々を吐露。身体も心もボロボロ、気づけば自分が“バックルーム”にいるような生活に
開発者はまさにバックルームのような生活を送っていたと振り返る。

個人開発者のJan Jileček氏は4月5日、自身のブログを更新し、2024年4月にリリースした『Backrooms Break』の開発の裏側を公開した。2万本のヒットの代償として、全てを捧げてきたことを赤裸々に語っている。
『Backrooms Break』は海外掲示板に端を発する都市伝説「The Backrooms(バックルーム)」を題材としたアクションゲームだ。プレイヤーはハンマーや銃、爆発物などを駆使して、不気味なバックルームの世界やそこに現れるエンティティを破壊。回復アイテムや弾薬などを調達しながら探索を進め、武器をアップグレードしてさらに世界を壊していく。

本作を手がけたのは、チェコを拠点とする個人開発者のJan Jileček氏だ。同氏が2作目として手がけた本作はPC(Steam/Epic Gamesストア)向けにリリースされ、本稿執筆時点でのSteamユーザーレビューでは354件中70%が好評とする「やや好評」ステータスを獲得。Jileček氏によれば、これまでに2万本が売れたという。同氏は4月5日にブログ記事を公開し、そんな『Backrooms Break』の誕生秘話や、開発を通して得られた教訓を発信した。
Steamストアページの重要性
2022年当時、ある開発スタジオでUnreal Engineを扱う開発者として働いていたJileček氏は、当時理解が足りていなかったというUnreal Engineの物理エンジン「Chaos」を学ぶために、バックルームの柱をBlenderでモデリングし、それを破壊する実験をしてみたのだという。そうして作り始め、一度は脇に置いていた本作だが、のちに参加したゲームジャム「Ludum Dare」にて再び開発に着手することにしたそうだ。なお同氏は平日は引き続きフルタイム労働をおこなう傍らで、毎晩の空き時間と週末で開発を進めていったという。
その数か月後にSteamストアページを公開。すると大きな反響を得ることに。Redditの投稿は大きな注目を集め、一晩で数百件のウィッシュリスト登録数を獲得。またティザートレーラーを公開するとさらに勢いは伸び、Xポストが600万以上のインプレッションを獲得した弊誌の記事も後押しとなったそうだ。その後はバックルームやリミナルスペースなどのコミュニティをターゲットとしてアドバイスをもらいつつ、制作を進行していった。
多くのスタジオではアイデアが盗られることを恐れて早期のストアページ作成ができていないとしつつ、もしストアページがなければ掲示板やSNSで得られた勢いをすべて失うことになっていたとJileček氏は振り返る。Steamストアページはできるだけ早く作り、反響をウィッシュリスト登録数に繋げていくことの重要性が同氏によって示された。

柔軟な発想
その後Steam Nextフェスでデモ版を公開すると、YouTuberやストリーマーなど数千人がプレイ。着実に知名度を延ばしていった。なおこの際にはそれまでプロシージャル生成だったマップを固定のシードへと変更するという大胆な方針転換を実施。代わりに敵の出現場所やアイテムをランダム化するようにして、開発スピードを劇的に向上させた。
そして発売の1か月前には、女性VTuberグループ「ホロライブ」などを運営するカバー株式会社のCEO・谷郷元昭氏から連絡があったそうで、発売時には不知火フレアさんや尾丸ポルカさんをはじめとする、100万人を超えるチャンネル登録者数を誇る所属タレントにプレイしてもらうことに成功したという。また、バックルームコミュニティでトップクラスの影響力を持つというクリエイターBroogli氏や、400万人を超える登録者を抱えるホラーゲーム実況者の8-BitRyan氏もプレイするなど、凄まじい注目を浴びたようだ。

なお当初はバックルームおなじみ黄色い部屋の「Level 0」のみを作成するつもりだったが、注目度の上昇にあわせて計画を改める必要が出たという。各ステージを作りこむのにかかる時間も考慮して、最終的に全5ステージに決定。「Garage」「Offices」「Poolrooms」「The End」が制作された。特に最終ステージのThe Endについては、バックルームのストーリーにおいて最後に訪れる重要なステージであるが、木製のオブジェクトが多い図書館であり、本作のコンセプトと上手くはまったようだ。
ところで、本作の発売当時には、ゲーム内のステージの順番を原作のバックルームのレベル番号と同じ順にしていたといい、バックルームの「Level 1」をモチーフとしたGarageを2ステージ目に置いていたそうだ。ただし、本作のゲーム内のGarageは最初のステージに対して破壊要素が少なく、また水浸しになっているなど心理的なプレッシャーが大きいマップになってしまっていたという。つまり2ステージ目に置くには難しすぎたようだ。同氏は発売後、多くのプレイヤーがGarageでプレイをやめてしまっているということに気づき、Garageをゲームの後半へと移動。すると売上や返金率は改善されたとのこと。ステージを原作の設定どおりに並べたら、難易度曲線に問題が出てしまったケースのようで、ゲームデザインにあたっては、原作の設定やあたりまえにとらわれない発想が要求されるという興味深いエピソードと言えそうだ。

すべてを捧げた開発
本作を開発した2年間はまさに仕事漬けの日々だったという。平日では多いときで一日16時間以上Unreal Engineに向き合っていたそうで、週末ではそれ以上の時間が費やされていたとのこと。家族と会う時間が少なくなったほか、取り組んでいた柔術をやめ、食事は作り置きが中心になるなど、健康も犠牲に。さらに、作品への注目度が増すと、失敗やバグが深刻な経済的損失に繋がる可能性があがり、突然大きな責任を感じるようになってしまったそうだ。
そして発売の約2か月前にあたる2024年初頭に、Jileček氏は気管支肺炎にかかってしまう。原因は、喫煙者ではないのにもかかわらず認知機能向上を狙って服用し始めたニコレットだという。「摂取することで生産性は飛躍的に向上した」としつつ、身体の免疫機能の低下という形で身体に悪影響を及ぼしたそうだ。継続的な過労によって弱っていたこともあり、発売は延期せざるをえなくなってしまった。

そんなJileček氏は、「ゲームの題材選びには慎重になるべきだ」と語る。なぜなら最終的に自身がそのプロジェクトそのものになってしまうからだという。同氏は、自分に戻る方法を探し求めて、2019年にソフトウェア会社で働いていた頃に感じていた空虚感をゲームにしようとする中で、バックルームを題材にした作品に行きついた様子。しかしその結果、開発期間中の同氏は、プレッシャーや孤独感、そして予想外の行き詰まりに満ちた、まさにバックルームのような生活を送っていたと振り返る。次は同氏の前作である『Jung’s Labyrinth』と同じぐらい「本当に意味のある(genuinely meaningful)」なにかを作りたいと話している。
黄色い柱を破壊する最初のプロトタイプから約2年間で完成させ、大きな反響を得るとともに最終的に2万本の売上を達成した本作。とはいえ、肉体的にも精神的にもさまざまな代償を払うこととなってしまったようだ。フルタイム労働の裏で個人開発をおこなう難しさも垣間見える一方で、失敗や成功が細やかに説明された貴重な経験談といえそうだ。
『Backrooms Break』はPC(Steam/Epic Gamesストア)向けに配信中。Steamでの価格は税込1000円だ。
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