『DEATH STRANDING 2』小島秀夫監督&杉田智和さん“初の対談インタビュー”。あえて「杉田さんそのまま」で演じたドールマン、プレイヤーとゲームを繋ぐこだわり
『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』PC版の発売を記念して、小島秀夫監督と杉田智和氏へのメディア合同インタビューが行われた。

ソニー・インタラクティブエンタテインメントは3月19日、KOJIMA PRODUCTIONSが手がける『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』PC版を発売予定。このたび『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』PC版の発売を記念して、小島秀夫監督と、ドールマン役の日本語吹替を担当する杉田智和氏へのメディア合同インタビューが行われた。小島氏が杉田氏を起用した理由や、杉田氏が演じる際の心構えなど貴重な話を訊くことができたため、その内容を本稿で紹介していきたい。


試行錯誤の末、“杉田さんそのまま”
――まずお訊きしたいのですが、お二人の対談インタビューはかなり珍しいのではないでしょうか?
小島秀夫氏(以下、小島氏):
こうした2人そろってのインタビューは、初めてかもしれませんね。東京ゲームショウ2024のステージイベントなどでは一緒に登壇することもありました。
杉田智和氏(以下、杉田氏):
たしかに。ウェブ媒体を含めても、私と小島監督が一緒にインタビューを受けることは初めてかもしれませんね。
――お二人はもう長い付き合いだと思うのですが、小島さんが杉田さんの好きなところや尊敬しているところを教えていただけないでしょうか。
小島氏:
たしかに杉田さんとは、もう18年ぐらいの付き合いになりますね。杉田さんのいいところは、たくさんあります。最近は結構渋い声で、吹替をしている外画を観ていても最後まで杉田さんとわからない役もあります。そうした役もあるんですけど、いろんな役を演じているなかで、“杉田さん”を演じているときがあるじゃないですか。僕のなかでは杉田さんによる吹き替えじゃないんですよ。「杉田さん自身が出てくる」というか。ドールマンについても、杉田さんの声のニュアンスや喋り方になっています。
英語版のドールマンについてはジョナサン・ルーミーさんが演じていますが、今回のドールマンに関してはもとのジョナサンを崩していいというのを杉田さんにお伝えしました。セリフを喋っていい尺の長さは変えられないですけど、自由な表現でお願いしています。その結果、日本語版と英語版でドールマンは結構違うことを言っていますね。両方の言語をプレイすると、ドールマンのテンションが違うことに気づいてもらえると思います。
ドールマンは主人公サムの旅に同行して会話のなかに入ってくるので、あまりにキャラが立っているとそっちにプレイヤーの意識がいっちゃうんです。そう考えるとドールマンはなかなか難しいポジションなんですけど、最終的には日本語版のドールマンは「みんなが欲しい杉田さんでいい」と判断しました。ドールマンの「“すぎた”話だ」というセリフもそうです(笑)
杉田氏:
あのシーンを録ったときに、どのようにドールマンを演じていくかの方向性が固まったなと。
小島氏:
そこにたどり着くまでに、いろいろとやりましたよね。もうちょっと人形っぽくしたり原音にあわせたり。
前作の『DEATH STRANDING』にも杉田さんは出演していましたが、それはチョイ役に過ぎないもので、僕としてはもっと出てほしかったんです。前作では合う役がなかったので残念に思っていました。杉田さんには、僕の作品に毎回出てほしいと思っているんですよ。
――杉田さんはどうでしょうか。小島さんの好きなところや尊敬されているところはどのようなところでしょうか。
杉田氏:
幼少期の頃から、小島監督の作品に思い入れがあります。
小島氏:
幼少期(笑)
杉田氏:
小学校高学年から中学生のころには、小島監督の作品を遊ぶこと自体が大人としてのステータスだと思い込んでいたんです。子供だったので、知らない世界がいっぱい広がっていました。小島監督のゲームは映画的ではあるんですけど、「遊んでいておもしろいゲームを作る」ということが常に念頭にあるなと感じていました。
私が日本語吹替で携わった映画「RRR」の限定版を買ったと小島さんから聞いた時は驚きましたね。感謝もありつつ、やっぱり最新の映画もチェックしているんだなと。あらためて柔軟にアニメから映画までいろんなところから情報を吸収しているんだなぁっていうのを凄く感じます。
インスパイアの仕方もほかの人ができないようなやり方で昇華されていて、「リコリス・リコイル」も、著名なVTuberさんも、「なるほど、こうなるのか」と驚くばかりでした。柔軟な発想と、それを実現するハイエンドなクリエイションが同居している稀有な存在だなと、幼少時からリスペクトしています。
――そもそも、小島さんはどうして杉田さんをご自身の作品に起用しようと思ったのでしょうか?
小島氏:
最初に杉田さんとお仕事をしたのは、2010年に発売された『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』ですね。その当時のアニメに詳しかった息子に「声優でいうと誰が好きか」を尋ねると、息子は「杉田さんと水樹(奈々)さん」と答えたんです。僕はアニメの「銀魂」も観ていなかったのでその時は杉田さんのことを存じ上げていなかったのですが、『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』に出てもらって、大成功でした。杉田さんが同作で演じたカズヒラ・ミラーは日本だけでなく、海外でも人気キャラクターになったんですよ。
気に入った人とはずっと一緒にやりたいですし、その人のための役を作ってきたこともあります。ただ最近はパフォーマンスキャプチャーで海外の俳優さんを起用して、その日本語吹替という形になりますので、杉田さんのために役を作るということができなくなってきました。そこはちょっとさみしいところですね。
最近は新しい人を探すのも難しくなっていますが、僕は自分の気に入った人としか仕事を一緒にやりたくないんです。合わないとしんどい思いをしますし、問題も起こりますから。ただ、気に入った人、すなわち信頼の置ける人と一緒にやりつつも、ずっと同じ人ばかりではなく新しい人を入れていって活性化させていく必要もあります。「リコリス・リコイル」はたまたま見ていたのですが、常に新しい人も探していきたいわけです。
※「リコリス・リコイル」の井ノ上たきな役の若山詩音氏は、『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』にてトゥモロウを演じている

ドールマンという特殊なキャラクター
――ドールマンは旅に付いてきてくれる特異なキャラクターとして、杉田さんが思うがままにしゃべっているかのような印象でした。どのように収録されたのでしょうか?
杉田氏:
実は、「思うがままにしゃべっているかのように見せている」というのが正しいところかもしれません。
「原音を立てる」というのが、まずありますからね。この場合はジョナサン・ルーミーさんが演じるドールマンです。込められた情報から逸脱しないということも意識しています。もちろん、尺は絶対に守らなければなりません。そうしたことを踏まえたうえで、演者が自由に楽しんでやっているように思わせた方が、遊んでいる人に余計な力が入らないなと思うんです。
ゲームを遊ぶのに、座学の履修や精神的な心構えが必要だといわれると疲れてしまいます。そこで、プレイヤーとゲームの世界の間にドールマンが入ることでゲームをわかりやすくし、入りやすい空気にしようということが大事なのです。その点では、私自身で「こう狙おう」とか「こうしてやろう」みたいなものって、むやみに出す必要がないぐらい完成されたドールマンが存在します。あとはもう、原音に込められた情報から何を学び取り、感じ取った上で演じるか、っていう方が大事だと思います。
小島氏:
昔はセリフもカットシーンも日本語版だけ長くすることもできたんですけどね。『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』では、日本語や英語以外にも複数の言語に対応しているのでさまざまな取り決めがあるんです。そこに合わせていくのが結構難しいんですよ。そのうえで、ドールマンでありながらも杉田さんを出してもらうという結構無茶なことをお願いしていますね(笑)
――杉田さんの演じるドールマンのセリフの数は多そうですが、最終的にどのくらいの数になったのでしょうか?
小島氏:
杉田さんはライン的には2000ぐらいですね。収録日数は27日間、60時間でした。吐息とかを入れると津田(健次郎)さんも多いんですけど、杉田さんはセリフのライン数で一番多かったです。また杉田さんのドールマンはピンで録ることが多かったので、一番辛かったと思います。
津田さんの演じるサムのセリフの数が一番ではあるものの、開発初期はドールマンがもっと喋っていました。猛烈に喋っていたといってもいいかもしれません。たとえば、川をわたる場合。川にたどり着く前にドールマンがしゃべる形だったんです。「川があるぞ」とか「流されるぞ」とか。懇切丁寧にやっていたんですが、そうするとプレイヤーの自由度がまったくなくなってしまうので、最後までどう調整するかを悩みました。
――杉田さんのゲーマーとしての『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』の感想を教えていただけないでしょうか。
杉田氏:
実際にプレイしましたが、やはり「遊んでおもしろい」と感じましたね。出演者としてサプライズを知っていたとしてもびっくりしますし、驚きへのうれしさがありました。そういう感情を遊んでいる間に常に持ちながらも、まさにドールマンが人間だったところからドールマンになったシーンなどいろいろと考えさせられる内容でもありました。
ゲームを遊ぶ自分の年齢があがってきて、視点が昔の若者とか主人公の方ではなくなってきているんです。主人公の仲間の視点というのも、かつてはありました。最近の仕事では親だったりとか、師匠だったりする役をやるようになってくると、そこの視点がゲームを遊ぶときにも追加されるんですよね。だから、キャラの印象は変わってくると思います。
根本的なゲームの進化としては、グラフィックがきれいになることやいい音がなるようになることかもしれませんが、「遊んでおもしろい」ものを作るのが小島監督です。それはこれからもずっと変わらないと思います。

声優のディレクション
――では杉田さんが声優として小島監督のディレクションに感じたことはありましたか。
杉田氏:
現場を作り上げる雰囲気づくりから、小島監督のクリエイターとしての才能は発揮されているんですよ。たとえば舞台にあわせて「コスタリカ産のコーヒーが用意されています」みたいに、なにかひとつを取っても、意味がちゃんとあって、それが自然と馴染んでいるんです。
『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』では誕生日をお祝いしましょうというイベントシーンがありますが、出演者全員で録ったんですよ。なぜそうしたかというと、いない人がいると可哀想じゃないですか。収録の際には三上哲さんが音頭を取ってくれて、私は「これ、本当に誕生日をお祝いしている空気になっているな」と思いました。
小島氏:
10か月で録るので、ドラマだと2クール分一緒にいるみたいなもんですし、みんなで仲良くなることができますよね。
杉田氏:
私は津田健次郎さんとほかの現場でも一緒になることが多いのですが、話す機会がとても増えていくんですよね。いまでは一緒にオリジナルのコンテンツを動かすぐらいには距離が縮まりました。
――アフレコはどのような形で進行するのでしょうか。最初は「とりあえずやってみてください」となるのでしょうか。
小島氏:
それはないですね。こういう役なのでこういうふうにやってくださいと伝えます。パフォーマンスキャプチャーと一緒で、こちらの計画がありますので。数テイクをやりながら、「ここを変えましょうか」というふうに話します。
僕が考えたアドリブをやってもらってもいいですし、「杉田さんならどうします?」と聞くこともあります。良ければ採用します。それはすべての人でそうです。津田さんもそうですし。みなさん、もっとやりたがるんで(笑)「こんなのどうですか」みたいな提案をうけることはよくありますよ。
――「こういうキャラなんです」っていうのは、声優さんは事前にどれくらい知ることができるんですか?
杉田氏:
キャラクターの資料を事前に見せていただきましたし、そもそも原音があります。最初にトレイラーないしカットシーンで映像を観て、収録ブースに行き、そこで原音を聴きながらテスト収録って感じですね。
小島氏:
キャラクターを決めるのは、最初の1回目、2回目ぐらいですかね。そこで決まらないと長引いてしまいます。1回録ったはいいものの、もう1回録り直しということもあります。俳優さんが収録する頃はゲームの後半をまだ作っていないので、途中でキャラが変わったりするんです。その場合はもう1回録り直しです。『メタルギア ソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』のときは、井上喜久子さんで録り直しました(笑)
――ドールマンのアドリブについては、小島さんと杉田さんのお二方で、それぞれ印象深いアドリブはありますでしょうか。
小島氏:
アドリブはそんなにないんです。最初の俳優さんの収録ではやっていますけど、杉田さんは尺が決まったなかでやっている程度です。「待たせたな」とかは僕が「やってください」とお願いしたもので、杉田さんに罪はありません(笑)
杉田氏:
いえいえ……そこは台本だと思っているので。演者が楽しんでいるように思われて、「あいつは楽しみながらこの仕事をしているんだな」と伝わった方が良いかなと。「こんなに大変なんだ、こんなに重いんだ」みたいに聞こえると遊んでいて疲れるんじゃないかと思います。それが常に一緒にいるドールマンとなれば、なおさらそういった要素を、いかに軽くわかりやすくするかっていうのは常に念頭に置いていました。
小島氏:
杉田さんがひとりで収録するようなピン録りのときは、ほかの声優さんがいないのでテンションが結構ゆらぐんですよ。その日の最初のテイクで違ったテンションになっていると、その違ったテンションのままで収録が進んでしまうおそれがあって難しいんです。
――シーンごとにテンションの指定などもあるのでしょうか?
小島氏:
それぞれのシーンの意図を説明するようにはしていますが、テンションを指示するというわけではありません。指定したり自分に寄せようとしたりしても声優さんと僕は違う人間なので、「杉田さんが思う、僕に近いものはなにか」という形でいろいろ試しながら作っています。
杉田氏:
だからこそ、テスト収録があるんです。自分で作り上げてきたものをテスト収録で提示して、そこにディレクションが加わって完成へと近づいていきます。人ありきで言うのならば「今度出てくるドクターの役は小林ゆうさんだから、こう来るのだろうな」と予想することもあります。『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』の小林ゆうさんの出し方ってどうなるのかなと。
小島氏:
スゴい(笑)
杉田氏:
そうやって想像はしますが、小林ゆうさんなりに『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』の芝居をするので、当然予測なんかつかないんですよ。

小島氏:
小林さんはすごかったですね。アドリブとは違うレベルでセリフをしゃべっていて、あのバージョンで出したいぐらいです。ちょっとした冗談でいろいろ言っていたら、小林さんは本気にされたようでした(笑)
杉田氏:
「これだ、これだ」ってなりましたね(笑)
柔軟な発想のもと、作り上げていく現場であるということですかね。
小島氏:
はっきり言って、杉田さん、水樹さん、津田さん、大塚(明夫)さんなどは一番うまい人達なので、本当は何の指示もなくそのままいけるんです。でも、いろいろやってもらって、僕も「仲間入り」したいなという気持ちでいます。楽しい現場でしたね。

――『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』のファンの方へ、小島さんと杉田さんのおふたりからメッセージをいただけないでしょうか?
小島氏:
PCでゲームを遊ぶ方はコアなゲーマーが多いと思います。そうしたコアゲーマーに満足していただけるように、PC版『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』ではフレームレートの設定やキーボード操作などができるようになっています。またPC版でもPS5用コントローラーであるDualSenseに対応しています。
PC版に向けて新要素を追加しておりますが、PS5版にも無料アップデートでPC版からの新要素に対応します。PS5版をお持ちの場合はアップデート配信後にもう一度『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』を遊んでいただけると幸いです。悪夢のシーンだったり、PS5版発売当初はカットされていた「寿司」の映像なども追加されていますよ(笑)
杉田氏:
たとえ内容を知っていても楽しいというのが『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』をはじめとした小島監督の作品に詰まっていますので、みなさんもぜひPC版を遊んでみてください。もう一度遊ぶも良し、PC版から入ってPS5版に行くのも良いと思います。最新作の『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』から遊んで前作の『DEATH STRANDING』で遊ぶこともできるでしょう。遊び方に制限はない、そう信じております。
『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』はPS5向けに発売中。PC版はPC(Steam/Epic Gamesストア)向けに、3月19日発売予定だ。
[聞き手・執筆・編集:Ryuichi Kataoka]
[編集:Hideaki Fujiwara]
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